VRサービスを使ったビジネスをサポートする(株)往来に、VR開発を知る一例としてオリジナルでVRChatのアバターを用意する方法について話をうかがいました。

クリエイター最終更新日: 20210825

VRが流行する理由とVRアバターの作り方

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2020年以降、自宅で過ごす時間が増えたことで、ゲームやVR(バーチャルリアリティ)の世界を新たに体験するユーザーも増えています。こうした背景を踏まえて、今回はVRサービスを使ったビジネスをサポートする(株)往来に、VR開発を知る一例としてオリジナルでVRChatのアバターを用意する方法について話をうかがいました。

VRに精通する(株)往来について

今までは一部のヘビーユーザーやパソコンゲームユーザーが楽しんでいたVRChat(ブイアールチャット)のような、メタバース(仮想空間)系のソーシャルゲームを、一般のライトユーザー層も利用するようになっています。例えば、任天堂が開発・発売する「あつまれ どうぶつの森」シリーズもその1つで、子どもから大人まで幅広い年齢層に人気があります。このように、アバターを使ったコミュニケーションが全般的に身近になっています。

今回取材した(株)往来は、VR世界の魅力について広く伝える目的で活動しています。現代のVR開発に精通する立場から、オリジナルのVRChatアバターがどのように作られるのかを、代表取締役の東智美さんが語ります(以降、東さんが語った内容を筆者がまとめています)。

<プロフィール>

東 智美(ひがし ともみ)さん

(株)往来 代表取締役

個人の興味から深まった知見をビジネスに活用しようと、メタバースでのマーケティングや調査を手がける(株)往来を2021年3月に立ち上げ。同時に(株)往来として『未来ビジネス図解 仮想空間とVR』(MdN刊)を上梓。

“未来ビジネス図解 仮想空間とVR|株式会社エムディエヌコーポレーション”.株式会社エムディエヌコーポレーション.2021.
https://books.mdn.co.jp/books/3220303038/

なぜVR世界のアバターが身近に?

VR世界のアバターが身近になった要因の1つが、Oculus Quest 2(オキュラス クエスト ツー)など低価格のVR用ヘッドセットマウントディスプレイ(HMD)の普及が挙げられます。そこに家で過ごす時間が増大し、「家にいても友だちと遊びたい」「どこか目新しいところへ出かけてみたい」というニーズに、さまざまな遊び場を提供するソーシャルゲームプラットフォーム「VRChat」がはまった形です。

下は、ゴルフコースを友だちとまわっている一場面を捉えたVRChatの「ワールド」の画面です。ちなみにVRChatは、さまざまな「ワールド」と呼ばれる空間にプレイヤーが「Join(入る)」するというスタイルを採っています(ワールド名:Putt Putt Pond/作者:Ostinyo)。

次は、ビーチにアバターがおでかけしている場面です。アバターは人間型もあれば、動物型やぬいぐるみ、ロボットなども存在し、それぞれ人気があります(ワールド名:LeLe島/作者:つきのじょう)。

「メタバース」や「VRChat」について

ここで改めて、VRに詳しくない人に向けて「メタバース」や「VRChat」について説明します。

「メタバース」(Metaverse)とは、複数の仮想空間を宇宙(=universe)になぞらえて、それを束ねて超越するもの(=meta)としての世界のことです。言い換えれば、仮想空間の中でアバターが一定の社会性を獲得しながら登場する世界を指します。メタバースと現在のVR空間はほぼ同義です。VRツールを使ってVR空間に入れば、そこに存在する任意のアバターと自分のアバターがコミュニケーションを取ることができ、これは「VR世界の一員として存在する」ことを意味します。

そこで(株)往来が、現在もっともメタバースらしい環境だと考えているのが「VRChat」です。

「VRChat」とは、アメリカのVRChat Inc.によって運営が行われているソーシャルVRプラットフォームです。「Chat」とありますが、文字を打つことはありません。ユーザー各自が「アバター」と呼ばれるCGのキャラクターになって、一人称視点で3DCGの世界の中を遊びまわりながら、他のユーザーとおしゃべりしたり、ゲームをしながらコミュニケーションできるサービスです。

“VRChat”.VRChat.
https://hello.vrchat.com/

VRChatでは、基本的にキャラクターは名前を固定して、1人の人格として活動します。デフォルトで用意されているアバターの種類は限られており、無償で使えるアバターを探したり、オンライン販売での購入で自分専用のアバターを探したりすることが可能です。ただし、無料配布や販売されているアバターは他者も使っているので、究極は「欲しいアバターを自分で作る!」となります。

下の画像は、アバターの姿で(株)往来の関係者たちが集合する様子です。どのアバターが誰のことなのかは、仲間のアバター同士で当然覚えています。「このアバターが●●さん」というように一定していると、より愛着が湧き、VR環境へも馴染んでくるでしょう(ワールド名:OURAI/作者:なおちー、NAOCCI)。

また、日本ではVTuberをはじめ、アバターや3Dのキャラクターの定番は美女アニメーション風ですが、VRChatでは動物だけでなく非生物など、さまざまなタイプのアバターを利用している人がいます。下の画面がその一例です(ワールド名:Happy Hill Dog Park 1․1/作者:Dr․Kim)

VRChatのアバターを用意する方法

VR開発の身近な一例として、VRChatのアバターを用意する方法を取り上げます。それでは、簡単な順から3つ紹介します。

1 モデルデータを無料もしくは低額で入手する

3DCGに詳しくない人はまず1を入口にするといいでしょう。1には2つの方法(AもしくはB)が考えられます。

A VRChatパブリックアバターを使う
B BOOTH(ブース、pixivが運営する作品販売Webサイト)などで販売されている有志のアバターモデルを購入し、アップロードする

VRChat内で配布されていたり、他のユーザーからコピーする分には設定画面からすぐに実行でき、テクニックは一切不要です。

また、BOOTHには有志が作成したVRChatのアバターモデルが販売されています。こちらで好きなモデルを見つけてデータを購入し、Unityでアップロードする方法があります。例えば、Unityを提供するユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの「ユニティちゃん」も、VRChat用にオプティマイズされたデータが無料公開されています。

ただし、有志のデータを購入したがうまくアップロードできず、トラブルに見舞われるケースもあります。メンテナンスされていないアバターだとトラブルがつきもので、購入の際は最新の「Avatars 3.0」に対応したデータなのかを必ず確認しましょう。

2 キャラメイクサービスで作る

自分ならではの要素は出したいけれど、本格的に3DCGを始めるのは敷居が高い人には、アバターのカスタムで自分専用のアバターを作るサービスがオススメです。具体的には、VRアバター作成サービスの「ReadyPlayerMe」や「Tafi Avatar」を使う方法になります。

“Ready Player Me – Full-Body 3D Avatar Creator For VR Apps & Games”.Ready Player Me.
https://readyplayer.me/vrchat

“Tafi Avatar”.Tafi Avatar.
https://www.maketafi.com/tafi-vr-chat-edition

どちらも海外サービスなのでアバターのテイストは外国人風ですが、アニメ画よりもリアリスティックなアバターが好みの方には、おすすめできます。実際にVRChatでイベントにいくと、外国人ユーザーはこのタイプのアバターが多いです。これらは、サービス上のソフトウェアを起動して自分(もしくは使いたい)の顔写真を読み込み、自分風のアバターを仮に作成し、細かい部分や洋服は、オプション選択画面で選びカスタマイズしていくだけで、アバターが完成します。

なお、「ReadyPlayerMe」のサービスを使って作ってみたアバターがこちら下の画像です。ベースに写真を使っているので、リアリティのあるアバターになります。

3 モデリングソフトウェアを使ってカスタマイズ&スクラッチで作成

一番大変ですが、もっともオリジナル度の高い方法が、モデリングソフトウェアを使ってオリジナルのアバターを作る方法です。ゼロから作るだけではありません。

・有料アバターなど既存のデータのテクスチャだけを改変する
・アバターの服装を着替えさせる
・オリジナルアバターをモデリングする

上記を参考に、部分的に自分で作るところから段階的にレベルを上げるのがいいでしょう。

VRChatのオリジナルアバター公開について

モデリングソフトウェアを使って、オリジナルのアバターを制作する場合(ここではVRChatでのアバターを想定)、最低限必要になるのが以下の3点です。

・アバターのモデルを作るCGソフトウェア
・アップロードに必須のUnity
・Unityに読み込むVRChat SDK

Unityは個人向けなら無料で利用でき、プロ向けは有料ライセンスになります。VRChat SDKは無料で入手できます。

“VRChat Download”.VRChat.
https://vrchat.com/home/download

Unity上では、腕や顔、頭などの動きがユーザーの操作に合わせて動かすための設定などを行うほか、「VRChat SDK」の機能を用いて、VRChatのサーバにデータをアップロードする際に使用します。 無事アップロードしたデータは、VRChatの「Avatars」メニューから自作のアバターが選べるようになります。VRChatならではの設定は、最新の「Avatars 3.0」の仕様に従います。

モデリングソフトウェアはBlender利用が多い

アバターのモデリングは、現在、3DCGのモデリングソフトウェアのBlender(GPLv2 + ライセンスで、無料で利用できます)が使われることが一番多くなっています。ただし、Blender限定ではなく、Metasequoiaや3ds Max、VRoidなど、別のソフトウェアの使用も可能です。

注意したいのが、3Dモデルなら何でもVRChat内に持ち込めるわけではないこと。モデルのポリゴン数など技術的な制限を守る必要があるほか、キャラクターの版権や作者ごとの規約、制作ツール側の規約などをクリアしなければならず、アップロード前に権利情報を確認する必要があります。下はBlenderでのモデル制作画面で、アバターを編集しているところです。

オリジナルアバター作成に最適なパソコンは?

最後に、快適にアバター制作したい場合のパソコン環境を考えます。

BlenderやUnityにはMac版もありますが、どちらかといえば、画像処理速度で有利なWindows パソコンがおすすめです。そもそも、VRChatはMacではプレイできませんから、VRChatで遊ぶことも考慮して1台選ぶならWindowsパソコンになります。

オリジナルデータを作らない場合は、重い操作が不要です。CPUはCore i5、グラフィックボードはNVIDIA GeForce RTX 3060シリーズなどの購入しやすい価格帯のパソコンでも十分です。アバター作成サービスを使う場合もこのマシンスペックがあれば大丈夫でしょう。パソコン工房で一例を挙げると、下のマシンです。

一方、オリジナルデータを作る前提でフルの自作を目指すなら、最低でもCPUはCore i7、グラフィックボードはNVIDIA GeForce RTX3070シリーズ以上のスペックは必要です。同じくパソコン工房で一例を挙げると以下のマシンがよさそうです。

ライタープロフィール 宮崎綾子

フリーランス編集者。IT系入門書を中心に、小説・ダイエット・実用書まで幅広い出版物に携わる。著書に『フリーランスのためのはじめての青色申告』や電子書籍『確定申告が初めての人向け 手とり足とり超丁寧なガイドブック』など。
https://www.amargon.net/

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