建築・建設業界にとってふさわしいパソコン(PC)や環境について、現在も含めて建築・建設業界に30年以上携わる筆者が見解をまとめました。

ソリューション最終更新日: 20221014

中小規模の建設現場に求められるBIM・CIM時代のPC選び

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建築・建設業界では、手作業からコンピュータへの流れとなるにつれて、建築系のBIM(Building Information Modeling or Management)、建設系のCIM(Construction Information Modeling or Management)と呼ばれる概念に注目が集まっています。BIMやCIMへの潮流に対応するために、業界に関わるみなさんにとってふさわしいパソコン(PC)や環境は、どういったものになるのでしょうか。現在も含めて建築・建設業界に30年以上携わる筆者が見解をまとめました。

建築・建設業界のデジタル化

建築・建設業界の大きな流れとして、設計・施工・管理業務にさまざまなソフトウェアを導入し、ICTの活用が進められてきました。その中で提唱され出した概念(登場は1970年代後半)が「BIM(Building Information Modeling or Management)」です。BIMは、発注者との合意形成や施工時の情報確認・共有による手戻りなど(施工時に発覚する部材干渉などで、余計な工数が発生すること etc.)に対して非常に効果があるとわかり、CADソフトウェアを中心として積極的に取り入れられています。その背景には、ソフトウェアの進化とPCの高性能化が大きく寄与しています。

現在、建築業界では「BIM」と呼ばれる一方で、建設業界では活用の仕方が少し違い「CIM(Construction Information Modeling or Management)」と呼ばれています。

建築と建設の違いについては、大雑把に言うと、ビルなどの建築物を扱うのが建築業、橋や道路などの土木構造物を扱うのが建設業となり、以後もこの線引きで解説します。もちろん、建築・建設は多くの部分で重なります。業務は双方同じく計画・設計・施工・運用という流れで仕事が進みますし、そのすべての場面でBIMもしくはCIMが活用されています。

※国土交通省が、BIM・CIMの活用について必要な事項をまとめた「『発注者における BIM/CIM 実施要領(案)」をWebサイトで公開しています。

“技術調査:技術調査:BIM/CIM基準要領等(最新版) – 国土交通省”.国土交通省.
https://www.mlit.go.jp/tec/tec_fr_000079.html

建築BIMと建設CIMの違い(BIM編)

BIMやCIMでは、3Dデータを元に各オブジェクトに属性情報を持たせて(例えば、窓の製品名や材質、色など)、一元管理できるようになります。さらにBIM、CIMなら基礎の段階から骨格、内外装と、その都度の状態を表示できる「時間」情報を持たせたり、完成後の劣化の過程を検討することもできる設計図面を含めた、建築構造物の総合データを扱えます。

これらの前提を踏まえながら、建築BIMと建設CIMの違いを整理します。

設計時の活用が大きいのは「建築」です。ビルなどでは、部材の点数が膨大です。図面枚数も配管・電気施設なども含めて、かなりの枚数になります。これらを紙ベースで共有するのは至難の業で、これまでは作業ごとに施工図を起こして、施工業者に作業してもらうなど手間が大変でした。

基本設計が3Dになると、3Dモデルとして立体で各箇所の確認が可能で、任意の図面取得も簡単です。事前にバーチャルなビルを構築してあるからです。外観のデザインをイメージ化し、発注者に見てもらう場合も3Dモデルを3Dソフトウェアやビジュアライゼーションソフトウェアに読み込み、レンダリングすれば、短時間にリアルで綺麗なイメージの作成も可能です。

BIMで使われる代表的なソフトウェアは、オートデスク社の「AutoCAD」シリーズのほか、同社の「Revit」、グラフィソフト社の「ArchiCAD」、福井コンピュータアーキテクト社の「GLOOBE」や同社の「ARCHITREND ZERO」、Trimble社の3Dモデリングソフトウェア「SketchUp」が挙げられます。

建築BIMと建設CIMの違い(CIM編)

建設CIMでは、公共工事だと設計済みの設計書と図面があり、それに沿って工事を行います。設計時にBIMの比重が大きい建築とは違い、施工時の活用がメインになります。紙図面から構造物の3Dモデルを作成し、構造物同士が干渉しないか、現況との齟齬の有無などを検討します。残念ながら、この時点で問題の見つかるケースが少なくありませんが、施工前のこの時点で対応できれば手戻りが発生せずに済みます。山間部に構築する構造物であれば、現地の地形の点群データを作成して、構造物の3Dモデルを合成して同じくチェックを行います。

昨今の建設機械(ブルドーザ、油圧ショベル、ローラーなど)には、3D設計データを読み込んで、機械操作のガイドや自動制御を行えるものが出てきています。今まで必要だった工事(丁張りの設置など)が省かれて、工期短縮が実現しています。GNSS(衛星測位システム)を利用して、機械の位置や施工する地盤高を制御することで設計通りに工事が行えます。機械オペレータへの操作ガイドを表示するものを「マシンガイダンス」、機械の作業装置を自動制御することを「マシンコントロール」と呼び、施工や機械の機能に合わせた技術を搭載します。これにも3D設計データ(LandXML)が基本になります。

CIMで使われる代表的なソフトウェアは、オートデスク社の「AutoCAD」シリーズや「Revit」「InfraWorks」「Civil 3D」、福井コンピュータアーキテクト社の「GLOOBE」や「ARCHITREND ZERO」、Trimble社の「SketchUp」が挙げられます。

施工前に行う事前確認に求められる環境

BIM・CIMの導入を考えているユーザーに向けて、ここからは、世の中で行われる工事の大部分を占める小・中工事でのCIM(もしくはCIM的な)活用、アイデアを含めた土木建設のケースについて紹介します。

施工前に行う事前確認(フロントローディング)は、図面(2D)から3Dモデルを作成する工程です。平面図や詳細図を元に構造物をモデリングし、側溝やブロックなどは製造業者から図面を手に入れられるので、それを元に作成してシーンに並べます。並べる場合、縦断図という図面から指定の高さに、排水のため勾配が必ず付いているので、それを反映します。こうすると、各構造物同士の干渉、現況構造物との干渉などがないかを確認できます。

例えば、安価で動作も軽快、モデリング自体も簡単で他ソフトウェアに対応したフォーマットでの書き出しも可能な「SketchUp」なら、モデリング入門用にも最適です。以下は、筆者環境にてSketchUpデータをレンダリングプラグインでレンダリングした画像です。

2D CADやSketchUpの使用となると、3D作成の基本作業環境とも言えます。いわゆるIntelの内蔵グラフィックでも作業は可能ですが、パーツが増えてくるとレスポンス悪くなり、描画が重くなります。特にSketchUpでは顕著、さらにCPU内蔵グラフィックスはサポート外ですので、グラフィックカードは搭載しておくべきでしょう。動作クロックが高いものならレスポンスが良くなるので、その点にも注目です。

上記に基づき、まずは2D CADや各種3Dモデリングに加え、他のさまざまな作業もこなせ価格も抑えてあるデスクトップを、パソコン工房で掲載されているPCの中から選んでみました。基本スペックはCore i7とGeForce RTX 3050・3060クラスを搭載しています。

ノートPCでは、グラフィックカード「GeForce RTX 3050」を搭載した以下なら、オールラウンドに活用できるでしょう。

現況地形の3D化対応について

次に、現況地形の3D化を行う場合を説明します。

正確な座標が必要な場合は、標定点の設定等測量に関する知識と機材、そのデータを組み込むなどの作業が発生します。例えば、建築物・構造物などが完成したときのイメージだけが必要であれば、それらの作業は基本的に必要ありません。また掘削される土量の計算といった、ある程度の誤差が許される場合も同様です。

具体的な作業は、ドローンを同一高度でカメラを真下に向け、写真同士をオーバーラップさせながら撮影します。この写真を点群データ生成ソフトウェアに読み込み、点群データを作成するわけです。この技術は、ゲームの人体や地形モデルの作成によく使われていて、「Photogrammetry(フォトグラメトリー)」と呼ばれます。使われるソフトウェアは、オートデスク社「ReCap」やAgisoft社「MetaShape(旧PhotoScan)」、Capturing Reality社「Reality Capture」、3D FLOW社「3DF Zephyr(ゼファー)」などがあります。最近では写真をアップロードすると、サーバで計算してくれるサービスも登場し、ますます点群作成も身近になってきました。

以下は、筆者環境よりMetaShapeでの作業画面です。ドローン写真から生成した点群データで、下ペインにはオーバーラップさせて撮影した写真が並んでいます。

※高い精度が必要な場合はレーザースキャナーを使いますが、これ自体が非常に高額なため、今回の説明では省きます。

でき上がった点群から、3Dメッシュ(いわゆるポリゴンモデル)やオルソ画像を生成でき、代表的な3Dフォーマットでの書き出しも可能です。オルソ画像上では、距離や面積の測定が可能です。これらの3Dデータと前述の3Dモデルを組み合わせて、完成モデルができあがります。ここで、位置や干渉、現況へのすりつけなどが問題ないかを確認。3Dモデルは、現場の完成まで図面に表記されない部分の距離計測など、多くの場面で活用可能です。

以下は、生成したオルソ画像上で計測しているところです。任意の場所を囲めばその面積の計測もできます。

※オルソ画像とは、「写真上の像の位置ズレをなくし空中写真を地図と同じく、真上から見たような傾きのない、正しい大きさと位置に表示される画像に変換(以下、「正射変換」という)したもの」を指します(出典:「国土交通省国土地理院」Webサイトより)

現況地形の3D化に対応できるスペックを考えると、Photogrammetryの演算にはGPUがよく使われます。計算時間の短縮には、高性能なグラフィックカードが必要です。読み込む写真が多くなり、点群計算後のファイルが非常に大きくなるので、容量の大きなSSDやデータ保存用の追加HDDなどがあるといいでしょう。100枚程度の写真を点群に計算すると、精度によって30分〜1時間はかかってきます。しかし、頻繁には行わない作業でもあるので、Photogrammetryメインで考えず、その後の3Dモデルの表示や編集などが快適に行える構成を意識した選択がおすすめです。

上記に基づき、パソコン工房から最適なPCを選んでみましょう。まずはデスクトップPCから。以下は、高性能CPUのCore i9、そしてグラフィックスに「GeForceRTX 4070 Ti」クラスを搭載し、処理性能や信頼性が高いだけでなく、業務用ソフトウェアとの相性や汎用性もある環境が構築できるPCです。

 

ノートPCは、重いデータ処理をこなす贅沢なスペックの本モデルがおすすめです。大容量データを扱うことを考え、購入時は2ndドライブを追加すると良いでしょう。

現況地形の3D化について補足すると、他にも3Dモデル上では、距離や面積だけでなく土量計算も可能です。土を搬入する前の地形と、搬入後の状態を点群化して差分を計算すると、正確な土量を割り出せます。以下は、筆者環境よりMetaShapeでの作業画面です。3Dモデルの必要な部分を抽出し体積を測定した結果が表示されています。

土量の計算だけでも搬出先の選択や運搬車両の手配、作業日数の計算と様々な計画の基礎データとして活かすことができます。

BIMやCIMに備える体制は作っておきたい

すべての工事が3Dベースになるにはまだ時間がかかります。それまでの予行演習・実習として、BIMもしくはCIMチームを作り、今から自社に合った施工の工夫を試しておくことをおすすめします。どこの会社にもITに明るい社員がいると思います。

例えば、社内の一角にBIM/CIMコーナーを作って、高性能なマシンと大きめのディスプレイを置き、そこでソフトウェアの操作方法やモデリングの基礎、ファイル変換、データの管理などを社内で学習していくスタイルはどうでしょう? ある程度のスキルが身についたら、各自のPCをグレードアップするのもいいでしょう。多くの機器を組み合わせて行われるBIM/CIMでも、頼りになる母艦は高性能PCです。

現在の公共事業を受注して施工する建設系の工程の中で、CIMの技術の取り入れ方はまだまだ模索中という会社が多いでしょう。現状でも、国土交通省発注の大規模な河川工事などはCIMとの相性が良く早くから取り入られていますが、今後は数の多い小・中規模の現場でもっと活用されてこそ、です。中小規模では、人材や予算の厳しく導入前も少なくないでしょう。現場の地形を3Dデータにするには、ドローンやレーザースキャナが必要で、ICT施工に対応した建設機械はどれも高額です。日常的に使わないためレンタルも手ですが、それではノウハウが定着しません。

人材に目を向けると、「測量知識を持つ」「ドローンを飛ばせる」「ソフトウェアを使いこなせる」「データを元に、最新の測量機器を扱える」などのスキルも必要ですが、そもそも育てる環境作りが急務です。例えば、ドローン測量を手がける環境があると、採用活動で若い世代へのアピールにもなるそうです。

気づいた今こそ、環境構築をスタートしていきましょう。

ライタープロフィール 相子達也

某Webデザイン誌、某Mac誌でのライターを経て映像制作を中心に各種デザイン、3D設計などで活動中。楽しみはゲームとドローン写真からの3次元点群データ作成。

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