米アドビは今年10月20日、最新リリースを世界に発表する大型イベント「Adobe MAX 2020」をオンラインで開催し、Adobe Creative Cloud各製品(以下、CC製品)のアップデートを発表しました。コロナ禍が変えた世界の中で、クリエイターの生産性やコラボレーションを加速させる多数の新機能が含まれています。

クリエイター最終更新日: 20201118

Adobe MAX 2020主要アップデート紹介

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米アドビは今年10月20日、最新リリースを世界に発表する大型イベント「Adobe MAX 2020」をオンラインで開催し、Adobe Creative Cloud各製品(以下、CC製品)のアップデートを発表しました。コロナ禍が変えた世界の中で、クリエイターの生産性やコラボレーションを加速させる多数の新機能が含まれています。

アセット活用とコラボレーション機能が「つくる力」を後押し

近年、CC製品のアップデートは製品単体の機能強化だけでは語れなくなっています。今年の注目は、アセットの活用とコラボレーション機能の強化によるワークフローの改善・生産性向上です。これによって、ユーザーがよりクリエイティブな作業に時間を使えるようになることが期待されます。

そのポイントを3つ挙げてみましょう。

「Creative Cloudライブラリ」の進化でアセットを最大限活用

Webサイト、パンフレット、動画からSNSへの投稿画像まで、CC製品はクリエイティブのあらゆる場面で活用されています。しかし、そこに使う企業や製品ロゴ、カラー、写真などの素材は手作業でやり取りするのが当たり前でした。これまでも「Creative Cloudライブラリ(以下、CCライブラリ)」機能により複数のアプリケーション間で素材の共有は可能でしたが、今回はそれがAdobe XDのライブラリと密接に連携。Adobe XDのデザインシステムをAdobe IllustratorやAdobe InDesignにも手軽に適用できるようになりました。

また、Adobe SparkでもCCライブラリを使用できるようになったので、制作会社がデザインしたパーツを、クライアントのSNS担当者がAdobe Sparkで画像に貼り付け投稿する、といったワークフローがスムーズになります。さらに、APIを提供しMicrosoft WordやPowerPointなど、他社のアプリケーションでも利用が可能です。

「クラウドドキュメント」でバージョン管理とフィードバックを手軽に

ファイルに「new」「修正」「最終版」といった名前をつけてバージョンを管理するのは非効率だし間違いの元です。アドビの「クラウドドキュメント」なら別名保存をしなくても過去バージョンの管理が可能。これがAdobe XD、Adobe Photoshopに加えAdobe Illustratorでも可能になりました。さらに、オフラインで行った作業がオンライン復帰時に自動的に同期されるよう、利便性も向上しています。

クライアントや関係者に作品をレビューしてもらう際にも、共有リンクを送信すれば、相手がCC製品やAdobeアカウントを持っていなくても内容を確認でき、フィードバックの書き込みが可能。クリエイターの管理業務の負荷軽減に役立ちます。

「Adobe Sensei」が作業をかしこくサポート

CC製品の人工知能Adobe Senseiが、活躍の場をどんどん広げています。今回一番の注目は、Adobe Photoshopの「ニューラルフィルター」と「空の置き換え」でしょう(詳しくは後述)。また、Adobe After Effectsの「ロトブラシ2」や、Adobe Premier Pro(ベータ版)搭載の「テキスト書き起こし」など、手作業でやっていたことを大幅に効率化する機能もAIのおかげです(こちらも後述)。

AIが人間の仕事を奪う…なんて未来も語られる昨今ですが、Adobe Senseiは創造的な試行錯誤の幅を広げてくれたり、クリエイターの時間を奪う人海戦術作業をサポートしてくれる存在になっていると言えるでしょう。

Adobe Creative Cloudエバンジェリストの仲尾毅さんは、今回の発表について以下のようにコメントしています。

「今年の『Adobe MAX』でアドビは、クリエイティビティをあらゆる場所のすべての人のために民主化し、クリエイティブラーニングの促進によってクリエイティブな文化を前進させます。そして、個人およびチームの共同作業を加速する、数々のマルチデバイス対応アプリおよびサービスを提供します。

クリエイティビティをより簡単に、無限に発揮できるよう、アプリがパソコン用かモバイルかを問わず、各種サービスやサードパーティツールまで含め横断的に活用して作業が可能になるようにしていきます。さらに、新しいクリエイティブ手法を提供するため、AIテクノロジー『Adobe Sensei』を活用しながらも、責任あるかたちで新しいクリエイティブ手法を提供していきます」

ユーザーが使うことで成長する「Photoshop」の新しいフィルター

では、主なCC製品それぞれのアップデートについてご紹介していきましょう。まずはAdobe Photoshopです。

先ほど挙げた「ニューラルフィルター」は、本来は複雑な加工作業をAIに任せることで簡単に実行できる、従来のフィルターとは全く異なる概念のフィルターです。例えば、モデルを美しく見せるための美肌加工は、選択範囲・ぼかし・トーンカーブなどいくつもの機能を使いこなす必要がありますが、ニューラルフィルターの「肌をスムーズに」機能なら1アクションで完了します。

面白いのが、精度がまだ十分でないベータ版にもフィルターが搭載されていること。実際にユーザーからのフィードバックを得て、それを反映することで精度を高めていくことが目的です。アプリケーションの開発手法も変わってきています。

他にも、自動的に境界を認識する「空の置き換え」や、動的に操作のヒントやチュートリアルを提示してくれる「もっと知る」パネルなどにも機械学習が活用されています。

また、プラグインの仕組みが、より使いやすい形式にリニューアルされました。Creative Cloudデスクトップアプリ上に開設された「マーケットプレイス」で、検索したり、おすすめから選んだりすることが可能です。

デスクトップ版「Illustrator」がクラウドドキュメント対応に

Adobe Illustratorの一番のトピックは、iPad版が登場したことです。タブレットならではの使い勝手や新機能にも注目ですが、これに伴ってデスクトップ版もクラウドドキュメントに対応したことで、ワークフローにも改善が期待できます。

先にご紹介したように、クラウドドキュメントはバージョン管理や共同作業、関係者へのレビューなどにも役立ちます。デザイナーと上司・クライアント間の情報共有や管理業務の負担を軽減することができるでしょう。

機能面では「オブジェクトを再配色」ツールが強化され、写真などから抽出したカラーパレットをプロジェクトに適用したり、ストック素材のカラーを手早くマッチさせるなど、統一感あるバリエーション作りがより便利になりました。

新しいユーザー体験を創造する「Adobe XD」の3D変形機能

誕生から丸3年を迎えたAdobe XD、一番のアップデートは「3D変形」機能です。デジタルのUI/UXデザインはWebページだけではなく、VRやARの分野でも必要とされています。立体感あるWebページのUIはもちろん、どんな形で活用されていくのか楽しみな機能です。

また、アセットパネルにCCライブラリが統合され、Adobe XDで作成したデザインシステムをAdobe Photoshop・Adobe Illustrator・Adobe InDesignなどの他のツールへも簡単に共有できるようになりました。ツールをまたいで統一感あるUIやコンテンツの制作に役立ちます。

動画編集でもAIが活躍する「Premiere Pro」と「After Effects」

ビデオ系製品でもAIを活用したアップデートが登場しています。Adobe After Effectsではユーザーが直感的に切り抜いた被写体を、すべてのフレームでAIが自動的にトラッキングしてくれる「ロトブラシ2」という機能が搭載され、合成作業にかかる労力を大幅に削減することが可能です。

Adobe Premiere Pro ベータ版では、「テキスト書き起こし」でビデオ内の音声を自動的に書き起こし、ビデオのタイムコードと一致させて字幕を表示させることができます。多くのユーザーが利用することで精度を高め、近い将来正式リリースされることが期待されます。

「Adobe Stock」はAdobe IDだけで7万点の素材が無料に

最後にちょっとお得なお話。Adobeのストック素材サービス「Adobe Stock」において、写真・ベクター・ビデオなど約7万点の素材が無料で使えるようになりました。個人・法人問わず、商用利用も可能です。

“Adobe Stock 無償コレクション : 写真、ベクター、ビデオ | Adobe Stock”.Adobe.
https://stock.adobe.com/jp/free

以上、駆け足になりましたが主要なアップデートを紹介いたしました。まだアップデートしていない方は、「Creative Cloud」アプリから入手して、いつもの作業に活用してみてはいかがでしょうか。

ライタープロフィール 笠井美史乃

Webサイトや雑誌で記事の執筆・編集をしています。主な分野は、スマートデバイス、Webマーケティング、企業取材など。緩めのアニメオタクで毎期4〜5本完走しています。生きがいはパフェ。

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