どうしたら憧れのクリエイターになれるのか? その秘密を現役で活躍するクリエイターに直接聞いちゃう『クリエイター仕事道』。今回のゲストはアニメーション作家で脚本家の仲井陽さんです。NHK『100分de名著』のアニメーションや、ドラマ『小野田さんと、雪男を探した男』の脚本を手掛けた仲井さん。学生時代に勉強よりも没頭したという“演劇”が、今の仕事に大きく影響しているそうです。
仲井さんが携わった作品
2017年に制作した初のオリジナル短編アニメーション『FLOAT TALK』。脚本と演出の一部を担当し、海外映画祭にノミネートされました。
NHK『100分de名著』のアニメーション。抽象的な概念を、独特なタッチのアニメーションで具現化しています。
脚本を手掛けた演劇『タヒノトシーケンスvol.2 巨大ないきもの、囁きながら眠る』。最も“仲井さんらしさ”が表現できた作品のひとつです。
演劇の世界にどっぷり浸かった大学生時代
仲井さんは子供の頃、どんな仕事がしたいと思っていましたか?
小学生の頃は漫画家で、当時流行っていたドラクエ4コマみたいなものを描いたり、友達と1ページ漫画を描き合ったりしていました。中学生になるとTRPG(テーブルトークRPG)にハマり、ゲームクリエイターにもなりたくなって、遊び方のシステムとかオリジナルの世界設定を四六時中考えていました。
ただ絵を描いたり計算することはあんまり好きじゃなく、人を笑わせたり、空想を人と共有することが楽しかったんだと思います。
そこから、どんな学校に進学したんですか?
高校で演劇部に入部したのですが、そこから演劇に没頭しました。舞台で観客を笑わせたり、濃密な空気を作ったりすることが凄く面白くて、自分で脚本も書くようになりました。そこで初めて具体的に、将来どんな道に進むのかを考え始めました。第三舞台の戯曲をよく読んでたんですが、あとがきに書かれていた大学での演劇活動が凄く楽しそうで、早稲田大学を目指すようになりました。演劇で有名だし、何かあっても潰しが効くだろうと(笑)。専門学校よりもバラエティ豊かな感じがしたんです。
早稲田大学ではどんな学生生活を送りましたか?
サークル活動にのめり込んでいたので授業にはろくに出ず、学生会館に入り浸ってました。大学で自主映画にも出会って、デジタルビデオカメラDCR-VX2000とPCで自主映画を作ったり、仲間を集めて芝居を打ったり、とにかく映画と演劇に明け暮れていました。とても濃密な時間でしたね。今やっていることの礎は、全てこの時期の活動で出来ていると思ってます。
演劇に没頭して、そこからアニメーション作家や脚本家を目指すようになったきっかけは?
正直に言うと、はっきりと目指したことはないです。ただ自分がやれることというか、やり続けてもいいと思えることを選んでいった結果、今の仕事に繋がっている気がします。物語や世界を作ること、空想を形にすることが好きでずっとやってきたので、それ以外の仕事があまり現実的だと思えなかったせいもあると思います。
“なるほど!ではアニメーション作家や脚本家として活動するきっかけはなんだったのでしょうか?
アニメーションは『ケシュ#203』というチームで制作していて、相方の仲井希代子が絵を描き、自分がPCで動かすという二人体制で活動しています。最初は企業系の映像やイベント撮影も請け負っていたのですが、あるとき制作会社の友人から番組で「アニメーションを作れないか」と言われ、そこから段々とアニメーションの仕事が増えていき、特化していきました。
脚本の仕事については、そうやって映像を作っているうちに、「このままだと自分は物語を書けなくなってしまうんじゃないか?」と危機感を覚え、とにかく書けるような環境に身を置こうと思い、脚本家の世界に飛び込みました。
ささやかでも心に引っかかる表現を…
仲井さんの代表作を教えてください
ひとつは2017年に制作した短編アニメーション『FLOAT TALK』(監督:仲井希代子 製作:ケシュ#203)です。初のオリジナルアニメーションで、自分は脚本と演出の一部を担当しました。いくつかの海外映画祭にノミネートされ、そこで観た海外のアニメーションや映画祭に参加した経験によってとても視野が広がりました。
もうひとつは『タヒノトシーケンスvol.2 巨大ないきもの、囁きながら眠る』という演劇作品です。相模原グリーンホール協賛の公演で、脚本と演出を担当しました。一番自分の作風が色濃く出ている作品です。
仲井さんにとってターニングポイントとなった作品を教えてください?
アニメーションでは、NHK Eテレの『100分de名著』です。それまで単発の番組が多かったのですが、初めてのレギュラー番組で、10年続けていく中で自分たちのスタイルを確立することができました。作家性を尊重していただけるとても素敵な番組です。
脚本ではNHK BS『小野田さんと、雪男を探した男』です。ドキュメントドラマという一風変わった形式ですが、脚本家の仕事を始めたばかりの頃に比較的好きにやらせて頂いたうえ、賞も頂いたので非常に励みになりました。
その仕事から、どんなことを学べましたか?
『100分de名著』では古今東西の哲学書、思想書から著名な物語まで幅広く扱うので、携わる中で読解力というか、物事の構造を論理的に理解する力がついたと思います。また抽象的な概念をアニメーションにすることが多いので、比喩として伝える表現力も鍛えられました。
『小野田さんと、雪男を探した男』は、当初「社会派の作品は自分の作風とは合わない」と構えていたのですが、どんな題材であれ人物と出来事の核を押さえておけば、変則的なやり方でも多くの人に届くということが分かり、その後の自信に繋がりました。
仕事を通して、表現力も自信も身についたんですね。そんな仲井さんでも失敗したことはあるのでしょうか?
“大きな失敗”というより、いくつかの苦い経験なのですが、相手のニーズとこちらの仕事が合わないことにもっと早く気づけていたらと思ったことは何度かあります。
脚本でもアニメーションでもそうですが、作ったものを納得のいかない形に無断で改変されることが稀にあります。名前を出して仕事をしている以上、責任を持てないようなものは出せないので、相手が条件に当てはまるものだけを求めているのか、それとも作家として一緒に物づくりをしようとしているのか、仕事を引き受ける際に慎重になりました。
仲井さんが仕事で最もテンションが上がる瞬間は、どんな時ですか?
いいアイデアを思いついて、それが上手くハマったときです。奇妙だけど人の琴線に触れ、テーマも語るべき意義があり、構造的にもあまり見たことのないようなものが思い浮かぶと一気にテンションが上がります。宝物を手に入れたような気持ちになります。
そんな仲井さんが仕事で大切にしている事、意識している事を教えてください。
観ている人の気持ちのツボを押していって、違う景色を見せられたら最高だと思ってます。通り一遍の表現は分かりやすいですが人の心を打たないので、ささやかでもリアリティがあって心に引っかかるような表現を常に意識しています。
パソコンは執筆用と映像制作用で使い分ける
現在、どんなPCや周辺機器を愛用していますか?
Surface Proの第5世代と15インチのゲーミングPC、それと27インチモニターの自作のデスクトップです。デスクトップは去年組んだのですが、AfterEffectsを主に使うのでCPUを重視してCore i9-9900Kを、グラボはGeForce RTX 2070 SUPER、作業用のSSDと別に8TBのHDDを4つつけて、今まで作ったプロジェクトを素材ごと全部保管しています。
PCや周辺機器を選ぶ際の基準を教えてください。
書き物は外ですることが多いので、執筆用には軽くて薄いモバイルノートを、CPUはCore i5以上、メモリも8GB以上あれば充分ですが、キーボードの打ち心地は拘ります。エンターキーの隣にキーがあったりするような変則的なものは避けます。
映像制作のPCでは作業速度に直結するCPUとメモリを一番重視します。グラボは予算との相談になりますがミドルクラスで落ち着くことが多いです。スタジオに持ち込んで直すこともあるので、ノートでもできるだけCPU、メモリも大容量で、dGPUのものを選びます。ギリギリの作業のときにレンダリングの速さが明暗を分けるので……。
普段使っている裏技などはありますか?
最近はメモ帳代わりにGoogle Keepを使っています。プロットやアイデアを練るときはとにかく考えていることを箇条書きで言語化するんですが、PCで書いたものをスマホで見返したり、逆に出先で思いついたことをスマホにメモって帰ってからまとめたり、というのをシームレスにできるので良いです。
憧れの世界に飛び込もう!
仲井さんにとって“クリエイター仕事道”とはなんですか?
なんだろう……、生活みたいなものでしょうか。寝たり食器を洗ったりご飯を食べたり遊んだりすることと同じ地平にあるような気がします。
クリエイターを目指す若者たちにメッセージをお願いします!
なりたい職業があるなら、それを仕事にしている人たちの中へ飛び込むのが一番手っ取り早いと思います。人は知ってる人に仕事を振ります。実力はやってるうちにつくし、やってもつかないならしょうがないです。
やりたいことがあるなら誰が何と言おうがやるべきだと思います。自分が飽きたり、もういいやと思うまでやって、飽きずに続けられればそのうち自分にしかできない何かが身に付きます。
そして往々にして、なりたい職業とやりたいことの間にはちょっとしたズレがあります。楽しんでください。エンジョイ!!
仲井さん、ありがとうございました!
好きなことに没頭することが将来に繋がる
大学生時代は演劇に明け暮れた仲井さん。今はアニメーション作家や脚本家として活躍していますが、大学生時代の経験が今の仕事に活かされています。若いうちに好きなことに没頭することは、後の仕事に繋がっていきます。いろんな経験を重ねていきましょう!
クリエイタープロフィール
仲井陽さん
アニメーション作家・脚本家
1979年、石川県出身。早稲田大学社会科学部中退。大学在学中に演劇・映画団体である「ケシュ ハモニウム」を旗揚げし、作・演出・監督を務める。2005年、仲井希代子とともにアートユニット「ケシュ#203」を結成。NHK Eテレ『100分de名著』などの番組内アニメーションを担当。2016 年にケシュ#203として制作したオリジナル短編アニメーション 『FLOAT TALK』が、オランダ国際アニメーション映画祭、シュトゥットガルト国際アニメーション映画祭などでオフィシャルセレクションに選出された。
その一方で脚本家としても精力的に活動し、2015年に立ち上げた架空の町が舞台の短編演劇連作「タヒノトシーケンス」では脚本・演出を担当。「日常における異質」や「異世界における日常」を題材とした作品が多く、その特異なシチュエーションの中から普遍的な人間の感情を浮かび上がらせる。脚本を手掛けた NHK BSプレミアムのドキュメントドラマ『小野田さんと、雪男を探した男 ~鈴木紀夫の冒険と死~』が第44回放送文化基金賞奨励賞・第34回ATP賞奨励賞を受賞。同じく脚本を手掛けたカンテレのドッキリ×ドラマバラエティ『知らないのは主役だけ』が2020年度ギャラクシー賞・奨励賞を受賞。
パソコンでできるこんなことやあんなこと、便利な使い方など、様々なパソコン活用方法が「わかる!」「みつかる!」記事を書いています。