低価格のVRヘッドマウントディスプレイが登場し、VRゲームを楽しむユーザーが増えました。より一層VRゲームを楽しみたいなら、ヘッドセットだけではスペック不足になりがちです。VRゲームをさらに楽しめるように、VR環境に向いたパソコン(PC)の選び方について、武者良太さんに話を聞きました。
VRに精通する武者良太さんついて
今回インタビューを行った武者良太さんは、VR世界の魅力について広く伝える目的で株式会社 往来に所属し活動しています。『未来ビジネス図解 仮想空間とVR』(MdN刊)を上梓。現代のVR開発に精通する立場から、VRに最適なパソコン選びのコツを語ってもらいました。
“未来ビジネス図解 仮想空間とVR|株式会社エムディエヌコーポレーション”.株式会社エムディエヌコーポレーション.2021.
https://books.mdn.co.jp/books/3220303038/
VR世界を堪能したいならパソコンを使おう
VRコンテンツを楽しむためのデバイスとして、Oculus Quest 2(オキュラス クエスト ツー)など低価格のVR用ヘッドセットマウントディスプレイ(HMD)の人気が高まっています。例えば、前から飛んでくる箱を切るリズムゲームの「ビートセイバー」、ボクシング&ダンスムーブでダイエット効果の高い「FitXR」、雑談しながら本格的な釣りが楽しめる「Real VR Fishing」に、メタバース(Metaverse)として多くのユーザーが集っているVR SNSの「VRChat」など、人気のゲーム・アプリも多数出揃っています。
一方、Oculus Quest 2はスマートフォンの技術に基づくCPUやGPUで動いているため、高精細でリアリティ抜群のVR空間が楽しみにくいという点があります。
フルにVR空間の圧倒的な美しさを堪能するなら、ハイスペックなWindowsパソコンとVRヘッドセットを組み合わせたいところです。特にVR世界のアバターを楽しめる場として主流のソーシャルゲームプラットフォームであるVRChatは、Macではプレイできません。VRChatで遊ぶことも考慮すると、画像処理速度で有利なWindowsパソコンを選ぶのが妥当です。
もしVRChatで自分が使っているパソコンに未対応のアバターに出会うと、本来の姿とは異なるデフォルトのロボット表示になったり、未対応のワールドには入れません。また、非力なパソコンだと途中で接続が切れたり、不安定になるなどのトラブルが発生しがちです。
その点Oculus Quest 2は、Windowsパソコンと有線(USBケーブル)・無線(Wi-Fi)で接続する機能があります。Windowsパソコンを用意できれば、VRヘッドセットはそのまま使い続けることができます。下は武者さんのVR利用環境を映した写真です。デスクトップマシンにUSBケーブルでOculus Quest 2を接続しています。
VRを最大限に楽しむためのパソコン選びのコツ
Windowsパソコンを、VRコンテンツを楽しむ目的だとデスクトップ型とノート型のどちらを選ぶといいでしょうか?
答えは「両方ともOK」です。
デスクトップ型は拡張性が高く、後からカスタマイズしてスペックを強化できるため、長期間使い続けられるメリットがあります。一方で、常設できる場所の確保や別途ディスプレイなどの機器も必要です。
ノート型はコンパクトで、置き場所を取らず持ち歩きもできるメリットがあります。ただし、ノート型の極めて多くがメモリは増やせてもCPUやGPUの交換ができないモデルで、拡張性が乏しいのがデメリットです。とはいえ、後述するスペックを満たしたモデルを選べば、現時点でのVRコンテンツは十二分に楽しむことが可能です。
結論は、拡張性優先ならデスクトップ型を、置き場所優先ならノート型を選ぶといいでしょう。
VR対応のための必要最低限のスペック
デスクトップパソコン、ノートパソコンのいずれを選ぶとしても、重要なのはスペックです。VRヘッドセットを接続しVRゲームやコンテンツを楽しむためには、ビジネスユースに比較すると、一段階パフォーマンスが高いパソコンが必要です。特に高いGPUスペックが求められます。
そこで目安となるのが公開指標です。GPUメーカーであるNVIDIAは「VR Ready」を、もしくはAMDは「AMD VR Ready/Radeon VR Ready」という指標を公開しています。これらの指標は、VRヘッドセットを使うために必要最低限なCPU、メモリ、GPUなどのスペックをまとめたものです。具体的には以下のスペックを満たすパソコンが必要です。
CPU Intel Core i5-4590もしくはAMD Ryzen 5 1500X以上
メモリ 8GB以上
GPU NVIDIA GeForce GTX 1060もしくはAMD Radeon RX 590以上
購入は最低限のスペックより一歩上のパソコンを!
先述したVR Readyの指標は2018年頃に策定されたもので(2021年6月時点で更新されていません)、現在はより高いスペックを求めるVRヘッドセットやVRコンテンツが増えてきています。
例えば、2021年6月に発売されたVRヘッドセットでHTCの「VIVE Pro 2」の映像品質は5K、120Hzとなりました。これだけの高解像・高リフレッシュレートの映像をフルに表示させるためには、NVIDIA GeForce RTX 2060もしくはAMD Radeon RX 5000以上のGPUが必要です(あわせて、DCSを搭載したDisplayPort 1.4以降の出力ポートも必要です)。
もう1つ注意したいのが、「ゲーミングPC」として販売されているパソコンなら大丈夫だろう、というわけではないことです。「ゲーミングPC」の中にはフルHD画質(1,980×1,020画素/2K)の映像出力にあわせて作られたモデルもあるからです。
Oculus Quest 2でも4K、120Hzの表示が可能であり、このクオリティを引き出すにはローエンドGPUを搭載したゲーミングPCではスペック不足となってしまいます。購入する際は、必ず搭載されているGPUのスペックを確認し、少し余裕のあるスペックを搭載したパソコンを選びましょう。
往来がおすすめするVRに最適なパソコン
ここまで解説してきた内容を反映して、具体的に武者良太さんにおすすめのパソコンスペックを挙げてもらいました。予算別にノートPC、デスクトップPCとも、それぞれ3種選んでいます。
VRにおすすめのノートPC
ハイコスパ
CPUはCore i7シリーズ、GPUはNVIDIA GeForce RTX 3060シリーズと、ハイコスパでありながらもVRコンテンツを楽しむために十分なスペックを選択したいです。レイトレーシングを用いた水の反射の表現などがリアルそのものに見えてくるVRChatの最新ワールドも楽しめると思います。
ミドルレンジ
先ほどの【ハイコスパ】としてセレクトしたものからGPUをさらに処理速度が高く、GPUのメモリ(VRAM)が多いものをセレクトしたいです。
VRゲームはほとんど6GBのVRAMで遊べるように作られていますが、VRChatは消費メモリが多いワールドも存在します。特に多くのユーザーが1カ所に集まるDJイベントなどに参加したい方は、こちらで挙げているものをボーダーラインとして考えるといいですよ。
ハイスペック
CPUはハイエンドのCore i9やi7、GPUもNVIDIA GeForce の最上位モデルをセレクト。メモリ、ストレージにも余裕を持たせて、VRChatのアバターやワールド、VRコンテンツを快適に作れるだけのパフォーマンスを確保したいです。これ以上のスペックを求めるなら、デスクトップPCを選んだほうがいいでしょう。
VRにおすすめのデスクトップPC
ハイコスパ
同じ名前のGPUでも、ノートPC用GPUよりデスクトップPC用のGPUのほうがスペックが高く、凝ったVR世界でも快適に過ごせるというメリットがあります。
上に挙げたようなマシンはCPUも必要十分なポテンシャルを持っていますが、VR以外にもいろいろなゲームを楽しみたい方なら、インテルのCore i5が搭載される下のマシンもおすすめです。
ミドルレンジ
CPU・GPU共にハイコスパから1ランクアップすることで、今後映像表現にこだわり抜いたVRコンテンツが出てきても、ストレスを感じることなく楽しめると思います。
ハイスペック
高スペックでコストパフォーマンスに優れたCPUに、GeForce RTX 3080を合わせたモデルをおすすめしたいです。Oculus Quest 2を超える、より高画素で高精細なVRヘッドセットが登場したとしても、VRコンテンツの母艦として活躍しつづけてくれると思います。メモリも32GBを確保したいところです。
編集部注)GeForce RTX 3080搭載製品の販売は終了したため、下記ではGeForce RTX 4080搭載製品を紹介しています。
まとめ
VRゲームを余裕を持って楽しむために買うWindowsマシンであれば、予算の許す範囲で最適な構成を目指したいところです。VRの世界にどっぷり使っている往来の武者良太さんならではのアドバイスを参考に、みなさんには自分の用途に合わせて、後悔のない機種選びをしていただきたいです。
フリーランス編集者。IT系入門書を中心に、小説・ダイエット・実用書まで幅広い出版物に携わる。著書に『フリーランスのためのはじめての青色申告』や電子書籍『確定申告が初めての人向け 手とり足とり超丁寧なガイドブック』など。
https://www.amargon.net/