米国時間10月26日〜28日(日本時間:10月27〜28日)に、「Adobe MAX 2021」がオンラインで開催されました。今回は、アドビ製品群の新機能や注目ポイントを中心に、Adobe MAXの要点を押さえていきます。

ITトレンド最終更新日: 20211130

Adobe MAX 2021 のアップデート、新機能まとめ

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年に1度の恒例、アドビ主催のクリエイティブイベント「Adobe MAX 2021」が、米国時間10月26日〜28日(日本時間:10月27〜28日)にオンラインで開催。400以上のセッションやパフォーマンスが行われ、多くの開発者や有名人が登壇しました。今回は、NEXMAGでおなじみのアドビ製品群の新機能や注目ポイントを中心に、2021年のAdobe MAXの要点を押さえていきましょう。

※本コンテンツはAdobe MAX 2021を踏まえて、2021年11月時点に基づく情報です。

PhotoshopやIllustratorにWeb版が登場

Adobe MAXでは、アドビの製品群を利用できるサブスクリプションサービス「Adobe Creative Cloud」(以下Adobe CC)の大幅アップデートが発表されるタイミングでもあります。最新バージョン「Creative Cloud 2022(CC 2022)」として、PhotoshopやIllustrator、Premiere Proなど、最新のグラフィック&クリエイティブソフトウェア群に多数の新機能が追加されました。

今回の注目点は、リモートワークが進むにつれて昨今のニーズに応えたオンライン上の新機能でしょう。その具体策の1つが、現状はプライベートベータ版(招待制のベータ運用)ながら、Web版の「Adobe Photoshop web」と「Adobe Illustrator web」をリリースです。これまでもAdobe CC上で保存すれば、制作したクリエイティブデータをWebブラウザ経由で閲覧できましたが、Adobe CCに保存したファイルをPhotoshopやIllustratorのWeb版で開くこともできるようになります。

Web版はAdobe CCの契約ユーザー同士ならば、Web上での編集やレタッチといった共同作業が可能になります。

共同作業を可能にする「Adobe Creative Cloud Web」

また、Photoshop webやIllustrator webとともにリリースされたのが、「Adobe Creative Cloud Web」です。昨今、クリエイティブワークにおいて、離れたメンバー同士(リモートワーク)の共同作業を担保できるかどうかは、効率面や生産性を左右します。それらの課題に対峙できる新サービスとして、「Adobe Creative Cloud Web」という場所の提供も発表。特に、Adobe CCメンバーではないユーザーも利用可能で、より広範な関係者とも共有できます。

具体的に提供される1つが「Adobe Creative Cloudスペース(プライベートベータ版)」です。チーム作業で共通して必要となるファイル群やライブラリなどを共有できるスペースが用意されています。

もう1つが「Adobe Creative Cloudカンバス(プライベートベータ版)」。これは、チーム内の共同作業メンバー同士で、試作中のクリエイティブを視覚的に確認できる共有機能です。Webブラウザ上で作例のビジュアルの提示ができるほか、閲覧やコメントの挿入などレビューが可能です。以下はキーノートで公開されていた、CCカンバスで作業中の1場面です。

チーム内のコラボレーションを促進する機能ですし、2022年前半に予定される(Adobe MAXキーノートより)正式リリースが待たれます。

さらに進化したPhotoshopのニューラルフィルター

近年、アドビは「Adobe Sensei」と呼ばれる機械学習によるAIの機能を搭載。Photoshopでは、AIを使った3つの「ニューラルフィルター」が追加されました(すべてベータ版)。

1つ目の「風景ミキサー」は、風景画像を新しいシーンへと変えてくれます。例えば、写真の季節を変更したり、被写体をマスクして新しい風景になじむように自動調整します。

2つ目は「カラーの適用」で、色調を合成した写真で参照して、素早くなじむ色のトーンを再現します。また、3つ目の「調和」では、任意のレイヤーのカラーとトーンを別のレイヤーのものとマッチさせることができ、よりリアルな合成が短時間で可能です。例えば、ポートレート写真を任意の風景写真に一瞬でなじませることができます。

他にも、写真の深度ぼかしの精密度の向上、スーパーズームフィルター、アートスタイルを提供するフィルターなど、多くのAIフィルターが収録されています。

Photoshopの新機能「ホバー選択」

そのほか、Photoshopの便利な新機能で着目したいのが「ホバー選択」モードです。

これまでもPhotoshopには「被写体を選択」や「オブジェクト選択」の機能があり、被写体の人物などを一発選択でき、かなり精度の高いマスクが行える選択ツールでした。ホバー選択は、「オブジェクト選択」ツールを選び、オブジェクトの上にカーソルを移動するだけで、個々のオブジェクトを認識して選択できます。

Photoshop 2022で開いた、複数のパンが並ぶ画像をご覧ください。カーソルをパンの上に移動すると、オブジェクトがハイライトされ、物体の形状が認識されます。

以前のバージョンよりさらにディテールが検出できて、正確な選択が可能になりました。この機能によって、画像調整の作業効率がさらにアップするでしょう。

PhotoshopとIllustratorとの連携も強化

グラフィック系の業務では、Photoshopと併用して使いやすいのがIllustratorです。今回のバージョンアップでうれしいのが、Illustratorファイル内のレイヤーを保持したまま、Photoshopにデータをペーストできるように改善されたことです。特に複雑なデータを扱う時には非常に便利になりました。

実際にやってみましょう。Illustrator上で任意のオブジェクトをコピーして、 Photoshopでのペースト時に表示されるダイアログで「レイヤー」を選択した上で「OK」を押します。

すると、レイヤーがすべて保持された状態でPhotoshopにオブジェクトがペーストされました。

Illustratorは3D機能が大幅刷新

Illustratorの注目機能は、刷新された3D機能です。文字やオブジェクトを美しい3D効果で立体化でき、テクスチャの適用も可能。以前から3Dデータは扱えましたが、3Dの調整パネル上でイメージの調整がしやすくなり、簡単なモデルや3Dオブジェクトが作りやすくなりました。

試しに立体ロゴを作ってみました。直感的な操作でイメージを調整できるでしょう。

前述した通り、Photoshopと同様にIllustratorもWeb版のプライベートベータがスタートしています。ブラウザさえあれば、さまざまな環境で編集・閲覧できるハードルがどんどん低くなる予定です。

字幕の自動生成が可能になったPremiere Pro

アドビの主力動画制作ツールPremiere Proでは、「シーケンスの簡易化(Simplify Sequence)」という機能が搭載されました。これは、複雑になったシーケンスからクリーンなコピーを作成できる機能のことです。

例えば、クリップのギャップや未使用のトラック、ユーザーが指定したクリップやエフェクトなどを削除して、シンプルなタイムラインの状態にしてくれます。プロジェクトの効率的な共有やアーカイブ化に役立つでしょう。

もう1つ着目したいのが、2020年時点ではベータ版として公開されていた音声テキスト変換機能が正式版として実装され、さらに強化された点です。13の言語でキャプションの自動書き起こしが可能で、映像への字幕が作りやすくなりました。文字起こしを行いながらの動画編集の機会が多かったユーザーには、重宝する機能です。

またパブリックベータ版では、Adobe Senseiを使った音楽と映像のリミックス機能を公開。メニューバーの「クリップ」→「リミックス」→「リミックスを有効化」で、音楽トラックを映像にマッチするように自動配置してくれます。この機能も、将来的な正式搭載が期待されます。

ベータ版アプリを試用したい場合、デスクトップ版のAdobe CCより、左ペインの「ベータ版アプリケーション」を選択しましょう。

オンラインコラボレーション環境がますます充実

Adobe CCについて、ここまで駆け足ながらNEXMAGになじみのあるツールを中心に着目点を整理しました。全体を通じて感じたのが、複数ユーザーとコラボレーションがしやすいAdobe CCという立ち位置を確立したい意思でした。

PhotoshopやIllustratorにWeb版が登場したのもわかりやすく、象徴的です。今後もオンラインコラボレーションの流れは、ビデオコラボレーションプラットフォームのFrame.ioの買収完了により、さらに加速しそうです。

もう1点押さえておきたいのは、オンライン収益への貢献です。アドビが運営するオンラインポートフォリオサイト「Behance」への出展ユーザーが、サブスクリプション機能も使えるようになりました。Behanceと言えばコンテンツ公開やポートフォリオ、受注窓口としての利用だけでなく、Behanceで直接、有料コンテンツを月額課金で提供可能に。Behanceを通じて、世界中のクリエイターが収益化を目指す動きにも要注目です。

“Behance :: おすすめの作品”.Behance.2021.
https://www.behance.net/

ライタープロフィール 宮崎綾子

フリーランス編集者。IT系入門書を中心に、小説・ダイエット・実用書まで幅広い出版物に携わる。著書に『フリーランスのためのはじめての青色申告』や電子書籍『確定申告が初めての人向け 手とり足とり超丁寧なガイドブック』など。
https://www.amargon.net/

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