デジタルクリエイティブの世界では、2000年代初頭からスウェーデンのクリエイティブがとても定評があることをご存じでしょうか? 中でもNorth Kingdomは、世界的に有名なスウェーデンのデジタルクリエイティブのプロダクションです。創業者の1人であるDavid Eriksson(デービット・エリクソン)さんへのインタビューを通じて、クリエイティブ活動への考え方や向き合い方について話をうかがいました。

クリエイター最終更新日: 20201124

世界的デザインエージェンシー、スウェーデンのNorth Kingdomにインタビュー

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デジタルクリエイティブの世界では、2000年代初頭からスウェーデンのクリエイティブがとても定評があることをご存じでしょうか?中でもNorth Kingdomは、世界的に有名なデザインエージェンシー(experience design agency)です。
今回はNorth Kingdomの創業者の1人であるDavid Eriksson(デービット・エリクソン)さんへのインタビューを通じて、クリエイティブ活動への考え方や向き合い方について話をうかがいました。

世界的に活躍するクリエイターを輩出するスウェーデン

最初にスウェーデンについて、軽く触れておきます。

スウェーデンは、外務省のWebサイトを参照すると、日本より少し大きな国土を持ちながら(約45万平方キロメートル、日本の約1.2倍)、人口は約1,022万人。GDPは日本に比べて約9分の1ほどにあたる5,511億USドル(2018年、IMF)とされます。

出典:
“スウェーデン基礎データ|外務省”.外務省.
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/sweden/data.html

今回インタビューしたNorth Kingdomをはじめとする、スウェーデンに本社を置くさまざまなデザインエージェンシーやプロダクションは、世界的に評価が高いことで知られています。例えば、世界三大広告賞と呼ばれる、カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルやTHE ONE SHOW、Clio Awardsでは、スウェーデン出身のデザインエージェンシーやプロダクションが毎年数多くの賞を受賞。North Kingdomも長年受賞を続ける世界的なデザインエージェンシーであり、優れたインタラクティブデザイン、モーションデザインを多数生み出し、提供しています。

自国を越えて、継続して世界的に活躍するクリエイターたちは、日頃どのようなことを考え、物事に取り組んでいるのでしょうか? 

“North Kingdom”.North Kingdom
https://www.northkingdom.com/

North Kingdomが大切にする言葉“詳細(ディテール)はあなたを裏切る”

North Kingdomは、2003年にスウェーデンの都市シェレフテオにRoger Stighällさん、Robert Lindströmさん、David Erikssonさんの3名で設立。現在は首都のストックホルムやアメリカ・ロサンゼルスにもオフィスを構えています。

創業から今日までの経緯をうかがうと、CCO(Chief Creative Officer)のDavid Eriksson(デービット・エリクソン)さんは、自社について「クリエイティビティとイノベーションについて経験豊富なデザイン会社」と答えた上で、次のように補足します。

「創業以来、私たちはクライアントに対して、世界に向けた魅力的かつ意義のある知識やサービス、製品を提供しています。 当初は、デジタルコミュニケーションを重視した作品を手がけていましたが、インターネットの進化とともに、私たちの作品も発展していきました。

現在では、ARやVR、AIなどの体験型コンテンツに加えて、デジタルのプラットフォームや製品、サービス開発も行っています。クライアントとともに重視する側面が、テクノロジーをイノベーティブに活用することで、新たな道筋をクライアントのお客様(エンドユーザー)にいかに提供できるかという点です」

インタビューに応えてくれたNorth KingdomのCCO、David Erikssonさんインタビューに応えてくれたNorth KingdomのCCO、David Erikssonさん

なぜ世界的な活躍ができるようになったのでしょうか?
Davidさんに尋ねると、North Kingdomが大切にする「“詳細(ディテール)はあなたを裏切る”」という言葉を紹介してくれました。

「何事においても、最高のクオリティで作品を提供するために努力すること。その精神で追求した詳細は、当初あなたが考えていた以上の期待を生み出す、と考えています」

この言葉を大切にして取り組んできたことで、「現状にチャレンジする私たちのモノの見方を磨くこととなり、その結果としてクライアントが私たちに仕事の機会を与えてくれているかもしれません」とも言います。

「エンドユーザーに最高の体験を提供できる目的が、クライアントと私たちとの密接なコラボレーションを生み出すレシピになっています。こうした取り組みの継続性がNorth Kingdomをリーティングカンパニーへと育てた要因です」

North Kingdomが生み出した事例

過去にNorth Kingdomが取り組んでいるプロジェクトや事例を見てみましょう。いずれも体験を重視し、規模感のあるコンテンツです。

INTERLAND Be Internet Awesome

INTERLAND Be Internet AwesomeINTERLAND Be Internet Awesome

2017年6月にリリースした、North Kingdomが携わるGoogleのプロジェクトです。オンライン上で子どもたちが安全に過ごすための教育用プラットフォームで、ゲームコンテンツが用意されています。ローカライゼーションにも取り組み中。

“INTERLAND”.Be Internet Awesome.2017.
https://beinternetawesome.withgoogle.com/en_us/interland

The Hobbit – A Journey through Middle Earth

2013年11月にリリースした、ワーナー・ブラザース社による映画『ホビット 竜に奪われた王国』(The Hobbit: The Desolation of Smaug)のWebコンテンツ「Journey Through Middle-Earth」を制作。Googleのプロジェクト「Experiments with Google」にも連なる事例で、3Dの仕様「WebGL」を用いて映画の世界観を表現したコンテンツです。

“A Journey Through Middle-Earth by Warner Bros & North Kingdom”.Experiments with Google.
https://experiments.withgoogle.com/a-journey-through-middle-earth

デジタルクリエイティブに強いスウェーデンという土壌

North Kingdomだけでなく、スウェーデンの数々のデザインエージェンシーやプロダクションが早くからデジタルクリエイティブ領域で強みを発揮できた理由を、Davidさんは「スウェーデン国内は、早くからインターネット環境の高速化に対応していたから」と述べています。

「かなり早い段階から全国的に普及していましたね。1990年代終わりには、多くの住宅に加え、すべての学校や大学では世界に先がけて最速でブロードバンドのアクセスが可能でした。このことは、学生がインターネットコミュニケーションを模索するきっかけとなりました。

近年、スウェーデン出身のスタートアップ企業やゲーム会社が広く立ち上がっている背景の1つでもあると思います。国際舞台でKing(キャンディクラッシュのキング・デジタル・エンターテインメント)、Mojang(マインクラフトのモージャン)、Spotify(音楽配信サービスのスポティファイ)、Klarna(後払い決済サービスのクラーナ)、Dice(バトルフィールドシリーズのゲーム開発会社)など多くのスウェーデン企業が成功しています」

North Kingdomのオフィス内風景North Kingdomのオフィス内風景

「エンゲージメントの法則」に基づくクリエイティブ

実は、DavidさんはNorth Kingdomの前に、中学校の先生をしていたそうです。こうした多様なキャリアの持ち主が存在することも、豊かなクリエイティブを生み出す背景かもしれません。

「前職では、中学生の先生として働いていました。学校時代は、インタラクティビティを使ってどう生徒を引きつけるか、やる気を起こさせるか、ということに興味がありましたね。1990年代後半にインターネットが普及し始めた時、インターネット上でのストーリー作りやインタラクティビティについてもっと学びたいと思うようになったのです」

前職の経験や元々のDavidさんの関心もまた、North Kingdomの設立へとつながったと言えそうです。実際、North Kingdomがこれまでに発表してきたさまざまなインタラクティブコンテンツは、ストーリー性あふれるモーショングラフィックが多数あります。

「North Kingdom設立以降、ブランドとのコミュニケーションに取り組む際は、自分の持つ教育的スキルを消費者に置き換えて、エンドユーザー(消費者)にとって役立つ体験を作り出すようにしてきました。私たちは、作り出す体験に対して3つのシンプルなルールを意識しています」

以下は、Davidさんが挙げた3つです。
1 ワクワクして楽しいこと
2 役に立ち価値があること
3 社会性があり他の人と簡単に共有できること

「私たちの中では、これら3つを“エンゲージメントの法則”と呼んで、とても大事にしながらクリエイティブ活動に携わっています」

クリエイターが海外で活躍するためには英語を学ぶこと

North Kingdomに、世界を意識する場合の助言を求めると、強調するのは「英語の重要性」です。

「真っ先に言えるのは英語を学ぶことです。留学することも一つの手です。スウェーデンだと、クリエイターを養成するハイパーアイランド(Hyper Island)という学校やウメオ大学デザイン研究所(Umeå Institute of Design)などが有名で、North Kingdomもそうした学校から人材を募っています。

海外の会社でインターンシップを経験する方法もありますね。海外では日本の文化やクリエイティビティは評判がいいですし、国際的なチームの中では若手の才能はとても喜ばれます。

ちなみにNorth Kingdomでは、2004年から電通との社員交換プログラムを実施しています。半年の間、スウェーデンのオフィスでクリエイティブな才能を発揮してもらっています。電通から国際的な仕事をする文化を学ぶだけでなく、双方がイノベーティブでインタラクティブな経験をグローバルな規模で得られる取り組みです。この交換プログラムは私たちが存続する限り長く続いてほしいです」

North Kingdomのオフィス内風景North Kingdomのオフィス内風景

North Kingdomが日本人クリエイターに求めるもの

日本のクリエイティブや日本人クリエイターに向けての印象を聞きました。

「日本人は、とても才能があり、物事に一生懸命なところがあります。良きチームメンバーがチーム全体に貢献してくれるという印象です。日本から多くの革新的作品が生まれていますし、私たちはとても影響を受けています」

もし「North Kingdomと一緒に仕事がしたい」と考える日本人クリエイターがいたとすると、どういうことを求めるのでしょうか?

「求めることは基本的な英語能力、そして学ぶ意思だけです。私たちはフラットで階級のない制度で仕事に取り組みますので、そうした考え方に共有できる人がいいです。率直に話すこと、個人的な意見をシェアすることが大事ですね。

誰もがその人の持つ専門性を提供したり、情熱を共有すべきだと信じています。日本には“生きがい”という考え方がありますね。私たちも参考にしていて、スキルを磨き、情熱を高めながら、より良い作品を提供したいです」

最後にDavidさんには、10代〜20代のクリエイターに向けてメッセージをいただきました。

「“どうしたら、違ったやり方やより良いアプローチ、変わった方法でできるのか”という考え方を常に持つことです。不思議に思ったり、冒険心を持ったり、未知の領域を広げることがとても重要です。

常に将来の課題に謙虚に取り組み、いつも学ぶ姿勢を持っていてください。クリエイターとしての人生は、未知の開拓者であり、自分が開拓して見つけたことを他の人たちにも共有していくことなのです」

ライタープロフィール 武井麻里子

横浜を拠点に主に現代アート関連の文化事業や施設運営に関わる仕事をしています。2020年7月に開催した「ヨコハマトリエンナーレ2020」ではキュレトリアル・コーディネーターとして活動しました。
https://www.yokohamatriennale.jp/

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