在宅でのパソコン作業時間が増える中、適切で健康的なパソコン作業のあり方について、千葉県習志野市で慈奏会 奏の杜耳鼻咽喉科クリニックを開院する山本耕司院長に、ビジネスパーソンや学生がテレワーク環境での最適なパソコン作業の臨み方について、話をうかがいました。

ITトレンド最終更新日: 20210601

テレワークめまいの原因となる肩こりなどの解消法

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コロナ禍によって在宅でのパソコン作業時間が増えるほど、適切で健康的なパソコン作業のあり方を知っておきたいところです。今回は千葉県習志野市で慈奏会 奏の杜耳鼻咽喉科 千葉いびき・無呼吸クリニックを開院する山本耕司院長にインタビュー。耳鼻咽喉科という立場から、ビジネスパーソンや学生がテレワーク環境での最適なパソコン作業の臨み方について、話をうかがいました。

コロナ禍で増えている「テレワークめまい」

2013年の開院以降、約4万5,000名の患者を見てきた山本耕司院長に、コロナ禍による耳鼻咽喉科の来院傾向をうかがうと、顕著なのが「めまい」でした。

「風邪をはじめとする急性感染症は減少した一方で、年齢を問わず“めまい”を訴える患者さんが増加した印象を持っています。在宅時間の長時間化による運動機会の低下や、労働環境=テレワークが関与する“テレワークめまい”と呼ばれる症状が増えています」(山本院長、以下同)

他にも、イヤホンによる外耳炎などの相談もあるなか、今回は増加傾向が際立つ「テレワークめまい」を中心にめまいの予防や対策の話をうかがいます。

めまいはなぜ起こる?

めまいは、バランスをとる器官で耳の奥にある「三半規管」に何らかの異常が起こることで主に発生する、とされます。

「三半規管の異常で発生するめまいを総称して“末梢性めまい”と呼びます。一方で、脳梗塞や脳卒中など、重大な脳障害の症状として起こるめまいもあり、それらを総称して“中枢性めまい”と呼びます。頻度としては中枢性めまいに対して末梢性めまいが圧倒的に多く、末梢性めまいの代表的な病気に良性発作性頭位めまい症、メニエール病、前庭神経炎などがあります。中枢性めまいの代表は、前出の脳梗塞や脳出血などです」

テレワークめまいの三大要因

テレワークめまいについて、山本院長には三大要因を挙げていただきました。

1 肩こり関連めまい
2 起立性調節障害
3 血行動態性椎骨脳底動脈循環不全症(H-VBI)

上は、テレワークめまいの要因を象徴した図です。図に重なりがあるのは、三大要因に挙げためまいはそれぞれが微妙にリンクしているから。2つ以上の病態を合併することもあります。

次にテレワークめまいが、末梢性めまいと中枢性めまいのどちらにあたるかを問うと、「三要因とも血流障害に起因しており、三半規管の動脈(迷路動脈)は、脳動脈の一部とも言えます。つまり、すべて脳内動脈の循環不全という点では同じですので、末梢性と中枢性のどちらか、とクリアに分けるのが難しい」そうです。その上で「おおよその理解として」以下を補足してくれました。

「1の肩こり関連めまいと3のH-VBIは、三半規管の循環不全によるものなので末梢性めまい、2の起立性調節障害は、脳循環の循環不全によるものなので中枢性めまい、という分類で考えておくと目安になると思います」

ここまでの説明を踏まえて、みなさんの実感よりもテレワークで「めまい」が生じる可能性が高そうだと感じるなら、一定の理解を深め、めまいを回避することは有益です。次からは、山本院長に三大要因を1つずつ解説してもらいながら、日頃の対応策を考えます。

「肩こり関連めまい」への対応策

「肩こり関連めまい」の病態

「肩こり関連めまい」とは、「首こりや肩こりを訴える患者が、めまい症状を合併することが多く、それらのめまいの総称」ということです。

「この病気は、パソコンの普及に伴って増加してきた“めまい”とも言われています。テレワークで長時間同じ姿勢でいると、肩や首の筋肉の血液循環が悪くなり、頭部血流の循環障害を起こします。また、長時間のパソコン作業でずっと頭が前のめりの姿勢を継続して、長時間のキータイピングを続けていると、無意識に首や肩、腕の筋肉に力が入り続ける“いかり肩”の状態になります」

「継続的な筋緊張は、自律神経の興奮を起こし血管収縮を起こして、さらなる循環不全の原因となります。バランスを司る三半規管が脳動脈の末梢にあり、循環血流減少の結果、めまい症状を引き起こすわけです」

下のような姿勢でパソコン作業をしている人は、ぜひ改めたいところです。

「肩こり関連めまい」への対処法

そこで肩こり関連めまいの予防には、「首や肩の過度な筋緊張を避け、頭部への血流の維持が大切」となります。

まず、パソコン作業時は、「背筋を伸ばし、良い姿勢で頭を適切な位置に置くこと」。パソコン画面に集中し過ぎるあまり、頭が前のめりで猫背になる人は、「“適切な姿勢”への心がけが大切」だと山本院長はアドバイスを送ります。

「人間の頭はボウリングのボールくらいの重さがあります。姿勢の悪い人は、あの重いボウリングの球を首の筋肉でずっと引っ張り続けている状態となります。頭部は首の筋肉で支えなくても、姿勢が良ければ背骨で楽に支えられる構造をしています。頭が前のめりになる方は、頭の位置を意識的に後退させ、首が“何となく楽に感じる位置を見つけましょう。頭がその位置にあると、それだけで正しい姿勢が保てるでしょう」

「背骨は重い頭蓋骨を安全に無理なく支えるため、適度に弯曲した構造をしています。骨盤を前屈させ、背筋を伸ばせばさらに正しい姿勢を保持できます。また、いかり肩予防のため、キー操作を行わない時は意識的に肩の力を抜く心がけも忘れずに。例えば、高さ調節可能なひじ掛け付きの椅子を使うと、肩に余計な力を入れる必要がなくなり、いかり肩の予防になります」

そこで山本院長は「肩や首の筋緊張、血流障害を予防するため、30分に1回、肩や首を動かす体操」をお勧めします。

「肩をグルグルと前回し、後ろ回しにそれぞれ5回ずつ、首をグルグル時計回り、反時計回りに3回ずつ行います。肩こり、首こりを感じる前に行うことがポイントです。ただし、首の回し過ぎは首の動脈や三半規管に過度の刺激を与えることがあるので、やり過ぎには注意しましょう」

「起立性調節障害」への対応策

「起立性調節障害」の病態

「起立性調節障害」の主症状は、「低血圧が主要因で起こる、立ち上がった時のめまい(立ちくらみ)」。めまい以外に、頭痛や起立時の気分不快、動悸、腹痛、倦怠感などを起こすこともあるとのことです。

「体の発達段階にあり、血圧コントロールがうまくいかない思春期の子どもに多く見られますが、血圧が低めの成人にも認められる症状です。テレワークや在宅の時間が延びたことで、体を動かす機会が減り座り続ける時間が長くなったことで、起立性調節障害の症状を起こす患者さんは増えています」

起立性調節障害の主な症状の参考例として、山本院長は「起立性調節障害サポートグループ」Webサイトの内容を引用しながら、11項目を挙げました。

1 立ちくらみ、めまい
2 起立時の気分不良、失神
3 入浴時および嫌なことで気分不良
4 動悸や息切れ
5 朝の寝起きが悪く、午前中調子が悪い
6 顔が青白い
7 食欲不振
8 腹痛
9 倦怠感
10 頭痛
11 乗り物酔い

出典:“起立性調節障害診断の手順 – 起立性調節障害サポートグループ”.起立性調節障害サポートグループ.
https://www.od-support.com/%E8%A8%BA%E6%96%AD-%E6%B2%BB%E7%99%82/

「起立性調節障害」への対処法

起立性調節障害の治療として、まず山本院長は「運動療法と循環血液量の増加」を挙げます。

「起立性調節障害の症状は、低血圧と運動習慣の低下(例えば座ったまま)で悪化します。少なくとも1時間に1度は室内を立ち歩くなど、定期的に下半身を動かすことを意識しましょう。

また立ち上がる時は、急に立ち上がらず、少し時間をかけてゆっくり立ち上がる方法も有効です。突然立ち上がると、心臓の血液の拍出能力や、血圧維持のための血管収縮が追い付かず、瞬間的に脳の血流障害が起きて脳の循環不全を起こし、めまい症状を誘発します。30秒ほど時間をかけて立ち上がれば、心拍出増強や血管収縮による脳の血流障害に対応する時間ができるので、脳の循環不全からくるめまいを回避できます」

あわせて、「水分を小まめに取り、循環血液量を意識的に増やすこと」も勧めます。

「その結果トイレが近くなって、トイレへの移動という下半身を動かす必要が出てくるため、一石二鳥の対策です。意識的に塩辛いものを摂取し、基礎的な血圧を上げる方法もありますが、塩分の取り過ぎによる高血圧に注意が必要です」

運動療法や生活習慣の改善で起立性調節障害のコントロールが困難な場合、「薬物療法の併用」になります。

「血管を収縮させ、血圧をあげて脳の循環血液量を増やす薬剤や、起立時に血液が下半身にうっ滞することを防ぐ薬剤などがあります。また血管に直接的な作用を及ぼすこれらの西洋薬に対し、全身の不調和に働きかけ、より自然な形で起立性調節障害に作用する漢方薬も有効です。漢方薬の方がより生理的で副作用が出にくいため、この病気に対して最初に使われることも多くあります」

「H-VBI」への対応策

「H-VBI」の病態

血行動態性椎骨脳底動脈循環不全症(H-VBI:hemodynamic-vertebrobasilar insufficiency)について山本院長に聞くと、「脳の血流量が減少することで、バランスを司る三半規管や、聴力を司る蝸牛(三半規管と蝸牛をあわせて“内耳”と呼びます)の循環不全が起こり、めまいや一時的な難聴を起こす病気」です。

「心疾患や高血圧を持つ高齢者に起こりやすい、脳梗塞の一歩手前の病態という認識の強い病気ですが、実際には低血圧で頭痛、肩こりを持つ若年層の女性にも起こりやすいめまいです。内耳に分布する迷路動脈は、脳血管の末梢に位置し、血流障害を起こしやすい血管です。そのため、蝸牛の血流障害も同時に起こし、耳鳴りや難聴を主症状とする低音障害型感音難聴の合併があるのもこの病気の特徴です。この病気も起立性調節障害と同じく、低血圧がその病気の基盤となりやすい疾患です」

「H-VBI」への対処法

起立性調節障害と同じく、軽いウォーキングなどの運動療法を行うことで、症状の緩和が期待できます。

また、肩こり関連めまいのように、首や肩の血流改善を意識することも同じく大切です。

「低血圧症状に伴う、脳血流の低下をピンポイントで改善してくれる良い西洋薬は存在しません。漢方薬の補中益気湯と桂枝加苓朮附湯(ケイシカリョウジュツブトウ)には、体の血液循環を調節し、頭部への血行を改善する働きがあります。また、交感神経過緊張による血管収縮からくる肩こり、ストレスをとる効能があり、この病気に対して優れた効果を発揮します。ここでも漢方薬が有力な選択肢になります」

「テレワークめまい」と診断されない場合がある

ここで1点注意したいのが、耳鼻科でも「テレワークめまい」と診断されないケースが考えられることです。

「例えば、今回ご説明したテレワークめまいとメニエール病の症状は似ているので、誤ってメニエール病と診断されるケースもよく見かけます。処方された薬や対処法を試みて効果を感じづらい場合、漢方薬を試すなど、柔軟に次の手も考えましょう。漢方薬を希望される方は、漢方内科や、漢方薬が処方できる内科、耳鼻科でご相談ください」

少しでも気になれば診断を受ける

特に軽い「めまい」だと、あまり気にせず、そのままにする人も多そうです。最後に、耳鼻科などの病院へ行くべきかの判断基準についてうかがいました。

「症状だけで中枢性、末梢性を言い切るのは、医師の立場からすると怖いです。例えば、軽い症状だと思って様子を見ていたら、実際は軽症の脳梗塞で後遺症が残ってしまった、ということはありえます。少しでも気になることがあれば、病院への受診を検討してください。

例えば、歩けないほどの強いめまいや、心疾患や高血圧、糖尿病、高脂血症などの合併症がある人は、救急対応のできる病院や、脳神経外科を受診しましょう。比較的軽いめまいや耳鳴り、耳の詰まり感、難聴など、耳の症状を伴うめまいなら、早めに耳鼻咽喉科を受診しましょう。以前に耳鼻科でめまいの診断を受けていて、同じようなめまいが再発した場合もまずは耳鼻科への受診でいいでしょう」

テレワークめまい回避の一歩は、座りっぱなしの回避です。

「運動不足を感じたら、軽いウォーキングでも十分です。1日の中で意識的に体を動かす機会を設けましょう。適度な運動は、精神面のリフレッシュ効果も期待できます」

プロフィール

山本耕司 院長
資格
日本耳鼻咽喉科学会専門医
日本めまい平衡医学会認定めまい相談医
日本睡眠学会専門医
日本耳鼻咽喉科学会認定補聴器相談医
厚生労働省補聴器適合判定医

津田沼駅の耳鼻科|奏の杜耳鼻咽喉科 千葉いびき・無呼吸クリニック
https://kanade-jibika.jp/

ライタープロフィール 遠藤義浩

フリーランスの編集者/ライター。雑誌『Web Designing』(マイナビ出版)の常駐編集者などを経て、主にデジタルクリエイティブやデジタルマーケティング分野の媒体の編集/執筆、オウンドメディアの企画/コンテンツ制作などに携わる。

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