2020年以降、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、急速に拡がったテレワークの導入に苦慮する声の数々が、NEXMAGのもとに届いています。今回は、デジタル領域でのクリエイティブ事業で定評のあるプロダクション、ピラミッドフィルム クアドラに取材。テレワーク環境下での働き方の知見や、働く環境を見直す上で知っておきたいパソコン選びについて、話をうかがっています。

ITトレンド最終更新日: 20210527

クリエイティブプロダクションに聞くテレワーク時代の働き方、PCの選び方

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

2020年以降、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、急速に拡がったテレワークの導入に苦慮する声の数々が、NEXMAGのもとに届いています。今回は、デジタル領域でのクリエイティブ事業で定評のあるプロダクション、ピラミッドフィルム クアドラに取材。テレワーク環境下での働き方の知見や、働く環境を見直す上で知っておきたいパソコン選び(Windowsマシン)について、話をうかがっています。

1 チーム作業を円環にするテレワークのコツを学ぶ

実際のプロダクションの現場について

ビジネスやクリエイティブの現場において、「テレワークだから」は言い訳になりません。ここでは、国内有数のデジタルクリエティブプロダクションであるピラミッドフィルム クアドラ(以下PFQ)が直面した状況や課題を共有しながら、中小企業をはじめとした現場で普遍的に活かせる、テレワーク環境に役立つノウハウやヒントをつかんでいきましょう(2020年12月に取材)。

PFQからは、テクニカルチームに在籍する2名(河野義貴さんと高橋綾乃さん)に話をうかがっています。

※ PFQは、過去にプレプログラミング用の知育アプリ「あるごん」での取材でも登場しています。

“プログラミング教育必修化対策!知育アプリ「あるごん」を体感 | パソコン工房 NEXMAG”.パソコン工房 NEXMAG.2020.
https://www.pc-koubou.jp/magazine/28887

自社開発に積極的で、社内にはプロトタイプ開発の専属チームを構え、コロナ禍で揺れた2020年にも開発を継続。これまで大型の筐体ものも数多く開発してきましたが、2020年は 「透過スクリーンにプロジェクションするデモ」(上)や「ピアノで植物とコミュニケーションを取るデモ」(下)など、限られた場所でも開発可能なコンテンツを次々と生み出しています。

“PROTOTYPE | PYRAMID FILM QUADRA INC”.PYRAMID FILM QUADRA INC.
https://pfq.jp/prototype/

緊急事態宣言前後の状況

PFQは社員数が約60名、そのうちテクニカルチームが約10名。社内には一部の社員に裁量労働制を採用しているため、以前から全社的にテレワーク環境への意識や理解が浸透された状態でした。

<緊急事態宣言前の状況(2020年4月以前)>

・労働裁量制の社員とともに、そうではない社員も1人ひとりの判断で出社か在宅を選べる状態
・在宅環境で仕事をする機会を想定して、社員のほとんどのメインPCはノートPCを使用
・出社率は約8割、在宅中心の社員も一部存在。業務上の支障、トラブルはなし

<緊急事態宣言後の状況(2020年4月以降)>

・一部の部門を除いて完全リモート体制へと移行、従来の基盤が存在するので混乱なし
・従来体制を基に、高いテレワーク率に対応できる体制・仕様・ルールへと改善
・緊急事態宣言解除後、出社率は2割程度

「2020年2月以降は、希望者にはリモートワークを推奨し、順次切り替えていきました。私たちテクニカルチームの場合、3〜4月には案件の一部に凍結も発生しましたが、オンラインでのファイル共有方法など業務上の一通りのルールを以前から確立していた背景があったので、業務上での戸惑いや混乱はありませんでした」(河野さん)

テレワーク環境を円滑にする3点の「気づき」

河野さん、高橋さん両名が口を揃えるのは、テレワーク環境がハンディとならないために、円滑にチーム作業を進めるルール作りが大切という点です。理想は、あらかじめチーム作業や業務に必要なルールを洗い出しておき、プラットフォームや業務支援ツールを通じたデータの管理、共有方法、運用ルールを決めておく。運用上のバグは、その都度対応しながらルールを柔軟に改修する、とします。

2020年12月現在、PFQの出社率が全体で2割前後。ここでは、クライアントだけでなく社内のクリエイティブ部門とも頻繁にやり取りが発生するテクニカルチームに、テレワーク環境でチーム作業の円滑化を支えるポイントを3点挙げてもらいました。

1 報連相(報告・連絡・相談)の重要性
2 自らの計画・予定を細かくチーム内に可視化
3 定期的なオンライン勉強会の実施

1 報連相(報告・連絡・相談)の重要性

チームをまとめる立場から、河野さんは1の大切さを実感した、と語ります。

「出社時なら、相手の席や立ち話などで可能だったちょっとしたコミュニケーションを、きちんと相手と時間を共有して伝える必要があります。“ちょっとしたこと”だからこそ、面倒がらず互いに時間をあわせて伝えないと、伝わりません。軽めのオンラインミーティングに限らず、メールやチャットツールなどの文字化も含めて、相手に伝えることを徹底しています」(河野さん)

2 自らの計画・予定を細かくチーム内に可視化

1が2にもつながっていきます。自分のスケジュールは、なるべく細かく予定を記してチーム内にシェア。一方で、空いている時間帯なら予定を入れていい、というレギュレーションを実行しているそうです。

「相手に伝えることにハードルが出てこないルール作り、取り決めも重要です。例えば、納期前で集中したい時間なら、“ここは外せない時間帯”と申告できるようにして、その時間帯はチームミーティングがあっても不参加OKとするなど、差し迫った状況をチームメンバー全員が把握しやすくしておきます。当然、個々の自己管理も高く求められます」(河野さん)

3 定期的なオンライン勉強会の実施

チーム体制なら、時には顔を合わせる機会を設けながら、メンバー同士の機微を確認できる時間も大切にしたいところです。導入したのが、定期的なオンライン勉強会の開催です。

「独り作業が嫌いではない私でも、寂しさを感じることがありました。より助けを必要としたい若い人たちは、それ以上の寂しさや不安があったと思います。支える側としては、そうした感覚に敏感でありたいです。他にも、チャットツール上に雑談チャンネルを設けて、仕事以外のことを気楽につぶやく場所を設けるなど、風通しの改善は恒常的にやっていきたいですね」(高橋さん)

勉強会の実施は、発表の機会を通じて個々人のスキルアップだけでなく、チーム内の横のつながりや刺激を促す観点が生まれたほか、業務だけでは感じられなかった社員の成長や意欲にも接することができるなど、想定以上の効果を感じているそうです。

2 優先順位は? 現場目線のWindowsマシンの選び方を学ぶ

業務で優先すべきPCのスペックとは?

ここからはもう1つのテーマであるパソコン(以下PC)の選び方、ここではWindowsマシンの選び方についてです。2020年春以降、コロナ禍でテレワーク環境での制作環境を見直し、PC環境などを買い直す動きは、実際にECショップ「パソコン工房」の販売実績にも現れています。

PFQでは、社員へのマシン提供について基本的に選び方の明確な基準は設けていない、とのこと。OSの選択も含めて、一人ひとりの社員の希望を聞いた上で用意します。以下に状況をまとめました。

・一部の社員が裁量労働制のほか、ほぼ全社員が会社と自宅の両方で仕事ができる事態に備えて、ノートPCを選択
・人によって、軽量小型のノートPCに、外部モニタを別途購入
・減価償却の観点から、3〜4年の継続利用を前提にして購入

上記はみなさんの状況とも共通する点があるのではないでしょうか。ここに、Webサイトをはじめデジタル領域の開発・制作するためのPCという観点を加えて選び方の助言を求めると、以下の3点を挙げてもらいました。

1 メモリ容量を確保すること(最低16GB以上)
2 十分なストレージ容量を確保すること
3 ACアダプタは会社用・自宅用を確保すること

1 メモリ容量を確保すること(最低16GB以上)

1点目が十分な「メモリ」容量の確保です。

「特にメモリ容量には気をつけましょう。あくまで一例ですが、主な用途がWeb制作で、BTO(受注生産)でPC購入の場合、Intel Core i5で2.5GHzクラスのクロック数ならば、CPUは十分でしょう。むしろ、複数のソフトウェアを立ち上げたり、VM(仮想マシン)を立ち上げて、Windows上でLinux OSを動かしたり、複数の作業を進める場合に気になるのはメモリ消費で、4GBや8GBだと厳しいわけです。予算も限られますから、1クラス上のCPUを選ぶならメモリ容量の大きさを優先しましょう。最低でもメモリ16GB、可能なら32GBに変える方が業務上の恩恵は大きいです」(河野さん)

2 十分なストレージ容量を確保すること

2点目が十分な「ストレージ」の確保です。

「外部ストレージやサービスを使っていると、意外と意識がいかないかもしれませんが、メインPCに実装できるストレージ容量も軽視しない方がいいです。例えば、Adobe CCの各ツールのファイルサイズは結構重いので、SSDで256GBだとすぐつらくなってくると思います。ましては、3Dデータや映像ファイルを扱うならなおのことです。業務での利用なら、最低でも512GB、可能なら1TBのストレージは用意したいところです」(河野さん)

3 ACアダプタは会社用・自宅用を確保すること

3点目がACアダプタについてです。ノートPCの持ち運びの際に、実はネックになりがちで、ACアダプタ自体もそれなりに重さがあり、持ち運びのカバンの中も占有します。ついカバンに入れ忘れれば、その日は充電の残量を気にした作業を強いられるかもしれません。

「買い替えの際に会社にお願いをして、私は買ってもらいました(笑)。持ち運びを気にしなくてよくなるのは、意外と大きなメリットです」(高橋さん)

「ACアダプタは一例で、ACアダプタでなくても他の周辺機器が揃うとその人のパフォーマンスが向上するなら、建設的な投資としてあわせて購入を検討できるといいと思います」(河野さん)

PC選びでは忖度しないこと!

最後に二人が強調したのが、マシンスペックを理由に日頃の業務パフォーマンスに支障が出ては本末転倒だということです。PC選びの最大の注意点は「忖度しないこと」です。

「必ず当事者意識を持って選ぶことです。日々の業務で使い続けるPC(武器)ですので、性能の妥協はダイレクトに業務への支障につながります。後から増設できない仕様も増えていますし、一度買った以上は数年単位で使うものですから、長くパフォーマンスに耐えられるスペックを確保してください」(河野さん)

2021年以降は、テレワーク環境を大きく考慮した、従来のPC選びにとらわれないことも大切です。

「選ぶ際に気を遣う人は出てきます。上長などの立場で気づいたなら、“メモリやストレージの希望は、遠慮しないで”“周辺機器のリクエストがあるなら気軽に言ってみて!”と一声かけましょう。開発者志望の新入社員なら、自宅環境のプライベートPCが高スペックという人もいるはずです。自宅環境に比べて、会社PCがグッと低いスペックでは、相当なストレスのはず(苦笑)。予算ありきですが、一人ひとりの異なる状況にあわせて、当人のしっくりくる状態を一緒に模索できるといいですね」(河野さん)

最後に、これまでの解説を元にしたテレワークにお勧めしたい基本的なPCを紹介いたします。このスペックを基準にして、メモリやSSDの容量など、必要な部分を強化すると良いでしょう。

ライタープロフィール 遠藤義浩

フリーランスの編集者/ライター。雑誌『Web Designing』(マイナビ出版)の常駐編集者などを経て、主にデジタルクリエイティブやデジタルマーケティング分野の媒体の編集/執筆、オウンドメディアの企画/コンテンツ制作などに携わる。

記事を
シェア