

CG・VFX 映像制作の現場では、モデリングやレンダリングといった一連の制作フローを一人でこなすのはもはや当たり前。では、ワンオペやマルチタスクで作業をするときに本当に必要なPCスペックは何か? CG・VFX制作に関わる人ならば誰しもが気になることでしょう。今回はTV番組やCM、映画などの分野で活躍中の映像クリエイター、久藤拓実さんにパソコン工房のクリエイター向けPCを使ってもらい、その実情を確かめてみました!
映像クリエイター久藤さんの技が詰まったミュージックビデオ
今回インタビューにお答えいただいた久藤さんは、パソコン工房から配信中のミュージックビデオ『無限女子 ~powered by 仮面女子~ iiyama PCのイメージソング「Shining Road ~楽しいことを全力で!~」』を制作されています!
このように撮影された動画に対してCGやデジタル合成により視覚効果を加える技術がVFX(Visual Effects)です。
久藤さんの職人技が詰め込まれたミュージックビデオ、さすがのクオリティです!
ワンオペでのCG・VFX制作現場における制作フロー
映像制作の規模は様々ですが、今回ご紹介したミュージックビデオでは撮影後の作業(VFX作業~仕上げまでのいわゆるポストプロダクション部分)を久藤さんがなんとほぼお一人で制作されています!
CG・VFX制作の現場では一連の制作フローを一人でこなすワンオペ制作がもはや当たり前になってきました。
今回のPCはこのワンオペでの制作環境を前提に必要なスペックを考えていきます。
企画・絵コンテ作成などを経て撮影された映像素材を受け取った後は、おおよそ下記のようなフローで作業を進めていくそうです。
1. 絵コンテに沿って全体の映像を組み立てる(オフライン編集)
2. 必要なグラフィック素材の制作(2D/3D素材)
3. 映像にグラフィック素材を組み合わせ、特殊効果を加える
4. 最終的な画像・編集の調整
5. 納品データ作成
※上記2~4は随時同時並行的に作業が行われるとのこと
そして、上記フローの中で主には下記ソフトウェアを複数立ち上げ、同時並行で作業を進めることが多いそうです。
・Adobe Creative Cloud
・Premiere Pro(映像編集ソフト)
・After Effects(映像加工・モーションデザインソフト)
・Illustrator(グラフィック作成ソフト)
・Photoshop(画像編集加工ソフト)
・DaVinci Resolve(映像編集加工ソフト)
・Cinema 4D(3DCG作成ソフト)
・Octane Render(レンダリングソフト)
ワンオペでのCG・VFX制作現場で求められるPCスペックとは
CG・VFX制作は一つひとつ細かな作業を積み重ね、トライ&エラーを繰り返していく必要があるのですが、一人で制作する上では役割別にパソコンを分けるのではなく、一台のパソコン上で作業を同時進行=マルチタスクで行える事が効率化につながります。
ハードウェアスペック当然、高ければ高いほど良いのですが、天井知らずの予算にするわけにはいきません。
そこで久藤さんにワンオペ制作用PCの予算感を伺ったところ、50万円以下になると良いのではないかとアドバイスして頂きました。
50万円以下の予算でクリエイター向けBTO PCをセットアップ
ワンオペでの制作を50万円以下でコスパ良く行えるパソコンはどのようなスペックか?
久藤さんの普段のワークフローをヒアリングし動作検証にも参加していただき、検討を進めていきました。
そうして完成したのが、クリエイター向けBTO PC「SENSE∞(センス インフィニティ)」シリーズ「SENSE-R42A-LCi9SX-XYI」です。
完成したクリエイター向けBTO PC「SENSE∞(センス インフィニティ)」シリーズ
「SENSE-R42A-LCi9SX-XYI」
スペック | |
---|---|
OS | Windows 10 Home 64bit |
CPU | インテル(R) Core i9-7920X プロセッサー (2.9-4.3GHz/12コア/24スレッド/16.5MBキャッシュ/TDP140W) |
CPUクーラー | 12cmラジエーターファン水冷CPUクーラー |
マザーボード | インテル X299 チップセット |
メインメモリ | DDR4-2666 32GB (8GB x4) |
グラフィックカード | GeForce GTX 2080 Ti (ビデオメモリ 11GB GDDR6) |
ストレージ | intel Optane SSD 900p 480GB PCI-E NVMe |
電源 | 850W 80PLUS GOLD認証 ATX電源 |
キモとなるのが、グラフィックカード。
映像編集やCG・VFX制作、リアルタイムプレビューなどではビデオメモリを多く消費するのでビデオメモリは11GB必要と判断しました。
After Effects(映像加工・モーションデザインソフト)や、Cinema 4D(3DCG作成ソフト)とOctane Render(レンダリングソフト)、Premiere Pro(映像編集ソフト)、DaVinchi Resolve(カラーグレーディングソフト)を快適に扱う上でNVIDIA社製グラフィックカードをチョイス。
久藤さんにまず「GeForce® GTX 1080 Ti 11GB GDDR5X」で検証いただきベンチマークレギュレーションを確立。
その後、新発売となった「GeForce® RTX 2080 Ti 11GB GDDR6」をベンチマークレギュレーションに基づき新たに動作確認を行い、その採用を決定しました。
GeForceシリーズでも最新・最上位となるこのグラフィックカード「NVIDIA GeForce® RTX 2080 Ti 11GB GDDR6」が実際の処理にどれくらい効果を発揮しているかは、この後のベンチマーク結果もご覧ください!
エンコード処理やレンダリング処理といった重い処理をグラフィックカード側に任せることでCPUはコストを抑え、編集時の快適性を重視し動作クロックが高く、かつコア数とのバランスに優れるインテルCore i9-7920Xを採用しました。クリエイター向けとされるインテルCore Xシリーズプロセッサーとなるため、メモリも4枚一組となるクアッドチャンネルとなり最大8枚まで搭載が可能。久藤さんの検証を踏まえ、コスト面とのバランスを見て32GBの設定としていますが、作業内容や扱うソフトウェアに応じて最大128GBまで増設することができるのが魅力です。
また、SSDはインテルOptane SSD 900Pを搭載。Optane SSDは3D Xpointテクノロジーを使用したメモリを採用し、NANDを採用する通常のSSDと比べ、書き込み容量や時間経過に依存しない安定した高速な読み書き性能、そして4倍以上も高い耐久性を持つという映像クリエイターにまさにおすすめのSSDとなっています。
クリエイター向けBTO PCを使ってみた久藤さんの感想
久藤さんに実際に使ってみていただいたクリエイター向けBTO PCの感想を伺いました!
『Shining Road ~楽しいことを全力で!~』ミュージックビデオ冒頭部分より
“Cinema 4Dで作成したオープニングでは、多数のオブジェクトやテクスチャを使用しているため、Octane Renderでリアルタイムプレビューを行う際、ビデオメモリを消費しており検証時にグラフィックカードに搭載していた11GBギリギリまで使用していることもありました。
シンプルな解決策としてビデオメモリの容量を増やすと余裕が出るところですが、ビデオメモリ11GBの容量に収まるようにフォグ処理はサンプル数を減らし、コンポジット時にデノイズをかけるという工夫をすることで解決し、限られた制作時間の中で予想よりも効率的に制作を進めることができました。
オブジェクト数が多くなりがちなシーン制作などではビデオメモリが多いほうが余裕をもってイメージした通りの表現やアイディアの実現を素早く行うことができます。”
“Octane RenderはNVIDIAに最適化されておりCUDA*コア数に比例してパフォーマンスが向上します。今回の作品では例えばモーションブラー描画を行う場合はリアルタイムプレビューにより、最終の見た目に近い形での編集が可能となりました。従来のCPUレンダラーよりもかなり高速で結果が確認できたので、コンポジット時にモーションブラーを追加する必要がなく、コンポジット作業の短縮が可能でした。
ライティングなども同様です。こちらも仕上がりに近い形で調整ができるため、素早くイメージ通りの制作を行うことができました。”
*CUDA…1つのグラフィックプロセッサ内で多数のコンピューティング コアの使用を可能にすることで、演算速度を早め汎用数値計算の同時処理も可能にするNVIDIA社の並列コンピューティング アーキテクチャ
“After Effectsは、グラフィックカードによる高速なレンダリングが可能で、例えば前述のデノイズプラグインはNVIDIAのCUDAアクセラレーションを利用することで、より高速な処理が可能でした。NVIDIA社の製品の中でもGeForceシリーズは近年対応するソフトウェアがかなり増えてきており、従来のハイエンドなGPUよりもコストを抑えつつ、十分なパフォーマンスが出ると考え、今回GeForceを選択しました。”
“Cinema 4Dで制作したCGシーンのレンダリングをOctane Renderで行っている最中に並行してAfter Effectsでのコンポジット作業等を行った際、多少画面表示にカクツキがありましたが、レンダリング結果には影響がなく、同時並行で作業を行うことができました。また、こうした作業を行っている最中、32GBを搭載していたメインメモリの使用率が90%を越えることもあり、必要に応じてもう少しメインメモリを増設するとよいのかなと思いました。”
“今回のストレージの容量は480GBでしたが、撮影素材やソフトウェア以外にも、プラグイン・キャッシュファイル・中間データなど、制作時は様々なファイルが増えていくため、ストレージはこの容量以上を推奨したいです。”
ミュージックビデオ冒頭シーンのGPUレンダリング処理をベンチマーク計測
最後にCinema 4Dで作成したミュージックビデオ冒頭シーンのデータを用いて、Octane RenderのGPUレンダリング処理したものをベンチマークで計測してみました。テスト環境は下記の通りとなります。
スペック | |
---|---|
CPU | インテル(R) Core i9-7920X プロセッサー (2.9-4.3GHz/12コア/24スレッド/16.5MBキャッシュ/TDP140W) |
CPUクーラー | 12cmラジエーターファン水冷CPUクーラー |
マザーボード | インテル X299 チップセット |
メインメモリ | DDR4-2666 32GB (8GB x4) |
グラフィックカード | GeForce GTX 1060 (ビデオメモリ 6GB GDDR5) |
GeForce GTX 1080 (ビデオメモリ 8GB GDDR5X) | |
GeForce GTX 1080 Ti (ビデオメモリ 11GB GDDR5X) | |
GeForce GTX 2080 (ビデオメモリ 8GB GDDR6) | |
GeForce GTX 2080 Ti (ビデオメモリ 11GB GDDR6) | |
ストレージ | intel Optane SSD 900p 480GB PCI-E NVMe |
電源 | 850W 80PLUS GOLD認証 ATX電源 |
OS | Windows 10 Home 64bit (Build:1803) |
ビデオドライバ | GeForce Game Ready Driver Ver416.16 |
テスト環境はレビューしたモデルをベースにグラフィックカードを変更
Octane RenderのGPUレンダリングによるレンダリング時間(短いほど早い)
CPUやメモリは変更せず、グラフィックカードのみを変更しレンダリング処理の時間を計測しました。
グラフィックカードの性能に依存してレンダリング処理時間が高速化していることが分かります。コストパフォーマンスで人気の高いグラフィックカードGeForce GTX 1060 6GBでは22分48秒だったものが、GeForce GTX 1080 Tiでは15分41秒まで短縮、さらに最新のGeForce RTX 2080 Tiでは13分57秒と、1シーンで8分51秒(約40%)もの時間を短縮することができました。
BTO PCならではのコスパと拡張性
今回の検証にご協力いただいた久藤さんも、「50万円以下の低コストながら、これだけの性能を引き出すことができ、さらにスペックをアップグレードしやすい。この拡張性は大きな魅力」「作業の追い込み時期など、『どうしてもスペックが足りない!』といった局面でも生きそう」と太鼓判。
要らない部分は余計にスペックを上げなくてもいい、BTO PCのコスパにもご満足いただけたようです。
最初の設定をベースとして、目的や予算に合わせてスペックの調整をしやすいのはBTO PCならではのメリットです。
コスパを考えながら効率的に、スピーディーにCG・VFX制作を行いたい!と考えている方にとって、BTO PCはきっと役立つはずです。あなたの制作環境や作業内容にマッチしたPCをセットアップして、ぜひクリエイティブに生かしてみてはいかがでしょうか!
久藤拓実さん Profile:
1988年 千葉県生まれ。御茶の水美術専門学校卒業。
同校在学中からエディトリアルデザイン会社でアシスタント・デザイナーとして 3年間勤務。
2010年 株式会社THE U.D.S. 所属。
Technical Director/Motiongraphics Designer として、ポストプロダクションおよびグラフィックデザインに携わる。
[ネクスマグ] 編集部
パソコンでできるこんなことやあんなこと、便利な使い方など、様々なパソコン活用方法が「わかる!」「みつかる!」記事を書いています。