涌井 嶺氏にインタビュー 実写合成VFX向けパソコン
VFXを使った魅力的な映像をBlenderで生み出すためには、どんなPC環境が最適なのか。
さまざまなアーティストのミュージックビデオも手掛ける涌井 嶺氏が、パソコン工房のBlender推奨PCを徹底検証。
涌井 嶺
VFXアーティスト、映像作家で、ロックバンド「THE SIXTH LIE」のドラムス“Ray”としても活躍。ほぼ全曲の作詞と、全ミュージックビデオ・ライブ映像などの監督・編集、アートの製作(殆どの作品がほぼ自主製作)を務める傍ら、プロの映像作家として他アーティストの作品も制作している。
涌井 嶺氏の作品です。
20万円を切るモデルでもBlenderが快適に!? 涌井 嶺氏がSENSE∞を検証
今回はBlenderでの実写合成VFXを想定した推奨PCとして、涌井さんが日ごろ使っているWindowsデスクトップPCのスペックをベースに最新パーツへと置き換えた「スタンダードモデル」と、そのスタンダードモデルをさらにグレードアップさせた「アドバンスモデル」の2種類を用意しました。
実際に使ってみた感想はどうだったでしょうか?
現在使っている自分のデスクトップPC(※)は、映像制作用として昨年購入した約21万円のゲーミングPCで、メモリを32GBに強化するなど、それなりのハイスペックなマシンだと思います。しかし、今回の2モデルはどちらも自分のPCよりかなり優秀で、レビューすることを思わず忘れてしまうくらい魅了されてしまいました。
(※)涌井氏が現在使用しているWindowsデスクトップPCのスペック(2020年5月に購入。CPU:インテル Core i7-9700 プロセッサー【8コア / 8スレッド / 3.0GHz /ターボブースト利用時4.7GHz / キャッシュ12MB】/メモリー:32GB/GPU:GeForce RTX 2060 SUPER/2TB HDD)
例えば、フルCGのミュージックビデオをCyclesでレンダリングする場合、自分のPCではそのままのクオリティだと1秒のカットに数時間かかるケースもありました。そのため、現実的にはレンダリングのサンプル数を下げるなど、クオリティを落として対応せざるを得ない状況でした。
しかし、今回のユニットコムの2モデルであればクオリティを落とさなくていいばかりか、1段階あるいは2段階上のレベルで対応できると感じました。機材のスペックが整っていれば、クオリティを諦める必要もなく、さらには新たな可能性も広がるんだなと痛感しました。
スタンダードモデルとアドバンスモデルの差はどれぐらいあると感じましたか?
スタンダードモデルは、自分のPCより2倍近く速い感じで、アドバンスモデルはそのスタンダードモデルよりもさらに2倍近く速いという印象でした。例えば、今回は「Everything Lost」を映像素材として用意し、Cyclesでのレンダリングにかかる時間を検証してみました。
その結果、まずはCPUのみ(タイルサイズは32×32)でレンダリングすると、自分のPCが「25分30秒」、スタンダードモデルが「19分」、アドバンスモデルが「13分40秒」となりました。2倍とは言わないまでも、これでもかなり大きな差と言えます。
さらに、GPUのみとGPU+CPUのレンダリングをCUDAとOptixの両方でチェック(タイルサイズはすべて128×128)したところ、こちらはどれも、ほぼ倍々の性能差でアドバンスモデル>スタンダードモデル>自分のPCという結果になりました。これは、かなりのメリットになるはずです。
この結果で、他に何か気になった点はありましたか。
1つ気になったのは、CUDAとOptixを比較した場合に、ユニットコムの2モデルはまったく差が出なかったことでしょうか。通常、CyclesではCUDAよりもOptixの方が速くなると言われているので、この結果は少々驚きました。
一概には言えませんが、たぶん検証した処理自体が軽過ぎて差が出なかったのかもしれません。最近のGPUは処理性能が非常に向上しており、2000番台と3000番台の性能差は単純に2倍あるため、3060や3080だと「処理が簡単すぎた」のかなと思います。そういった意味では、例えばサイズを4Kにするなど、もっとレンダリングのクオリティを上げれば差が出たかもしれませんね。
次に、Blenderでの使い勝手を確認したところ、とても快適に感じたのは「ビューポートの応答速度」でした。今回のチュートリアルでも紹介したように、自分のワークフローでは、After Effectsは仕上げ程度の活用に留まっていて、主にBlenderのビューポート上で完成形を確認しながら作業するスタイルです。
そのため、ビューポートの応答速度がそのまま作業効率に直結するわけです。
自分のPCの場合、ビューポートのノイズが落ち着いて完成形が表示されるまでには、ボリュームがあるものだと10秒など、結構な時間がかかります。そのため、ボリュームを切って早く表示させるような工夫をしていました。
一方、スタンダードモデルの場合はボリュームがあると一瞬ノイズが強く出ますが、それでも3秒程度待てばほぼ完成形が表示されます。これぐらい早ければ、十分に快適と言えます。さらに、アドバンスモデルであれば、画角を変えても1秒程度で完成形を表示してくれました。ここまで明らかに差があると、もう文句のつけようがありません。
初心者にはどちらのモデルがお勧めでしょうか。
コストパフォーマンスも含め、スタンダードモデルをオススメしたいです。自分のPCよりも安い20万円を切る価格で約2倍の性能を得られるのであれば、まったく問題ないと思います。ただ、自分で購入するなら圧倒的にアドバンスモデルですね。ここまでの速さを1度体験してしまったら、もう元には戻れませんから(笑)。