パソコンを使って、誰でも、簡単にハイクオリティな音楽を作成できるDTM。定番ソフトウェアとして人気のCubase Elements 9.5を使い、DTMとは何か、から始めて、実際に音楽を作り完成するまでの過程を紹介します。

Cubase Elements 9.5に見る、最新DTM事情のイメージ画像
Cubase Elements 9.5に見る、最新DTM事情のイメージ画像
クリエイター最終更新日: 20181019

Cubase Elements 9.5に見る、最新DTM事情

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パソコンを使って、誰でも、簡単にハイクオリティな音楽を作成できるDTM。最近だと、ボーカロイドと組み合わせて動画サイトに投稿するボカロPも脚光を浴びていますね。
 そんなDTMですが、知らない人にとっては全く未知の世界、いったい何がどうなっているのか全く想像できないかもしれません。また、音楽というだけで苦手意識をもってしまう人や、なにか高価な機材が必要では? といったところで躊躇している人もいるでしょう。
 この記事では、そんなDTM初心者の方に、パソコンで音楽することの簡単さ、楽しさをお伝えします。DTMなんて言葉を聞いたことをない人、昔ちょっと見かけたことがあるけど最近のはどうなってるかわからない人、さらに音楽をやったことがない人にも、わかりやすく、最新のDTM事情を解説します。
 具体的には、定番ソフトウェアとして人気のCubase Elements 9.5を使い、DTMとは何か、から始めて、実際に音楽を作り完成するまでの過程を紹介します。
 読んでいただければ、最新のDTMでは、特別な機材がなくてもはじめられ、楽器の経験がない人でも音楽が作れるように、様々な工夫が盛り込まれているのがわかるでしょう。なんとなくハードルが高さを感じている人にも、とっつきやすさがわかっていただけるでしょう。
 知ってるようで知らないDTMの世界、それではさっそくその扉をあけてみましょう。

DTMって何?どうやるの?

最初に、DTMの全体像、その概略と、どのようなソフトウェアや、ハードウェアが必要になるのかについて、解説しましょう。「うちのパソコンでもできるのかな?」なんて思っている方も、ぜひ読んでみてくださいね。

DTMの中心になるのはDAWソフト

DTMは、DeskTop Musicの略。パソコンを使って誰でも卓上で音楽を作れちゃう、というイメージです。

このDTMの中核を担うのが、DAW(Digital Audio Workstation)になります。DTMとDAW、なんだかまぎらわしいですが、DTMのためのアプリがDAWという位置づけというわけです。

DAWを使うと、パソコンの中にバーチャルな音楽スタジオを構築できます。いろいろな楽器を演奏し、歌を録音し、ミキサーで混ぜ合わせて一曲に仕上げるといった、音楽制作に必要な全ての機能が、DAWには詰まっています。

DAWソフトウェア「Cubase Elements」の画面DAWソフトウェア「Cubase Elements」の画面

付属ソフトウェア音源でいろいろな音色で演奏できます

まずは、楽器の演奏です。DAWでは、ソフトウェア音源を内蔵していて、シンセサイザーをはじめ、ピアノ、バイオリン、ギター、ドラムなど、様々なパートの演奏を行えるようになっています。音は、パソコンのスピーカーや音声出力端子から出てきます。

Cubase Elementsに付属しているソフトウェア音源「Prologue」Cubase Elementsに付属しているソフトウェア音源「Prologue」

ソフトウェア音源は、普通に楽器として、鍵盤(キーボード)から弾いて楽しむこともできます。電子ピアノなどのキーボードを持っている人は、USB端子が付いているか確認してみてください。パソコンと接続してドライバーをインストールすれば、DAWと連携して使用できますよ。

また、デスクトップで使用できるコンパクトでローコストのミニ鍵盤も多数発売されていますから、そういった機種を使うのもおすすめです。

もちろん、鍵盤を持っていないとDTMができない、なんてことはありません。“打ち込み”といって、演奏せずに一音ずつ音を入力することも可能ですし、Cubase Elements 9.5では、パソコンのキーボードを鍵盤に見立てて演奏できる機能を装備していますから、まずそこから始めるのもありですね。

Cubase ElementsのオンスクリーンキーボードCubase Elementsのオンスクリーンキーボード

歌や生楽器の録音は、内蔵音声入出力端子で

次に、歌や生演奏の録音ですが、これには音声の入力を備えたオーディオ・インターフェイスが不可欠です。といっても、最近のパソコンには、たいてい音声入出力を装備していますから、まずはそれを利用すればOKですね。

ところで、録音というと、Windows標準搭載のボイスレコーダー(サウンドレコーダー)を思い出す人もいるんじゃないでしょうか。単純な録音だけなら、それでも可能なのですが、DAWでは多重録音といって、何パートも重ねて録音したり、ソフトウェア音源を同時に鳴らせられるのが醍醐味です。

例えば、ドラム、ベース、ピアノのパートを打ち込みで作り、それに合わせてギターを弾いてカラオケを作成。さらに歌を録音して、ワンマンバンドなんてことが実現できるんですね。

高性能ドライバーで、遅れやズレのない多重録音を実現

この場合に問題になるのが、入出力処理にともなう遅延=レイテンシーです。通常の音声入出力であれば、多少の時間的な遅れは問題になりませんが、多重録音の処理でタイミングがずれてしまったら致命的です。

この問題を解決するために、Cubase Elementsの開発元であるスタインバーグでは、DAWに要求される素早く正確な処理を可能にするASIO(Audio Stream Input Output)規格を定めました。現在発売されているDAW用オーディオ・インターフェイスのほとんどが、ASIO対応になっています。

さらに、Cubaseシリーズには、一般のWindowsパソコンに装備されているオーディオ入出力用の汎用ASIOドライバも付属しています。つまり、通常のパソコンのオーディオ入出力でも、高速かつ正確なやりとりができるんですね。

Cubaseシリーズに付属しているASIOドライバのオーディオ入出力画面Cubaseシリーズに付属しているASIOドライバのオーディオ入出力画面

この記事でも、一般的なノートパソコンの音声入出力を用いていますが、ASIOドライバによる動作で、なんのストレスもなく作業を行うことができました。

さらに高音質を狙うなら、専用オーディオ・インターフェイスも

さらにワンランク上の音質となれば、DAW用インターフェイスを増設するのもオススメです。例えば、Cubaseと同じスタインバーグ製オーディオ・インターフェイスUR12には、マイクとエレキギター(ベース)用の入力をそれぞれ一系統とステレオ出力を装備しながら1万円以下の価格を実現しています。しかも、Cubaseのエントリー・ソフト、Cubase AIも付属しています。

こういった製品を使うと、DTM以外にも、話題のハイレゾコンテンツを始め、音楽鑑賞やゲームを、高音質の迫力ある音で楽しむこともできますよ。

Steinberg ハードウェアURシリーズ ラインナップ
“UR12 – 2 x 2 USB オーディオインターフェース”. Steinberg .2018/09/28 ※配信情報は随時更新されています。

https://japan.steinberg.net/jp/products/hardware/ur_series/lineup/ur12.html

DAWの定番、Cubaseシリーズ

さて、この記事で使用しているCubaseシリーズですが、長い歴史と知名度を持つDAWの代表的存在です。J-POPやHip-Hop、映画のサントラやゲーム・ミュージックの製作など、国内外ともに広く使われていることでも有名ですね。

現在、最新バージョンは9.5、最上位バージョンのCubase Pro、個人アーティスト向けのCubase Artist、そしてここで使用しているエントリーモデルのCubase Elementsというラインナップになります。さらに、先に触れたスタインバーグ製オーディオ・インターフェイス付属版のCubase AI や他社製オーディオ・インターフェイス付属版のCubase LEは、これらの簡易版という位置づけです。

“Cubase 9.5” .Steinberg . 2018/09/28

https://japan.steinberg.net/jp/products/cubase/start.html

Cubase Elements 9.5とは?

Cubase Elements9.5は、エントリーモデルといいながらも、打ち込みからオーディオ録音、ミキシングや編集まで、音楽制作に必要な機能はしっかりと装備。ソフトウェア音源も汎用性が高い3機種を内蔵と、ジャンルを選ばず使用できる、よく考えられた内容になっています。

DAWでは、デジタル音声データを使って作業することになります。この場合、クオリティを決めるのが、サンプリング・レイトと量子化ビット数になります。サンプリング・レイトが高いほど、より高音まで、量子化ビット数が高いほど、より小さな音まで忠実に再生できるんですね。目安は、CDクオリティのサンプリング・レイト=44.1kHz、量子化ビット数=16bitになります。さらに、それ以上のスペックを持つハイレゾ・オーディオも最近話題ですね。

Cubase Elementsでは、音質面でもサンプリング・レイト=192kHz、量子化ビット数=32ビット浮動小数点処理と、高スペックのハイレゾが可能になっています、さすが最新のDAWですね。

しかも、価格も1万円少々に抑えられている上、一月間機能制限なしで使用できる体験版も用意されています。なお、体験版を使用する際には、ライセンス認証のために、 USBポートに挿して使用する小さなキーデバイス、スタインバーグ製のUSB-eLicenser (Stein berg Key)が必要ですから、注意してくださいね。

なお、DAWには、Cubase以外にも各社から様々な製品がリリースされています。基本的な機能は共通の部分が多いのですが、得意分野やユーザーインターフェイスがそれぞれ異なり、個性を競っています。この記事を参考に、自分にあったものを探してみるのもいいのではないでしょうか。

“Cubase Elements 9.5” .Steinberg .2018/09/28

https://japan.steinberg.net/jp/products/cubase/cubase_elements.html

楽器が弾けなくてもメロディやドラムのパートを作れちゃいます

ここからは、DTMでは、どのようにして音楽を作っていくのか、Cubase Elements 9.5での音楽製作の実際を紹介していきましょう。まずは、DTMの大きな魅力でもある手法、楽器の演奏ができなくても音楽が作れる“打ち込み”についてです。

トラックとリージョンで見通しよく音楽制作

単なるレコーダー・ソフトと違って、複数のパートを同時に操れるのがDAWの特徴です。このパートごとのデータは、トラックと呼ばれる場所に収納されます。陸上競技のトラック競技のように、「せーの」で色々なパートが併走するイメージですね。

トラックの中身にあたる各パートごとのフレーズは、リージョンという単位にまとめられています。リージョンは、フレーズを入れる箱のようなものですね。

できあがった曲のデータは、何パートものトラックと、曲の部分ごとに分けられた、波形やMIDIデータのリージョンが並んでいる状態になります。DTMでは、曲のパーツであるリージョンを、トラック上に並べることで、見通しよく音楽を作っていきます。

下の画面のように、曲の進行に応じて、様々なフレーズのリージョンがトラック上に並んでいるのがわかりますね。

各パートごとのフレーズのリージョンが並んだトラック各パートごとのフレーズのリージョンが並んだトラック

トラックやリージョンは、いくつでも自由に作ることができますが、まずは一番シンプルな例として、トラックを一つだけ、リージョンを一つだけ作り、制作の実際をみてみましょう。

トラックには、いくつかの種類がありますが、ここでは内蔵ソフトウェア音源用のインストゥルメント・トラックを作ります。このとき同時に、どの音源を使うのかも選択できます。このあたりの流れは、実際にやってみるととてもスムーズで、歴史あるソフトらしい、よく練られた操作性を感じさせるところです。

音源には、わかりやすいプリセットを装備したHALion Sonic SEを使ってみました。ここでも自動的にプリセット選択画面が開きます。ほんとに良くできていますね。

HALion Sonic SEのプリセット選択画面HALion Sonic SEのプリセット選択画面

プリセットは、ピアノやストリングス(弦楽合奏)といったカテゴリー別に分類されています。下のキーボードをクリックして音色を確認できるようになっているのですが、とてもリアルな音色に驚かされます。

それもそのはずで、これらの音色は、サンプリングといって、実際の楽器を演奏して記録したものなんですね。実は、こういったサンプリングの音色は、映画音楽からCDまで、今では広く用いられています。生楽器のつもりで聞いている演奏も、実はサンプリングかもしれませんよ。

マウスだけでフレーズを作れるキーエディタ

楽器の用意ができたら、いよいよ“打ち込み”開始です。リージョンをダブルクリックすると、キーエディターが開きます。

キーエディターは、見た目のとおり。左側のピアノ鍵盤が音程を、上の目盛りが小節や拍をあらわしています。ツールボックスから、エンピツツールを使って書き込んでいきます。間違えたら、消しゴムツールですね。もちろん、アンドゥも使えますよ。

キー・エディター上の好きな場所をクリックすると、高さに応じた音が鳴り、その位置に帯の形をした音符のデータ(MIDIデータ)が入力されます。帯の長さが音符の長さを表していて、ドラッグで好きな長さに調節できます。

キーエディタ画面キーエディタ画面

下半分の棒グラフは、音の大きさを表しています。これもドラッグで自由に設定できますし、左右に斜めにドラッグすると、徐々に大きく/小さくなんてのも簡単に入力できちゃいます。

まるでペイントソフトのような感覚で、直感的に音を入力できるのがキーエディタの特徴です。Cubaseシリーズ以外のDAWにもたいてい装備されている、DTMで一番よく用いられるエディタになります。実際に使ってみると、驚くほど簡単に操作できるのがわかりますよ。

鉛筆ツールで音を入力している様子鉛筆ツールで音を入力している様子

打ち込んだフレーズは、プレイボタンを押して聞けます。巻き戻しボタンや、早送りボタンなどで、好きな場所に移動して、そこから再生することもできます。このあたりは、通常のレコーダーと同じですね。また、カウンターに小節番号を入力して、その場所へジャンプすることもできます。

さらに、テンポの数値をドラッグすれば、テンポの上げ下げも自由です。

画面下部中央にあるコントロールボタン画面下部中央にあるコントロールボタン

マウス操作で適当に入力して、聞き返してみて、なんとなく気に入らないところを修正する、そんな方法で、オリジナルフレーズが作れちゃいます。

スコアエディタでは音符も使えます

Cubase Elements 9.5には、この他にもさまざまなエディタがあります。ピアノやブラスバンドなどの経験がある人には、楽譜スタイルで入力ができる、スコアエディタが便利でしょう。こちらは、音符を選んで置いていく形でフレーズが入力できます。

ちなみに、先ほど、キーエディタで入力したデータを、スコアエディタで表示すると、こんな感じです。何の曲かわかりますか?(答えは最後まで読んでいただくとわかりますよ)

スコアエディタでの表示スコアエディタでの表示

ドラムパートにはドラムエディタが便利

ポピュラー音楽に欠かせないのがドラムですね。Cubase Elements 9.5には、ドラム専用音源のGrooveAgentSEを装備しています。こちらも、サンプリングによるリアルなサウンドが特徴。それぞれの打楽器をクリックすると音を確認できます。別トラックを作ってドラムパートを入力してみましょう。

ドラムエディタ画面ドラムエディタ画面

入力には、ドラム専用のエディタが用意されています。ドラムには、ドレミがありませんから、左にはピアノの鍵盤のかわりに、シンバルやハイハットといった打楽器名が書かれています。また、音を伸ばして保ち続ける必要もないので、叩くタイミングをクリックするだけ、音の位置は四角形のドットで表示されます。例は、ポップスやロックでよく用いられるエイトビートを入力した例です。

ドラムパートは繰り返しが多いので、一つパターンを入力したら、コピペで簡単に増やすことができますね。

一つパターンを入力したらコピペで簡単に増やせる一つパターンを入力したらコピペで簡単に増やせる

仮想キーボードを使うともっと簡単に入力できます

ここまでは、鍵盤を使わずにフレーズを入力する方法をみてきましたが、鍵盤を併用して、能率よく入力することもできます。といっても演奏するわけではないので、弾けない人でもOK。前に紹介したように、パソコンのキーボードを仮想キーボードとして使うこともできますよ。

ここでは、ベースパートを入力してみましょう。手順は、ここまでと同じで、トラックを作り、ソフトウェア音源のHALion Sonic SEを立ち上げます。音色は、エレキベースの指弾きにしておきます。

リージョンを作成したら、キーエディタのステップ入力ボタンをオンにします。そうすると、鍵盤で弾いた音が次々に入力されます。もちろん長さも、自由に設定できます。

ベースでよくある、八分音符の連続のようなフレーズだと、あっという間に入力できちゃいます。

鍵盤を併用したベースパートの入力鍵盤を併用したベースパートの入力

音色やフレーズを変えてみよう

これで、メロディ、ベース、ドラムといった簡単なアンサンブルが出来上がりました。ここでのポイントは、入力したのは、音そのものではなくMIDIデータということです。

MIDIは、もともと電子楽器を接続するために作られた規格で、どの鍵盤を押したか(音程)、どのつまみを回したか、といったことを他の機器に転送することができます。これを、時間とともに記憶し、“どのタイミングで”“どの音を”演奏したかを記録したのが、MIDIデータになります。

ここでは、そのMIDIデータを使って、内蔵のソフトウェア音源を鳴らしているのですね。記録しているのは、音程やタイミングだけですから、音色はいつでも変えることができます。オーケストラやバンドの楽器以外にも、エスニック楽器なんかも面白いですね。メロディをお琴(筝)にすると、なんだかお正月、みたいな感じなりますよ。

このように、自由な発想で簡単にパートを重ねて、一人でアンサンブルを楽しめるのが、DTMの大きな魅力です。今では、多くの人がDTMを入り口に音楽をはじめて、自分だけのオリジナル曲を作っています。

DTMでは、楽器が弾けなくても、マウスやキーボードでパートやフレーズを作ることができ、さらに、コピペなどパソコンならではの編集も行えることが、わかっていただけたのではないでしょうか。

録音したり、素材フレーズの活用もできちゃいます

ここからは、MIDIデータではなく、歌や演奏をそのまま取り込むレコーディング、さらに、既成の素材フレーズの活用方を紹介しましょう。

レコーダー感覚の録音はとっても簡単です

まずは、簡単な録音を試してみましょう。

先に解説した打ち込みと同じように、まずは、トラックの作成から始めます。オーデイオ音声を扱うので、作成するのはオーディオトラックですね。

この記事で使用したパソコンでは、L/R(左右)2つのマイクを装備し、ステレオ録音が可能です。そこで、トラックの作成でも、ステレオか、LまたはRのどちらかだけを使ったモノラル録音するのかを、選択できるようになってます。

一見ステレオの方が良いように思えるのですが、音楽制作では、歌でも楽器でもマイク1本で録音するのが基本です。スタジオ風景でもボーカルはマイク一本に向かって歌っていますね。そこで、ここではモノラルを選んでみました。

モノラル録音を選択モノラル録音を選択

オーディオトラックを作成すると、自動的にミキサー画面が開きます。一番左には、これも自動的に作られているマイク入力、一番右は最終出力(StereoOut)のチャンネルです。マイクに向かって声を出すと左のメーターが振れるのがわかりますね。また、フェーダー(ボリューム)を上下にドラッグすると、マイクからの信号を大きくしたり小さくしたりできます。

左から二番目が、ここで作成したトラックに対応するチャンネルになります。トラックを増やせば、チャンネルも自動的に増えるようになっています。

ミキサー画面ミキサー画面

録音ボタンをクリックすると、録音が始まり、ストップボタンをクリックすると停止します。通常のレコーダーと同じ操作ですね。また、気に入らないときは、アンドゥで取り消すこともできます。

画面下部の録音ボタンで録音開始画面下部の録音ボタンで録音開始

録音されたトラックの表示録音されたトラックの表示

ヘッドフォンを使って、バックの楽器にあわせて録音

シンプルな録音方法がわかったところで、こんどは打ち込みで作ったバックの演奏(伴奏)に合わせて、歌を録音する方法を見ていきましょう。複数のパートを同時に操れるDTMの醍醐味とでもいうべき部分ですね。

先ほど、作った打ち込みによる演奏をバックにします。オーディオトラックを作るところまではさっきと同じ。ただしこんどは、作成したオーディオトラックの録音ボタンがオンになっていることを確認します。というのは、今回は複数のトラックを使うので、どれか決める必要があるわけですね。

トラックの録音ボタンとチャンネルの録音ボタンは連動しているので、どちらを押してもかまいません。このあたりのやり方は、どのDAWでもたいてい同じような操作になっている部分ですね。

バックの演奏を聞きながら録音をするバックの演奏を聞きながら録音をする

さて、ここで問題が一つ。スピーカーからバックの演奏の音を出しながら、マイクで録音すると、歌だけじゃなく、バックの演奏の音もマイクを通じて録音されちゃいますね。これでは困るので、ヘッドフォンで音を聞きながら録音しましょう。よく見かける、スタジオでの録音風景で、ボーカリストがヘッドフォンをして録音しているのも、こういうわけです。

また、バックの演奏にドラムパートがあるなど、リズムがはっきりしている場合はいいのですが、テンポをとりにくい場合は、メトロノーム を使います。

使い方は簡単、メトロノームボタンを押すだけ。これで、録音や再生時に、クリック音が鳴ります。録音をスタートする前に、予備カウントを設定することもできますから、一小節目からの録音もバッチリです。

テンポをとりにくい場合はメトロノームを使うテンポをとりにくい場合はメトロノームを使う

波形編集でいいところどりをしよう

録音した歌は、自動的にリージョンになってトラック上に置かれています。気に入らないところや失敗がある場合は、そこだけ録音しなおせば、新たなリージョンに置き換わります。

新たなリージョンに置き換わったトラック新たなリージョンに置き換わったトラック

繰り返して録音して、いいところどりをする、なんてことも簡単にできちゃいますよ。マイペースで何度でも録音できるので、DTMでは普段の自分以上のパフォーマンスが録音できるんですね。

MIDIもリアルタイムで録ってみる

さて、ここまでは、オーディオの録音をみてきましたが、同様のことはMIDIデータでも可能です。打ち込みの代わりに、キーボードを弾いて、そのままリアルタイムにレコーディングしちゃうわけですね。

レコーディングしたMIDIデータには、ある程度バラつきがありますが、それが人間らしい自然さにもなります。

MIDIレコーディング画面MIDIレコーディング画面

もちろん、簡単な操作でタイミングをピッタリにそろえることもできますし、少しだけバラつきを残すこともできます。気に入らないところだけ、音符をドラッグしてフレーズを変更なんてのも自由自在です。

ループフレーズを活用しよう

Cubase Elements 9.5には、あらかじめ録音されたフレーズ集が付属しています。音色選択同様に、楽器やジャンルごとに分類されていて、クリックするとフレーズが再生されます。大規模なスタジオでプロミュージシャンによって録音された、ハイクオリティな素材です。

気に入ったフレーズがあれば、オーディオトラックにドラッグ&ドロップするだけで演奏できちゃいます。

Cubase Elementsに付属しているフレーズ素材を確認できるループブラウザーCubase Elementsに付属しているフレーズ素材を確認できるループブラウザー

たいていの場合は、テンポが合っていないのですが、タイムストレッチツールを使って、曲のテンぽにアジャストすることもできます。また、好きな回数だけ繰り返すように、リピートを設定することも可能です。

タイムストレッチツールタイムストレッチツール

今では、ドラムやパーカッションなどのループを用いることは、音楽制作の定番手法になっています。さらに、ヒップホップなどでは、ギターやベースなど、大半のパートがループ素材の組み合わせで作られる場合もあります。

DAWでは打ち込み、録音、ループ素材の活用などで、簡単にパートを作成することができます。

なかでも、打ち込みも、楽器の演奏も必要ないループの利用は、DTMならではの究極の楽曲作成テクニックといえます。ネットにはフリーのループ素材もありますから、ぜひ試してみてくださいね。

いろいろ入力したら、エフェクトをかけてミックスして完成します

パートができたら、最後にそれらの音量のバランスをとったり音色を調節する、ミックスダウンを行います。これまでは、大きなスタジオで、巨大なミキサーや周辺機器を使って行うしかなかった本格的なミックスダウンですが、DAWを使うと、パソコンの中で簡単に行えちゃいます。

大規模なスタジオが必要だったミックスダウン大規模なスタジオが必要だったミックスダウン

繰り返し再生しつつミキサーで音量バランスをとります

ミックスダウンは、曲をなんども再生しながら行います。サイクルボタンを使うと、曲の一部や全体を繰り返し再生できて便利ですね。例えば、1小節から17小節頭までを、繰り返す場合は、こんな感じです。左の数字が、サイクルの開始と終了場所を表しています。

左の数字で設定した開始と終了場所で再生するサイクルボタン左の数字で設定した開始と終了場所で再生するサイクルボタン

ミキサーの左端にあるのは先の録音のときに使ったマイク入力チャンネルです。これはミックスでは必要ないので、M(ミュート)ボタンを使って消音しておくこともできます。ちなみに、S(ソロ)ボタンを使うと、そのチャンネルだけ再生できます。チャンネルの音を確認するときに便利ですね。これらは、スタジオミキサーには必ず装備されている機能です。

自分で作成した、各チャンネルのフェーダーを上下して、自由に音量を調節します。右端の最終出力(StereoOut)チャンネルのメーターが振り切れてしまわない範囲になるようにします。

各チャンネルの音量や左右の位置を設定するミキサー各チャンネルの音量や左右の位置を設定するミキサー

チャンネル上部にある横型のフェーダーは、左右の位置を決めるパンフェーダーです。デフォルトではC(センター)に設定されていますが、左右にドラッグして音の位置を移動して、広がりのあるサウンドを演出できます。このあたりも、スタジオミキサーと同じ、まさにバーチャルスタジオですね。

直感的に音質が調節できるイコライザー

ミックスダウンでは、音量バランスや左右の位置の設定のほかに、パートの音色、音質の調節も必須です。

こういった調節に用いられるのがエフェクターです。スタジオ用エフェクターは非常に高価で、かつては憧れの機器でしたが、現在のDAWではエフェクターもソフトウェア化されて装備されています。

最もよく用いられるのがイコライザーで、高音や低音を強調したり弱くしたり、自由自在に音色を変更できます。

音色・音質を調節するイコライザー音色・音質を調節するイコライザー

画面下には、現在再生されているチャンネルの状態がグラフィカルに表示されています。左が低音、右が高音で、どんなサウンドか一目瞭然ですね。グラフ中の1.2.3.4.の数字を上下左右にドラッグすると、高音や低音などを自由に増減できます。

ハードウェアのイコライザーでは、ただつまみが並んでいるだけで、なかなか狙ったサウンドにするのが難しいのですが、ソフトウェアだとグラフィカルなインターフェイスが使えて設定も簡単。ベースの低音を上げて、迫力を出したり、ピアノの高音を上げて、キレのいいサウンドにしたり、思いのままです。

ボーカルには、エコーをかけよう

ボーカルパートにつきものなのが、リバーブ(エコー)、カラオケでもおなじみですね。これがあるとないとでは、歌の聞こえかたが、まるで変わってしまいます。

Cubase Elements 9.5付属のリバーブでは、かける深さの調節だけでなく、残響の長さや、サウンドも自由に変更できます。また、ボイス用、楽器用など、用途別のプリセットの設定も用意されていますから、簡単にかけることができます。

Cubase Elements付属のリバーブプラグイン「RoomWorks」Cubase Elements付属のリバーブプラグイン「RoomWorks」

禁断の技、ピッチ修正

ボーカルといえば、正確な音程で歌うのがなかなか難しいものですね。そこで、最近のDAWでは、音程が外れてしまった歌を、様々な方法で正確な音程に補正することができます。例えば、エフェクターのピッチコレクト(PitchCorect)を使えば、曲の調や、あらかじめ決めておいた音程に、強制的に修正してくれます。

正確な音程に補正してくれるピッチコレクト正確な音程に補正してくれるピッチコレクト

これってアリ?というくらい、強力なツールですが、控えめに使うのがコツ。画像修正でイケてるルックスに見せるのと同じで、やりすぎると人工的になっちゃいます。ただ、わざと極端に音量補正をかけて「ケロケロ」したロボット声にするのも面白いので、それも最近のR&Bなどではよく使われる効果になっています。

40種類以上のエフェクターを装備

Cubase Elements 9.5には、全部で40種類以上のエフェクターを装備し、さまざまなサウンドを演出できるようになっています。

ギターアンプ・シミュレーターは、その名のとおり、エレキギター用のアンプを再現したエフェクター。クールなジャズギターから、強烈に歪んだロックギターまで、さまざまなサウンドを作り出せます。

ギターアンプ・シミュレーターギターアンプ・シミュレーター

オートパンは、左右のスピーカーの間で、自動的に音が飛び回る効果。オート(自動)パン、というわけですね。エレクトリックピアノに広がりを持たせるのに、定番的に用いられます。

オートパンオートパン

コンプレッサーは、パートの音量差を圧縮し、扱いやすく、迫力のある音にします。これを使うと、グッとプロっぽい音になります。もちろん、プリセットの設定も充実していますよ。

コンプレッサーコンプレッサー

こういったエフェクターは、プラグインによって、後から追加できるようにもなっています。画像ソフトなどのプラグインと同じ形ですね。このプラグインのための規格も、Cubaseシリーズ開発元のスタインバーグが定めた、VST規格がもっともポピュラーです。ネットには、フリーウェアのプラグインも多数存在します。

さらに、打ち込みのときに紹介した、ソフトウェア音源も同じVST規格によるプラグインで、こちらもフリーウェアが多数存在します。

オーディオファイルに書き出して作品完成!

音量バランスやエフェクトによるサウンド調節の作業が終わったら、できあがりを、オーディオファイルに書き出します。動画ソフトでいうレンダリング、DTMの場合はバウンスともいいます。

書き出しは、非圧縮のWAVファイルのほか、圧縮形式のMP3やFLACも選択できます。ちなみに、MP3は非可逆圧縮といって、圧縮率は高いのですがオーディオ情報の一部が失われてしまいます。目立たない部分を捨てることで、効率のいい圧縮を実現しているわけですね。一方FLACは、圧縮率は低いのですが可逆圧縮で、全ての情報が保たれています。ハイレゾ配信でも話題の形式ですね。ここでは曲名の「喜びの歌」をファイル名に設定しました。

オーディオファイルへの書き出し(オーディオミックスダウン書き出し)ダイアログオーディオファイルへの書き出し(オーディオミックスダウン書き出し)ダイアログ

ハイレゾといえば、Cubase Elements 9.5では、ハイレゾでの音楽作成も行えます。CDの解像度、16bit/44.1KHzを遥かに超える、最大、32bit(float)/192KHzによる製作と、書き出しにも対応しています。ちなみに、この解像度というのは、あくまでも音質面でのクオリティのことです。プログラム自体は64bitで動作しています。

さて、ここまで、実際の曲作りの過程を通してDTMの現在形を紹介してきましたが、いかがだったでしょうか。現在のパワフルなパソコン環境は、かつては想像もできなかったようなことを実現しています。高価なスタジオ機器や、シンセサイザーなどの楽器、サンプリングによる楽器の再現など、もはやできないことはない、と言えるほどです。

しかも、バージョンを重ねるごとに、だれにでも使いやすく、とっつきやすい操作性へと進化をとげています。音楽の専門家どころか、楽器の経験すらなくても、DTMによって、オリジナルな作品を作ることができるようになっています。

今までは、音楽をするというと、楽器を習うかバンドを組むか、といった選択肢しかなかったのですが、DTMは、はるかに低いハードルでマイペースで始めることができます。しかも、最初に必要なコストも、非常に低く抑えられています。

これをきっかけに、DTMの世界に興味を持っていただければ幸いです。

ライタープロフィール MusicBird

パソコンを使った音楽、DTMやオーディオが専門です。いい音、いい音楽を探して、毎日飛び回っています。

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