どうしたら憧れのクリエイターになれるのか? その秘密を現役で活躍するクリエイターに直接聞いちゃう『クリエイター仕事道』。今回のゲストは立体アニメーション作家の井上仁行さん(パンタグラフ)です。どんなきっかけで、立体アニメーション作家になったのでしょうか?現在の活躍には、それぞれの場所での経験が活かされていました。

クリエイター最終更新日: 20220609

立体アニメーション作家:「自分が楽しいこと」が、人のための作品になる

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どうしたら憧れのクリエイターになれるのか? その秘密を現役で活躍するクリエイターに直接聞いちゃう『クリエイター仕事道』。今回のゲストは立体アニメーション作家の井上仁行さん(パンタグラフ)です。大学時代に現代美術を学び、一度はレコード会社に就職した井上さん。どんなきっかけで、立体アニメーション作家になったのでしょうか?現在の活躍には、それぞれの場所での経験が活かされていました。

井上さんが携わった作品

2019-2020年に制作されたゾートロープ作品群と鑑賞ビューワーアプリ『StroboScope』。まるで時計のように歯車が重なり合う、緻密な作品です。

2016年制作の自照ストロボシステムのゾートロープ。ジンジャーマンクッキーとクリスマスがテーマで、ピンクのチョコレートをジンジャーマンクッキーが運ぶ姿がかわいらしい作品です。

大学時代に学んだモノづくりの理念

井上さんは子供の頃に憧れていた職業は何でしたか?

子供の頃は、SF映画に影響を受けてハリウッドで映画作りがしたいと思っていました。ただ漠然と考えていただけなので、具体的に映画作りの中でも何がやりたいとか、細かくは考えていなくてただ憧れているだけでした。

映画に憧れ、どんな学校へ進学しましたか?

プロダクトデザインの学科をいくつか受けて大学に進学しました。夢に向かってというより、自分ができそうなこと、興味のありそうなことを直感で選んでいました。

学生時代はどんな学生生活を送っていましたか?

課題をこなすので精一杯で、正直なかなか周りについていけてませんでした。プロダクトデザインが、自分が思っていたより自由度のない世界だとその時感じてしまい、2年の時に現代美術の学科に変更しました。しかし回り回って、今プロダクトデザインのようなこともするので不思議なものですね(笑)。

現代美術に学科変更した井上さんですが、今の仕事を目指すようになったきっかけは何だったのでしょうか?

やはり大学で学んだ「作家とはどうあるべきか」といった理念がずっと頭の片隅にあったからじゃないでしょうか。独立してすぐに今のような活動ができていたわけでなく、ずいぶん遠回りしましたが、大学で学んだことやその時の仲間やライバルが近くにいると、時間がかかってもそういう場にいけるものだと思います。

現在のような活躍をされるきっかけを教えてください。

大学卒業後、大手のレコード会社に就職しましたが、初日で「これは長くないな」と悟りました(笑)。ただ社会勉強は今やるべきなので、勉強期間だと思ってしばらく勤めたのち、気がついたら自然と独立していました。独立してからは会社時代のコネクションやノウハウがとても役立ちました。

健康的に長く続けることが大切!

井上さんの代表作を教えてください

私が手がけている作品の形態はいくつかあるんですが、造形作品なら小学校・中学校の教科書グラフィック制作、アニメーション作品ならNHK『星新一ショートショート』です。目の前のオブジェが動いて見えるゾートロープ作品も多く制作しています。どんな仕事でも毎回代表作という気持ちで取り組んでますので、正直言うとどれか一つに決められないですね。

特にターニングポイントとなった作品はありますか?

雑誌・日経パソコンの表紙グラフィックです。11年間、隔週で表紙に作品を作り続けたので、作品数は300個近くあります。毎回、作るのにとても時間がかかり大変でしたが、そのサイクルがいつのまにか日常化すると、それが自然と作品づくりのスタイルになりました。

井上さんが担当した日経パソコンの表紙グラフィック井上さんが担当した日経パソコンの表紙グラフィック

その仕事から、どんなことを学べましたか?

雑誌なので予算があまりないんです。平面のイラストよりもすごく手間がかかるんですね。毎回、予算以上の時間と材料費をかけて作品を作ることになってしまっていました。その代わり作品の著作権は自分に残るようお願いしました。そうすると10年後にはそれらの作品を使って展覧会をしたり作品集を出したりすることができました。予算がないなりに出来ることもあるわけです。

なるほど!勉強になりますね。逆に何か大きな失敗を経験したことはありますか?

それはたくさんあるでしょうね(笑)。いろいろありますが、やはり「人」との関係です。クライアントを怒らせたり、こっちが怒ってしまったり、スタッフとの人間関係をずっと良好に保つのもとても難しいものだな、と自分では一生の課題だと思っています。

井上さんが、仕事をする中でもっとも心が躍る瞬間はどんな時ですか?

昔は人に喜んでもらえると嬉しかったですね。今は随分変わって、いかに自分を喜ばせることができるかを考えています。それができた瞬間が感動ですね。そういうものの方が、圧倒的に人の役に立ったり、人助けできたりすることがわかりました。

井上さんが仕事で大切にしている事、意識している事を教えてください。

昔はよく作品を作るのに長い時間をかけたり、集中的に作業してしまっていたりしましたが、長く続けるならそれはダメですね。もう24年目になりますが、必ず毎日少しずつやることが作り続けるコツかなと思って意識しています。自分の健康も大事にしないと作品づくりを長く続けることができなくなりますからね(笑)!

シンプルなスペックで、長く使えるものを

現在、どんなPCや周辺機器を愛用していますか?

パソコンは2015年頃の15インチノートパソコンをずっと使っています。作業のメインはパソコンではないのですが、造形ならではの周辺機器として、レーザーカッターや3Dプリンター、カッティングマシンなどがあります。

PCや周辺機器を選ぶ際の基準を教えてください。

とにかく壊れないこと、シンプルであること、長く使えることを条件にしています。

「いいね!」よりも自分が喜ぶ作品を

井上さんにとって“クリエイター仕事道”とはなんですか?

「長きにわたって作り続けられるか」ということでしょうか。時代とともにやり方やアプローチが変わりながらも、自然と日常的にものづくりをしていく姿勢かなと思います。ですので「仕事」という風にはあまり思ったことがないですね。私にとっては「日常」であってほしいものです。

クリエイターを目指す若者たちにメッセージをお願いします!

今はSNSなども普及していて、若くして有名になっている人も少なくありません。スゴイですね。しかしよく思うのですが、もっと助走期間を長く考えてじっくりゆっくりやってもいいんじゃないかなとよく思います。自分の作品が話題になるのが、おじいさんになってからでもいいんです。有名になって「いいね!」をもらうことより、長く続けること、自分を喜ばせることを考えると幸せなものづくり人生が送れるのではないでしょうか。

井上さん、ありがとうございました!

自分の好きなことを、長く続けよう

「長く続けられるものを」と語る井上さん。瞬間的なものではなく、無理なく長く続けられることで、作品たちが洗練されていくのかもしれません。自分が何を好きなのか、何が得意なのかを突き詰めていけば、きっと長く続けられるものに出会えるはずです!

クリエイタープロフィール

井上仁行さん
立体アニメーション作家・パンタグラフ主宰
筑波大学芸術専門学群卒業。立体造形と立体アニメーション専門のアーティストユニット『パンタグラフ』を主宰。雑誌表紙・CDジャケットの制作やCM・短編アニメーション・ゾートロープなど幅広い分野で活動。著書に『造形工作 アイデアノート』、『パラレルワールド御土産帳』など。2015年 動きのカガク展(21_21 DESIGN SIGHT)、2015年〜 小学校算数・中学校数学教科書(学校図書)メインビジュアル、2018年〜 デザインあ展など。2021年 文化庁メディア芸術祭(アート部門)審査委員会推薦作品選出

HP:http://www.pangra.net/

ライタープロフィール パソコン工房NEXMAG [ネクスマグ] 編集部

パソコンでできるこんなことやあんなこと、便利な使い方など、様々なパソコン活用方法が「わかる!」「みつかる!」記事を書いています。

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