どうしたら憧れのクリエイターになれるのか? その秘密を現役で活躍するクリエイターに直接聞いちゃう『クリエイター仕事道』。今回のゲストはアートディレクターで映像作家の奥下和彦さんです。一筆書きで描かれるアニメーション映像をご覧になった方も多いはず。独特のスタイルで描かれるアニメーションはどのようにして生まれたのでしょうか?

クリエイター最終更新日: 20210119

アートディレクター・映像作家:クリエイティブに必要なのは“アイデア”の強さ、“実践”への行動

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どうしたら憧れのクリエイターになれるのか? その秘密を現役で活躍するクリエイターに直接聞いちゃう『クリエイター仕事道』。今回のゲストはアートディレクターで映像作家の奥下和彦さんです。一筆書きで描かれるアニメーション映像をご覧になった方も多いはず。独特のスタイルで描かれるアニメーションはどのようにして生まれたのでしょうか?

奥下さんが携わった作品

自主制作アニメ『赤い糸』。この作品をYouTubeにアップしたことで、奥下さんの人生が進み始めます。

奥下さんのターニングポイントなったtoto/BIGのCM『スポーツくじとつながろう』。高いハードルを超える喜びを味わったそうです。

『夏も終わりだし、さようなら扇風機』というタイトルのGIFアニメーション。

扇風機のコミカルな動きや風の感じが、一筆書きの繰り返しアニメーションで表現されています。

こちらは『音楽』というタイトルのGIFアニメーション。

セリフが漫画の吹き出しで表現され、漫画と動画の中間のような、不思議な感覚のアニメーションです。

奥下さんの人生を決定づけた2大映像作家

奥下さんが子供の頃憧れていた職業は何ですか?

漫画家かゲームクリエイターでした。小学校では絵が得意な少年で、スーパーマリオやロックマンをよく描いていたと思います。最終的に映像作家・イラストレーターと、夢とは若干ずれましたが仕事で得たスキルで漫画を描いたりゲームを作れたりできているので、いずれは漫画やゲームでの自己表現にも辿り着けると嬉しいなと、ひそかに思っています!

小学生の頃の夢に近づいているって素敵ですね。学校はどのようなところに進学しましたか?

高校生の時に美術予備校に通い、そこから金沢美術工芸大学という美術大学に進学しました。大学では特に“アイデア”について学べて、それが今の自分の土壌になっていると感じます。そこからもっとアニメーションについて学んでみたいと思い、東京藝術大学大学院のアニメーション専攻に進学しました。そちらでは“作品制作”という実践の中から多くのことを学びました。

美術大学ではどんな学生生活を送っていましたか?

落ちこぼれの学生でした。課題に対して手を抜いたり、出席日数がギリギリで教授に呼び出されてはお説教を受けることもよくありました…(汗)。ただ学外での活動は積極的で、学校に行ってない間はクラブでVJをしたり、映像会社で絵コンテを描くアルバイトをしていました。大学院では在学しつつもCMやミュージックビデオなど様々な仕事を積極的に引き受けていました。

ある意味、現場で経験を積んでいったんですね。今の職業を目指すようになったきっかけは何ですか?

クリス・カニンガムやミシェル・ゴンドリーのDVDを見て感銘を受けたのがきっかけです。美術予備校に通っている間に金沢21世紀美術館が完成したのですが、その美術館のライブラリには様々な書籍やDVDが置いてありました。試しにDVDを見てみようと思い、手に取った中に上記のDVDを発見し全く体験したことのない新しい構造を持つミュージックビデオの世界に触れ、「僕も作ってみたい!」と思うようになりました。

希代の映像作家ですね。そこからどのように仕事の繋げていったのですか?

YouTubeで『赤い糸』というアニメーション作品を発表した時からお仕事のメールをいただくようになりました。YouTubeにアップロードされると様々な国からコメントをいただき、言語に囚われない映像表現は簡単に国境を越えていくんだと驚きました。それから様々な仕事につながっていき、「アイデアひとつで人生を変えていくことがあるのだな」と、“アイデア”の強さを感じました。

世に知ってもらえた報道番組のオープニング

奥下さんの代表作を教えてください

『報道ステーション(テレビ朝日)』のオープニング映像です。番組をリニューアルするタイミングで声をかけていただきました。テレビ朝日のスタッフの方々がバックアップしてくださり、企画から制作までのびのびと作らせていただいたプロジェクトで、今も気に入っている作品です。ただもう10年も前の映像作品が代表作だと認知されていて、現状それ以上の作品を作れていない、越えられていないのが悩みでもあります。

あまりにも有名な映像ですもんね。他にターニングポイントとなった仕事はありますか?

toto/BIGスポーツくじのCM『スポーツくじとつながろう』篇でしょうか。この案件では、プロジェクト開始の冒頭で今までよりも技術的に非常に高いハードルを掲げられ、懸命に戦った案件でもあります。結果的にテレビCMやトレインチャンネル、yahooのジャック広告、渋谷駅や新宿駅での屋外広告、二子玉川での展示など幅広いクロスメディアでの展開でき、たくさんの方々にリーチできたので満足しています。

その仕事から学んだことはありますか?

大規模なプロジェクトに見合うだけのプロダクション・クオリティの出し方です。作品がいったん完成してからがスタートラインで、あとは何度もブラッシュアップを繰り返していきました。またこの案件から、どんな案件でも新しい試みがなければ自分自身の成長にはつながらず、自己肯定感は得られない、ということを学びました。

逆に、失敗を経験したことはありますか?

わかりやすい失敗ではないのですが、ひとつは「学び続けること」を疎かにしてしまったことです。学校を出てから社会人になっても学び続けている人はその学びが色濃く作品に反映されています。一方、自分の作品を振り返ってみると自分の甘さをとても感じます。もうひとつはたくさん出したアイデアを形にしてこなかったこと。アイデアはやはり実現されてこそ価値が輝くので、アイデア単体では多くの人に届きません。その2点は今も悔やんでいますし、現在進行形で取り組んでいる最中です。

今も実践され続けていることは素晴らしいです。奥下さんが仕事で一番感動する瞬間はどんな時ですか?

新しい構造を持つものや、見たことのない視覚情報を生み出せた瞬間が一番感動します。この2つを生み出そうとすることが自分の本質なんだと思います。また前述した、自分の前にある難易度の高いハードルを越えられた瞬間も好きです。仕事で与えられたハードルではなく、自らハードルを上げられるようになることが今後の課題だと思っています。

奥下さんが仕事で大切にしている事、意識している事を教えてください。

表現が難しいのですが、自分をなるべくニュートラルな立ち位置に置くことを心がけています。前のめりではなく、逆に引きすぎても良くないんですよね。自分の心の置き所を真ん中に据えることで、良い判断ができ、良い結果に結びつきやすいように思われます。そんな立ち位置に常に自分を置けるよう、毎日よく食べ、よく寝ています!

パワフルな稼働性で、様々な作業に対応

現在、どんなPCや周辺機器を愛用していますか?

27インチの液晶ディスプレイ一体型パソコンです。もう8年前のものなのでいい加減買い換えないといけないのですが、次はどんなパソコンにするか、結論が出ていません。

PCや周辺機器を選ぶ際の基準を教えてください。

パソコンのことにそこまで詳しいわけではないですが、第一に考えるのはストレスが無いものでしょうか。映像以外でもイラスト、漫画、3D、ゲーム、DTMと稼働範囲が若干広いので、それを支えてくれるようなパワフルな機材であることが条件です。

“作ること”を選択するために必要なこととは?

奥下さんにとって“クリエイター仕事道”とはなんですか?

あまり良い回答が思い浮かばないのですが…、仕事に対する姿勢が大切だと考えています。何かを作る出すための姿勢が整っていることで、そこから様々なものが出来上がっていく。そして、その姿勢をいかにキープするか、姿勢を保つにはどうしたら良いか考えて実践することが重要だと思います。

クリエイターを目指す若者たちにメッセージをお願いします!

言及するまでもないですが今の世の中は“作ったもの”で溢れかえっています。作ることよりも手軽に楽しめるものも無数に存在しています。人生を歩む中で作ることとは別の道を歩んでいく、そんな選択肢もあると思います。ただその中でも作ることを選択し自分の中に掲げるのであれば、作ることの中から人生の意義を見出していってほしいと思います。僕もいまだに模索中ですが、共に何もない虚空を見つめて不安定な中を生きていきましょう。

奥下さん、ありがとうございました!

学生時代に学んだアイデアと実践が未来につながる

アイデアとYouTubeによって映像作家としての道が大きく開けた奥下さん。本人は「真面目な学生ではなかった」と語りますが、大学と大学院でアイデアと実践の大切さを学んだからこそ、現在の姿があるのでしょう。アイデアは常にストックしておくことも大切ですね。

クリエイタープロフィール

奥下和彦さん
アートディレクター・映像作家
2009年に制作した「赤い糸」が数々のコンペに入賞し、世界最大のデジタルフィルムフェスティバル「RESFest」のファウンダーJonathan WellsのキュレーションによりTED2010 Long Beach他でも同作品が上映されネット上の話題をさらう。更に2011年よりTV朝日の「報道ステーション」のオープニング映像を担当しグッドデザイン賞を受賞。以後多くのTV-CM、MUSIC VIDEO、イラストレーション、絵画の展示販売、そしてライブペインティングを手掛け、現在に至る。
HP:http://okushitakazuhiko.com
Twitter:https://twitter.com/kazzroad01

ライタープロフィール パソコン工房NEXMAG
[ネクスマグ] 編集部

パソコンでできるこんなことやあんなこと、便利な使い方など、様々なパソコン活用方法が「わかる!」「みつかる!」記事を書いています。

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