どうしたら憧れのクリエイターになれるのか? その秘密を現役で活躍するクリエイターに直接聞いちゃう『クリエイター仕事道』。今回のゲストはアーティストとして活動する一方で、東京工芸大学の教授として教鞭を取っている浅野耕平さんです。

クリエイター最終更新日: 20220318

アーティスト:総合的な技を身につけ、オンリーワンになる!

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どうしたら憧れのクリエイターになれるのか? その秘密を現役で活躍するクリエイターに直接聞いちゃう『クリエイター仕事道』。今回のゲストはアーティストとして活動する一方で、東京工芸大学の教授として教鞭を取っている浅野耕平さんです。さまざまな体験型の展覧会やワークショップを企画している浅野さんは、どんな青春時代を送り現在の至ったのでしょうか?

浅野さんが携わった作品

「メビウスの卵展2004多摩展」に出展された『Garden』。見て、触って、参加して、楽しみながら、ゲーム感覚のアート作品です。

体験型現代美術スペースアート展 ( 浜田市世界こども美術館 / 島根県 2016) に出展した「Drop」。中央に設置したモビールの下を人が通過すると、リンゴの実 が落ちる映像がプロジェクションによって次々と現れる作品です。

大学のゼミがきっかけでアートの世界へ

浅野さんは子供の頃、どんな仕事に憧れていましたか?

小さい頃は近所の八百屋さんでした。あのダミ声が魅力だったんです。小学校のアルバムを引っ張り出したら「新しい機械を考え作りたい。そこの社長になりたい」と書いてありました。中学生の時は放送委員の裏方仕事にどっぷりはまって、テレビや舞台の裏方仕事に漠然とした憧れを抱いていました。

いろんな仕事に興味があったんですね。裏方の仕事に憧れるようになり、どのような学校に進学しましたか?

映画やドラマの制作に憧れて、東京工芸大学 芸術学部 映像学科に進学しました。その後、在学中にコンピューターへの関心が強くなり、現在私が所属する東京工芸大学インタラクティブメディア学科の前身とも言えるデジタル映像研究室(草原研究室)でメディアアートを学びました。

大学生の頃は、どんな学生生活を送りましたか?

大学の1、2年生の頃は演習で映画を撮ったり、シナリオを書いたり、Amigaという機材でCGに触れたり、写真の暗室で作業したり、いろいろなことを経験しました。あとは、ビデオが無料で借りられるという理由でレンタルビデオ屋さんでバイトしていました。大学2、3年の頃になると、パソコンやインターネットが身近になり、自分の興味の中心がコンピューターで作品を作る方向へと変わっていきました。その頃は、WEB制作会社でアルバイトもしていました。

学生時代から作品作りには積極的だったんですね。そこからどのように経緯でアーティストの道へ?

大学3年のゼミ選択で、草原真知子先生(メディアアート研究者、キュレーター)の研究室に入ったことが直接的なきっかけです。草原先生を通して多くのメディアアートに触れる機会があり、ICCのオープンに立ち会ったり、岩井俊雄さんなど様々なメディアアーティストと直接お話しする機会があったことも大きかったと思います。自分を作家として意識したきっかけは、2001年に神戸で開催された「21世紀☆みらい体験博」だと思います。初めてそこで「作家さん」と呼ばれてから、自分の制作を仕事として意識するようになりました。その会場で出会った展覧会エンジニアの方との交流が今の私の制作の土台にもなっています。

お客さんの参加により完成するインスタレーション作品

浅野さんの代表作を教えてください

2009年から約1年間オーストリア リンツにあるアルスエレクトロニカ センターで展示を行った『Garden』が私の代表作となるかと思います。多くの人が協力し合って花を咲かせるという作品です。メビウスの卵展2004多摩展に参加して以来、国内外で多数の展示に参加させて頂きました。

比較的最近ですと2020年に神奈川県立地球市民かながわプラザで開催した個展「あそぶミュージアム 旅する光の世界」では、『Drop』という作品がとても好評でした。この作品は2016年に浜田市世界こども美術館で開催された「体験型現代美術 スペース・アート展」に向けて、身近なことから宇宙を感じることをテーマに制作した作品です。

浅野さんにとってターニングポイントとなった作品はなんですか?

東京工芸大学大学院修了時に制作したインタラクティブ インスタレーション『Hand in Hand』です。この作品はセンサーを使った体験型作品で、人と人が手を取り合うことで映像が変化し、四季を共に渡っていくという作品です。当時、インターネットが一般に普及し始め、誰でも世界中の人と繋がることができると騒がれていた中、身近な人との直接的な関わりを大切にしたいという思いで制作しました。

その仕事から、どんなことを学びましたか?

この作品で国内コンペのグランプリを頂いたり、フランス・カンヌで開催された「milia」という国際展への出展といった経験をさせてもらいました。こうした経験が作品制作を続ける自信になったように思います。

忘れられない仕事での失敗経験はありますか?

『Hand in Hand』を展示したカンヌの会場で、ある海外のお客さんから「この作品を今後どうしたいのか?」と聞かれ、私はその時「作品で人と人が繋がっていければ嬉しい、それで充分」と答えました。そのお客さんは「それならまあいいか・・・」といった感じにやや怪訝な顔をして立ち去ったのですが、デジタルコンテンツの見本市で開催された国際展だったことを考えると、その方は次に繋がる話しをしたかったのではと、後から思いました。それ以後、作品の展開についても意識を向けるようになりました。

浅野さんが仕事で一番感動する瞬間はどんな時ですか?

作品展示のお話しをもらった瞬間が一番興奮します。わくわくしながら新作や空間構成を考え、実際に作っていくあたりから徐々に現実の壁を前に苦しくなっていきます。最終的にヘトヘトになって「何でこんな苦しいことをしているのだろう?」と思ったりもするんですが、展示会場で作品を体験している人を眺めている中で「この人には伝わった」と感じた時に、癒やしと感動の瞬間が訪れます。

浅野さんが仕事で大切にしている事、意識している事を教えてください。

インタラクティブ インスタレーションは、お客さんが参加して初めて本来の姿を現すものだと考えています。作者の一方的な思いだけでは成立せず、お客さんと一緒に育てていく作品だと思っています。言葉で語られることよりも、作品の傍らからお客さんの素直な反応を眺めることが私にとって、とても大切な時間です。

移動中も使えるノートパソコンを愛用

現在、どんなPCや周辺機器を愛用していますか?

・2017年製の13インチノートPC
・メモリ16GB HDD 1TB

PCや周辺機器を選ぶ際の基準を教えてください。

いろいろな現場を行き来しながら仕事をしているので、どこでも仕事ができるようにノートパソコンを長く使っています。私の制作ではそれほどハイスペックな機材を必要としないので、実際の展示に近い環境で制作することなども考慮して、展示機材として入手しやすい機種を選択する傾向があります。

いろいろな技を組み合わせたクリエイターに

浅野さんにとって“クリエイター仕事道”とはなんですか?

これまで展覧会を前提としたインタラクティブ インスタレーションの制作を多くやってきました。会場にわざわざ時間とお金をかけて来て下さる方に、どんな時間や空間を提供できるかということを常に考えているように思います。私の作品には鋭さや心をえぐるような強さはありませんが、ささやかな幸せや喜びを空間や対話を通して多くの方と共有できるよう懸命に制作しています。

クリエイターを目指す若者たちにメッセージをお願いします!

“クリエイター”と聞くと1つの技を極めたスペシャリストをイメージする方もいるかもしれませんが、私のようなタイプは総合力で生き残ってきたタイプだと思います。クリエイティブな現場のニーズは多種多様なので、求められる総合力の形も様々です。1つのことではナンバーワンではないけれど、これとこれを組み合わせるのは自分にしか出来ないといった、自分なりの総合力を構築していくこともクリエイターとして生きる一つの道なのではと考えています。

浅野さん、ありがとうございました!

ナンバーワンではなくオンリーワンに

「自分なりの総合力を構築していくこともクリエイターとして生きる一つの道」と語る浅野さん。今は、複合的な考え方や技が求められる時代です。興味のあることはどんどんチャレンジし、いろいろな世界を見て、さまざまな知識と技を身につけることが次世代のクリエイター像なのかもしれません。

クリエイタープロフィール

浅野耕平さん
アーティスト/東京工芸大学 芸術学部 インタラクティブメディア学科 教授
1974年、東京都生まれ。東京工芸大学 大学院 芸術学研究科 メディアアート専攻修了。第4回ソウル国際メディアアートビエンナーレ(韓国)、アルスエレクトロニカセンター常設展示2009-2010(オーストリア)、六本木アートナイト2010、魔法の美術館(2010-2012)、浜田市世界こども美術館(2013〜2022)、神奈川県立地球市民かながわプラザ(2019-2020)など、国内外での作品展示の他、東京工芸大学 インタラクティブアート研究室として「動くアート展」(福島市2013- 2016),「マルシェストリート」(北海道当別町、新篠津村2019)他、様々な体験型の展覧会やワークショップの企画制作を行っている。
WEB:http://asanokohei.com/
Twitter:@asanokohei

ライタープロフィール パソコン工房NEXMAG
[ネクスマグ] 編集部

パソコンでできるこんなことやあんなこと、便利な使い方など、様々なパソコン活用方法が「わかる!」「みつかる!」記事を書いています。

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