デザインディレクター・吉原潤さんが語る、リモート時代の最適なWebディレクションのあり方についてまとめています。

クリエイター最終更新日: 20220818

リモート時代のWebディレクション術 デザインディレクター吉原潤氏が語る

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テレワーク、リモート環境での業務機会が増えた昨今、ビジネスやクリエイティブの現場では、プロジェクトの進行がフルリモートというケースも少なくありません。今回は、フルリモート環境でWebサイト制作などのデジタル案件に取り組む場合、成果につながる進め方のコツについて、デザインディレクターの吉原潤さんに話をうかがいます。

吉原潤さんの詳しいプロフィールは、NEXMAGで公開中の以下の記事をご覧ください。
“長く第一線で働けるクリエイターであるために。吉原潤氏に聞く| パソコン工房 NEXMAG.”パソコン工房 NEXMAG.2021.
https://www.pc-koubou.jp/magazine/38364

資料・ドキュメント作りの時間を確保する

-Webサイトなどの成果物を制作する案件でディレクションをする場合、制作側に向けたディレクションと、発注側・企業側の担当者と折衝する場面が考えられると思います。今回は、これら2つの場面を念頭に置きながら考えていきたいです。

吉原:リモート体制ベースの案件の場合、ここ近年の僕自身が直面する傾向を言うと、要所の会議やミーティングになるほど、より精緻な資料・ドキュメントの提示が求められます。

対面の機会があると、相手を見ながら口頭で補足できる前提の、要点だけに絞った資料でも何とかなりました。一方リモートの現場では、パソコンの画面越しで「確実に伝わること」が大切ですので、話す内容もすべてドキュメント化するような意識で構成し、用意します。資料作りには、まとまった時間をかけることをお勧めします。

デザインディレクターとして活躍中の吉原潤さんデザインディレクターとして活躍中の吉原潤さん

-両者に向けたアプローチを適切で円滑に行うために、「伝えたいことがしっかり相手に伝わること」が大事、ということですね。

吉原:はい。中でも「しっかり相手に伝わること」の手段の1つが、精緻なドキュメント化です。相手の反応を見ながら経験を重ねて、精緻具合や表現方法を磨いてほしいです。

-とはいえ、満足な準備時間が取れない場面も出てくることもあるかと思います。

吉原:制作側の立場から言うと、短期間の準備だとざっくりした内容しか作れません。会議やミーティングの質を高めるためにも、可能な範囲で準備時間に理解を得られる関係性を築きたいです。

リモート環境で失敗しないための準備

-資料・ドキュメント作りを万全にした上で、直接会わないことがハンディにならないための注意事項は、他に何が挙げられますか?

吉原:やり取りで双方のストレスになりやすいのが「音」(聞こえないこと)です。なるべく外付けのマイクは用意したほうがいいと思います。

特に気をつけてほしいのが、1つの部屋に複数の人間が集まるケースです。1台のパソコンに向けてそれぞれの席から話をすると、席によって聞きづらい人が必ず出てきます。せめて集音性の高いマイクを別途用意しましょう。聞こえない側は何度も相手に聞き返しづらいですし、何度も聞き返された側もテンションが下がってしまいます。

-自分たちが思っている以上に、相手に聞こえていない可能性について意識をする必要がありますね。

吉原:なるべく1人に対してパソコン1台で参加するのがベターです。1つの部屋で複数人が対応する場合でも、ハウリング(音声トラブル)の防止でマイクオンは1台だけにするとして、1人1台の参加が無難です。特に画面(ビデオ)オンで進める会議なら、そのほうが互いの顔も確認しやすいでしょう。リモート会議は、いかにテンポを崩さず円滑に進められるかどうかが肝ですので、そのための配慮は欠かさないことが重要です。

一度でも会えるなら会っておく

-リモートありきのプロジェクトでも、顔を合わせる機会はつくった方がいいものでしょうか?

吉原:もし可能であれば、一度は直接対面する機会があると理想的でしょう。一度会って、互いに相手の雰囲気に触れたり、言葉を交わしながら人柄に接したりする機会が持てると、リモートの場面になった時、相手の立場になって想像もしやすくなります。

-一度でも会ったことがあると、心理的な近しさも生まれますね。

吉原:人と人とのやり取りですので、利便性ばかりを優先して「会う機会」をまったく設けないのはもったいないです。場所やタイミングで難しい場合はあるので、あくまで「可能であれば」という言い方になりますが、初回にあたるキックオフミーティングは優先的に対面の機会を作っていいかもしれません。

リモート現場での心がけ1:話す時はビデオオン

-音への配慮の話がありましたが、Webディレクションを進める中で、吉原さんが心がけていることを教えてください。

吉原:リモート中に自分自身が話す際は、基本「ビデオオン」にします。伝えたい相手に、自分の顔を映しながら話す方が、顔の表情も含めて内容が伝わりやすいからです。定例のメンバーでやるなら、なるべく全員がビデオオンで臨むと、発言がなくても表情から反応が感じられます。

もちろん、参加者の都合があるので、顔出しを決まりごと、強制にするのはよくありません。中には、ネットワークの帯域を使わないために顔を出さないルールにしている企業もあるため、相手の状況にも配慮した上で、となります。自分が話をする場面は自己判断ができるので、僕はビデオオンを心がけています。

リモート現場での心がけ2:進行の仕切りを意識する

吉原:リモートで会議やミーティングを行う場合、必ず冒頭で、会議の趣旨を明確化してから始めています。例えば、何の目的で行い、どの内容を確認し最終的に何を決めるのか? もしくは説明だけの会議なのか? 会議が終わった時に、趣旨の達成ができているのか(確認したかったことがわかり、決めたいことが決まったのか)? これらがちゃんと担保されることを意識します。

例えば、箇条書きで趣旨をまとめたドキュメントを用意して、会議の冒頭で画面に移すといいでしょう。

-特にマンネリ化しがちな定例会議は、1回ごとの目的を鮮明にできれば、引き締まった会議になりそうですね。

吉原:進め方で言えば、1トピックごとで必ずインターバルを設けて、発言したい人の発言機会を担保するようにします。リモート会議は、どこで話し出せばいいかわからない場面がよくあります。対面と違ってアイコンタクトがしづらく、合いの手が入れづらいので、意図的にそうした時間帯を設けましょう。

リモート現場での心がけ3:相手にあわせたツールを利用する

-ツールについては、どのように考えておくといいでしょうか。

吉原:制作チームに対しては、デジタルツールのやり取りが当たり前、手慣れたメンバーで構成されているので、僕の場合は機敏なやり取りを重視します。日頃の業務上のやり取りはSlackやChatworkなどのチャット系ツールを用いて、込み入った内容はビデオ会議で補足します。

クライアントに対しては、相手の状況によりますが、無理にチャット系ツールを使わず、メールベースのやり取りの方がトピックの管理がしやすいです。デジタルツールが苦手という相手でも、メールに抵抗を覚える人はほぼいないからです。

制作上のタスク管理で言えば、WBS(Work Breakdown Structure)をどの程度まで細かく、各関係者に共有するかという判断が出てきます。例えば、小中規模の案件でクライアントがあまりデジタル案件に慣れていなければMicrosoft ExcelやGoogle スプレッドシートで用意しておくといいでしょう。ただし、アップデートが頻繁にある現場だと、修正しづらいことがあります。

その場合、アップデートがしやすく、ドラッグ&ドロップなどの直感的な操作でタスク管理しやすいマネジメント系ツールの導入を検討するといいでしょう。

-何かおすすめのツールはありますか?

吉原:参考までに、僕はAsana(アサナ)というワークマネジメントツールを利用しています。WBSはあまり細かな内容を反映しても、一部の人以外は見てもらえず、該当者にとってもわかりづらかったりします。その点Asanaは、ほどよいボリューム感と直感的な操作でタスク管理ができます。クライアントやチームメンバーからツールの指定がなければ、自分の使いやすいツールを見つけておき、関係者にも導入してもらうと進めやすいです。

生活動線上にコワーキングスペースを見つけておく

吉原:もう1点、都市圏に限られてしまうかもしれませんが、参考にしてほしいことがあります。生活動線上に、リモート会議に対応できるコワーキングスペースなどの外部施設をいくつか見つけておくと便利です。出先で急遽会議やミーティングに入らなければならない時など、守秘義務を考えると、カフェなどで行うわけにいきません。

ご自宅、ご家庭でリモートワークがしづらい人たちもいらっしゃるので、いざという時に備えて見つけておくこともお勧めしたいです。現実的な価格設定をしているところが増えていますので、選択肢として持っておけると便利です。

パソコンや周辺機器の整え方について

-最後に、リモート体制でWebディレクションに関わる際の環境についてお教えください。

吉原:何かしら制作に携わる方であれば、制作に支障が出てこない一定以上のスペックを備えたマシンを用意していると思います。ビジネス利用が主というパソコン(PC)であれば、リモート会議のオーサーになる機会があるかもしれません。あまりメモリの積んでいないマシンでオンライン会議を開くと、マシンが固まる要因になります。今一度、一定のスペックが確保されているPCなのかを確認した方がいいでしょう。

―加えて、冒頭でおっしゃっていた「音」への配慮ですね。

吉原:ヘッドセット、マイク付きのイヤホン、同じ部屋で複数人が参加する会議の機会があるなら集音性の高いマイクなど、参加する環境にあわせて用意してほしいです。相手にしっかりと自分の声が聞こえるための設備を揃えてください。

たまに見かけるのが、逆光になってものすごく暗く映し出されている場合です。自分の環境が暗くないかを確認し、安価な簡易ライトでOKですので用意できるとかなり改善できます。音とともに、顔、表情の印象も大事にしたいです。

ー今まで気にされていなかった方は、自身のPCスペック・音声・映像について改めて確認してみるといいかもしれません。この度はありがとうございました!

ライタープロフィール 遠藤義浩

フリーランスの編集者/ライター。雑誌『Web Designing』(マイナビ出版)の常駐編集者などを経て、主にデジタルクリエイティブやデジタルマーケティング分野の媒体の編集/執筆、オウンドメディアの企画/コンテンツ制作などに携わる。

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