世界中で多くのデザイナー、クリエイターの必須ツールとなっている「Adobe Creative Cloud」。サブスクリプション形式(定額制)で多数のクリエイティブツールが提供されるようになり、定期的なアップデートで生産性向上に役立つ状態が担保されています。
社会の変化の先端にいるクリエイターたちは、新型コロナウイルスで生じた社会の変化とともに、Adobe Creative Cloudとどのように向き合うといいでしょうか。今回NEXMAGのために、ユーザーとの接点で最前線に立つAdobe Creative Cloudエバンジェリストのお二人が語ってくれました。

クリエイター最終更新日: 20210406

アドビ エバンジェリストが語るAdobe Creative Cloudの今とこれから

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世界中で多くのデザイナー、クリエイターの必須ツールとなっている「Adobe Creative Cloud」。サブスクリプション形式(定額制)で多数のクリエイティブツールが提供されるようになり、定期的なアップデートで生産性向上に役立つ状態が担保されています。
社会の変化の先端にいるクリエイターたちは、新型コロナウイルスで生じた社会の変化とともに、Adobe Creative Cloudとどのように向き合うといいでしょうか。今回NEXMAGのために、ユーザーとの接点で最前線に立つAdobe Creative Cloudエバンジェリストのお二人が語ってくれました。

Adobe Creative Cloudとは、クリエイティブのプラットフォーム

あらゆる分野のクリエイターが利用する「Adobe Creative Cloud」。分野の垣根だけでなく、プロかノンプロかといった垣根も越えるクリエイティブのプラットフォームですあらゆる分野のクリエイターが利用する「Adobe Creative Cloud」。分野の垣根だけでなく、プロかノンプロかといった垣根も越えるクリエイティブのプラットフォームです

Web、グラフィック、映像、3D、UI/UXなど、幅広い分野で多くのクリエイターに利用されているAdobe Creative Cloud。近年、成果を意識するクリエティブへの注目が高く、「デジタル」を軸にデザイン/クリエイティブに含まれる仕事の領域が広がり、クリエイターたちとツールとの関わり方にも変化が現れています。

お話をうかがったのは、Adobe Creative Cloudのエバンジェリストとして活動する、アドビ株式会社の仲尾 毅さん、轟 啓介さんの両名です。

<プロフィール>
仲尾 毅さん
Creative Cloudエバンジェリスト

轟 啓介さん
WebとUI/UXカテゴリー製品のデベロッパーマーケティングを担当

まずは簡単に、仲尾さんと轟さんの日頃の活動を教えてください。

仲尾 私は「Creative Cloudエバンジェリスト」という肩書きで、Adobe Creative Cloud全般の伝導活動を行っています。

 私はAdobe Creative Cloudの中でもWeb&UI/UXの領域を担当しています。最近は「Adobe Aero」などの3DやARにも担当領域が広がってきています。仲尾さんとは、Adobe Creative Cloudの最新情報を中心に毎週木曜日に配信する「Creative Cloud道場」(CC道場)などで一緒に活動しています。

“Creative Cloud 道場 | Adobe Blog #CCDojo”.Adobe Blog.
https://blogs.adobe.com/japan/creativecloud/ccdojo/

Adobe Creative Cloudの情報をライブ配信する「Creative Cloud道場」(毎週木曜20時〜配信中)。アーカイブも視聴可能ですAdobe Creative Cloudの情報をライブ配信する「Creative Cloud道場」(毎週木曜20時〜配信中)。
アーカイブも視聴可能です

Adobe Creative Cloudが登場して約8年ですが、初期と比べてどのような変化がありましたか?

 2016年のAdobe MAX(アドビ製品を紹介する大規模イベント)で「Creativity for All」というコンセプトを発表して以来、プロフェッショナルに限定せず、ユーザーの裾野を広げる方向へとメッセージを変えてきました。元々アドビはプロ向けツールベンダーという立ち位置でしたが、最近だと「Photoshop Camera」のように、アドビを知らない人たちも遊びながら使えるアプリをリリースしています。これは以前だと考えられなかったことです。

仲尾 はい。すごくシンプルなメッセージですが、今後の10年、20年に関わる大きな方向転換だと考えています。Adobe Creative Cloud以前のアドビ製品は、Web、印刷、ビデオなど、セグメントごとに担当者もマーケティングもお客様への提供方法も分かれていました。

私がアドビに入社した2012年は、Adobe Creative Cloudの提供が始まった年です。クリエイティブ業界では、例えばグラフィック出身者がWebや動画もやるなど、すでに分野のオーバーラップが起こり始めていて、そのタイミングでアドビがあらゆるツールを使えるAdobe Creative Cloudへと舵を切ったわけです。

さまざまなツールが使えることで、Adobe Creative Cloudを通じてクリエイターが分野の垣根を気にせず挑戦しやすくなり、勉強やつながりの場も拡張して、個々のツールやサービス内容も年々進化を重ねてきました。今後はさらに、プロとノンプロの垣根も取り払う方向に進み、Adobe Creative Cloudがクリエイティブすべてのプラットフォームとなれればと考えています。

当時は、サブスクリプションが一般的でなく、抵抗感を示す方たちも多かった印象です。

仲尾 現在はだいぶ浸透してきましたが、当時は印刷やプロビデオのセグメントだと特に抵抗感があった印象です。一方で、Web制作界隈ではメリットに対してのアクションが早かったですね。

 そうですね。Web制作のセグメントにとっては、CS(パッケージ販売形式)時代は更新が遅すぎて、OSやブラウザのアップデートに追いついていませんでしたが、いつでもアップデートできる今の状況はWebには最適です。

仲尾 Web制作もそうですし、Adobe Creative Cloud初期と比べるとWeb制作以外のセグメントでもプラットフォームが大きく変わっています。WebはHTML5になり映像は4Kに、といった変化のダイナミズムに対して、感度の高いクリエイターたちが、ジャンルを超えてどんどん対応しようとしている。そこにAdobe Creative Cloudがプラットフォームとして機能できるようにしたいのです。

確実に増えている「成果を意識した」クリエイティブ

ここ数年、クリエイティブ業界ではビジネス的な成果を求める傾向が強いですが、お二人の実感はいかがですか?

 私の担当セグメントでは、それはすごく感じています。デザインがどこまでビジネスに貢献する必要があるのか? Webサイトやアプリ制作において、その点に違和感を持つ人はほぼいないでしょう。ただ、どの水準で実践できているかとなると、プレイヤーによって差があると感じています。

例えば、ABテストで採用するデザインを決めるなど、マーケティング視点を取り入れたデザインは、4〜5年前から増えている感覚があり、クリエイターが勉強する範囲は確実に広がっていますよね。ただ、そうやってデータドリブンで作られるものばかりになると、仕上がりがどれも均質化しないか、という複雑な思いもなくはありません。

均質化ではなくて、目的に合わせた最適化と呼ぶべきかもしれません。画面の上部に3本線が並んでいたらメニューが開く(ハンバーガーメニュー)、という共通認識に、あえて尖った発想を持ち込んで迷わせる必要はありませんからね。その分、純粋にコンテンツのクリエイティブに集中すべきです。

ここ数年、特に盛り上がっているAdobe Creative CloudのツールがUI/UX領域で利用される「Adobe XD」。2019年は全国11都市でユーザーグループ(https://xdug.jp)が設立されたほどですここ数年、特に盛り上がっているAdobe Creative CloudのツールがUI/UX領域で利用される「Adobe XD」。2019年は全国11都市でユーザーグループ(https://xdug.jp)が設立されたほどです

プロもノンプロも、領域をまたいで活動する時代

かつてのAdobe Flash(現Adobe Animate)がクリエイティブを牽引していた時代のような、「もっと尖ったものをつくりたい」という方向性を、現在のクリエイターには感じますか?

 私の肌感覚で言うと、当時ほどは強くないと感じます。ただ以前に比べて、クリエイターがビジネスの上流からコミットする機会が増えています。コミットするサービスやアプリに対して、上流を理解した上で何をどのように取り組むべきか? 自分たちの求められる立場を意識して、したいことを取捨選択している印象です。

仲尾 Web制作以外の分野について言えば、成果を測る指標が曖昧なこともあって、まだどんぶり勘定な部分があると感じています。しかし実は、クリエイティビティはロジカルだし、「生産性をどう上げていくか」は元々みんなが考えていたことですよね。

例えば、イラストレーターの作品を見て、一般の人なら素敵なアートだと感想を持つかもしれませんが、プロからすれば「どう大量に制作して、ストックをビジネスにするか」が非常に重要になってくる。クオリティだけでなく生産性を上げるためにも、Adobe Creative Cloudにできることがあると考えています。

「Creativity for All」を掲げたAdobe Creative Cloudとなって、以前よりも利用が増えたであろうノンプロの方、決してプロではないという人たちについては、どうお感じでしょうか?

仲尾 例えば、イラストを描く実力があっても、それだけで評価されることは稀です。SNSに写真や動画を投稿したり、Webサイトにポートフォリオを作って、SEO対策やレスポンシブデザイン対応をするなど、自分自身で広めていく必要がありますよね。ミュージシャンでも、YouTubeに自作のPVを置いて、オフィシャルサイトやジャケットも制作して、SEOしてマーケティングして……という積み重ねで、徐々にファンを増やす人がいます。

実際、そうした領域から多くの素晴らしい作品が生まれています。ノンプロの方々も、自分のやりたい領域で注目してもらうために、ツールを駆使してさまざまなデジタル手法を活用している印象ですね。その背景に、Adobe Creative Cloudが定額で全ツール利用可能、としたことも寄与できている側面だと思います。

オンライン化が加速し、平等な学びの機会が増えている

2020年は新型コロナウイルス感染拡大によって、ビジネス環境にとってもクリエイティブ環境にとっても大きな変化がありました。Adobe Creative Cloudを巡る状況には、どのような変化がありましたか?

 対面形式のイベントはすべて禁止になって、オンライン開催にシフトしました。以前からオンラインイベントは一部で行っていましたが、その時とは人の集まり方が全然違います。

仲尾 特に、Adobe Creative Cloudの利用を始めて日が浅い方に活用や利用継続を促すリテンション目的のセミナーシリーズがコロナ禍の直前くらいに始まり、その参加者がかなり多いです。以前の10倍くらいは増えています。

一方で、私たちからはお客様の顔が見えないので、話を聞いてどの程度響いてくれて、使う気になってくれたかが計り切れないもどかしさも抱えています。

 オンラインだと一方通行になりがちです。オフラインだとイベント後の懇親会で聞けた生の声をどう補うかが、オンラインイベントを開催する際の課題です。

これから参加したいクリエイターや関心のあるビジネスパーソンに、もし助言やリクエストがあれば教えてください。

 オンラインセミナーに参加したら、チャットやTwitterに感想を書き込んだり、意見を言ってもらえると、出演者はとても嬉しいですし、今後の情報配信の参考になります。

以前からオンラインで開催している「CC道場」は、インタラクティブな部分を重視して、ライブ中のフィードバックや質問・感想を積極的に取り入れています。反応が目にできると、ライブ中だとその場で対応や表現も変えることができますからね。

仲尾 参加ユーザーには、ぜひ「へー」「なるほど」といった合の手だけでも入れてくれると助かります。そうした反応があると、「いま紹介したことが響いたな」など、こちらが感じ取れます。フィジカルイベントは、現場から観客の表情の変化を見ながら話せたので、そうした反応を「へー」などのつぶやきで補いたいです。

CC道場以外にも多数のオンラインセミナー(https://www.adobe.com/jp/events.html)を配信中。各ツールのラーニングコンテンツも豊富に提供されていますCC道場以外にも多数のオンラインセミナー(https://www.adobe.com/jp/events.html)を配信中。
各ツールのラーニングコンテンツも豊富に提供されています

ビジネスの上流を意識した、インパクトのあるクリエイティブ

二人から、若手クリエイターやクリエイター志望者に、メッセージをお願いします。

 幅広い分野でUI/UXが取り入れられるようになり、ビジネス領域におけるクリエイティブやデザインの価値が高まっています。どのような目的で、何のためにその製品やサービスを作るのか、より上流まで踏み込んでクリエイター自身の価値を高めてほしいです。

アメリカのUXデザイナーと日本のWebデザイナーでは、平均年収で実質5倍くらいの差がある、とも言われています。年収が価値のすべてではありませんが、もっと日本国内でもクリエイターが評価されていいとも思っています。アドビの過去の調査では、日本が世界で最もクリエイティブな国や都市と認識されている結果も出ています。

“アドビ、クリエイティビティに関する世界的な意識調査「State of Create: 2016」の結果を発表 | アドビ ニュースルーム”.Adobe.com.
https://www.adobe.com/jp/news-room/news/201611/20161110-state-of-create.html

 そういう評価が、年収などにももっと現れてほしいと思います。

仲尾 オンラインセミナーが増えて、地方在住者には地理的なハンディがかなり軽減されてきました。実際、多くの方々にご参加いただいていますし、世界的に見てもアドビの学びコンテンツへのアクセスがとても増えています。コロナ禍の状況は続いていますが、少しでも状況をポジティブに捉えてほしいですね。

また、「成果を意識したクリエイティブ」は「増えている」と言いましたが、今の若い人たちのクリエイティブが全般的におとなしいという意味ではありません。若年層のクリエイティブと接していると、マーケティングの観点も考慮しながら、インパクトのある突き抜けたクリエイティブが生み出されているとも思っています。時代が進み、取り巻く状況の変化にかなった新たなクリエティブが誕生するために、Adobe Creative Cloudや私たちは常にそばにいますので、積極的にツールや機会を活用してください!

ありがとうございました。

ライタープロフィール 笠井美史乃

Webサイトや雑誌で記事の執筆・編集をしています。主な分野は、スマートデバイス、Webマーケティング、企業取材など。緩めのアニメオタクで毎期4〜5本完走しています。生きがいはパフェ。

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