

AMD Ryzen Pro 4000シリーズ・プロセッサー with Radeon グラフィックスは、第3世代AMD Ryzenプロセッサーと同じ「Zen2」アーキテクチャをCPUコア部分に採用した、グラフィックス機能内蔵のプロセッサーです。
今回用意したRyzen 7 Pro 4750G、Ryzen 5 Pro 4650G、Ryzen 3 Pro 4350Gは、「Zen+」アーキテクチャ採用のRadeon Vega グラフィックス搭載Ryzen 5 3400GやRyzen 3 3200Gから、どれだけパフォーマンスが向上しているかを各種ベンチマークで試してみました。
AMD Ryzen Pro 4000シリーズ・プロセッサー with Radeon グラフィックスの特徴
AMD Ryzen Pro 4000シリーズ・プロセッサー with Radeon グラフィックス(以下Ryzen Pro 4000G)として、Ryzen 7 Pro 4750G、Ryzen 5 Pro 4650G、Ryzen 3 Pro 4350Gの3つの4000番台となるCPUがリリースとなりました。ノートパソコン向けには先行してリリースされていた4000番台が、Ryzen Proシリーズとしてですがデスクトップパソコン向けにもリリースされた形となります。また、Proシリーズの型番には末尾に「50」がつくようになりました。
Ryzen Pro 4000Gは、CPUコアに第3世代AMD Ryzen プロセッサーと同じZen2アーキテクチャを採用した、グラフィックス機能内蔵のプロセッサーです。7nmプロセスのZen2アーキテクチャを採用し最大で8コア/16スレッドとなるRyzen 7が追加となりました。また、内蔵するグラフィックス機能については、CPUコアのようなアーキテクチャの世代変化はありませんが、CPUと同じく7nmプロセスとなりGPUコア数を削減する代わりに動作クロック数を大幅に引き上げることで、グラフィックス性能を向上させています。
このようにRyzen Pro 4000Gは、CPU部分とグラフィックス部分の両方で性能を向上させたプロセッサーとなっています。
Ryzen Pro 4000Gの主な特徴としては、
・CPUコアに「Zen2」アーキテクチャを採用
・7nmプロセスルール
・グラフィックス機能内蔵Ryzenプロセッサーとして初めてRyzen 7プロセッサーが登場
・Ryzen 7 Pro 4750GではCPUのコア数/スレッド数が8コア/16スレッドとなった
・Proシリーズの機能(Memory Guardなど)をサポート
・対応チップセットはAMD 500プロセッサー のX570・B550チップセット (※BIOSの対応が必要です)
などが挙げられます。
なお、Ryzen Pro 4000Gを使用するには、事前にマザーボードのBIOSを対応バージョンにアップデートしておく必要が有りますので、ご注意ください。実際、ASUS X570-PROで試したところ、未対応のBIOSバージョン「1405」では起動せず、最新の「2407」に更新する事で起動するようになりました。
Ryzen 7 3700X |
Ryzen 5 3600 |
Ryzen 3 3100 |
Ryzen 7 Pro 4750G |
Ryzen 5 Pro 4650G |
Ryzen 3 Pro 4350G |
Ryzen 5 3400G |
Ryzen 3 3200G |
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アーキテクチャ | Zen2 | Zen+ | |||||||
製造プロセス | 7nm | 12nm | |||||||
コア/スレッド | 8/16 | 6/12 | 4/8 | 8/16 | 6/12 | 4/8 | 4/8 | 4/4 | |
動作クロック | 3.6GHz | 3.6GHz | 3.6GHz | 3.6GHz | 3.7GHz | 3.8GHz | 3.7GHz | 3.6GHz | |
最大ブースト・クロック | 4.4GHz | 4.2GHz | 3.9GHz | 4.4GHz | 4.2GHz | 4.0GHz | 4.2GHz | 4.0GHz | |
キャッシュ | L2 | 4MB | 3MB | 2MB | 4MB | 3MB | 2MB | 2MB | 2MB |
L3 | 32MB | 32MB | 16MB | 8MB | 8MB | 4MB | 4MB | 4MB | |
GPU | GPU名 | × | Radeon Graphics 8 | Radeon Graphics 7 | Radeon Graphics 6 | Radeon RX Vega 11 Graphics | Radeon RX Vega 8 Graphics | ||
コア数 | × | 8 | 7 | 6 | 11 | 8 | |||
動作クロック | × | 2100MHz | 1900MHz | 1700MHz | 1400MHz | 1250MHz | |||
TDP | 65W | ||||||||
64bitコード | AMD64 | ||||||||
対応ソケット | Socket AM4 | ||||||||
対応チップセット | AMD 500・400シリーズ | AMD 500シリーズ | AMD 500・400・300シリーズ |
グラフィック搭載 第3世代 Ryzenシリーズとその他のモデル スペック比較表
ご覧の通り、同じZen2アーキテクチャを採用する第3世代RyzenプロセッサーとRyzen Pro 4000Gで、ラインナップ種類ごとにコア数/スレッド数が一致するようになりました。第3世代RyzenプロセッサーとRyzen Pro 4000GではCPUコアの動作クロック数もほぼ等しく、相違点はL3キャッシュメモリの容量とグラフィックス機能の有無となっています。簡単に言えば、Ryzen Pro 4000Gは第3世代RyzenプロセッサーからL3キャッシュメモリ容量を削減して、代わりにグラフィックス機能を搭載した格好となっています。
さらに、第3世代RyzenプロセッサーではPCI-Express 4.0に対応していましたが、Ryzen Pro 4000GではPCI-Express 3.0の対応となっている点も注意しておきたいポイントです。
それでは、Ryzen Pro 4000Gのベンチマークテストを実行していきましょう。今回はCPU編と内蔵グラフィックス編に分けて、それぞれベンチマークを行っています。ベンチマークには、「Ryzen 7 Pro 4750G」「Ryzen 5 Pro 4650G」「Ryzen 3 Pro 4350G」を使用し、CPUの比較用として、第3世代Ryzenプロセッサーの「Ryzen 7 3700X」「Ryzen 5 3600」「Ryzen 3 3100」および「Ryzen 5 3400G」を、また内蔵グラフィックスの比較用として「Ryzen 5 3400G」「Ryzen 3 3200G」と「Core i9-10900K」を用意しました。
ベンチマークテスト CPU編
Passmark PerformanceTest
まずはCPUの全体的な性能を数値化するPassmarkの『CPU Benchmarks』を用いて、CPUの総合的な演算性能を見てみましょう。
Passmark / CPU Benchmarks (CPU Mark)
同じ4コア/8スレッドのRyzen 3 Pro 4350GとRyzen 5 3400Gを比べると、20%近くスコアが向上しており、Zen2アーキテクチャを採用した、Ryzen Pro 4000Gの優位性が確認できます。一方、同じZen2アーキテクチャを採用しているRyzen Pro 4000Gと第3世代Ryzenプロセッサーでは、第3世代Ryzen プロセッサーの方が10%以上高いスコアを記録しています。このスコアの違いを確認するため、個別にテスト項目の結果を見ていくと、特定のテスト項目で大きな差が有る事が確認できました。
Passmark / CPU Benchmarks (整数演算)
Passmark / CPU Benchmarks (浮動小数点)
上の図のように整数演算や浮動小数点演算などの項目では僅か数%の違いにとどまっている上、最適化の進んだZen2コアを使用しているため、スコアが向上していますが、下の図のように物理演算では大きな差が出ています。このテストではBullet Physics Engineが使用されており、メインメモリへの負荷が高いテストとなります。L3キャッシュの容量が少なくなり、メインメモリの速度への依存度が増したことで今回のようなテストの場合にスコアへ響いたと思われます。
Passmark / CPU Benchmarks (物理演算)
TMPGEnc Mastering Works 6
続いて、動画編集ソフトのTMPGEnc Mastering Works 6を用いて、QuickTimeファイル(1920x1080/2分40秒)をh.265に変換するのに要した時間(単位:秒)を測定しました。グラフの短い方がより高速に処理を行っている事になります。
TMPGEnc Mastering Works 6
Ryzen Pro 4000G と第3世代Ryzen プロセッサーでは、Fire StrikeのPhysicsと同様にコア数/スレッド数の順番で階段状に並びました。一方、Ryzen 3 Pro 4350GとRyzen 5 3400GではCPUコアアーキテクチャの違いから大きな差が出ています。Zen2アーキテクチャで強化されたAVX処理が見事に反映された結果なっています。
ベンチマークテスト 内蔵グラフィックス編
3D Mark Fire Strike
今度は、内蔵グラフィックスの性能についてみていきます。
まずは、DirectX 11 の代表的ベンチマークとして、3D Mark Fire Strike のGraphics Score を見てみましょう。テスト解像度は、フルHDのFire Strikeとなります
3D Mark Fire Strike / Graphics (FullHD)
Fire Strikeでは、Ryzen 7 Pro 4750GのRadeon Graphics 8がトップに立ち、次いでRyzen 5 Pro 4650G のRadeon Graphics 7とRyzen 5 3400G のRadeon RX Vega Graphics 11が続くという格好になっています。Ryzen 7 Pro 4750GのRadeon Graphics 8とRyzen 3 3200GのRadeon RX Vega Graphics 8のGPUコア数は同じですが、動作クロック数の違いにより大きな差が生まれています。
次いで、DirectX 12の代表的ベンチマークとして、3D Mark Time Spy のGraphics Score を見てみましょう。テスト解像度は、WQHDとなります。
3D Mark Time Spy / Graphics (WQHD)
Time Spyにおいても、 Radeon Graphics 8がトップに立ち、Radeon Graphics 7とRadeon RX Vega Graphics 11が続くという、Fire Strikeと同じ傾向となっています。
続いて、グラフィックス機能内蔵プロセッサー向けに軽量化されたDirectX 12のベンチマークである3D Mark Night RaidのGraphics Score を見てみましょう。テスト解像度は、フルHDとなります。
3D Mark Night Raid / Graphics (FullHD)
Night Raid においても、Fire StrikeやTime Spyと同じ傾向が確認できました。3D Markの結果からは、Ryzen Pro 4000Gにおけるグラフィックス機能のコア数とクロック数の調整が上手くいっていると言えそうです。
ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク
最後に、ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマークを用いて、Ryzen Pro 4000Gのゲーミング性能を確認してみましょう。
テスト環境設定は最高品質・DirectX11・フルスクリーン、解像度はフルHD(1920 x 1080)です。合わせて、ベンチマークテストの詳細で確認できる平均fps(フレームレート)も掲示します。
ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク
ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク (fps)
最高品質設定であってもRyzen Pro 4000Gは内蔵グラフィックスのみで、やや快適の指標となる2500以上のスコアに到達しています。CPU性能にも影響を受けやすいベンチマークですので、3D Markではほぼ同性能を示していたRyzen 5 3400Gに対してRyzen 5 Pro 4650Gのほうが良いスコアが出ています。
今回のベンチマークテストではメモリがDDR4-2666での検証となっていたため、メモリをより高速なDDR4-3200にすることや、表示品質など設定を調整すれば、快適な動作が期待できそうです。
待望のグラフィックス機能内蔵Ryzen 7
Ryzen Pro 4000Gは、第3世代AMD Ryzenプロセッサーと同じZen2アーキテクチャを採用しており、CPU性能においては第3世代Ryzenプロセッサーに匹敵する性能を有していることが確認できました。コア自体の素性は良いものの、L3キャッシュが減った分、高速なメインメモリを要求されることとなりますが、時間の関係から今回DDR4-3200メモリを用いたテストができず、どの程度の性能向上が見込めるのかまでは見ることができませんでした。
また、GPUコア数とクロック数のバランス調整により、グラフィックス性能も強化されていることも確認できました。CPUコアが第3世代Ryzenプロセッサーと同じZen2アーキテクチャに変更されただけでも魅力的なのに、グラフィックス性能まで強化されていながらTDPは据え置きの65Wとなっているので、プロセッサーとしての魅力がさらに増しています。
Ryzen Pro 4000Gは、小型ベアボーンや省スペースパソコンの組み立てを検討しているユーザーを中心に、人気を集めて行くのでしょう。
Ryzen 「Pro」となるため、発売時点では通常のパッケージでは提供されないCPUとなりますが、入手機会に恵まれた方は是非一足先に省電力で高性能なCPUを体験してみてください。
CPU | Ryzen 7 Pro 4750G Ryzen 5 Pro 4650G Ryzen 3 Pro 4350G |
Ryzen 7 3700X Ryzen 5 3600 Ryzen 3 3100 |
Ryzen 5 3400G |
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マザーボード | ASUS PRIME X570-PRO | ||
メインメモリ | DDR4-2666 16GB (8GB x2) | ||
グラフィックス | CPU内蔵 Radeon Graphics |
GeForce RTX 2080 SUPER (ビデオメモリ 8GB) | CPU内蔵 Radeon RX Vega 11 Graphics |
ストレージ | WesternDigital WDS500G2B0C (WD Blue NVMe 500GB) | ||
電源 | Seasonic SSR-850FX (80PLUS Gold、850W) | ||
OS | Windows 10 Home 64bit (バージョン:1909) |
テスト構成 CPU編
CPU | Ryzen 7 Pro 4750G Ryzen 5 Pro 4650G Ryzen 3 Pro 4350G |
Ryzen 5 3400G Ryzen 3 3200G |
Core i9-10900K |
---|---|---|---|
マザーボード | ASUS PRIME X570-PRO |
ASUS PRIME Z490-A |
|
メインメモリ | DDR4-2666 16GB (8GB x2) | ||
グラフィックス | CPU内蔵 Radeon Graphics |
CPU内蔵 Radeon RX Vega Graphics |
CPU内蔵 インテルUHD Graphics 630 |
ストレージ | WesternDigital WDS500G2B0C (WD Blue NVMe 500GB) | ||
電源 | Seasonic SSR-850FX (80PLUS Gold、850W) | ||
OS | Windows 10 Home 64bit (バージョン:1909) |
テスト構成 内蔵グラフィックス編

Windows2000登場前からほぼ一貫してPC製造部門に従事。PC組立はもちろん、OSイメージの作成や製造時のトラブルシュートを行う。 その経験を生かしてOSの基本情報や資料室を担当する事が多い。