2022年8月12日11時より一般ユーザーに向けて発売されたRyzen Threadripper PRO 5000WXシリーズについて、ベンチマークテストを試してみました。

気になる製品最終更新日: 20220912

AMD Ryzen Threadripper PRO 5000WXシリーズ・プロセッサーベンチマークレビュー

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AMD Ryzen Threadripper PRO 5000WXシリーズ・プロセッサーは、AMD Ryzen 5000シリーズ・プロセッサーと同じZen 3アーキテクチャーを採用し、IPC(クロックあたりの処理能力)の向上や、CPU内部構造の変更によるキャッシュ効率の改善が図られています。今回は幸運にもRyzen Threadripper PRO 5000WXシリーズ・プロセッサーの動作テストをすることが出来ましたので、どれほどの性能を持つのかをベンチマークで見ていきます。

Ryzen Threadripper PRO 5000WXシリーズ・プロセッサーとは

 Ryzen Threadripper PRO 5000WXシリーズ・プロセッサーは先行して大手メーカーより販売されておりましたが、2022年8月12日11時より一般ユーザーに向けて発売開始されたプロフェッショナル・ワークステーション用CPUです。一般ユーザー向けにはRyzen Threadripper PRO 5995WX、Ryzen Threadripper PRO 5975WX、Ryzen Threadripper PRO 5965WXの3モデルがリリースされる形となります。
Ryzen Threadripper PRO 5000WXシリーズ・プロセッサーはRyzen 5000シリーズ と同じZen 3アーキテクチャーを採用しており、Ryzen Threadripper PRO 3000WXシリーズ・プロセッサーから性能向上を果たすと同時に、「Pro」シリーズとして制御フロー攻撃に対する保護を高める強固なセキュリティー機能「AMD Shadow Stack」を搭載するなど、セキュリティー機能も強化されています。

Ryzen Threadripper PRO 5000WXシリーズ・プロセッサーの特徴まとめ
■Ryzen 5000シリーズと同じZen 3アーキテクチャーを採用
■EPYCプロセッサーと同様のチップレット構造、1つのIOダイと最大8つのCCDが組み合わさり、最大64コア128スレッドに対応
■企業向けセキュリティー機能であるAMD PROテクノロジーに対応
■システムメモリー全体での完全なメモリー暗号化を行うAMDメモリー・ガードに対応
■最大128レーンのPCI-Express Gen 4.0対応
■最大DDR4-3200の8チャネルメモリーアクセスにより、最大204.8GB/s のメモリー帯域幅を確保
■最大2TBのメモリー容量に対応
■sWRX8ソケットと、AMD WRX80チップセットに対応
■ECCメモリーに対応(マザーボードによる)

Zen 3アーキテクチャーの詳細については下記記事をご確認ください。

AMD Ryzen 5000 シリーズ プロセッサー(Zen 3)とは
https://www.pc-koubou.jp/magazine/45013

Ryzen Threadripper PRO
5995WX
Ryzen Threadripper PRO
5975WX
Ryzen Threadripper PRO
5965WX
Ryzen Threadripper PRO
3995WX
Ryzen Threadripper PRO
3975WX
Ryzen Threadripper PRO
3955WX
コアアーキテクチャー Zen 3 Zen 2
製造プロセス 7nm
コア/スレッド 64/128 32/64 24/48 64/128 32/64 16/32
動作クロック 2.7GHz 3.6GHz 3.8GHz 2.7GHz 3.5GHz 3.9GHz
最大ブースト・クロック 4.5GHz 4.5GHz 4.5GHz 4.2GHz 4.2GHz 4.3GHz
L2キャッシュ 32MB 16MB 12MB 32MB 16MB 8MB
L3キャッシュ 256MB 128MB 128MB 256MB 128MB 64MB
メモリー 対応メモリ DDR4-3200
チャネル数 8
最大容量 2TB
PCI-Express Gen 4.0
レーン数 128
TDP 280W
対応ソケット Socket sWRX8
対応チップセット AMD WRX80

~スペック比較一覧~

スペック表を見ての通り、Threadripper PRO 5000WXシリーズ・プロセッサーとThreadripper PRO 3000WXシリーズ・プロセッサーはとても良く似た仕様となっており、採用するコアアーキテクチャーが違うだけで、メモリーチャネル数や最大メモリー容量、PCI-Expressレーン数といった足回りの仕様に変更は有りません。
 なお、Threadripper PRO 5000WX シリーズ・プロセッサーに未対応なBIOSバージョンでは起動しない可能性が有りますので、ご注意ください。今回使用したマザーボードのASUS Pro WS WRX80E-SAGE SE WIFIではそのままの状態では起動できず、BIOSバージョンを1003に更新する事で起動することを確認しました。Threadripper PRO 5000WXシリーズ・プロセッサーを使用する際は、事前にThreadripper PRO 5000WXシリーズ・プロセッサーに対応したBIOSに更新しておく必要が有りますので、マザーボードメーカーのWebサイトなどをご確認ください。

それでは、Threadripper PRO 5000WXシリーズ・プロセッサーのベンチマークを開始しましょう。比較用CPUとして、前世代のThreadripper PRO 3000WXシリーズから、Threadripper PRO 3975WXを用意しました。

ベンチマークテスト

PassMark PerformanceTest

まずはCPUの全体的な性能を数値化するPassMarkの『CPU Benchmarks』を用いてCPUの演算性能を見てみましょう。なおテストに使用したソフトウェアはPassMark 9となります。

PassMark PerformanceTest~PassMark CPU Mark~

同じコア数/スレッド数のThreadripper PRO 5975WXがThreadripper PRO 3975WX に対して10%以上もスコアが増加するなど、Threadripper PRO 5000WXシリーズがThreadripper PRO 3975WXを上回る性能を示しています。Zen 3アーキテクチャーを採用したThreadripper PRO 5000WXシリーズの面目躍如といった感じです。

CPU Markを個別のテスト内容ごとに見てみると、特徴的な2つの傾向がみられました。
まずは、コアアーキテクチャーの違いは有っても、コア数/スレッド数の優劣は逆転しなかったパターンです。Threadripper PRO 5965WXはThreadripper PRO 3975WXに届かないが、Threadripper PRO 5975WXとThreadripper PRO 5995WXはThreadripper PRO 3975WXを上回っている形となります。このパターンは整数演算を代表例として、浮動小数点演算や圧縮演算、暗号化演算、並べ替え処理が同じ傾向を示しており、コア数やスレッド数の多さに応じたベンチマークの測定結果となっています。

PassMark PerformanceTest / 整数演算~PassMark PerformanceTest / 整数演算~

 続いてコア数/スレッド数によらずThreadripper PRO 5000WXシリーズがThreadripper PRO 3975WXを上回るパターンです。シングルスレッドや物理演算、素数演算がこれに当てはまります。また、シングルスレッドと物理演算では、Threadripper PRO 5000WXシリーズ内の順位がコア数の少ない順でスコアが高くなるという格好となりました。これはコア数/スレッド数よりも動作クロックの影響が大きいからではないかと思われます。物理演算などについてはコア数が多いことによるメモリアクセスの影響も考えられますが、本テスト結果からでは分かりませんでした。

PassMark PerformanceTest / シングルスレッド~PassMark PerformanceTest / シングルスレッド~

これらの結果を踏まえて、総合スコアのような並びとなりました。前世代ほど大きくは無く、改善がみられるものの得手不得手が現れるという点は、引き続きThreadripperシリーズの特徴といえます。

3D Mark CPU test

続いて、3D Mark から純粋にCPU性能のみを評価する「CPU Profile」を用いて、CPUの全ポテンシャルを示す「最大スレッド(Max Threads)」のスコアで比較してみましょう。

3DMark CPUProfile~3DMark CPU Profile~

Threadripper PRO 5965WXはThreadripper PRO 3975WXに一歩届かないものの、Threadripper PRO 5975WXはThreadripper PRO 3975WXを10%以上上回っていました。ここでもZen 3アーキテクチャーを採用したThreadripper PRO 5000WXシリーズの演算性能の高さがうかがえます。

TMPGEnc Mastering Works 6

 次に、動画編集ソフトのTMPGEnc Mastering Works 6を用いて、QuickTimeファイル(3840x2160/2分50秒)をh.265に変換するのに要した時間を測定しました。グラフの短い方がより高速に処理を行っている事になります。(※単位は 秒 です)

TMPGEnc Mastering Works 6~TMPGEnc Mastering Works 6~

PassMarkのCPU Markと同じ傾向となり、Threadripper PRO 5000WXシリーズがThreadripper PRO 3975WXを上回りました。なお、Threadripper PRO 5995WXがThreadripper PRO 5975WXよりも処理時間が掛かっていますが、これは以前も起こった結果で、Windowsの仕様によるものとなります。64スレッド毎で処理が分割され(タスクマネージャーから見ると2つのCPUとして認識される)るため、1つのCPUで64コア128スレッドを持っていたとしても使用するソフトウェアによってはその半分の64スレッドまでの処理となる場合があるようです。すべてのコアを使いきれるソフトウェアを使用することだけでなく、同時にエンコードを2本走らせるなどすることでThreadripper PRO 5995WXの64コア128スレッドを生かすことができるようになります。

着実なる進化を遂げたRyzen Threadripper PRO 5000WXシリーズ・プロセッサー

 Threadripper PRO 5000WXシリーズ・プロセッサーは、Ryzen 5000シリーズ・プロセッサー譲りの高い性能を発揮しており、Threadripper PRO 3000WXシリーズ・プロセッサーから着実に性能向上を果たしていました。CPUの使い方をユーザー側で調整しないと性能を発揮しきれなかった初代のThreadripperから比較しても格段に進化しており、特に考えなくても高い処理能力を享受できるようになった点は歓迎すべきでしょう。
また、マザーボードのBIOSさえ対応していれば、チップセットの変更は無いため、マザーボードやメモリー、CPUクーラーなど環境を変更する必要はなく、Threadripper PRO 3000WXシリーズ・プロセッサーからThreadripper PRO 5000WXシリーズ・プロセッサーに交換するだけで性能向上が見込めるのは、ワークステーションとしては大きなメリットではないでしょうか。
もちろん、Threadripper PRO 5000WXシリーズ・プロセッサーの大きな魅力は、AMD PROテクノロジーやAMDメモリー・ガードといった優れたセキュリティー機能により信頼性の高いアプリケーションを実現できる事であり、Threadripper PRO 5000WXシリーズ・プロセッサーは高い信頼性と優れた拡張性を必要とするワークステーション用途に高い性能を発揮してくれるCPUとして活躍してくれる事でしょう。

Ryzen Threadripper PRO 5000WX Ryzen Threadripper PRO 3000WX
CPU Ryzen Threadripper PRO 5995WX
Ryzen Threadripper PRO 5975WX
Ryzen Threadripper PRO 5965WX
Ryzen Threadripper PRO 3975WX
マザーボード ASUS Pro WS WRX80E-SAGE SE WIFI
メインメモリ DDR4-3200 64GB (8GB x8)
ビデオカード GeForce RTX 3070 Ti(ビデオメモリ 8GB)
ストレージ Samsung 980 PRO 1TB NVMe(MZ-V8P1T0B)PCIe Gen 4.0 M.2 NVMe SSD
電源 Seasonic SSR-1000GD (80PLUS Gold 1000W)
OS Windows 10 Pro 64bit (バージョン:21H2)
ビデオドライバ GeForce Game Ready Driver Ver512.16

~検証構成~

ライタープロフィール 職人5号

Windows2000登場前からほぼ一貫してPC製造部門に従事。PC組立はもちろん、OSイメージの作成や製造時のトラブルシュートを行う。 その経験を生かしてOSの基本情報や資料室を担当する事が多い。

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