「Web3」について、概念や考え方などの基礎知識をまとめています。

ITトレンド最終更新日: 20220818

Web3の基礎知識 P2P?分散型?メリットは?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

2020年代に入り、「Web3」(ウェブスリー)という言葉をよく耳にするようになりました。ここでは、ビジネスの現場でもクリエイティブの現場でも、デジタルに携わる上でぜひとも知っておきたいキーワード「Web3」の意味や考え方、概念について解説します。

1.「Web3」について

最初にWeb3の意味を確認します。Web3とは、2014年に暗号通貨イーサリアムの共同創始者ギャビン・ウッド氏によって提唱された、インターネットの概念のことです。

大きな特徴として、P2P(Peer to Peerのことで「ピア・ツー・ピア」と呼ばれています)の分散型アーキテクチャーになっていることが挙げられます。P2Pとは、従来のクライアント・サーバ型のネットワークとは違い、コンピューター同士が対等に(=Peer)つながる方式のことです。

ビッグデータをはじめ、データの重要性が増す昨今、これまではGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)と呼ばれるプラットフォーマー企業が、個人情報などのデータを独占および利用し、利益を上げてきました。このような状況の打破を目指す概念がWeb3と言えます。

※「Web 3.0」と表記すると、ティム・バーナーズ=リー氏が提唱したセマンティックWeb(2006年)を指すWeb 3.0と混同するため、ここでは「Web3」(ウェブスリー)に表記を統一しています。

2.Web3までの変遷

Web3は、Web 1.0、Web 2.0に続く次世代のインターネットというコンテクストが含まれています。Web3の理解を深めるためにも、過去の変遷を確認しましょう。

Web 1.0とはインターネット黎明期(1990年代半ば〜)を示し、Internet Explorer(IE)の登場により、インターネットが身近なものとなった時代です(そのIEは2022年6月にサポート終了し、時代の流れを感じます)。当時は回線速度も遅いため、テキストや画像がコンテンツの主体でした。情報の発信も一部の人が行うことが多く、情報の伝達が一方的という特徴がありました。

この状況が大きく変わったのが、Web 2.0です。Web 2.0は、ティム・オライリー氏が2000年代半ばに提唱した概念です。それまで情報の発信は一方的になっていたものが、誰でも情報を簡単に発信でき、受け取ることが容易にできる「双方向性」を特徴としています。コンテンツの主体は、テキストから画像や映像へと移りました。例えば、TwitterやInstagram、TikTokなど、まさに現代の私たちが利用しているインターネットがWeb 2.0と言えます。

3.個人情報を取り巻く問題の浮上

このように、誰もが手軽にコンテンツを作り、共有できるようになった半面、情報が一部のプラットフォーマーに集約されることになり、中央集権的なアーキテクチャーとなりました。その結果、個人情報がプラットフォーマーに独占されたり、サイバー攻撃により情報が漏洩したり、といった問題が噴出しています。

特に個人情報の取り扱いを巡って、Web3がクローズアップされる端緒となった事件があります。それは2016年のアメリカ大統領選挙で問題となったケンブリッジ・アナリティカ事件です(ケンブリッジ・アナリティカ社は選挙コンサルティング会社で、この事件をきっかけに業務停止)。これは、Facebookのユーザー情報を勝手に利用し、情報配信のターゲティングに利用していたという事件です。この事件をきっかけに個人情報保護が世界各地で声高に議論され、ヨーロッパのGDPR(EU一般データ保護規則)やアメリカ・カリフォルニア州のCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)、そして日本の改正個人情報保護法など、デジタル領域での個人情報保護が(世界中で)急速に進みました。

自分の情報を一部のプラットフォーマーへと中央集権的に集中させるのではなく、分散させることで上記のようなリスクを回避する動きが生まれます。これがWeb3へとつながるわけです。

4.Web3とブロックチェーン

Web3は、冒頭に述べたように誰かがデータを一元的に保持・管理する構造を持っていません。そのネットワークの参加者全員が分散して、データを保持・管理するアーキテクチャーとなっており(分散型自立組織のことで、「DAO:Decentralized Autonomous Organization」と呼ばれています)、それによってデータの集中によるリスクをなくし、自分自身で自分の情報を保持・管理できるようになります。

この分散型アーキテクチャーを支えているのが、ブロックチェーンです。元々ブロックチェーンは、暗号通貨の台帳システムとして開発されたもので、複数のユーザーで情報が共有され、分散されます。そのため、データの改ざんや不正アクセスがあった場合、他のユーザーとの差異が発生します。その結果、ユーザー同士がネットワーク上で互いのデータをチェックし合うシステムを構築できるようになりました。

つまりWeb3では、このようなブロックチェーンを活用することで、プラットフォーマー企業が個人情報を握ることによるプライバシーの問題や情報漏洩のリスクを低減させていく、と考えられています。

5.Web3のメリット

ではWeb3時代のユーザーは、どのようなメリットが感じられるのでしょうか?

最も大きいのはユーザー自身の個人情報が、プラットフォーマーではなく自分自身でコントロールでき、自分の個人情報の収益化は自分で行えます。また、Cookieなど、ユーザーが気づかずに自分自身のデータがプラットフォーマーに共有されることはありません。

一例を挙げると、Web3時代のプラウザとも呼ばれる「Brave」の場合、個人データを収集するような広告がすべてブロックされます。また、BraveはWebサイトでの行動に基づくターゲティング広告やレコメンドも表示されません。Braveで広告を許可すると、その収益が報酬として(プラットフォーマーではなく)ユーザー自身に還元される仕組みとなっています。

6.Web3とビジネスやクリエイティブ

Web3を背景に、ビジネスやクリエイティブにもたらす状況を考えてみます。

Web 2.0時代は、個人情報がプラットフォーマーに集中しているため、SNS上のコンテンツに「いいね!」や「シェア」をしても、アカウントを持つユーザーへの報酬にはなりませんでした。ところがWeb3では、Braveのようにユーザーがコンテンツとエンゲージすることで報酬を得られる可能性が大きくなり、よりコンテンツや製品に対するユーザー自らの発言権や影響力が増大することが想定されます。

そして、ブロックチェーンを基盤としていることで、コンテンツクリエーター(発信側)の役割が大きく変化します。従来は、YouTubeやInstagram、TikTokといったプラットフォームに自分が生み出したコンテンツを提供することで、ユーザーの注目を集め、プラットフォーマーを介して発信側の収益を上げる構造でした。

一方Web3では、ブロックチェーンを基盤とするNFT(Non Fungible Token : 非代替性トークン)という技術を使うと、現実の絵画や美術作品と同じように、自分の作ったオリジナルとそのコピーの判別ができるようになります(デジタルデータでコピーが可能なはずが、NFTによって固有性を保証されます)。

NFTについて補足すると、NFTはアートや音楽などのデジタル資産にブロックチェーン上で所有証明書を発行し、従来ならコピー可能なデジタル資産に対して固有の価値をもたせられます。その結果、クリエイターはコピーではなく自分が作ったコンテンツとしての証明が可能となり、自分に対して「正当な」収益が得られるでしょう。ユーザー(受け手)にしてもコピーされたコンテンツに対価を支払わなくていい(オリジナルを提供したクリエイターに支払える)状況が生まれます。

ここまでを整理すると、上の図のようになります。従来はプラットフォーマーに頼らざるをえなかったマネタイズの部分を、Web3が普及すると、自分自身で収益化し自分自身の経済圏を作り出すこともできるでしょう(例えば、より熱心なファンにNFTで提供。ファンは新たな価値を、発信側は新たな収益を得られます)。

7.Web3時代はメタバースに要注目

最後に、Web3時代はどのようなコンテンツが注目を集めるでしょうか?

やはり挙げられるのが「メタバース」です。現実に近い世界を仮想空間上に構築する、というメタバースの考え方自体は古くからありますが、ブロックチェーンの活用で、メタバースでの自分のアバター(キャラクター)の同一性を担保できて、アバターの情報を自分でコントロール可能です。メタバースがブロックチェーンと結びつけば、Web3と同様な環境を生み出せます。

さらに、メタバース上で売買されるアイテムや土地などをNFT化することで、唯一無二のものであることが証明でき、より付加価値の高いものが取引されるでしょう。つまり、いかに良質な3DCGコンテンツや、メタバースに代表されるようなVRコンテンツを制作できるかが、NFTによる非代替性とあいまって、今後ますます重要となります。

このようなコンテンツを作るためには非常に重い処理が必要です。CPUはもちろんのこと、作業のデータ容量も大きくなるのでメモリ容量や、メタバースには欠かせないグラフィックカードの性能が、コンテンツ制作の成否や進度を決めます。Web3時代にあわせて、制作環境は高性能を選び、現状からのアップデートも求められるでしょう。

ライタープロフィール 野澤智朝

広告クリエイティブや技術、ガジェットなどを取り上げるメディア「ニテンイチリュウ」の運営者であり、現役マーケター。デジタルクリエイティブやデジタルマーケティングに関するメディアで連載を担当してきたほか、各種記事の寄稿が多数。

記事を
シェア