

The Circle第1回目のクリエイター朝倉 涼さんから、いま最も注目するクリエイターとして紹介して頂きました。The Circle第2回目のクリエイターは松岡 勇気(_heki)さんです。
アート性の高いCG作品を多く手掛けられていて、身近なものとしてはNHK大河ドラマ「どうする家康」の番組冒頭に流るアニメーションも松岡さんが担当されました。
松岡さんの携わった作品
「VINYL TOKYO」
NHK大河ドラマ「どうする家康」 オープニングアニメーション
NHK大河ドラマ「どうする家康」 オープニングアニメーション
CGWORLD 2023 CREATIVE CONFERENCE Station ID
Adobe MAX Challenge 2025「Create magic.」
Adobe MAX Challenge 2025 「Create magic.」
朝倉さんとのご関係は?
朝倉さんがCinema 4Dというソフトウェアの勉強会を企画されて、その勉強会に参加したのがきっかけです。もう14、5年ほど前のことになりますね。
失礼ですが、松岡さん今おいくつですか?
39才です。来年で40です(笑)
!?お若く見えますね…今の肩書は何になるんでしょうか?
肩書きはモーションデザイナーとディレクターです。映像をデザインから考えて作ったり、グラフィックを動かしたり、映像のディレクションをしています。キャリアは15、6年、現在はMULTRAというデザインスタジオに所属しています。
インタビューに答える松岡さん
留学~LAのテレビ局~JTBで奮闘!
映像やデザインはどこで習得されたの?
全部独学です。元々体育会系で、高校時代は体操部に所属していました。高校卒業後、アメリカに留学して、短大から4年制大学へ編入。音楽史と理論を専攻していたものの、学費が高すぎて続けられなくなり…そこでせめて英語を話せるようになりたくて、スピーチコミュニケーションという専攻に変えて卒業という感じで、デザインや映像とは遠い生活を送っていました。
スピーチコミュニケーションからどうやって映像の世界へ?
在学中、ニコニコ動画で、歌ってみたやボカロにハマり出して、自分でも映像を作りたくてWindows ムービーメーカーを触り始めたのがきっかけです。その後、Adobe Premiereを購入して、After Effectsと出会って、いつの間にかこんな感じに(笑)
大学卒業後は?
卒業後、ロサンゼルスのテレビ局で8ヶ月ほどインターンをしました。そこでAfter Effectsで作った作品をCGディレクターに見せ、「すごいね!」と褒めてもらったことがモチベーションになり、さらに作り続けていって…
そのままLAのテレビ局に就職?
その後、生活費を稼ぐために、テレビ局のインターンを辞めて、JTBロサンゼルス支店でカスタマーサービスのアルバイトを始めました。
JTBって旅行会社の??
はい。現地のホテルにあるツアーデスクで、お客様対応をしたり、事務作業を行ったりしてました。日本からLAに来るJTBパッケージのお客様を案内するみたいな?「○○の予約取ってほしい」とか、「○○に行きたい」とか、お客様の要望に応える仕事で色んな経験をしました。
近くのホテルでお客様が困っているとのことで向かったら、非常に興奮されたグループから「もっと上の者を出しなさい」「君じゃ話にならない」と言われてしまったり(笑)。一方で、レストランの予約代行や観光スポットまでの道案内をしたお客様から、帰り際にお礼の手紙を頂いたりと、本当に色々な出来事がありましたね。
海外在住時には思いもよらない出来事が・・・
きっかけはニコ動とmixi
すみません、それからどのような道程で映像の世界に繋がるんでしょうか?
JTBで働きながらも、ニコニコ動画に入り浸り、映像作りを続けていました。作品を投稿したり、知り合った人たちの動画を担当したり。その反応が楽しくて、「もっと作ろう」というループにハマっていきました。それから、mixiで広がった繋がりで、オフ会や旅行にも参加するようになり、映像制作の世界にどんどん引き込まれていったんです。
でも、ビザが切れて帰国することになり、じゃあ映像の仕事してみようってことで決心して、会社を調べて、「映像作家100人」や「CGWORLD」を買い、興味のある会社にメールを送りました。インターンでもバイトでもいいからと、10社くらい送った結果、何社か引っかかり、インターンから正社員、フリーランスを経て、今に至ります。
松岡さんのデスクやMULTRAの社内にはたくさんの本が
フリーランスよりチームワーク
組織に入っている方が松岡さんには向いてるんでしょうか?
どうだろう…。
でも、フリーランスって合う人と合わない人がいると思うんですよね。
特にものづくりにおいて、クライアントワークに自分の個性を入れたくなると、必要以上に手をかけてしまう人っていると思うんです。実は、僕がまさにそうでした(笑)。いいものを作りたいし、喜んでもらいたいから、つい割り切れない気持ちで頑張りすぎちゃう。フリーランスだった時にそんな経験をして、それなら一人で背負いすぎるより、チームで分担できる会社の方が向いてるなと思ったんです。やっぱり、信頼できる仲間と一緒に作る物は、クオリティが段違いに高い気がしますしね。
それと、いろんな人と交流しながら一緒にチームとして仕事をしていく方が、僕は仕事がしやすいです。すぐ近くに、僕と同じように「良いものを作りたい」という気持ちを持った人たちがいる環境は、毎日が学びで、すごく刺激的です。フリーランスでは難しい規模や熱量の物が作れるのも、チームならではの良さですね。
それが今の会社(MULTRA)で、組織に所属しているというよりは、単に一緒に仕事をしていて楽しい人たちと過ごす環境がたまたま会社だったという感じかもしれません。MULTRAには僕よりもすごいクリエイターたちが集まっていて、自分が作ったものに、他のクリエイターが全く想像できないアイデアで上書きしてくれます。この楽しさは、フリーランスの時には味わえなかった満足感や達成感で、やっぱりチームワークの方が僕には合っているなと感じます。
MULTRAで松岡さんがやっているのはデザインですか?
今はデザインというより、動かすことが多いですね。完成されたグラフィックを2Dや3Dで動かしたり、カットとカットの間に動きをつけたり、そんな感じで動画制作をしています。それと最近は、映像の構成を一から考えるディレクションの仕事も増えてきました。
シンプルなデスクながらキーボードやマウスには松岡さんのこだわりが
僕はサイゼリヤやガストのようなクリエイター
海外労働の経験も映像の才能もあってコミュニケーション能力も高い、欠点ある?
いっぱいありますよ!(笑)
全然人見知りだし、毎日のように悩んでいますから!デザインやCG制作も一通りやってきましたが、やっぱり凄いクリエイターに出会うと、自分がそのレベルに全然追いつけてないことに恥ずかしくなります。
中途半端で、何か一つを極めているわけではなくて、サイゼリヤやガストみたいに色んなものを出せるけど、どれか一つが突出しているわけではない。そういうところが欠点かなと…。作家性に欠けているというか。
作品が完成するたびに「いいものができたな」と思うこともありますが、最近CGWORLDのクリエイティブカンファレンスで、プロたちが有名アーティストのMVを手掛けた話や、その作り方を解説しているのを見て、「デザイナーとか名乗ってすみません、CGやってて本当すみません」って感じになっちゃうんです。知識も理解度も技術も、プレゼン力もずっと高いアーティストたちを見ていると、本当に自分が恥ずかしくなります。
では松岡さんのクリエイターとしての武器は何になるんですか?
クライアントさんが求めるものに対して、ちゃんとコミュニケーションを取ろうとするところですかね。多少無理なお願いをされても、できる限りやろうとします。もちろん、全部を受け止めきれるわけじゃないけど、クライアントさんとは常に丁寧なコミュニケーションを心掛けている部分は大切にしています。まあ、当たり前のことなんですけど。
そういう部分に関して、僕より上の世代の方々はしっかりしているなという印象がありますね。仕事をすっぽかしたり、連絡を返さなかったり、納期を守らなかったりする話を時々聞きますが、僕はどうしてもそれは怖くてできません。なので、その点はしっかり守れていると思います。それも会社での経験があるからかもしれません。
自分としては、最低限の社会経験や常識は、クリエイター業や物作りの仕事を円滑に進めるためには必要だと思っていますし、実際それを求めて仕事の依頼をいただくことも多い気がしています。
自身の武器について考える松岡さん
エヴァンゲリオンのレイアウトが嗜好品!
話をちょっと変えて、影響を受けたクリエイターや映画って何ですか?
いっぱいあるんですよね…でもパッと出てこなくて、ただ凄い影響を受けたかというと、ちょっと違ったりもしますが、誰だろう?ダニー・ヤント、カイル・クーパーとか?最近だと、「DUNE/砂の惑星」や「ザ・クリエイター/創造者」、それに「ローグ・ワン」の撮影監督、グリーグ・フレイザーさんがすごく好きですね。この方が作る画がめちゃくちゃ魅力的なんですよ!特に、彼が撮るカットがとても官能的で…。昔「ブレードランナー」を観た時の感覚に近いかな?そう考えると、リドリー・スコット監督も好きかも。
「ザ・クリエイター」は、それは美しいショットがずっと続いていくんですが、すごく高価なカメラを使ってると思っていたら、実はソニーのFX3というカメラでほとんど撮影されていたことを知って驚きました。美しい画を作るには、ライティングやレンズ次第だと改めて感じて、それを知ると自然にそういうところに目が向いちゃいます。
あと、構図を見るのが好きで、アニメを観る時なんかはレイアウト(シーン設計)に注目しちゃいます。レイアウトをどう考えて構成するかで、物語の伝わり方や印象が全然変わるんですよね。宮崎駿監督や庵野秀明監督もそうですけど、最近観た新劇場版エヴァンゲリオンでは、レイアウトが本当に心地よくて、物語がまるで美しいレイアウトの連続で構成されている感じがあって…。構図や構造に意識がいってしまいます。そういう事もあって「DUNE」はすごく好きな映画でしたね
好きな作品について語る松岡さん
自己投資でも映像クリエイターは儲かる?
NHK「どうする家康」オープニングアニメーションの経験は、その後に影響は?
父は「すごいね」とか言って喜んでくれましたね。
一般の方にこの仕事を説明する時、大河ドラマはすごく理解されやすいんですよね。とても楽しく大変なお仕事でしたけど、多くの方に知ってもらう機会にもなって、担当できて本当によかったなと思っています。
以前大昔に、某年末歌の大イベントの一部映像の手伝いをしたことがあるんですが、その時はまだ駆け出しだったので、すごく大変だった記憶があります…。多くの人に知られているコンテンツの仕事は、やっぱり大変な面もありますが、その分魅力的ですから、会社が大丈夫なら、そういう案件も受けていきたいですね。
前回の朝倉さんにもした下世話な質問ですが…映像クリエイターは儲かりますか?
どうなんでしょうね、儲かるか儲からないか…。予算が良いところは儲かるんじゃないですかね?直接クライアントさんと仕事のやり取りをたくさん受けているような環境だと、一般的な映像会社に比べると、結構違いがあるのかもしれません。
今、僕はフリーランスではないので、朝倉さんとの比較は難しいと思うんですけど、趣味が仕事(映像)みたいなところもありますし、出費も多くないので、僕はいい暮らしをさせてもらっていると思っています。
気になる懐事情のお話も教えていただきました
成功への近道は、物真似と量
最後に、松岡さんになるには何をしたらいいんでしょう?松岡レシピがあれば…
とりあえず、モノマネをしまくることじゃないですかね。
自分がなりたいと思うアーティストの作品を1フレーム(1フレーム=30分の1秒)ずつ見て、大きな構造と細部を観察しながら模写して、そのアーティストの癖みたいなものを自分の中に落とし込んでひたすらやる?
1日1個作るくらいの気持ちで、ものづくりを継続的に続けて回数を重ねれば、なれるんじゃないかな?というか、僕だってそんなにすごくないから、もっともっとすごい人になれる気がします(笑)。
自分が目標とする人に追いつくためには、やっぱり…回数?が大事だと思いますね。質より量の方が大切な気がします。ひたすら量をこなしていくことが大事なんじゃないかな。
ちょっと抽象的ですが、1秒とか0.5秒の動画でもいいし、言うなら静止画を作るとかでも全然OKだと思います。とにかく続けること。やっていくうちに、自分がやりたい方向が見えてきたり、違うアーティストの真似がしたくなったりして、今までコピーしていた人の影響と、新しくコピーしたい人の影響が合わさって、徐々に自分の色ができていくみたいな。。
いつの時代も、名を馳せるアーティストは、それぞれ当時の先駆者の影響を受けて、今に至ったりすると思っています。だから、とにかく徹底的に真似てください。簡単に僕なんて超えられます!
謙虚な松岡さん
次は大きなイベントの映像!
これから控えている仕事(作品)があれば話せる範囲で教えて下さい。
今やっている仕事は…えーっと、来年行われる大きなイベントとかの映像とかですかね。
詳細は流石にちょっと言えないんですけど、頑張ってます!
Made by Matsuoka.サウンドロゴ制作の裏側
The Circleでは、クリエイターに独自の発想でiiyama SENSE∞のサウンドロゴをディレクションしてもらいます。
松岡さんの作るSENSE∞のサウンドロゴはどのようなものに仕上がったのでしょうか。
完成したサウンドロゴとともに、作業時間、こだわりのポイントなど制作の裏側もお伺いしました。
SENSE∞ / Sound Logo / dir.Yuki Matsuoka(_heki)
取材後記
松岡さんは慣れない取材に終始緊張されていましたが、自身が影響を受けた作品を語る際には前のめりになって熱弁されていたのが印象的で、一つ一つ言葉を選びながら丁寧に応える姿にはご本人の実直さを伺うことができました。
MULTRAのCEO森田仁志さんは、松岡さんのワークについて、とにかく悩んで悩んで悩みまくって結果を出すクリエイターとしての粘り強さが独特で、創作のために日頃から各所各種へアンテナを張りながら作品のために徹底的に情報収集する能力の高さが他にはないと仰っていました。
#1の朝倉 涼さんはフリーランスとしての個人プレイヤー、#2の松岡 勇気さんは映像制作会社でのチームプレイヤーとして各々の違いから皆さんご自身に合った方法を見出して頂き、将来映像クリエイターを目指す手助けとなれたならばThe Circleの企画の意とするところです。
MULTR CEO森田仁志さんにもお話をお伺いしました
今回はモーションデザイナー松岡 勇気(_heki)さんに今のお仕事に就かれた経緯から自身の経験、クリエイターになるために必要なことなど内容盛りだくさんでお話しいただきました。
『The Circle』ではクリエイターに次のクリエイターを紹介していただきます。
次回もクリエイターが独自の発想でiiyama SENSE∞のサウンドロゴをディレクションする過程を取材しながら、自身の魅力やパーソナルについても追究していきます。
次のクリエイターは・・・
絶賛徹底取材中!近日公開!
取材・構成/佐藤徹也(SO創)
サウンドクリエイター/入江誠志郎(SO創)

[ネクスマグ] 編集部
パソコンでできるこんなことやあんなこと、便利な使い方など、様々なパソコン活用方法が「わかる!」「みつかる!」記事を書いています。