どうしたら憧れのクリエイターになれるのか? その秘密を現役で活躍するクリエイターに直接聞いちゃう『クリエイター仕事道』。今回のゲストは作曲家でサウンドデザイナーの足立美緒さんです。足立さんは中学時代に音楽家を志し、その夢を実現させました。本人は「スタートが遅かった」と言いますが、どのように夢を向かって進んで行ったのでしょうか?

クリエイター最終更新日: 20210416

作曲家・サウンドデザイナー:多彩な知識を糧に、大器晩成を目指す

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どうしたら憧れのクリエイターになれるのか? その秘密を現役で活躍するクリエイターに直接聞いちゃう『クリエイター仕事道』。今回のゲストは作曲家でサウンドデザイナーの足立美緒さんです。足立さんは中学時代に音楽家を志し、その夢を実現させました。本人は「スタートが遅かった」と言いますが、どのように夢を向かって進んで行ったのでしょうか?

足立さんが携わった作品

日本の“借景”からイマジネーションを得たインスタレーション作品のためのトラックです。雅楽と電子音を組み合わせた“静寂”を感じられる作品。

龍笛、笙、楽琵琶、和琴といった伝統楽器、様々な種類の打楽器、電子音との多彩な音色の重なりが魅力です。

14歳で決意した夢を実現

足立さんは子供の頃、どんな仕事に憧れていましたか?

子供の頃から作曲のようなことをしていました。とは言っても、“音楽”と言えないような滅茶苦茶なものもありましたが…。当時は架空のアニメの音楽とか童謡みたいなものを作っていましたね。ですが、音楽を習っていたわけでもなく、小学生の頃はダンスが好きで、歌手になりたかったり、ファッションショーに出たかったり、舞台に立つ仕事がしたいと思っていた記憶があります。音楽家を将来の職業として意識したのは中学生の時です。

中学生で音楽家の夢を描き、どのような学校に進学しましたか?

東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科に入学しました。中学で作曲を仕事にしたいとは思っても、作曲を習う選択肢を知らなかったのもあり、専門的な音楽教育を受けず音楽理論は本で独学していました。進学した音楽環境創造科は作曲の研究室もありながら、いわゆる西洋のクラシック音楽ではない分野をも対象にしています。その頃に読んだ小泉文夫さんの本で「音楽=西洋音楽」という考え方に疑問を持っていたので、ここなら自分も音楽に関われるのではと思いました。

大学生時代はどんな学生生活を送っていましたか?

音楽環境創造科は当時、6つの「プロジェクト」と呼ばれる専門領域がありました(※現在は統合されて3つ)。そこでは領域横断的な内容に魅力を感じていたり、また日本の伝統音楽に興味があったりで他科も含めた様々な授業を選択しました。また邦楽科や美術学部の友人も多くできて、邦楽器を使った楽曲や映像音楽なども作りました。音楽に専門として集中できる機会を手に入れられたことが大きく、積極的に学外の制作にも参加して、出来ること何でもやろうとしていましたね。

積極的に活動していたんですね。今の仕事はどんなきっかけで目指すようになったのですか?

中学の時は音楽が今自分のいる狭い世界とは別の世界を見せてくれるような存在でした。細々と作曲していたことも思い起こし、14歳になった時に「音楽家になろう!」と決めたんです。ただ作曲家として強みにできることは、大学時代長らく見えていなかったと思います。やはりスタートが遅かったし、学問としての音楽や周辺領域が好きだったのもあって、どう自分を見せるかよりも良い作品を作ることだけを目指していたのが私の大学時代の悪かった点であり、学生時代でしか有り得ない純粋で輝かしい時間だったと思います。

仕事として活動するきっかけになったことを教えてください。

お世話になっていた大学の先輩からのご縁で、今所属する株式会社ラプソディに声をかけられたのがきっかけです。最初は1回のお仕事の話が、その時持って行ったポートフォリオで所属に繋がりました。映像や美術とのコラボレーションや、邦楽器の作品制作がいつしか大きな強みになっていました。今ではこの2つを軸に、音楽でコンセプトや世界観を演出・デザインすることをキャッチコピー的に活動しています。さらに今では企画制作やアーティストの紹介、映像制作などの様々なお仕事をいただいています。

未知の音への予感が、次へのモチベーションに

足立さんの代表作を教えてください

ひとつは大学内で始めた雅楽・邦楽×作曲グループ「音・音(おんおん)」の活動です。邦楽や雅楽を西洋楽器や電子音楽、空間美術やダンスと結びつけた作品を発表してきましたが、そこから私の作品のリスナーになってくださった方と多く出会うことができました。あとは藝大の大学院映像研究科アニメーション専攻出身の福地明乃さんとは在学中から何作かご一緒させていただきましたが、毎回作品も素晴らしく制作中も後で振り返っても楽しかったと思える制作で、音楽としても納得できる結果を残せたと思います。ですが、これからまだより良い作品を書いていくつもりです。

ターニングポイントとなった作品があれば教えてください。

作品というよりは人との出会いが2回あります。一つ目は学生時代ですが大学院の時に自分の音楽を求めてもらえる相手と出会えたことです。信頼の温かさを感じられた一方で、無限の可能性から音を決定していく恐ろしさと向き合うことができました。2つ目は大学院修了後に大学の助手として東京藝術大学で作曲家・千住明先生が主宰するSENJU LABの担当助手になったことです。作品を出すこともありますが、主にコンサートやイベントの運営を担っています。

その仕事から、得られたことはありましたか?

千住明先生からは、“プロとしての意識”を学びました。ただ結果的に時間内に良いクオリティで仕上げればいい、最終的にイベントが成功すれば良いではなく、予め不明確な点や無理が生じるリスクを察知してクリアしていくことが求められます。プロなら当然かもしれませんが、理解したのはだいぶ最近だと思います。今でも本当に理解しているかはわからないし、危うくなることはありますけれど…。一方でプロになった時点で一人前でもなく、その後も様々な段階があり、ずっと前進していくものだということもわかりました。

忘れられない仕事での失敗経験はありますか?

あまり思い出したいものではありませんが、映像音楽制作でのコミュニケーションの失敗です。コラボレーションするときは必ず相手の意図があり、こちらが理解できないと思うことにもその相手ならではな背景があります。「聞く」ということが10代の自分には理解できていなかったと思います。あと行き詰まった時には必ず原因があり、大抵コミュニケーションか技術的な問題に分けられます。もし昔の自分に教えてあげられたらもう少し賢い学生生活を送れていたかもしれません(笑)。

足立さんが仕事で一番気持ちが高まる瞬間はどんな時ですか?

お互いの表現を必要としている作り手とコラボできる過程です。作った時に完全に満足できることはあまりないのですが、発表した時や後で見返した時に良かったと思える作品が良い作品だと思います。小さな達成に対する喜びはありますが、自分の仕事に感動できたことはまだないかもしれません。まだこれから作る作品がある、まだ出会っていない音があるという予感が次へのモチベーションになっています。

足立さんが仕事で大切にしている事、意識している事を教えてください。

相手の意図を読み、背景や世界観を理解することです。クライアントさんに安心してもらえる仕事の進め方をすることは大事だと思います。あとは作るべきものは分析になるべく時間をかけるようにしています。既存の作品も聴くことが多いです。クライアントさんからの要望は、音楽になったらどのような音になるのか言葉と照合していく作業が重要で、それを経て自ずとどんな音楽を作るべきかが見えてきます。

作業環境や制作物に合わせてなるべく高スペックを

現在、どんなPCや周辺機器を愛用していますか?

今の所は移動も多いので13インチのノートパソコンをメインに仕事をしています。

プロセッサ Intel Core i7 3.5GHz
メモリ 16GB
ストレージ HDD 500GB

周辺機器は、88鍵のMIDIキーボードを接続して、ヘッドホンかスピーカーでモニターします。譜面作成ソフトはSibeliusです。2020年のステイホームの時期から映像制作の機会が急に増えたのですが、映像制作や最近の重いソフトウェア音源にはあまり余裕なスペックではないので少々悩み中です…。

PCや周辺機器を選ぶ際の基準を教えてください。

日々パソコン周りの技術はハードウェア・ソフトウェアとともに進歩しているので、購入時になるべく高スペックのものを購入するようにしています。それが結局長く使う方法だと考えています。ただパソコンのスペックやソフトの性能に頼りすぎないというのも大事で、例えば音源は全てが良いものでなくても上手く鳴らす人はいますし、自分も昔は今では考えられないような制作環境だったのですが、それでも良いと思える曲を書くという初心を忘れないようにしたいです。

ゴールに到達するための道は増えていく!

足立さんにとって“クリエイター仕事道”とはなんですか?

ベストを尽くし、大器晩成を目指すことです。「続けることが大事」とはよく言われますが、まだ数年ですが仕事を続けるにつれて実感することです。私自身はスタートが遅くもっと早く音楽をやりたいと思っていたのですが、一方で周りに追いつきたいということがモチベーションになっていて、今でも尽きることがありません。「大器晩成」は高校の頃友人に言われた言葉で、本人は覚えていないと思いますが、例え今望んだ成果が出なくても静かに心を燃やし続けてくれている言葉です。

クリエイターを目指す若者たちにメッセージをお願いします!

やりたいことを見つけたなら早く始めることも大事で、実際早く成功した人は早く世界が見えていた人だと思いますが、一方で別の道を回りながらやりたいことに辿り着く選択肢もこれからの時代は増えてくると思います。私自身音楽以外の勉強が後になって役に立ったことがあり、長く活動するためにはその分野以外の蓄積が糧になっていくと思います。今はやりたいことを実現するための情報へのアクセスがしやすくなっていると思いますし、また今すぐにその道を掴めなくても諦めないでいただきたいです。

足立さん、ありがとうございました!

スタートラインが違ってもゴールは一緒

夢を描いてから、精力的にゴールに向かって走り続けた足立さん。また、音楽以外の勉強にも貪欲に取り組んでいきます。その経験が積み重なったことで、現在の活躍があるんですね。今は情報のインプット、そして作品のアウトプットの場は広がりました。例え幼い頃からスタートしなくても、色々な方法で夢を実現することができるはず!

クリエイタープロフィール

足立美緒さん
作曲家・サウンドデザイナー
1993年生まれ。東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科首席卒業・同大学院修了。大学在学中よりコンサート作品、映像作品、CM、ゲーム、舞台や展示空間などの音楽を制作。特に邦楽器・雅楽器のための音楽を得意としており、既存のイメージにとらわれない新しいサウンドを模索。TOKYO FM「未来授業」、J-WAVE「INNOVATION WORLD」出演。インキュベーションプログラム「Renaissance Program 2020」にて受賞。「ラグビー自販機」プランニング参加など、ビジネス、マネジメント、プランニング分野でも活動。雅楽・邦楽×作曲グループ「音・音(おんおん)」主宰。東京藝術大学COI拠点 千住明ワークショップ「SENJU LAB」担当特任助手。株式会社ラプソディ所属。
https://mio-adachi.com
Twitter:@mio_adachi

ライタープロフィール パソコン工房NEXMAG
[ネクスマグ] 編集部

パソコンでできるこんなことやあんなこと、便利な使い方など、様々なパソコン活用方法が「わかる!」「みつかる!」記事を書いています。

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