『クリエイター仕事道』今回のゲストはさまざまなアニメーションをディレクションしてきたクリエイティブディレクターの松井久美さんです。Eテレ『がんばれ!ルルロロ』や『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』などの人気作品に携わっています。

クリエイター最終更新日: 20220404

クリエイティブディレクター:高校時代に観たチェコアニメに衝撃。アニメーションの世界へ

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どうしたら憧れのクリエイターになれるのか? その秘密を現役で活躍するクリエイターに直接聞いちゃう『クリエイター仕事道』。今回のゲストはさまざまなアニメーションをディレクションしてきたクリエイティブディレクターの松井久美さんです。Eテレ『がんばれ!ルルロロ』や『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』などの人気作品に携わっています。

松井さんが携わった作品

©2019日本すみっコぐらし協会映画部

「映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」のワンシーン。

自主制作した作品。松井さんはアニメーションによりキャラクターに命が吹き込まれる瞬間が感動するそう。

「映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ」のポスター。

高校時代に授業で観たチェコアニメに衝撃

松井さんが子供の頃やってみたかった職業はなんでしたか?

子供の頃は「果物屋さん」でした。絵とは全く関係ない夢を持っていました。でも中学校で美術部に入り、好きな漫画の絵を巨大パネルに描いて文化祭などで掲示していたら、学校で少し注目されるようになりました。それから「もしかして絵をもっと突き詰めても良いのかも…?」という可能性が、頭によぎるようになっていきました。

中学生で開花したんですね。そこからどのような学校に進学しましたか?

友人のお姉さんが都立のデザイン高校に在学していたので、その友人と一緒に「東京都立工芸高等学校デザイン科」を目指しました。この時はまだ、「普通科に行って勉強するよりかは楽しそうだな」くらいの興味だけで進学して、美術関係の仕事に就こうとは真面目に考えていませんでした。その後アニメーションと出会い、東京工芸大学芸術学部アニメーション学科に進学。更に東京藝術大学映像研究科アニメーション専攻に入りました。

大学からはアニメーション一色ですね。学生時代はどんな学生でしたか?

高校のデザイン科では、強烈な個性を持つたくさんの友人と先生に囲まれて、とても刺激をもらいました。授業も遊びも、ものづくりをする観点で接していたように思います。

マニアックなレンタルビデオ屋さんを友人と探して、チェコのアニメーション作品をレンタルして一緒に観ていました。

大学ではジャズ研究会に入り浸り、アニメーション学科以外の友人も多く出来て、広いメディアアートの面白さに触れる機会が増えました。

現在の仕事はいつ頃に目指すようになりましたか?

高校時代、美大から来た先生がいて、その先生がデッサンの授業で見せてくれたチェコのアニメーション作品に電撃が走りました。

可愛らしいキャラクターなのに歴史の背景を風刺し、どこか物悲しい作品や、生肉がまるで生きているかのように動いている作品など、自分が知っている「アニメ」の知識がどんなに小さい世界だったのか、とショックを受けました。それから、世界の作品を集め、自分も作ってみたいと強く思うようになりました。

アニメーションを“仕事”にするきっかけはなんですか?

大学の卒業が近づいてきた頃、就職も決まらず作品を作り続けていました。すると恩師が大学院の新設について教えてくれました。そこで母に進学の相談をしたことがきっかけでした。「まだ学校行くの!?」と驚かれつつ「大学院まで行くなら必ず一流になりなさい」と背中を押してもらってプロでアニメーションを作っていく意識が強くなりました。その後、就職・転職などありましたが、いつも周りの方々からの紹介でご縁をつないでいただきました。

クリエイティブディクレターで制作の全工程を学んだ

松井さんの代表作を教えてください

  • ・NHK Eテレ『がんばれ!ルルロロ』(2013年)
    初めてチームによるアニメーション作品に関わり、絵本イラスト等も担当しました
  • ・TOKYO MX 『SIKA-シカ-』(2014年)
    短いアニメーション作品でしたが初監督作品です
  • ・NHK 『ほのぼのログ』(2016年)
    ラレコさんと共同で制作できたことで大きな学びがありました
  • ・『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』(2019年)
    初の映画制作で、自身の全力を出して取り組みました

以上の4作品です。

松井さんにとってターニングポイントとなった作品はなんですか?

自身初の映画制作になった『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』です。

その仕事には、どんな“学び”がありましたか?

『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』ではクリエイティブディレクターを担当しました。制作初期の時期から、監督やプロデューサーと密接にやり取りをし、映画制作の最初から最後まで関わることが出来ました。

クライアントへの試作アニメーションの提案から始まり、シアター用の色設計、データの仕様決め、仕上げルックの設計、映画用キャラクターデザイン、背景美術のサポートなど、多くのプロセスに関われたことで大きく成長できたように感じました。

大きな学びの場だったんですね。逆に仕事で失敗したことはありますか?

良い作品を作りたいという気持ちから、つい制作に没頭してしまい、時間をかけすぎて他の業務に影響を及ぼしてしまったことがあります。また、制作の全体フローを十分に想定しきれていなくて、少し作業の巻き戻しが発生してしまい、計画性の脆さが反省点として残っています。

松井さんが仕事で一番感動する瞬間はどんな時ですか?

今まで動いたことのなかったキャラクターが、アニメーションをつけることで生き生きとすることです。これは高校で初めてアニメーションを作った時から、何度繰り返しても感動してしまいます。

仕事では、自分が関わった作品を見てくれた方々の意見を聞けることも、とても新鮮な刺激になり、次の作品を作るエネルギーに繋がっています。

松井さんが仕事で大切にしている事を教えてください。

仕事で作るアニメーション作品は、一人では絶対に作ることが出来ないと思っています。メンバーそれぞれの性格、思考、年代によって異なる意見を交換しあって、作品が仕上がっていくように感じています。一緒に目標に向かってくれる制作メンバーには、「やりがいを持ち、楽しみながら表現が出来る仕事」になるように、意識しながら取り組んでいます。

カスタマイズ可能なBTOパソコンを愛用

現在、どんなPCや周辺機器を愛用していますか?

自宅制作環境では、PCのパーツをカスタマイズできるBTOパソコンを活用しています。

メモリ 32GB
ストレージ SSD 500GB
モニター 27インチ・4K

BTOの特性を生かして、少しずつ最新のパーツにアップグレードさせていくのが楽しみです。周辺機器では、16inchの液晶タブレットを使用しています。

PCや周辺機器を選ぶ際の基準を教えてください。

Photoshopを使用することが多いので、まずメモリは出来るだけ積んで、次点でグラフィックボードのスペックも重視しています。以前まではNVIDIA Quadroシリーズを使っていましたが、現在はGeForce RTX 2070 SUPERを使っています。デスクトップPCはintel Core i9-9900Xですが、最近AMD RyzenのノートPCを使ってみたところ、思っていたより安定して動いているので、CPUの選択肢も増えてきているなと感じました。

松井さんなりの裏技などはありますか?

クリエイターは真剣に作品作りに没頭するあまり、時間を忘れてしまいがち。仕事をするときには実際に手を動かす前に、仕事の総量と、残り時間を把握して、スケジューリングすることが大切です。この仕事を続ける毎にひしひしと感じています。

また自分の為だけに、工程表や進捗状況表を作って毎日更新しています。そうすることで、無理をしすぎず、結果的にこれからも長く制作を続けていけるのではと思っています。PC関連の裏技でなくてすみません(笑)。

人の心を動かす作品作りがクリエイティブ

松井さんにとって“クリエイター仕事道”とはなんですか?

作品を見てくださった何処かの誰かにとって、楽しいひと時になったり、記憶に残るような刺激になったりと、ほんの少しでも心を揺さぶることできる。そんな作品作りを目指して、感性や技を磨いていこうと思います。

クリエイターを目指す若者たちにメッセージをお願いします!

人の心を動かすものづくりは、作り手の様々な経験や知識が複合的に重なって生み出されていくものだと思います。クリエイターへの近道を進むのも大事ですが、たまに寄り道をしながら色々なインプットを経験してください。

誰しも「こんな作品を作りたい!」という感動からもの作りが始まると思いますが、沢山作品を作っていけば、いずれは「こんな作品を作りたい!」と思わせられる作り手になっていけると思います。

松井さん、ありがとうございました!

寄り道しながら、自分の得意分野を見つけよう

デザイン系の高校で刺激的な友人と先生に出会い、また授業でチェコアニメに衝撃を受けたことでアニメーションの世界へ入っていった松井さん。実際にアニメーションを制作するだけでなく、クリエイティブディレクターとして制作の全工程をディレクションしています。クリエイティブな仕事は多岐にわたります。色々と寄り道しながら、自分にぴったりな分野を見つけましょう。

クリエイタープロフィール

松井久美さん
クリエイティブディレクター
1985年 東京生まれ。東京工芸大学芸術学部アニメーション学科、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻。2012年より株式会社ファンワークスにてクリエイティブディクレターを務める。主な作品に、NHK Eテレ『がんばれ!ルルロロ』、サイボウズ『アリキリ』、『映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』などがある。

ライタープロフィール パソコン工房NEXMAG [ネクスマグ] 編集部

パソコンでできるこんなことやあんなこと、便利な使い方など、様々なパソコン活用方法が「わかる !」「みつかる!」記事を書いています。

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