東海大学体育学部競技スポーツ学科の高妻容一教授のもとを訪れ、日頃のPC作業の効率化にも役立つメンタルトレーニングのあり方について取材しました。

ITトレンド最終更新日: 20200416

メンタルトレーニングでパソコン作業を効率化したい!

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1日の大半がパソコンでの作業……というクリエイターも、ビジネスパーソンも、ずっと作業を続けることは作業効率上好ましいことではありません。パフォーマンスを左右するような不安定な状況を落ち着かせるために、「メンタルトレーニング」を導入してはいかがでしょうか? 東海大学体育学部競技スポーツ学科の高妻容一教授のもとを訪れ、日頃のPC作業の効率化にも役立つメンタルトレーニングのあり方について取材しました。

実力を出すための強さを身につける「メンタルトレーニング」

スポーツ以外にも応用できるメンタルトレーニング

PCに向かっていると、いつも調子がいいとは限りません。調子が悪い時や集中が続かない時は、当然ながらパフォーマンスもよくないはずです。

ベストな状態ならもっと効率よくいい仕事ができるはず、素晴らしいクリエイティブが生み出せるのに……。理想は、自らの「ベスト」の状態を、何とか自分でコントロールしながら作り出すことです。それを実践しているのが、世界のトップアスリートたち。例えば、メダルがかかった大事な試合、世界が注目する大舞台でも、“普段通り”の実力を出すことができることで、期待にかなった結果を出せるのが一流選手の強さです。

その強さを身につけるメソッド、スポーツ心理学を背景とした「スポーツメンタルトレーニング」に、スポーツ以外の分野からも注目が集まっています。

メンタルトレーニングは心理的なスキルである

メンタルトレーニングとは、緊張する場面でも平常心を取り戻し、普段通りの実力を出せるよう自分をコントロールする”心理的スキル”を身につけるトレーニングのことです。毎日の練習に体系的に取り入れることで、試合前でも自分をベストなコンディションに保ったり、ポジティブな考え方を習慣化して練習のモチベーションを高めるといった効果があり、それがプレーの成果につながるのです。

最近ではビジネスやアートパフォーマンス(音楽や演劇)などの分野にも応用され、ポジティブに課題に取り組んだり、いざという時に実力を発揮できるようになるための方法として活用され始めています。

では、オフィスワーカー(PC作業が続くような人たち)なら、どのようなシーンで活用できるでしょうか? ここでは、その手法の一部をご紹介します。

※ 本来のメンタルトレーニングでは、自己分析から結果目標、プロセス目標を設定した上で取り組みを始めていきますが、ここで紹介するのは、一連の取り組み後に続く「心理的スキルの活用」プログラムで用いられるメソッドの一部です。

毎日のワーキングアワーに取り入れてみよう

意識的に集中したい時間を作ろう

人間は通常、長時間集中力を持続することができません。しかし集中するために、意識を「切り替える」スキルを使って、意識的に集中する時間帯を作ることは可能です。緊張とリラックスを身体で感じ、意識をコントロールする動作を習慣づけてみましょう。

実際に、スポーツメンタルトレーニングで用いられている方法をご紹介します。

目を使った集中(フォーカルポイント)
いつも見えている視界の中で、ある1点を見つめた時に「集中力が高まる」「集中力が回復する」「気持ちを切り替える」と意識することを決めておく方法です。フォーカルポイントを見た時、「大きな声を出す」「両手を上にあげて、あくびをする」「両肩を上にあげて息を止めて、その後、強く息を吐く」「顔をマッサージする」などをしてください。こうしたアクションを入れて、集中力を回復するようにします。

イラストは高妻容一教授への取材内容に基づき、筆者が自作したもの。以下のイラストも同様ですイラストは高妻容一教授への取材内容に基づき、筆者が自作したもの。以下のイラストも同様です

狭い画面から広い空間に視界が移り、その1点に意識が集まることを感じましょう。

プログレッシブリラクセーションテクニック(漸進的筋弛緩法)
身体の部位を順番にリラックスさせていくことで、意識を身体に向け、集中力を高めていく方法です。

1.ゆっくり呼吸する(数回)
 ↓
2.息を吸いながら右手に力を入れる(5秒間)
 ↓
3.息を止めたままキープする(5秒間)
 ↓
4.力を抜きながらゆっくり息を吐く(8秒間)

これらの動作を両手両足と順番に行うことで、(意識の)緊張とリラックスという状態を繰り返します。

呼吸で取り入れた空気が身体を巡り、力を入れて抜くたびに徐々に頭の中がリセットされることを感じましょう。

心理的スキルは毎日トレーニングしてこそ効果を発揮

メンタルトレーニングは魔法にあらず

上記の方法を試してみて、いかがでしたか? 何か少しでも実感できたでしょうか? それとも、あまり効果を感じませんか? 実はバッチリ効いたという人は少ないと思います。それは、この方法が一度で効果を得られる「魔法」ではないからです。

メンタルトレーニングは、言葉の通り「メンタル」の「トレーニング」。毎日継続してこそ成果が身につきます。先に紹介した切り替えのスキルもそうです。「いつもの動作」(ルーティン)になるレベルまで意識的に繰り返しながら身につけていくことが大切です。いつもの動作だからこそ、いざという時にその動作を行うことで、自分の意識を「いつも通り」の状態にコントロールすることが可能になるわけです。

日常生活で実践できること

デスクの前だけでなく、生活のさまざまな場面がトレーニングの場になります。ここでは日常的に活用できるメンタルトレーニングのテクニックをご紹介します。

心のスイッチ切り替えテクニック
大きな声で明るくあいさつをします。これは自分の「心のスイッチ」をオンにするテクニックで、スポーツメンタルトレーニングでは一番の基本的テクニックとして重視されています。

明るいあいさつや周囲の人への感謝、人を褒める言葉をいつも口にすることで、考え方がプラス思考になります。自分にはコントロールできない環境や条件に対する不満に気を取られ、自分自身を疲弊させる流れに気づいたら、このテクニックを使って逆方向に心を切り替えましょう。

不安や邪念を「水に流す」テクニック
トイレは気持ちの切り替えに最適な場所です。ぐっと力を入れて息を吐きながら、頭の中の不安や邪念を排尿とともに押し出して、最後に水を流してスッキリ! というイメージを作ります。ヘッズアップ(胸を張り上を向いて)の状態で、強く息を吐きながら、もしくは声を出しながら排尿するといいでしょう。

これを毎日続ければ、例えば1日5回トイレに行くことで、年間1,825回もトレーニングできる計算です。テニス選手が1,800本もサーブを練習すれば、強い武器になるでしょう。それと同じです。いざという場面で緊張してトイレに行きたくなっても、その時が不安な気持ちを切り替える絶好のチャンスになるわけです。

音楽、BGMを意識的に使うテクニック
何となく調子が出る、気持ちが落ちつくといった経験から、仕事中やリラックスタイムに音楽を聴いている方は多いでしょう。その「何となく」に目的を与え、意識的に活用することで、音楽を使って気持ちをコントロールするテクニックを身につけることができます。

例えば、終業時間の1時間前になると「ロッキーのテーマ」を流し、みんなが定時で帰れるよう集中して仕事を終わらせよう、という取り組みをしている企業もあるそうです。

朝の身支度中、通勤通学中、始業時、帰宅後のリラックスタイム……と、シーンにあわせた曲を聴く習慣をつけ、それによって気持ちを切り替えるトレーニングをしておくと、試験本番という日、大事な会議の日など、緊張感のある大切な日でも「曲を聴くことで、気持ちをいつもの状態に切り替えられる」ようになります。

日常生活で少しずつ意識してみる

みなさん、いかがでしょうか?

身体能力のトレーニングとは違い、生活のあらゆる場面を活用できるのがメンタルトレーニングの強みです。集中できる習慣、ポジティブな考え方、不安や邪念に負けない。そんな気持ちを自分自身で身につけられるトレーニングを、毎日の仕事や生活の中で意識してみてはいかがでしょうか。

監修

高妻 容一氏
東海大学体育学部競技スポーツ学科教授
日本メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会 代表
“東海大学メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会”.Facebookページ.
https://www.facebook.com/311651952179748/

ライタープロフィール 笠井美史乃

Webサイトや雑誌で記事の執筆・編集をしています。主な分野は、スマートデバイス、Webマーケティング、企業取材など。緩めのアニメオタクで毎期4〜5本完走しています。生きがいはパフェ。

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