クリエイターは、生み出したクリエイティブの品質や完成度とともに、ビジネス上の成果も求められます。 若年層のクリエイターやクリエイター志望者に向け、最低限身につけておきたい「マーケティングの基礎知識」について、国内外のスタートアップ企業などでマーケティングを担当してきた現役マーケターがご紹介します。

クリエイター最終更新日: 20210107

クリエイターのためのマーケティング講座

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クリエイターは、生み出したクリエイティブの品質や完成度とともに、ビジネス上の成果も求められます。
ここでは、若年層のクリエイターやクリエイター志望者に向け、最低限身につけておきたい「マーケティングの基礎知識」について、国内外のスタートアップ企業などでマーケティングを担当してきた筆者の立場から整理し、ご紹介します。

クリエイターはアーティストではない

クリエイターに「マーケティングの知識」があったほうがいい理由を説明するために、まずはクリエイターとアーティストの違いを整理します。特にここでは、パソコンをはじめ、デジタル中心に表現・制作するクリエイターおよびアーティストを想定して、話を進めます。

デジタルを使ったクリエイターとは、デジタル=IT技術を使って、柔軟な発想力や流行の一歩先を読む感性をもとに、さまざまなコンテンツを生み出す人です。ここで混同されやすいのがデジタルアーティストで、同様にIT技術を使い、発想力や感性をもとにコンテンツを生み出す人だからです。

ですが、クリエイターとアーティストはデジタルやアナログを問わず、大きく異なります。先にアーティストから説明すると、アーティストはアート(芸術)を生み出す人です。自分自身の感性に基づいて、自分の思いのままに何かを表現し、その表現自体を芸術として提供する人です。顧客の評価は、アーティストが自ら生み出した表現(芸術)自体に満足するかどうか、です。下は両者を比較した表です。

クリエイターは、クライアントの要望を意識しながら表現する立場です。顧客(クライアント)の評価は、顧客の思いに答えているか、となります。

相手の意向や状態を意識する

クリエイターとしての表現は、クライアントが表現したくてもできない思いを形にして、クライアントのビジネス貢献に関連します。誤解を恐れずに言うと、クリエイターとは「いかに顧客の思いを具体化し、製品やサービスの売上やブランド認知(例えば、製品や会社の名前を聞いたことがあるなど)の向上に役立てるか」が求められる職業です。

とてもエッジが効いた斬新な表現のコンテンツを、アーティストとして生み出した場合は評価されたとしても、クリエイターの立場だと、成果につながらなければ失敗だと判断されます。そこで、自分の表現を完全に追求する立場ではない、というクリエイターの立場を踏まえた時、必要不可欠の知識がマーケティング(=「お客様が買いたくなる気持ち」を育てること)です。

「マーケティング」について、Wikipediaには以下が記されています。

企業などの組織が行うあらゆる活動のうち、「顧客が真に求める商品やサービスを作り、その情報を届け、顧客がその価値を効果的に得られるようにする」ための概念

言い換えるなら、顧客のニーズに合った商品を適切なターゲットに向けて発信し、顧客から自然に買いたくなる状態を作ることです。だからこそ、マーケティング(顧客に対して、最適なタイミングで、適切なメッセージ・表現を届けること)の仕組みを少しでも知っておければ、顧客・消費者が買いたくなる、アクションを起こしたくなるクリエイティブ作りがしやすくなります。

「消費者の購買における行動心理」の仕組み(AIDMA)を知ろう

マーケティング知識は多岐に及びます。ここでは、クリエーターが優先的に知っておきたいと筆者が考える以下の4点に絞って説明します。

1 消費者の購買における行動心理
2 マーケティングファネル
3 潜在ニーズ
4 インサイト

以上4点について、それぞれの考え方を知ることで、クライアントや消費者(エンドユーザー)の立場を意識したクリエイティブが生み出しやすくなるでしょう。

1点目の「消費者の購買における行動心理」については、1920年代にアメリカのサミュエル・ローランド・ホールが提唱した「AIDMA(アイドマ)」と呼ばれる概念が有名です。AIDMAは、商品やサービスを購入しようと思う時の、消費者心理のプロセスのことを指します。

AIDMAによれば、消費者は無関心・無知識の状態から、製品・サービスの存在を知り(Attention)、興味を持ち(Interest)、欲しいと思うようになり(Desire)、記憶して(Memory)、最終的に購買行動に至る(Action)という購買決定プロセスをとると考えます。ちなみにAIDMAは、各要所の頭文字から名づけられています。

上の図はAIDMAに対応して、消費者が無関心から行動に至るまでを各段階に分けて、消費者の各状況と各状況を変えるための役割や方向性をまとめています。各段階にあわせて、消費者に届けるためのメッセージの戦略を立て、その戦略にあわせてコミュニケーションや表現(クリエイティブ)を生み出すと、成果につながる可能性が高まるという考え方です。

クリエイターの立場で見ると、クライアントからの依頼がどの段階に相当し、どのようなコミュニケーション戦略に基づいた表現が求められているのかを理解できると、よりクライアントが求める「成果につながる」表現を意識して、提案ができるようになります。

「マーケティングファネル」を理解しよう

2点目は、「マーケティングファネル」です。AIDMAと重なる部分もありますが、マーケティングファネルとは、潜在層(顧客になる前の状態)を自社のサービスや製品に引きつけて、自社の顧客にするためのモデルです。下の図をご覧ください。

ファネル(漏斗)の形をしているため「マーケティングファネル」と呼ばれます。この形の理由は、AIDMAと同様、潜在層が各段階に進むごとに、その数が減少していく傾向にあるからです。

プリンターを販売する業者を例に挙げると、現時点で複合プリンターを欲しいと思う潜在層が100人いたとします(数字は例え話ですので極端な数値になっています)。

「プリンターが欲しい」と思ってWebで検索

自社サイトが検索結果上位に表示されたため、100人のうち50人が自社サイトへと訪問

自社サイトでの機能比較を閲覧し、最新情報を入手するためにメールマガジンに30人が登録

メルマガ購読ユーザーに、後日10%オフのクーポンが送付されて、5人が実際にクーポンを利用して複合プリンターを購入

100人の潜在層ユーザーに対して、段階を追うごとに50人、30人、5人と減っていきます。このように整理しながら、普遍的なあり方としてAIDMAやマーケティングファネルのように表現するので、両者の各段階は相互に対応していることにも気づくでしょう。

ですので、クリエイティブを通じて、段階を進むたびに減少する人数を最小化できるとベターです。

「潜在ニーズ」と「インサイト」について

3点目の「潜在ニーズ」と4点目の「インサイト」は、一緒に比べながら説明します。

潜在ニーズとは、ある欲求を持っているのに、その欲求に消費者自体が気づいていない状態のことです。これに対して、インサイト(Insight)とは、英語で「洞察」や「物事を見抜く力」という意味の言葉で、マーケティングでは「人を動かす隠れた心理」といった意味で考えてください。

例えば、「痩せたい」というニーズを持つ消費者に対して、「なぜ痩せたいか?」を掘り下げていくと「綺麗になりたい」「モテたい」「健康になりたい」といった「隠れたニーズ」が出てきます。この隠れたニーズは、「痩せたい」ニーズとは違って、消費者自身が気づいていない状態(潜在ニーズ)です。

これに対して、インサイトはそもそも消費者自身がニーズを意識していない状況です。つまり商品やサービスを利用してみて初めてわかったり、当たり前のこととして見過ごしている課題がインサイトとなることが多いのです。

例えば、ある洗濯用洗剤が「洗濯物を白くする」と訴求していました。

「洗濯物を白く」自体は一般的なメッセージですので、差別化が難しい状態でした。そこで仮説を立てます。消費者側は、洗濯を「白くなるのか」ではなく「臭いがとれるか」というインサイトを抱えているのでは? として、実際の消費者にインタビューを行い検証。検証が裏づけられて、コミュニケーションの内容を「嫌な臭いまで落とす」へと変化させた結果、売上が大きく向上。つまり、洗濯をする人が見過ごしていた「臭いを消す」というインサイトの発見が、成果につながったわけです。

潜在ニーズもインサイトも、両者共通で言えることは「本当に顧客が求めているものが何か」を十分に考えることです。その過程に絡む両者を意識し解明できると、クリエイティブを考える際の幅や選択肢が広がってくると思います。

表現したいことより、ニーズやインサイトへの意識

仮にマーケティングの知識がないまま依頼を受けると、クリエイターは依頼に沿ったままに作る可能性が高まります。そのままを求められることはあるでしょうが、そのまま過ぎた結果、最終的な成果が出づらい可能性があります。なぜなら、その依頼がAIDMAやマーケティングファネルのどの段階に当たり、どのような潜在ニーズやインサイトを抱える課題であるかを見抜かぬままに、取り組むケースも考えられるからです。

ここまで整理してきた4点を踏まえれば、クライアントから依頼があった場合、より適切に対応しやすくなるでしょう。自分の趣味趣向を優先したような表現とは一線を画し、クリエイターとしてクライアントの課題を意識し、エンドユーザーのニーズやインサイトに訴求する表現を志向しやすくなるからです。

ライタープロフィール 野澤智朝

広告クリエイティブや技術、ガジェットなどを取り上げるメディア「ニテンイチリュウ」の運営者であり、現役マーケター。デジタルクリエイティブやデジタルマーケティングに関するメディアで連載を担当してきたほか、各種記事の寄稿が多数。

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