デジタルに関わるクリエイターや企業のデジタル担当者であれば、一通りのデジタル関連ワードは理解しておきたいところです。ここでは「8K」を取り上げます。クリエイティブやビジネスの現場で最低限備えておきたい8K全般の知識についてまとめました。さらに8Kを意識した実行環境、パソコンの環境についても一緒に考えていきましょう。

クリエイター最終更新日: 20210520

デジタル初心者のための8K基礎講座

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デジタルに関わるクリエイターや企業のデジタル担当者であれば、一通りのデジタル関連ワードは理解しておきたいところです。ここでは「8K」を取り上げます。クリエイティブやビジネスの現場で最低限備えておきたい8K全般の知識についてまとめました。さらに8Kを意識した実行環境、パソコンの環境についても一緒に考えていきましょう。

8Kを巡る背景

2021年は、4Kから8K時代への幕開けと呼べるタイミングになるかもしれません。

4Kについては、2015年に4K対応のUltra HD Blu-rayが発売開始。2018年12月1日からはBS(衛星放送)で家庭向けに4K放送が本格的に開始されました。40V型、40インチ以上のテレビの大半が4K対応、次世代の家庭用ゲーム機「PlayStation 5」「Xbox Series X」も従来のフルHD(2K)を上回る4K(解像度:横3,840画素 × 縦2,160画素)のコンテンツに正式対応するなど、コンテンツの主軸が従来の2Kから4Kへと移っています。

さらに2021年には東京オリンピック・パラリンピック(予定)を控え、多くの競技が4Kを超える8Kで放映予定。テレビメーカー各社から8K対応テレビの市場投入が相次いでいます。

PCの世界では、例えば1世代前のグラフィックカードNVIDIA GeForce RTX 2080やAMD RX5800などが4Kコンテンツを扱えましたが、現世代のNVIDIA GeForce RTX 3080/3090になると、手軽に4Kを扱えて、さらに8Kゲーミングにも対応。PlayStation 5やXbox Series Xは、2021年のアップデートで8K対応が予定されています。

8Kとは何か?

8Kの映像とは、横 × 縦の解像度が7,680画素 × 4,320画素(pixel)を持つ映像のことです。

8Kサイズの画質に対応できる放送のことを「8K放送」と呼び、ゲームなら「8Kゲーミング」、テレビだと「8Kテレビ」と呼びます。1km、1kgのように、1,000をキロ(K)と表し、横の解像度が約8,000であることから「8K」という呼称になっています。同じように、4Kは3,840 × 2,160、フルHD(2K)は1,920 × 1,080という解像度です。

画素数で比較すると、8Kは2Kの16倍、4Kの4倍です。画素密度が同じであれば、8Kは2Kの16倍の面積を描画でき、画面の面積が同じであれば、16倍緻密な描画が可能となるわけです。

超解像度の8K映像の活用例でわかりやすいのは、テレビ放送でしょう。2014年のブラジル・リオオリンピックが4Kで放送され、臨場感の伝わる4K映像の記憶がまだ残っているユーザーもいると思います。2021年開催予定の東京オリンピック・パラリンピックでの8K映像なら、さらに圧倒的な没入感が予想されます。Netflixに代表されるストリーミングサービスが4K映像普及の端緒となったように、将来的にはストリーミングでより高精細で臨場感あふれる8K映像を身近に体験できる時代の到来が期待されます。

8Kの具体的な活用分野

8K映像は、視聴コンテンツだけではない活用方法が模索されています。フルHDの16倍という解像度を活かして、次のような分野への適用が進められています。

1 広告・デジタルサイネージ分野
2 遠隔管理
3 美術品展示
4 医療分野

1 広告・デジタルサイネージ分野

広告・デジタルサイネージ分野では、従来からディスプレイは用いられてきました。8Kの高解像度によって、例えば映像の拡大で細部を鮮明に確認できたり、実物がなくとも8K映像ならまるで実物があるかのような臨場感を消費者にアピールできるコンテンツ作りの可能性があります。

また、次世代大容量通信規格「5G」と8K映像を組み合わせる施策も考えられます。例えば、通行中の自動車をカメラで撮影し、画像分析に基づき車種によってターゲティングを変えて屋外広告の内容も変更できる、といったことも実現されるかもしれません。

2 遠隔管理

1と同様、5Gと組み合わせることでさらに可能性を広げることができます。従来はその場所まで行く必要があったことが、高精細な映像と高速通信で遠隔地からの実施が可能になるでしょう。例えば、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)とKDDIなどによると、2019年11月13日より、ドローンからの撮影による8K映像を、5Gを使ってリアルタイムに伝送し、馬のトレーニングの様子や厩舎内での様子を遠隔から観察、見守りを行う実証試験が行われています。

3 美術品展示

美術品や工芸品の展示では、8Kの高解像度により、微細なディテールまで鮮やかな描写が可能です。また、学術的な分野では、肉眼では難しい美術品や工芸品、建築物などを拡大して見ることで、緻密な作業や技術の解明も促すはずです。ある意味では、肉眼で直接美術品などを見る体験を越えるほどの映像提供も可能でしょう。

4 医療分野

最も注目されているのが、医療分野への適用です。従来は、小さく解像度が低いモニターを見ながら行われていた内視鏡手術も、高精細な8Kモニターの利用なら、組織の質感や0.02ミリメートルしかない手術用の糸などの細部まで描画されます。実際、よりスムーズかつ安全な手術に活用されています。

さらに、新型コロナウィルスの流行でも注目を集めるリモート診療に対しても、従来は患者の微妙な顔色の変化や質感の変化を映像越しの判断が難しかったものが、8K映像の活用で、より詳細な状態を判断できると期待されています。

8K対応のコンテンツ制作について

ここからは視点を変えて、8K対応のコンテンツ制作を考える場合を考えます。先ほど説明した通り、8Kは「2Kの16倍」の面積を同時に描画します。

2Kを起点に考えるなら、8Kだと単純に16倍の処理性能が必要です。特にCGでは解像度が上がると、精細な映像を生み出すためのポリゴン数が飛躍的に増加するため、処理が非常に重くなります。つまり、編集作業などに非常に高性能なパソコン(以下PC)が必要となります。処理の重さを回避するためには、実際の制作時にはプロキシファイルを用います。プロキシファイルとは、は、代理の役目を果たすファイルのことで、元データの画質を落とし、ファイル容量を軽くした仮のファイルのことです。

このプロキシファイルと元データを、例えばAdobe Premiere Proのような映像編集ツールで紐づけて編集すれば、編集作業上はハイスペックなPCでなくても対応できます。ただ、元ファイルとプロキシファイルという2つのファイルが必要となる分、ストレージを圧迫します。また、最終的には編集後のレンダリングでハイスペックなPCが必要です。

そして、レンダリング処理のマシンで、特に重要になるのがGPUです。処理の特性上、CPUよりもGPUで処理させたほうが処理速度が向上します。2020年に登場したGPUの中で、8Kに対応しているNVIDIA GeForce RTX 3090や、その後継のNVIDIA GeForce RTX 4090は、8Kの描画はもちろん、コンテンツ制作での処理、CGのレンダリングや画像編集なども8Kのような高解像度の作業で圧倒的な処理速度を提供できる設計です。

過去にNEXMAGでは、ベンチマークテストの結果を提供しています。

“GeForce RTX 3090 発売情報・ベンチマークレビュー | パソコン工房 NEXMAG”.パソコン工房 NEXMAG.2020.
https://www.pc-koubou.jp/magazine/43387

“GeForce RTX 4090 発売情報・ベンチマークレビュー | パソコン工房 NEXMAG”.パソコン工房 NEXMAG.2022.
https://www.pc-koubou.jp/magazine/71236

コンシューマーとして8Kコンテンツを利用する時はもちろん、クリエーターとして8Kコンテンツを制作する際にも、NVIDIA GeForce RTX 3090や4090は大きな役割を果たすことになるでしょう。

8Kを意識したPCや周辺機器について

8Kコンテンツ制作は非常に重い処理を求められるので、GPUにNVIDIA GeForce RTX 3090/4090は必須でしょう。一世代前のNVIDIA RTX TITANが約40万円の相場ですが、RTX 3090/4090はより低価格ながらそれ以上のパフォーマンスを実現します。また8Kコンテンツを楽しむ場合、主な用途はゲームになりますが、GeForce RTX 3090/4090は、8K60p(8K解像度で毎秒60フレーム)に対応しているGPUですのでやはり外せません。他に、CPUならZen 3マイクロアーキテクチャーを採用するAMD Ryzen 5000シリーズ以降や、Rocket Lakeを採用するIntel 第11世代 Coreプロセッサー以降が中心になるでしょう。また、SSDならNVMe対応など、CPUやストレージもできるだけ高性能なパーツを選びましょう。

8Kコンテンツに最適だと筆者が考えるPCは、上記の説明を意識した下のようなスペックを有するマシンです。

最後にモニターにも触れておきます。コンテンツを制作する側も楽しむ側も、一番の問題がモニターです。8K対応のモニターは扱い自体が非常に少なく、あっても高価です。8Kで描画される高精細な映像は8K対応モニターが最善ですが、現状は4Kモニターで一時的に代用するのが現実的です。

8Kがブレイクする素地は整いつつあります。普及にはもう少し時間がかかるかもしれませんが、今から8K対応に先鞭をつけておき、将来的に間違いなく来る大きな8Kの潮流に備えたいところです。

ライタープロフィール 野澤智朝

広告クリエイティブや技術、ガジェットなどを取り上げるメディア「ニテンイチリュウ」の運営者であり、現役マーケター。デジタルクリエイティブやデジタルマーケティングに関するメディアで連載を担当してきたほか、各種記事の寄稿が多数。

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