どうしたら憧れのクリエイターになれるのか? その秘密を現役で活躍するクリエイターに直接聞いちゃう『クリエイター仕事道』。今回のゲストは映像作家の金子修さんです。アニメ業界を夢見つつも一度はTV業界に就職した金子さんですが、あることをきっかけに一念発起しアニメの世界へ。現在は人々の生活に寄り添う作品作りを中心に活躍しています。

クリエイター最終更新日: 20220404

映像作家:遠回りでも夢を追い続ければ、幼い頃憧れた職業にたどり着く

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どうしたら憧れのクリエイターになれるのか? その秘密を現役で活躍するクリエイターに直接聞いちゃう『クリエイター仕事道』。今回のゲストは映像作家の金子修さんです。アニメ業界を夢見つつも一度はTV業界に就職した金子さんですが、あることをきっかけに一念発起しアニメの世界へ。現在は人々の生活に寄り添う作品作りを中心に活躍しています。

金子さんが携わった作品

これまでに30作品ほど手がけたWEDDING映像。友人からの依頼をきっかけに、一般の方からも依頼がどんどん入るように!

埼玉県による企業向けの認知症普及啓発DVD。難しい内容を映像化することで、多くの人に理解してもらえるようになりました。

心が折れたことで再認識した本当の夢

金子さんが子供の頃夢見ていた仕事は何でしたか?

幼いころから絵を描くことが好きでしたね。ドラえもんをパロディ化した漫画を描いては学校で友達に見せたりしていました。中学生ぐらいから宮崎駿監督の影響でアニメーションに強く興味を持つようになりましたが、アニメ業界に進みたいという考えを周囲に打ち明けられませんでした。恥ずかしながら、アニメを職業にすることに対して周囲から反対を受けるのではないかと恐れていたんです。そのせいでこの後、大変な遠回りをすることになります…。

なるほど…。アニメ業界を夢見て、どのような学校へ進学しましたか?

自分は美大や専門学校に行っていません。アニメ監督になるには絵を上達させるよりも、まずは知識や教養を身に着けたほうが良いと考えて、地方の国立大学に進学しました。専攻は哲学だったのですが、残念なことにあまり大学の勉強については覚えていないんです…。今思えばもっと他に選択肢があったのではと思います。

その大学ではどんな学生生活を送りましたか?

勉強以外の活動はとても充実していました(笑)。大学では人形劇団に所属して、脚本や演出、人形や背景セットを作ることに時間を費やしていました。それが今のモノづくりにつながっているのだと思います。他にも四国を野宿で回ったりインド旅行をしたり、それだけでは飽き足らず、2年休学してアイルランドとカナダで語学留学やワーホリ(ワーキングホリデー)をしていました。バックパックを背負ってヨーロッパ一周をしたのは最高に良い思い出でしたね。

充実した学生生活だったんですね!そこからアニメーション監督を目指すようになったきっかけは?

大学卒業後、テレビ番組制作会社に3年間勤めていたのですが、1週間家に帰れないほどの激務が続いて心がポッキリと折れてしまいました。生放送後のスタジオでぼんやり天井の照明を見ていたら、「このままこの仕事続けて人生後悔しないか?」という声が聞こえてきて、退職を決意しました。辞める際にお世話になった上司に「次の職も決めないでこれからどうするつもりだ?」と尋ねられたのですが、そのとき真っ先に思いついたのが子供の頃に憧れていたアニメーションでした。1回だけの人生だからやりたいことをやっておこうと思ったんです。その時やっと自分の夢に正面から向き合えた気がしました。

大きな起点ですね。今の仕事を始めるきっかけは何だったんですか?

脱サラ後は、狭いアパートでAdobeソフトを独学で勉強して、黙々と朝から晩まで自主制作アニメを作る毎日でした。YouTubeに投稿したり、映画祭に応募していたのですが、仕事としては全く成立しませんでした。貯金もだんだん底をついて3年ぐらい経つと危機感を感じるようになりました。そんな時、元職場の先輩からアニメ制作の依頼が来たんです。広島の天気予報で流れる1分程度のアニメで女の子がコック帽をかぶると超人化して料理を作る…という天気予報とは全く程遠い内容でした(笑)。その仕事をきっかけに私の商業アニメの仕事がスタートしました。“人の縁”って大事。今でもその先輩には感謝しています。

難しいことをアニメ化し、わかりやすく伝える

金子さんの代表作を教えてください。

これまではキャラクターと絵コンテありきのアニメ制作が多かったので、代表作と自分からは言いづらいところが正直あります…。それでも「結婚式ムービー」は自分のオリジナルコンテンツと言えますね。披露宴の冒頭に流すための2分程度のアニメーションで、赤い糸でつながった新郎新婦の生い立ちが流れていく内容です。親友のために作ってYouTubeにアップしたら、それを見た一般の人から続々と依頼があって、すでに30本近く作っています。おかげさまで自分の結婚式アニメも作ることができました! 

素敵なエピソードですね!仕事としてターニングポイントになった作品はありますか?

埼玉県から受託した地域包括ケアアニメです。病気や介護など重い内容を扱っているので、シンプルなキャラクターにして受け入れやすいアニメにしています。高齢者向けなのでゆっくりとした語りと邪魔にならない程度のアニメーションにして、ストーリーが自然と頭に入ってくるように「流れ」を意識しました。打ち合わせや取材を複数重ね、プレビュー動画を送って専門家からの意見を取り入れるなど…、細かいところまで納得のいく形にしました。「地域包括ケアシステム」という難しい内容ですが、10分程度の映像を見るだけでその概要を理解することができます。

“地域包括ケアアニメ ~自分らしく、いつまでも~|地域包括ケアシステム応援サイト”.埼玉県福祉部 地域包括ケア課 地域包括ケア担当.2019.
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0609/chiikihoukatukea/careanime.html

その仕事から学んだことを教えてください。

言葉で説明するのが難しい制度や内容をわかりやすく伝えることが、私がやっていくべき仕事と考えるようになりました。リサーチや取材、台本などのテレビ番組制作で培った技術が役に立っています。この仕事をきっかけにして福祉や医療、教育関係の仕事が一気に増えました。最近では、スーパーやコンビニで働く店員さん向けの認知症啓発アニメを作りましたが、これも内容を理解するのに大変苦労しました。そもそも店員さん向けに作られた認知症の教材って少ないんです。自分が勉強する際にYouTubeにわかりやすい動画があればいいのに…と思ったぐらいです(苦笑)。それを作るのが私の仕事だと思うと、とても必要とされている気がしますね!

素晴らしいお仕事ですね!逆に仕事で失敗したことはありますか?

クリエイターが集まる合宿で、知人から「大きな仕事があるのでCinema4Dを使えるなら手伝ってほしい」という話を持ち掛けられました。でも「今ちょっと忙しいので手が空いたらぜひ手伝います~」と曖昧な返事をしたんです。後でわかったのですが、それは超大ヒットアニメ作品…。あの時すべての仕事を断って制作スタッフに入れてもらえればよかったなあと後悔しています(笑)。まあ失敗とは言えないんですが、クリエイターのお仕事ってご縁とタイミングなんですよね。

それは後悔しちゃいますね…。ところで、金子さんが仕事で一番感動する瞬間はどんな時ですか?

見せ方やセリフをちょっと変えただけで、映像が格段に良くなったときです。パズルのピースを当てはめたときと同じ快感があります。歌の編集やドラマの予告CMを作るときも、同じ素材なのにカットの順番やテロップの入れ方、ナレーションを変えるだけで全然違うものになるんです。料理と一緒ですね。素材の味を活かして美味しい料理が出来たら嬉しいじゃないですか。完成した映像を何度もプレビューして「これ、すごくよくなった!」って一人で小躍りします(笑)。

金子さんが仕事で大切にしている事、意識している事を教えてください。

いまコロナの時期でなかなか外出しづらいですが、なるべく取材に出かけたり、現場を見ることを大事にしたいです。インターネットで大抵のことが調べられるのですが、そればかりではモチベーションが上がりません。絵を描くときもネットで資料調べることばかりやっていると、だんだん仕事がつまらなくなってしまいます。なるべく足を運んで実際に見ること、人と会って話すことで、クライアントとの信頼関係が築けます。また、長期間の作業をやっていけるだけのモチベーションも生まれると思います。「CG作家は部屋に閉じこもるな。外に出ろ!」ですね。

CPU重視で、サクサク編集!

現在、どんなPCや周辺機器を愛用していますか?

自分でPCをいじりますが、今持っているPCは部品を購入して組み立て代行をお願いしました。金額も安上りで自分が求める性能になるので、よく使っています。

PC

CPU Core i9-9900K
メモリ 64GB
グラフィックボード GeForce RTX 2060
ストレージ M.2 SSD(1TB) ×2
SATA SSD(1TB) ×2

周辺機器

  • モニタ BenQ SW321C(32インチ)
  • 液晶ペンタブレット Wacom CintiqPro 16(16インチ)
  • 外付けHDD Drobo5D3(10TB×5)
  • NAS Synology DS220j

PCや周辺機器を選ぶ際の基準を教えてください。

CPU重視です。基本的にCPUに負荷がかかる作業が多く、特にテレビ番組編集では4K素材を扱うため貧弱なCPUではリアルタイム再生できず作業に支障が出ます。大体2~3年に一度買い替えるのでその時に一番コスパの良いIntel製のCPUと拡張性の高いマザーボードを購入します。また、PCのデータ管理は全てSSDです。HDDは外付けで過去のプロジェクトやアーカイブ用のみに使っています。

それ以外におすすめのツールはありますか?

PC関連ではありませんが、電動昇降デスクはおすすめです!午前中や集中力が散漫な時は立ち仕事で作業します。あとクリエイターにとって椅子は一生ものなので、アーロンチェアなどの高級チェアを使いましょう。腰痛や肩こりになったことはほとんどありません。

若い頃は「生みの苦しみ」を覚悟して

金子さんにとって“クリエイター仕事道”とはなんですか?

シンプルでわかりやすい映像を作る。目を見張るような最新技術のCGや驚きと感動を与える作品だけが、映像の仕事ではありません。日常生活の中には「情報をわかりやすく伝えること」を目的とした映像であふれています。そういう需要にこたえるのが私のクリエイター仕事道です。

クリエイターを目指す若者たちにメッセージをお願いします!

この先何度も壁にぶつかると思います。「アイディアが出てこない」「絵がうまく描けない」「CG技術が足りない」「クライアントが望むものを作れない」…挙げればキリがありません。他人と比べて自信を失うこともあります。私自身もそんな苦しみを感じながら仕事をしています。だから、駆け出しの皆さんが苦しむのは当たり前と考えてください。作品を創造する「生みの苦しみ」は絶対に必要ですから。

金子さん、ありがとうございました!

遠回りしても夢を見続けよう!

忙殺されていたTVマン時代に、一念発起した金子さん。しかし、TVマン時代の経験は現在の活躍にすごく影響を与えています。紆余曲折はありつつも、夢を忘れなければ叶うのです。また、派手な作品だけがクリエイティブではありません。人々の生活に寄り添う実直な仕事もまたクリエイティブなのです。

クリエイタープロフィール

金子修さん
映像作家
埼玉県出身。テレビ番組のディレクターを経て、独学でアニメーションを勉強。国内外の映画祭で受賞。2019年に株式会社アトリエ036を設立。現在はテレビ放送や企業・自治体向けの映像やCG、イラスト、アニメーションなど幅広く作っている。また大学や専門学校、セミナーなどで映像制作の指導もしている。
https://www.atelier036.jp/

ライタープロフィール パソコン工房NEXMAG [ネクスマグ] 編集部

パソコンでできるこんなことやあんなこと、便利な使い方など、様々なパソコン活用方法が「わかる!」「みつかる!」記事を書いています。

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