

AMDの意欲作である第3世代RyzenよりRyzen 9 3900X、Ryzen 7 3800X、Ryzen 7 3700X、Ryzen 5 3600X、Ryzen 5 3600 をベンチマークで試してみました。
新しい「Zen2」アーキテクチャの採用で一新された第3世代AMD Ryzenプロセッサー。7nmプロセスルールで微細化・省電力化が行われたことで、動作クロックの向上やL3キャッシュメモリの搭載量が倍増されるなど、CPUコアの刷新だけには留まらない強化が行われています。さらにPCI Express Gen4.0への対応や最新の分岐予測「TAGE」の採用など、とても意欲的な製品となっています。
「Zen2」アーキテクチャ搭載で一新された第3世代Ryzen
新しい「Zen2」アーキテクチャの採用で従来のRyzenシリーズから一新された第3世代AMD Ryzenプロセッサーは、CPUコアの刷新だけには留まる事無く、動作クロックの向上やL3キャッシュメモリ搭載量の倍増、PCI Express Gen4.0への対応や最強の分岐予測「TAGE」の採用など、各部位で強化が行われたとても意欲的な製品となっています。
また、第2世代Ryzenまではライバルに後れを取っていたクロック当たりの処理能力(IPS)や浮動小数点演算性能など、弱点だった部分でも積極的な強化が行われています。
第3世代Ryzenの主な特徴としては、
■ CPUコアに新しい「Zen2」アーキテクチャを採用
■ 7nmプロセスルール
■ 最上位モデルとしてThreadripperと同じコア数/スレッド数を搭載したRyzen 9 が追加
■ L3キャッシュメモリの搭載量が倍増し、ゲーミング性能を最大で21%向上
■ メインメモリとしてDDR4-3200メモリに対応
■ 一般向けとしては初のPCI Express Gen4.0に対応
■ AVX処理が128bitから256bitに拡張されるなど、浮動小数点演算性能を最大2倍に強化
■ 対応チップセットは最新のAMD X570だけでなく、AMD 400/300シリーズでも使用可能(※BIOSの対応が必要です)
などが挙げられます。
Ryzen 9 3900Xのパッケージは、従来とは異なるデザインとなっています。右下の「9」が大きめにプリントされています。
Ryzen 7 3700Xのパッケージは従来から踏襲されたデザインとなっています。
Ryzen 5 3600Xのパッケージデザイン。
Ryzen 9 3900X | Ryzen 7 3800X | Ryzen 7 3700X | Ryzen 5 3600X | Ryzen 5 3600 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
製造プロセス | 7nm | |||||
コア/スレッド | 12/24 | 8/16 | 8/16 | 6/12 | 6/12 | |
動作クロック | 3.8GHz | 3.9GHz | 3.6GHz | 3.8GHz | 3.6GHz | |
TurboCore | 4.6GHz | 4.5GHz | 4.4GHz | 4.4GHz | 4.2GHz | |
キャッシュ(L3) | 64MB | 32MB | 32MB | 32MB | 32MB | |
PCI-Express | Gen | 4.0 | ||||
レーン数 | 16 | |||||
メモリ | 対応メモリ | DDR4-3200 / 2933 / 2667 / 2400 / 2133 | ||||
最大容量 | 128GB※1 | |||||
TDP | 105W | 65W | 95W | 65W | ||
GPU | 搭載なし | |||||
64bitコード | AMD 64 | |||||
SIMD命令 | SSE | SSE4.1/4.2 | ||||
AVX | AVX2 | |||||
仮想化 | AMD-V | 〇 | ||||
セキュリティ機能 | NX ビット | 〇 | ||||
AES | 〇 | |||||
対応ソケット | AM4 | |||||
対応チップセット | AMD X570・X470・B450・X370・B350 |
第3世代AMD Ryzenプロセッサーのスペック比較
それでは、第3世代AMD Ryzenプロセッサーでベンチマークテストを実行していきましょう。ベンチマークで使用したのは、Ryzen 9 3900X、Ryzen 7 3800X、Ryzen 7 3700X、Ryzen 5 3600X、Ryzen 5 3600の5種類です。
比較対象としては、Ryzen 9、Ryzen 7、Ryzen 5とそれぞれ同じコア数/スレッド数となるCore i9-9920X(12コア/24スレッド)、Core i9-9900K(8コア/16スレッド)、Core i7-8086K(6コア/12スレッド)を用意しました。
ベンチマークテスト
Passmark PerformanceTest
まずはCPUの全体的な性能を数値化するPassmarkの『CPU Benchmarks』を用いて、CPUの総合的な演算性能を見てみましょう。
CPU Mark
同じコア数/スレッド数同士での比較では、第3世代AMD Ryzenプロセッサーの圧勝でした。Ryzen 9 3900Xのスコアは頭一つとびぬけており、ハイエンドデスクトップクラスのCore Xシリーズよりも高いスコアとなりました。
またRyzen 7 3800XやRyzen 7 3700XのいずれもCore i9-9900Kを超えており、下位モデルのRyzen 5 3600ですらも Core i7-8086Kを超え、Core i9-9900Kに比肩するスコアをたたき出すなど、第3世代AMD Ryzenプロセッサーの優秀さが際立っています。
個別のテスト結果を見ても、「Zen2」アーキテクチャで強化された浮動小数点演算(Floating Point Math)やSSE、シングルスレッドのスコアで軒並み良い結果を出しており、従来のRyzenシリーズで弱点とされてきた部分で確実な底上げをなされている事が確認できました。。
浮動小数点演算
SSE
シングルスレッド
3D Mark CPU test
次いで、3D Mark「Fire Strike / Physics Score」と「Time Spy / CPU Score」を用いて、CPUの演算性能を見ていきます。「Fire Strike / Physics Score」「Time Spy / CPU Score」共に、CPUに物理演算をさせてその処理速度を数値化したもので、CGレンダリングや動画のエンコードと同じくCPUのコア・スレッド数の多さが有利に働くテストです。
3D Mark Fire Strike
ゲーミング系ベンチマークにおける「CPU処理」についてもライバルに引けを取る事が無く、Ryzen 9 3900XはCore i9-9920Xを超え、Ryzen 7 3800X、3700XはCore i9-9900Kを、Ryzen 5 3600X、3600はCore i7-8086Kと互角の戦いを繰り広げています。L3キャッシュメモリの増強が見事に効果を上げているようです。
続いて「3D Mark Time Spy」のCPU Scoreを見てみましょう。
3D Mark Time Spy
「Fire Strike / Physics Score」とは異なり、やや引き離された結果となりました。「Time Spy / CPU Score」はDirectX 12ベースのベンチマークテストのためCPU内蔵GPUも演算処理に機能するので、GPUを内蔵するCore i9-9900KとCore i7-8086Kには分が良かったのではないかと思われます。
一方で、CPU内蔵GPUを搭載しないCore i9-9920Xに対してはRyzen 9 3900Xが圧勝しており、CPUどうしでの比較の場合ならRyzenが有利か、互角となるようです。
TMPGEnc Mastering Works 6
最後に、動画編集ソフトのTMPGEnc Mastering Works 6を用いて、QuickTimeファイル(1920x1080/2分40秒)をh.265に変換するのに要した時間(単位:秒)を測定しました。グラフの短い方がより高速に処理を行っている事になります。
TMPGEn
AVX処理が256bit化された効果がてきめんに表れています。従来はライバルのCoreシリーズに一歩も二歩も譲っていたベンチマークですが、ものの見事に追いつき、追い越しています。同じコア数/スレッド数同士での比較では、Ryzen 5 3600XとRyzen 5 3600がCore i7-8086Kに僅差ながらも離されていますが、処理時間の長短には動作クロックも反映されるためCPUコア自身の処理能力はほぼ互角と見なしていいのではないかと思われます。
Ryzen 9 3900XはCore i9-9920Xを大きく引き離しており、エンコード作業においてもかなり強力な処理能力を持つことが確認できました。録画した配信動画を編集する際などではRyzenのコスパの良さが特に光るでしょう。
魅力あふれる優秀な第3世代Ryzen
第3世代AMD Ryzenプロセッサーは、強かった部分に更なる磨きをかけ、弱点とされていた部分は見事に穴埋めをされていました。弱点が解消されたことで、どこをとってもパフォーマンスの高いCPUとなっています。
特に注目すべきは、Ryzen 5 3600で、Core i7-8086Kに匹敵する、もしくは上回るパフォーマンスを見せており、コストパフォーマンスの良さが際立っています。
また、Ryzen 7 3800X、3700Xはいずれも、Core i9-9900Kに匹敵するもしくは上回っており動画のエンコードだけでなくゲーミング性能も上げてきたことからゲームもクリエイティブも両立させたい高いパフォーマンスを求めるユーザーに最適な選択となるでしょう。
そして今回より初登場のRyzen 9 3900Xは、CPUだけで10万円以上という高額になりがちなハイエンドデスクトップ帯に大きくメスを入れるほどのパフォーマンスと価格を実現しており、コア数が多いと通常では下がるシングルスレッド性能も下がることなく上位クラスの性能を見せつけ、ライバルを寄せ付けない圧倒的な性能を見せてきました。
今回は検証できませんでしたが、これからどんどんと登場して来るであろうPCI Express Gen4.0対応のグラフィックスカードやNVMe SSDを搭載すれば、パソコン全体としての使い勝手や体感速度が飛躍する事が予測されます。X570チップセットと合せて、そんな将来を見越しての基盤としても良いかも知れません。もちろん、CPU自体のパフォーマンスを見込んで、CPUだけを換装するのも良いでしょう。
第3世代AMD Ryzenプロセッサーが多くのユーザーとって魅力あふれる優秀なCPUである事に疑う余地は無さそうです。
CPU | Ryzen 9 3900X Ryzen 7 3800X Ryzen 7 3700X Ryzen 5 3600X Ryzen 5 3600 |
Core i9-9920X | Core i9-9900K Core i7-8086K |
---|---|---|---|
マザーボード | ASUS PRIME X570-PRO |
ASUS PRIME X299-A |
ASUS PRIME Z390-A |
メインメモリ | DDR4-2666 16GB (8GB x2) | ||
グラフィックス | GeForce GTX 1080 Founders Edition (ビデオメモリ 8GB) | ||
ストレージ | Intel 760p SSDPEKKW512G8XT(512GB M.2 NVMe) | ||
電源 | FSP AURUM 92+ PT-650M(80PLUS Platinum、650W) | ||
OS | Windows 10 Home 64bit (バージョン:1809) | ||
ビデオドライバ | GeForce Game Ready Driver Ver430.86 |
ベンチマークテストで使用したPC構成表

Windows2000登場前からほぼ一貫してPC製造部門に従事。PC組立はもちろん、OSイメージの作成や製造時のトラブルシュートを行う。 その経験を生かしてOSの基本情報や資料室を担当する事が多い。