どうしたら憧れのクリエイターになれるのか? その秘密を現役で活躍するクリエイターに直接聞いちゃう『クリエイター仕事道』。今回のゲストはアニメーション作家、そして演出家・絵本作家としても活躍する坂井治さんです。

クリエイター最終更新日: 20220818

アニメーション作家: 立ち止まって悩むより「やってみる」ことが大切

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どうしたら憧れのクリエイターになれるのか? その秘密を現役で活躍するクリエイターに直接聞いちゃう『クリエイター仕事道』。今回のゲストはアニメーション作家、そして演出家・絵本作家としても活躍する坂井治さん。国立科学博物館の常設展示・地球館のシンボルゾーン『地球史ナビゲーター』などを手がける坂井さんですが、実は高校生までは特にやりたいことがなかったのだそう。なぜ、ここまで活躍するようになったのか?それは多摩美術大学時代の授業が大きく影響していました。

坂井さんが携わった作品

国立科学博物館の常設展示・地球館のシンボルゾーン『地球史ナビゲーター』。ビッグバンから約138億年の地球の歴史を映像で紐解きます。

『おおきなぞうとあっちゃんの星』はプラネタリウム番組用のアニメーション作品。坂井さんは企画・監督を担当しました。

片山雅博先生がアニメーション人生の道標

坂井さんは小さい頃どんな仕事に憧れていましたか?

幼い頃なりたかったのは「飛行機のパイロット」で、小学生くらいになると「マンガ家になりたい」と言っていたと思います。でも「聞かれたから、そう言った」くらいで、本気でなりたいと思った職業なんて、子どもの頃は考えたことはありませんでした。ただ、小さい頃から絵を描くのは好きで「クラスの絵がじょうずな子」ではありました。

幼い頃から絵を描くことが好きだったんですね。そこから、どんな学校へ進学しましたか?

現在「絵」や「アニメーション」の仕事をしていますが、具体的に「絵を描きたい」と決めたのは、高校3年の夏です。それは「夢」というより「進路」を決めないといけなくなったのがきっかけでした。当時特にやりたいこともなく、友人が進路を決めていくのを見て、焦ったことを覚えています。その頃、描いていた「絵」といえば、流行りの漫画をノートの隅に真似するくらいで、まさか自分が進路として「絵を描きたい」と言い出すとは思いもしませんでした。でも、他に本当に何も思いつかなかったんですよね。

そこで初めて美術の授業も受けていないのに美術の先生に相談して…、世の中に「絵」の学校があることを知りました。そして、美術予備校へ通うことになり、浪人を経て、多摩美術大学に入学しました。

焦りがきっかけで絵の道を思いついたんですね!多摩美時代はどんな学生でしたか?

美術の予備校の1年半ほどと大学4年間は、本当に刺激的な日々でした。予備校に行けば「絵が上手な人」しかいない。大学に行けば、絵どころか、彫刻、染色、工芸、演劇、映画、芸術学…、みんなやりたいことに熱を燃やす人ばかり。それが楽しくて楽しくて仕方がありませんでした。そんな人たちの中で、ただの「絵を描きたい」が「表現したい」と心境が変わっていったように思います。

今の仕事を目指すきっかけはどんなことでしたか?

大学在学中に新しく始まった「アニメーション」の授業で教鞭を執っていた故・片山雅博先生が何よりのきっかけです。大柄な体にサングラス。羽織るジャケットにはバッチやピンがぎっしり。扇子片手にべらんめぇ口調。他の授業の名だたる先生の中に「なんだ、あの先生は??」という風貌でした。でも、その先生に私は目一杯背中を押されることになりました。

仲間内でもアニメーションを少し作っていたので、迷いなく「アニメーション」の授業を選択しました。授業では、世界中のいわゆるアートアニメーションからディズニーや手塚治虫まで優れた作品を観る。あとは片山先生の活弁のような様々な話を聞いて、課題作品を作っていきます。アニメーションの作り方のような専門技術は一切教わらず、みんな独学でアニメーションを手探りに作っていきました。

授業もとても独特でしたが、特に驚いたのは授業以外の部分でした。一生懸命作る学生をとにかく応援してくれて、個別に電話をくれたり、飲みに誘ってくれたり、直筆達筆の手紙をしたためてくれたり…。まだ携帯電話が普及しはじめた頃で、メールはまだ一般的ではなかったので手紙の時代でしたね。そんな先生の元、私はどんどん「アニメーション」にのめりこんでいきました。

素敵な先生との出会いが、その後の人生を決定づけたんですね。実際に仕事としてアニメーションに携わるようになったきっかけは?

仕事のきっかけは、同じくそのアニメーションの授業からでした。授業の特別講師としてやってきた、アニメーション作家・野村辰寿さんとの出会いがとても大きかったです。野村さんの監督作品『Stray Sheep』を見て「日本にこんな面白いアニメーションを作る人がいるんだ!」と驚きました。授業の最後に「アルバイトを探している」と言うので、思い切って手を挙げました。今考えると、その思い切りが、その後の仕事のきっかけになったと思っています。

野村さんのアルバイトから会社を紹介していただきましたし、その後野村さんが所属していた株式会社ロボットにも入ることになりました。

血を注ぎ熱量が籠った作品は、誰かの心を動かす

坂井さんの代表作を教えてください

ひとつは上野の国立科学博物館の展示映像です。常設展示をしている地球館1階のシンボルゾーン『地球史ナビゲーター』の映像企画・演出をしました。大きな空間を囲うよう設置された10m幅×3のスクリーンに、138億年(ビックバン〜現代)を10分で表現しています。それを元にした絵本「13800000000 きみのたび」も作りました。他、プラネタリウム番組「おおきなぞうとあっちゃんの星」、民話などから生き方を探る企画「むかしめがね」、子ども向けのアニメーションや絵本、ワークショップなど、アニメーションを基点にさまざまな活動しています。

坂井さんにとってターニングポイントとなった作品はなんですか?

仕事ではないですが、大学の卒業制作です。『金のまきば』というアニメーション作品で、3分にも満たずしかも未完に終わったのですが、心血注ぎ込んだ作品でした。これが数年後「NHKみんなのうた」で、シンガーソングライターの大貫妙子さんが『金のまきば』の歌を作ってくれて、ほとんどそのままの世界観を「みんなのうた」で表現することができました。こんな出会いがあるのかと驚き、夢中になって仕上げました。

その仕事には、どんな“学び”がありましたか?

学生の頃は「卒業制作をとにかく一生懸命作れ」と言われました。下手でも不恰好でも心血を注ぎ熱量が籠った作品には、必ず誰かが反応してくれる。まったくその通りになりました。卒業制作や学生作品を見せて回るうちに、少しずつ今の仕事に繋がっていきました。今の創作も仕事も、その考え方が根本にあると思っています。実は、僕自身は人付き合いが苦手なんです。でも「一生懸命」作っていたら、友人・知人だけではなく、仕事やそうした付き合いができていました。とにかく一生懸命作っていただけでした。

一生懸命考えて作ることが大切なんですね。逆に仕事で失敗をしたことはありますか?

私が手がけるようなアニメーションは、作業量も考えることも膨大で、コツコツ時間をかける仕事が多いです。長い時間をかける分、失敗も多くなります。手を抜くとクオリティが下がり、こだわりすぎると終わらない、ある意味、失敗と妥協の産物です。失敗をどう活かすか、妥協してはいけないのは何か、そんなことをいつも考えます。

アニメーションに関わらず「表現」は挑戦の積み重ねなので、自分の力以上のことにぶつかることが常です。力以上のことをするので、もちろん失敗したくありませんが、失敗は前提です。それゆえに失敗を重ねながら「どう理想に近づくか?」と考えることが多いです。「もっと楽にできることをすればいいのに」と、自分でもよく思います。でも、やりたいことだから踏ん張れるし、やりたいことでなければ逃げ出してると思います。そう考えると、いつもギリギリのところで創作しているような感覚にもなります。

ギリギリのところで…、創作者だからこその感覚ですね。そんな坂井さんが仕事で一番グッとくる瞬間はどんな時ですか?

アニメーションで言えば「絵」が活き活きと動く時です。お話で言えば「そうそう、こういう話にしたかった」と思う時です。絵でいえば「これはいい絵だ」と思えた時です。ただ、その直後にはだいたい「本当にそうだろうか」となってしまいます…。

でも、その自分の感動したことが、相手に伝わっていたことが分かることが時折あって、そんな時に「作ってよかった」「やってよかった」と思います。そういう瞬間に、それまでどんなに大変だったとしても、つい「また作りたい」と思ってしまうようです。

作る人と観る人がオーバーラップする瞬間ですね!坂井さんが仕事で大切にしている事を教えてください。

「やりたいことは全部やる」です。やるといっても、できるかどうかは別の話。でも、ただ考えているだけで、形になることはないので、「やりたい」と思ったことは人に話すようにしていますし、小さくてもその時できることのために手を動かすようにしています。大体上手くはいきませんが、「次に何をしたらいいか」と考えることができます。最初の機会でうまくいかなくても、次の機会で挑戦します。中断しても「やりたい」と思っているので、再開の機会を探します。10年でも20年でも。粘り強く機会があるごとに、時には考え方や形を変えて、やりたいものは形になるまでやります。なので、今はやりたいことの方が山のようにあります。今はそれが問題かもしれません(笑)。

最近の機器は、メモリを増やさなくても十分対応可能

現在、どんなPCや周辺機器を愛用していますか?

ノートPCとWacomペンタブレットを使っています。

ディスプレイ 16-inch
CPU Intel Core i7 2.6 GHz 6コア
メモリ 32GB 2667 MHz DDR4

PCや周辺機器を選ぶ際の基準を教えてください。

同一メーカーのPCを20年近く使っていますが、かつてはメモリを目一杯積んだり、グラフィックボードを追加したりしていました。最近のPCは、私が作るようなアニメーションなら、最上位クラスでなくてもとても処理が速いので、あまり詳しくなくなってしまいました。

基本的にできるだけ手軽に作業ができる環境を作ろうと心がけています。なので、今はノートPCと小さなペンタブレットという形が、今は一番自分に合っていると思っています。

やりたいことがなければいけないわけではない!

坂井さんにとって“クリエイター仕事道”とはなんですか?

“道”など大層なものは分かりません。少なくとも自分にはないです。それがあるなら、こんなに苦労しないようにも思いますし、道があるなら、それはすでに「ある」ということなので、つまらないと感じそうです。

でも、憧れる作家さんや作品はたくさんあるので、その方々や作品が「こっち」だよと手招きしてくれているとは思います。でも、あっちこっちから手招きされているので、やっぱり迷いますよね。遠くに目標となる目印があって、その時に向かいたい目印に迷いながら向かう感じでしょうか。

クリエイターを目指す若者たちにメッセージをお願いします!

やりたいことがあるなら「一生懸命やる」につきます。立ち止まって迷うより、進んでみながら迷う方が良いと思います。そして、一生懸命やっていることを、人に見せたり伝えたりする努力をすると良いと思います。

最後に。やりたいことがなければいけないということではありません。こんな拙文を読んでくれる方は、きっとそういうことに興味があるのだと思います。そういう方々へ、何か力になれば幸いです。

坂井さん、ありがとうございました!

やってみることで、次に繋がる

「やりたいことがなかったらから好きな絵を描く学校へ行った」という坂井さん。恩師である片山雅博先生の元、アニメーション制作の魅力だけでなく「一生懸命作る」ことの大切さを学びました。そこで学んだ製作哲学は今も坂井さんの血肉となり、仕事に良い影響をもたらしているようです。まずは「やってみる」ことから始めましょう!

クリエイタープロフィール

坂井治さん
アニメーション作家・演出家、絵本作家
CM、番組、展示、PV等、アニメーションを中心に監督・演出。その他、コンセプトワーク、アートディレクション。こども向けのワークショップ、地域活動などで活躍中。
ホームページ:https://sakaiosamu.info/
ツイッター:https://twitter.com/sakaiosamu_twt

ライタープロフィール パソコン工房NEXMAG [ネクスマグ] 編集部

パソコンでできるこんなことやあんなこと、便利な使い方など、様々なパソコン活用方法が「わかる !」「みつかる!」記事を書いています。

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