

2020年度から、すべての小学校において必修化が決まっているプログラミング教育。すでに必修化に向けて、巷ではプログラミングを体験するイベントや教室なども数多く開かれ、子どもをもつ親御さんとしては、とても気になるところです。そこで今回は、実際に子どもたちを対象としたプログラミング教室を開催している岡田 庸平さんに、子どもたちにプログラミングを教える際に大切にすべきポイントや、プログラミング教育への思いを聞きました。
プログラミング教育の必修化で、学校の教育はどう変わる?
まず、プログラミング教育の必修化について、少し現状を把握しておきましょう。
プログラミング教育は、小学校の新学習指導要領で2020年度から必修化されることが発表されています。
現在、今ある職業の90%が、少なくとも基礎的なITスキルを必要としているといわれ、IT力は今後、若い世代が労働市場に入るためには、必要不可欠な要素です。
にも関わらず、日本では2020年までに37万人ものIT人材が不足するといわれています。
多くの国や地域が学校教育のカリキュラムとして、プログラミングを導入する中、日本でも子どもの頃からIT力を育成する必要があるという状況が、プログラミング教育必修化の背景にあります。
しかし、プログラミング教育が必修化されるといっても、新たに「プログラミング」という教科ができるわけではありません。
例えば、正三角形などの図形をプログラミングによって正しく描いたり、動物が音楽に合わせて踊るリズムループをつくったりと、学習指導要項には、今ある国語や算数、音楽や図工など、さまざまな教科でプログラミング教育を取り入れる実施事例が示されていて、具体的にどんな教科や単元でプログラミングを扱うかは、各学校が判断できることになっています。
学校指導要領に書かれている、小学校におけるプログラミング教育の狙いは主に3つです。
①「プログラミング的思考」を育むこと
②今の社会がコンピューター等の情報技術に支えられていることに気づき、それを上手に活用して身近な問題を解決したり、よりよい社会を築こうという態度を育むこと
③プログラミング教育を取り入れることで、各教科の学びをより理解しやすく確実なものにすること
プログラミング教育を通じて、プログラミング言語を覚えたり、プログラミングの技能を習得することはあるかもしれませんが、それ自体をねらいとしていないということが、大きなポイントになります。
そのため、どんな教材をツールとして使用するか、どんな授業をするかは、各学校に委ねられており、文部科学省・総務省・経済産業省が連携するプログラミング教育ポータルサイトでも、一例としてさまざまな教材が紹介されています。
「小学校を中心としたプログラミング教育ポータル」サイトより
出典:小学校を中心としたプログラミング教育ポータルPowered by 未来の学びコンソーシアム(https://miraino-manabi.jp/teaching)
今後も小学生に分かりやすく、使いやすい教材が出てくると予想されますが、何より大切なのは、「子どもたちが楽しみながらプログラミング的思考を学ぶことができる」という点です。
今回お話を伺った岡田さんは、初めてプログラミングに触れる子どもに短時間でプログラミングの楽しさを味わってもらうため、自分がプログラミングした動きを現実の世界で体感できるロボットを使ったプログラミング教室を開催されています。
岡田さんが行っているプログラミング教室について、具体的な話を聞いていきましょう!
教える側が感じるプログラミング教育の現状
岡田さんが行われているプログラミング教室について教えてください。
小学生を対象にしたプログラミング講座を開講しています。
私たちの講座ではまず「プログラミングって楽しい!」と思ってもらうため、プログラミングした結果が現実の機械の動きに反映され、見た目も面白そうに見える「mBot(エムボット)」というかわいいロボットを使用しています。
講座ではロボットのボディを光らせたり、歌を歌わせたりして、楽しみながら自分だけのロボットをつくり、最後は迷路を走らせて、ゴールまで行けるようプログラミングしていきます。
「mBot」はmakeblock社が開発したロボットキットで、子どもでもすぐに組み立てられ、簡単なプログラミングで本格的な動作を楽しむことができます。
またプログラミングに使用するソフトウェアは初心者向けプログラミングソフトウェアとして使われることの多い「Scratch(スクラッチ)」をベースにした「mBlock」というソフトウェアを使用します。
今回お話を伺った岡田さん
どんな方が参加していますか?
小学生であれば学年の制限は設けておらず、低学年〜高学年まで幅広い学年の子が参加しています。
プログラミングを体験するのは初めてという子が6割、あとはスクラッチなどのプログラミングソフトは触ったことはあるけれど、ロボットを使ったことはないという人が多いですね。
親御さんは、「プログラミング教育の必修化という話は聞くが、まだやらせたことはない」という人が多く、「現在、教室を探しているけれど、どんな教室が子どもに合うか分からない」という声も多く聞かれます。親御さんにとっては、プログラミング=子どもにやらせるべき勉強で、教室に通わせなければという感覚が強いように感じます。
教える側として感じている、プログラミングのおもしろさは?
まず誰でも年齢関係なく参加でき、自分のやりたいことを各自のペースで取り組むことができる点ですね。
講座は最大10組までで行っていますが、ロボットのボディをただ光らせるのではなく、キラキラさせたいとか、歌わせる音楽を自分で作曲するなど、目指すゴールはそれぞれ違っていて、おもしろいです。
また、親子でできるところも魅力だと思っています。
低学年は親御さんに付き添ってもらっていますが、親御さんの方が燃えてきて、夢中になったり怒り出したりする姿も(笑)。
1人で来ていた子も、講座が終わった後に親御さんから「子どもがもっとやりたいと言っているが、今日使ったものはどこで買えますか?」と問い合わせが来ることも多いです。
家に帰ってから家族の話題に上がるなんて、本当にすごいこと。
プログラミングが親子のコミュニケーションのきっかけになったら、うれしいですね。
大切なのは、「楽しむこと」と「疑問をもつこと」
岡田さんは子どもたちにプログラミングを教える時、何をポイントにされていますか?
まずは、答えを教えないということですね。
プログラミングは、「こうすると、こう動く」ということを教えるものではないと思うんです。
順を追って言われたとおりにロボットをプログラミングしても、なぜそうなるのかというゴールまでの道中にある大切なことは、きっと記憶に残らないし、何より自分でできたという感動がありません。
「こう動かしたい」という希望から、「じゃあ、何をすればいいか」という疑問をもって、自発的に進んでいくことが大切だと思っています。
それが、本を読んで理解するだけでは得られない楽しさ。
できた時に、自然に「やった!」とガッツポーズが出るような成功体験があると、必ず「もっとやりたい!」という興味が出るはずです。
だから講座では「自分がもった疑問を解決できる」時間になることを目指しています。
そのためには、その場が楽しいということが一番なので、自分のプログラミング講座は、教育というよりエンターテイメントだと思っているんです。
90分しかない講座の中で、どれだけ興味を引き出せるかが勝負!
「プログラミングってこんなにカンタンで楽しいの!?」と思ってもらえるように、毎回スタッフと現場でウケたネタを振り返って、常に講座をアップグレードしています(笑)。
岡田さんのプログラミング講座の様子
たしかに小学校の学習指導要綱でも、プログラミングは教科として技術や知識を教えるものには、なっていないですね。
いまや身の回りにあるほとんどのものがプログラミングで動いていて、すでに生活の一部になっています。
当たり前にあるものなら、私たちも当たり前に楽しめるものであるべきです。
仕組みをちょっと知るだけでも、普段から「身近で便利な道具なんだけど、どうやって動いているか分からない」と思っているものに目が向いていくはず。
プログラミングが、そういった興味を覚えるきっかけになることが大切だと思います。
パソコンの中から外へ、視野と興味が広がるツールを
専門の技術や知識を学ぶのがプログラミング教育の目的でないとすれば、プログラミング教育を始めたいと思ったら、ツールはどんなものでもいいのでしょうか?
そうですね。どれも言葉が変わるだけで、プログラミング的な思考を学ぶというベースは変わりがありません。
新しいものも、これからどんどん出てくると思いますので、まずは興味があるものから始めればいいと思います。
ただ私は、自分の講座でも使用しているmBotのように、プログラミングが実際に現実の世界で動くハードウェアと連携するものをおすすめしたいです。
そう思うようになったきっかけは何ですか?
私はもともと、Webを中心としたデザインの仕事をしていました。
Webデザインは、パソコンさえあればどこでも仕事ができるというメリットはありますが、その分、パソコンの中で完結してしまうことに、いつからか物足りなさを感じていました。
そんな時、知り合いが行っていた子ども向けプログラミング教室の手伝いをする機会がありました。
そこで、ロボットなどを手作業でつくる工作を取り入れた教室に出会ったんです。
それは、プログラミングによって、パソコンの中にある無限の世界が現実に動くロボットや車とつながる体験でした。
子どもの頃、プラモデルやミニ四駆に夢中になった方も多いと思いますが、それがパソコンで動かせたなら、夢のような世界。
それは、今の子どもたちにとっても同じです。
自分の手でつくったものが、自分で自由に動かせる感動は、机上の勉強では味わえないものだと思います。
私も子どもたちと同様に、ロボット工作をベースにしたプログラミングに感動し、どっぷりとハマってしまいました。
子どもたちは、自分がつくるロボットや車を通じて、「それまでアナログだと思っていたものも、裏側ではプログラミングで動作している」ということに自然と気づきます。
こうした体験によって、視野が広がり、IoTの仕組みも理解しやすくなると感じています。
うまくいかないことへの対応力を学んでほしい
ハードウェアとつながるツールを用いたプログラミング教育をしてみて、子どもたちの反応はいかがですか?
例えばゲームの世界では、前に進めという操作をすれば、確実に進みますよね。
でも、手作業でつくるロボットは、モーターなどの部品の具合によって、思うように進まなかったりとトラブルも多いんです。
ソフトウェアでプログラミングを経験していたり、パソコンに慣れている子ほど、こうしたトラブルにイライラしてますよ(笑)。
でも、そうなった時が学びのチャンス。
「ロボットといっても個体差があって、すべて一緒じゃないんだ」ということを説明し、なぜできないのか五感をフルに使って一緒に考えます。
それがハードウェアとつながることの醍醐味ですし、ハードウェアに目を向けると、いろいろなことへの理解度が深まると思っています。
こうした学びを通して、子どもたちに育んでもらいたい力とは?
人生の中では、成功体験よりも失敗体験の方が、圧倒的に多いと思うんです。
でも、エラーが起きてしまった時に、それを受け入れて正しい方向へ修正していく対応力が、最も大切。
その方法は、失敗体験をしてみないと、なかなか身につかないと思います。
失敗してみて、「じゃあ、こうするとどうなる?」という経験を積み重ねると、徐々に広い目で物事が見えるようになります。
だから私の講座では、最後に挑戦する迷路でゴールにたどり着くことがすべてではなく、1つでも先に進めることを目指して、プログラムを組むことを目標にしています。
子どもたちには、ぜひどんどん失敗して、イライラして(笑)、うまくできるまでの過程を楽しんでほしいですね。
苦手意識を感じることなくIT力を育成していくことが目的
プログラミング教育は、必修化は単に未来のプログラマーを育成するのではなく、社会の中にあふれるプログラミングの仕組みやIoTの流れに対して、苦手意識を感じることなくIT力を育成していくことが目的だと分かりました。
そのためにも、岡田さんが実践しているように、子どもたちが楽しく学んでいける工夫や、技法よりもプロセスを学んで考える力を身につけることが大切だと感じます。
大人もこうした点をしっかり把握して、2020年度の必修化に備えておく必要があると思いました。
岡田さん、ありがとうございました!
[ネクスマグ] 編集部
パソコンでできるこんなことやあんなこと、便利な使い方など、様々なパソコン活用方法が「わかる!」「みつかる!」記事を書いています。