Houdini 流体シミュレーションをLinda Houdiniチームが検証 ファー表現・流体シミュレーション向けパソコン
最大32コア / 64スレッドを搭載し、メニーコア時代の旗手とされるAMD Ryzenシリーズ。ファー表現や流体シミュレーションなど、大量の物理演算が必要なシーンで活躍することが期待される。パソコン工房の機材協力のもと、グリオグルーヴ リンダチーム Houdini Bros.に、その実力を検証してもらった。

グリオグルーヴ リンダチーム 今宮 和宏
Houdini Bros.シニアアーティスト。R&Dをもとにワークフローを制作し、マネジメントをこなしつつ、自分でもショット制作を行うプレイングマネージャー。自然現象をはじめとしたエンバイロンメント系のエフェクト制作を得意としつつ、魔法などの表現にも意欲を見せる。「現実にないエフェクトを、いかにリアリティをもって表現できるかに関心がありますね。」過去に手がけた作品は映画『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』、ゲーム『モンスターハンターシリーズ』など。
Houdini Bros.の作品です。
AMD Ryzen 9 / Threadripper メニーコアCPUでヘビーなCGタスクは高速化できるのか?
最新世代 Ryzenシリーズ 圧倒的なコストパフォーマンス
2003年の創立以来、ハイクオリティなCG・VFXに定評あるLiNDA(現:グリオグルーヴリンダチーム)。その中でもHoudiniによるエフェクト制作に特化した専門部隊がHoudini Bros.だ。映画『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』をはじめ、数々の映画やゲームでヒーローショットを担当し、高い評価を集めてきた。その一方で隠れた課題になってきたのが機材の運用だ。プロデューサーの桑原 大介氏は「これまで少数精鋭のゼネラリスト集団としてやってきたが、今後はリンダ全体でメンバーの拡大を視野に入れつつ、スペシャリストの割合を増やしていきたい」と語る。そのためには各々に適したPCを導入しつつ、機材費の総額を下げることが重要で、これまでメーカー製のワークステーションをベースに、パーツの換装などで対応してきた。こうした中で、用途別にパーツを自由に組み替えられ、コストが下げられるBTOマシンに注目したのも、自然な流れだったという。
これに対して機材協力を行ったパソコン工房側では、32コア / 64スレッドのメニーコアを誇るRyzen Threadripperと、12コア / 24スレッドとコア数には劣るものの、3.8ー4.6GHzとより高速なクロック数を持つRyzen 9という、2種類のCPUを搭載したモデルを提供。同社で実際にCG制作に使用されているXeon搭載ワークステーションも含めて、Houdiniによる作業時間の比較を行った。検証前はThreadripperの圧勝かと思われたが、意外にも5種類の作業のうち4種類の検証でRyzen 9がThreadripperに肉薄するか、凌駕するスコアを記録。検証を担当したHoudini Bros.シニアアーティストの今宮 和宏氏は「あらためてRyzen 9のコストパフォーマンスの高さに驚いた」という。
もっとも、これには補足説明が必要だろう。第一にHoudini側でマルチスレッド対応ノードと、非対応ノー ドが混在していたこと。そのためThreadripperのスペックが十二分に発揮できなかった恐れがあるという。「今回の検証では、波飛沫で発生する霧のような表現をシミュレーションする工程で、Threadripperの性能が一番発揮されました。この作業がマルチスレッドに最も対応していた可能性があります」(今宮氏)。他にRyzen 9のコアがZEN2世代であるのに対して、ThreadripperのコアはZEN+世代だったこと。Ryzen 9の動作クロックがThreadripperを上回っていたことなどだ。この結果にパソコン工房スタッフも「検証ではRyzen 9に軍配が上がりましたが、Threadripperのコアが新しい世代になると、また変わってきそうです。ツール側の対応も含めて、今後に注目したいですね」と語った。
また、今回は膨大なCPUパワーを必要とするHoudiniのシミュレーションや、mantraを用いたレンダリングの時間に限定して検証が行われた。そのため同じHoudiniでもGPUパワーを使用する、膨大なパーティクルを表示させてた上でのプレビュー画面の使い心地などは、検証されていない。同社の主力レンダラーの一つであり、GPUパワーに依存するRedshiftでのレンダリング時間なども同様だ。そのため、より現場の作業環境に近い形で今回のマシンを検証していき、結果によっては前向きに導入も検討していきたいという。「炎や波飛沫が画面の奥から手前に向かって迫ってくるエフェクトなどでは、解像度の面で改善の余地があります。作業時間が減少すれば、それだけ画面の密度を上げられるので、よりハイスペックな環境が求められます」(今宮氏)。こうしたソリューションの一つを担うのが、業界全体でのメニーコア対応だ。Threadripperをはじめ、今後の展開に注目していきたい。