どうしたら憧れのクリエイターになれるのか? その秘密を現役で活躍するクリエイターに直接聞いちゃう『クリエイター仕事道』。今回のゲストはサウンドデザイナーの野澤幸男さんです。小学生の頃から音作りをしていた少年は、現在サウンドデザイナーとして活躍中。野澤さんがサウンドデザイナーとして活躍するようになった秘密に迫ります。

クリエイター最終更新日: 20210324

サウンドデザイナー:作品をシェアすることで新しい作品が生まれていく

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

どうしたら憧れのクリエイターになれるのか? その秘密を現役で活躍するクリエイターに直接聞いちゃう『クリエイター仕事道』。今回のゲストはサウンドデザイナーの野澤幸男さんです。小学生の頃から音作りをしていた少年は、現在サウンドデザイナーとして活躍中。野澤さんがサウンドデザイナーとして活躍するようになった秘密に迫ります。

野澤さんが携わった作品

『AudioWizards』はフィンランドのオーディオゲーム開発会社「myTrueSound」のスマートフォン向けゲーム。

このゲームの音楽制作コンペで野澤さんの作品が採用されています。

『Audio Party Pack』は眼が見える人と見えない人が一緒に遊べるゲーム。

野澤さんはこのゲームのサウンドデザインを担当しています。

学生時代の多彩なチャレンジが仕事につながる

野澤さんは子供の頃、どんな仕事がしたいと思っていましたか?

「おもちゃメーカーでおもちゃを作る人になりたい!」と言っていたと思います。プラレールのような、部品を組み立てて自由にいろんな者を作れるおもちゃが大好きでした。そのような、おもちゃ自体を設計して、組み立てて、作り上げるということをなんとなく想像していたのではないでしょうか。たしか、そのとき好きだったおもちゃがタカラトミーの製品だったので、「タカラトミーの社長になる!」と言っていた気がします(笑)。

おもちゃメーカーを夢見て、どんな学校に進みましたか?

成長するにつれコンピュータ関連を専門的にやりたいと思うようになったので、そういう基準で大学を受けようと思っていました。一方で、サウンドデザインなど、物作りにも全般的に興味があったので、両立できそうな慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)に進学して、2020年の4月に卒業しました。大学では、サークル活動でのサウンドデザインを結構やっていましたが、音楽の授業は受けられませんでした。それはちょっと心残りです。

大学時代は、どんな学生でしたか?

小学生の頃から、音だけを利用するコンピューターゲームを作って遊んでいました。プログラミング、サウンドデザインの両方を自分でやっているなかで、プログラミングやDTM、サウンド編集にのめり込んでいきました。学生のうちにゲームは50作品ほど作りましたが、ほとんどは中学生までのあいだに作ったものです。高校時代は友達と遊び歩いていたのであまり製作はしていませんでしたが、大学時代はゲーム製作サークルでサウンドデザインをしたり、自分が作ったゲームをブラッシュアップして東京ゲームショウに出展したりしていました。

学生時代から活躍していたんですね。現在の仕事を目指したきっかけは何でしたか?

音に対する関心が人一倍強かったからです。私は視覚障害を持っていて、両眼とも視力がまったくありません。視覚から得られる情報が0になるということは、その分他の感覚器官が占める情報の割合が増えるということです。そうなると必然的に、聴覚から得られる音の情報は、自分の認知する世界のなかで、もっとも割合が大きいものになるのです。ですから、自分で音を作ったり、音の空間をデザインしたりすることに興味を持って、目の前にあるパソコンで色々作って遊び始めたのは、ある意味自然なことだったのです。

では、今の仕事を始めたきっかけはなんですか?

サウンドデザインの仕事は実は副業でやっていて、知り合いから依頼を受けたら仕事として着手する程度です。そのため、何かきっかけがあってサウンドデザインを集中的に受注するようになったというわけではありません。もともと、小学生の頃からゲームを作っていて、そのサウンドデザインは自分でやっていたので、お金をもらうという意味での仕事に限らないなら、ずっとやっていました。そして、それは単にゲームが作りたかったからですね。

自分の特徴を活かした作品作り

野澤さんの代表作を教えてください

『AudioWizards』というフィンランド製のゲームが開発されているときに、音楽を募集していて、そのコンペに応募して起用してもらいました。

“AudioWizards”.myTrueSound Oy.
https://www.mytruesound.com/audiowizards-home

今年は、『Audio Party Pack』というゲームのサウンドデザインを担当させてもらいました。これは、眼が見える人と見えない人が一緒に遊べるゲームが3個セットになっているものです。開発者の方とテストプレイをしながら、音や難易度を調整したりもしました。

“Steam:Audio Party Pack(オーディオ・パーティーパック)”.Valve Corporation.
https://store.steampowered.com/app/1283250/Audio_Party_Pack/?l=japanese

サウンドデザイナーとして活躍するターニングポイントとなった仕事は何ですか?

ターニングポイントというわけではないですが、先ほど紹介したプロジェクトで、海外ゲームのスタッフロールに初めて名前が載ったことは嬉しかったです。それほど広い範囲で活動しているわけではなく、専門的な勉強をしているわけではなかったので、ちょっと自信が付きました。

その仕事から得られたことを教えてください。

参加賞みたいなもので、わざわざFinlandからオリジナルTシャツが送られてきました。それがなかなかカッコイイらしいのです(自分は見えないので友達に聞いてみたときの感想です)。

素敵な思い出ですね。逆に忘れられない失敗を経験したことはありますか?

仕事としてのサウンドデザインは、大学1年ぐらいからやっているのですが、そのときはあまり良い仕事をしていなかったと思います。自分自身が作っていた世界に対して音を付けることと、他の誰かが作った世界を解釈して、それにマッチする音を付けることを同一視していたからです。結果として、グラフィックとサウンドの雰囲気がちょっと違う、下手するとぜんぜん違うということをしばしば起こしていました。自分の場合は、グラフィックを見ることができなかったので、なおさらそれが顕著に出てしまっていたように思います。

野澤さんが仕事でテンションが上がる瞬間はいつですか?

製作した効果音や音楽が、作品と合わせて見ると思った以上に味を出してくれて、面白がってついつい遊んでしまうような瞬間が楽しいです。ゲームだったら繰り返しプレイしてしまいますし、音声コンテンツの効果音だったら、そのシーンをリピート再生してしまいます。音楽を作っているときに、たまに間違ってへんな譜面を入力してしまうことがあります。それが意外によかったので、「そのまま採用!」みたいになって、自分でも想像していなかったような作品ができるというのも面白いですね。

野澤さんが仕事で大切にしている事、意識している事を教えてください。

自分は、日常生活の中で、音に注意を配っているほうだと思っています。だからこそ、音としてのかっこよさと自然さを同居させたいという考えが根底にあります。言い換えれば、音を聞くだけで、何が起こっているのか分かるようにデザインしたいと考えています。

例えば、キャラクターを自由に操作できるアクションゲームがあったとします。キャラクターを壁に向かって歩かせると、映像上は壁にぶつかったまま動いていないのに、足音だけがずっと鳴っているというゲームが、正直今でも非常に多いです。これは、音として自然でないというところにも問題があると思うのですが、別の視点もあります。もし、キャラクターの足音が止まったり、壁と何かが接触する音があって、壁にぶつかっていることが音だけで判断できるとしたら、映像が見えなくてもキャラクターを自由に移動させることが可能になるのです。実際、昔のポケモンは、壁にぶつかったときの音がはっきり聞こえていたので、外周を回って全ての壁にぶつかることで、マップの形を把握することができていました。

何が言いたいのかというと、音をちゃんとデザインすれば、その作品にアクセスできる人の幅が広がるということと、そういうデザインを自分でもできるように努めているということです。

CPU・メモリ・ストレージを重視!

現在、どんなソフトや周辺機器を愛用していますか?

私が特別に愛用しているのは、 Reaper という作曲ソフトと、 Komplete Kontrol というMIDIキーボードです。

作曲ソフトは、マウスを使ってグラフィカルに操作しなければならないものが多く、画面を見ることができないと、使えるものが非常に限られてしまいます。そんななか、Reaper はキーボード操作に対応していて、プログラミングすれば非常に細かいカスタマイズが可能なので、眼が見えなくてもDAWとして普通に使うことができます。

Komplete Kontrol は、専用ソフトと組み合わせることで、音声読み上げ機能を利用できます。これがあれば、作曲するときの音色選択やパラメータ調整をするとき、選択している項目やパラメータの種類を読み上げてくれるので、ある程度自由に音作りが可能になります。

PCや周辺機器を選ぶ際の基準を教えてください。

グラフィックボード以外の、メモリとストレージ、CPUを重視しています。グラフィックボードは、動画のエンコードを早くするために一応入れていますが、そんなにいいものは入れません。ちなみに、ディスプレイが刺さっていないので、いくらグラボがきれいな映像を出してくれていても、こっちの世界にはまったく出てきません!

オススメのツールなどはありますか?

効果音の素材を探すときに、 [Sonniss]( https://sonniss.com/) というサイトをずっと使っています。毎年20GB以上の音素材を無料で配布してくれたり、学生割引でかなりお得に素材を購入できたりします。あと、ここの社長がとてもフランクでいい人です!

クリエイティブのPDCAを繰り返す

野澤さんにとって“クリエイター仕事道”とはなんですか?

何かになりたいと思ったとき、その夢を実現させるための方法はひとつではないと思います。もしかすると、一人で考えているだけでは、そのうちの一部だけしか思いつかないかもしれません。そんなときは他のクリエイターの仕事道を見たり、自分の仕事道をシェアしたりすることで、新たな可能性が見えてくることも多いです。「クリエイター仕事道」は、このコラムの名称でもありますが、クリエイターが自分自身のこだわりや経験によって切り開いてきた、それぞれの道なのではないかなと思います。そしてそれは、みんな違ってみんないいものです。

クリエイターを目指す若者たちにメッセージをお願いします!

自分はアウトプットベースで、「とりあえず作ってみた!」というようなことをたくさんしてきました。作品を発表して意見交換ができる場所も、インターネットの内外を問わず色々あると思います。自分が考えたものをどんどん作って、公開して、そこでのコメントや他の作品から刺激を受けて、さらによいものを作って…。というサイクルを、ぜひ実践してみてください。

野澤さん、ありがとうございました!

作品シェアの重要性

小学生の頃から音作りをしてきた野澤さん。聴覚が鋭いからこそ、繊細な音作りができるのでしょう。またアウトプットすることで、新しいアイデアや意見が見つかることも野澤さんは教えてくれました。なにか作品を制作したら、シェアすることも大切なのかもしれません。

クリエイタープロフィール

野澤幸男さん
サウンドデザイナー
1997年生まれ。IT企業でソフトウェアエンジニアとして働きながら、ゲームクリエイター・サウンドデザイナーとして活動している。全盲の視覚障害者。かなりのゲーマー。
HP:https://www.nyanchangames.com/
Twitter:@nyanchan2013
https://twitter.com/nyanchan2013
YouTubeチャンネル:
https://www.youtube.com/channel/UCHq-PO7pc-VA66mpdOUTjIg

ライタープロフィール パソコン工房NEXMAG
[ネクスマグ] 編集部

パソコンでできるこんなことやあんなこと、便利な使い方など、様々なパソコン活用方法が「わかる!」「みつかる!」記事を書いています。

記事を
シェア