コロナ禍によって、テレワークによる時間が増えるとともに、パソコンの作業時間も増加という人も少なくありません。円滑に、負担の少ないパソコン作業を実践するため、目のケアや対策の観点から眼科医にインタビュー。20年以上、松本眼科(奈良県大和郡山市)を開院する松本拓也院長に、ビジネスパーソンや学生に向けて、目への負担に関するアドバイスを求めました。

ITトレンド最終更新日: 20210610

テレワークで気をつけたいドライアイなどの症状とは(目の疲れ対策)

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コロナ禍によって、テレワークによる時間が増えるとともに、パソコンの作業時間も増加という人も少なくありません。円滑に、負担の少ないパソコン作業を実践するため、目のケアや対策の観点から眼科医にインタビュー。20年以上、松本眼科(奈良県大和郡山市)を開院する松本拓也院長に、ビジネスパーソンや学生に向けて、目への負担に関するアドバイスを求めました。

なぜテレワークで目の悩みが増えるのか?

新型コロナウイルスによって、さまざまな企業活動がテレワーク化し出した2020年3月以降、松本眼科でもビジネスパーソンや、学生の中でもパソコン作業の重要性が高い情報系の学生たちの来院が増えているそうです。

「今までなら対面で済んでいたことが、パソコンの画面を通じて作業することで目の酷使につながっています。患者さんの中には、10分もモニターを見ていられない方や、画面が見られないために転職を検討しているといった深刻な悩みを抱える方もいらっしゃいます。これらは急に症状が出るわけではなく、パソコン作業の積み重なりによって、出てきてしまいます」(松本院長、以下同)

みなさんの中にも、テレワークの環境を整えきれず、無理な姿勢で作業を進めている人はいないでしょうか?

目に違和感があれば、すぐに近くの眼科へ

自宅環境だと、仕事以外で過ごすには気にならなかったのに、長く仕事や勉強をすると支障が出てくることがあります。

「例えば、室内の明るさ、机や椅子の高さ、パソコン画面の大きさ、作業中の姿勢など、不適切な状態で我慢したまま続けていると、目にも体にもよくありません。しかも、毎日長時間それらが続けば、必要以上に疲労が蓄積されてしまいます」

松本院長は、少しでも目に違和感を抱き、自覚症状を感じたら、すぐに眼科への通院を勧めます。

「例えば、目が見えづらくなった、乾いて痛いなど何かしら症状が出るには、理由があります。理由を突き止めて治療することが大切です。パソコン作業に伴う目に関する原因の多くは、ドライアイ、老眼、斜視・斜位のいずれかです。目の症状は肩こりがひどくなったり、体全体の疲労につながる場合もあるので、眼科への通院が解決への近道にもなるでしょう」

目の負担をやわらげる環境を作る

まずは、なるべく目に負担がかからず、快適に在宅でもパソコン作業が続けられるための環境の作り方を紹介します。

※ここでの内容は、厚生労働省の「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」に準じています。VDTとはVisual Display Terminalsの略称です。

“VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン – 厚生労働省”.厚生労働省.
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000184703.pdf

以下の内容は、すぐにでも始められることです。

1 室内は500ルクス以下

「500ルクス」と言われてもピンと来ない人が大半でしょう。500ルクスは「一般的な住宅の照明」に相当される明るさです。

「明るすぎないことを心がけてください。例えば、NASA(アメリカ航空宇宙局)の管制室は、室内の照明が暗めです。明るすぎる状態での作業はかえって目に負担をかけるからです。全体的に室内は暗め、という心がけが大切です」

2 書類、およびキーボード作業(手元の作業)は300ルクス以上

手元の作業は「300ルクス以上」を確保しましょう。例えば、家事で包丁を使って食材を切るのに難なくできるくらい(台所作業ができるくらい)の照度が目安です。

「室内全体は暗め、でも手元は暗すぎないように気をつけるといいでしょう。例えば、国連の会議室は室内をやや暗めにしながら、手元が明るくできるようになっています。先ほどのNASAしかり、世界でも最先端の施設がやっているような部屋づくりを参考にするといいと思います」

また、手元に関係するのがパソコン画面、ディスプレイの照度です。

「パソコンの画面は明るすぎても暗すぎても、目に負担がかかります。ちょうどいい照度の目安は、画面と手元の書類やキーボード周辺の明るさとの差がなるべく小さくなることです。ディスプレイから書類やキーボードに焦点を切り替える際に、照度の差が激しいと瞳孔が動いてしまい、その分の負担がかかるからです」

ディスプレイはデフォルトの照度のままとせず、これを機会に見直すといいでしょう。Windows 10のノートパソコンの場合、タスクバー右側の「アクションセンター」をクリックして、「明るさ」スライダーでの調整が可能です。
スライダーが表示されないデスクトップPCなどの場合は、モニター本体のボタンで調節してください。

もしくは、Windows 10の「スタート」より「設定」をクリック。「Windowsの設定」画面が開くので、「システム」をクリックして「システム」画面に遷移。左ペインで「ディスプレイ」を選ぶと、ディスプレイの明るさをスライダーで変更可能です。

※「Microsoftサポート」Webサイトでも変更方法が案内されています。

“Windows 10で画面の明るさを変更する”.Microsoft サポート.
https://support.microsoft.com/ja-jp/windows/windows-10-%E3%81%A7%E7%94%BB%E9%9D%A2%E3%81%AE%E6%98%8E%E3%82%8B%E3%81%95%E3%82%92%E5%A4%89%E6%9B%B4%E3%81%99%E3%82%8B-3f67a2f2-5c65-ceca-778b-5858fc007041

3 パソコン画面に太陽光を当てない

ディスプレイの明るさを設定しても、画面に光の反射があると台なしです。画面の反射は、瞳孔を縮ませて目に負担をかけるからです。自宅の作業場所が、画面(ディスプレイ)に直接もしくは間接的に太陽光があたる場合は、改善が必要です。太陽光が画面に当たらない場所に移動するか、窓にブラインドやカーテンをつけるなどして、常にパソコン画面には光が当たらないようにしましょう。

「明るすぎると、人間の眼はグッと瞳孔が縮みますし、暗いと大きくなります。ピントは、瞳につながっている筋肉で合わせるため、明るすぎるとその筋肉が疲れてしまいます。その状態が続くと、ピントが合わなくなってきます。手元さえ明るくしていれば、全体まで明るくする必要はありません。真っ暗な映画館で映画を観ても目が疲れづらく、室内のテレビだと疲れてしまうのも一例です」

4 パソコン画面の上辺が、目の高さより下にする

松本先生からは、ディスプレイの置き方についても助言がありました。ディスプレイの上辺が目の高さの下になることを勧めます。

「人間の目は、上向きより下向きの方がピントが合いやすい構造になっています。上向きだと、眼球の瞳孔の開く面積が広くなり、その分乾燥もしやすくなります。画面の大型化で、目線が上だという人は、机や椅子の高さを調整して、視線がやや下向きになる工夫が有効です。映画館でも、あまりに画面よりの座席で観ると疲れるのは、姿勢だけでなく目線が上になるからです」

目の高さを考えると、大型化するデスクトップよりノートパソコンだと視線が下に向きやすくなります。ただ、ノートパソコンはキーボードが小さく、肩への負担がかかります。肩こり予防には、外付けのキーボードを使う工夫も一手です。

「他にも、画面内に出てくる文字のサイズは3mm以上を確保して字が小さすぎないようにしたり、画面と眼の距離を40〜70cmに保ったり、連続でのパソコン作業時間は最大で60分を目安とし、10〜15分の休憩を入れることなども考えてみてください。どれもすぐ始められます」

パソコン作業がつらい場合に考えられる原因

ここからは、実際にパソコン作業がつらく感じ、通院が必要となる人の主な症状、原因(「ドライアイ」「老眼」「斜視・斜位」)について説明します。

1 ドライアイ

パソコン作業でよく聞く目の症状の1つが「ドライアイ」です。目を守る涙の量や質が確保できず、目の表面に傷などが生じてしまう状態です。

「人間は瞬き(まばたき)する瞬間に涙が出てきます。ただ、パソコン作業と、休憩している状態の瞬きの回数を比較すると、前者は後者より瞬きの回数が5分の1ほどに減るとされます。理由は、人は集中しているとあまり瞬きをしないからで、運転中やスマホ閲覧時にも同じことが起きています」

パソコン作業のような「集中して瞬きをしない状況」で長時間過ごせば、目へのダメージが深まってしまうわけです。

「ドライアイには種類があります。涙の量が不足している場合は、一般的なドライアイ対策用の目薬(人工涙液)の定期的な点眼です。他には、涙の質が良くないタイプがあり、これは涙の脂分が不足している状態です。前者とは異なる、それ専用の目薬を処方すべきです。症状にあわせた目薬を処方してもらうためには、一度眼科に通院した方がいいでしょう」

通院するかどうかの目安をうかがうと、仕事中の状態で10秒以上目を開けていられず、瞬きせずにはいられない場合です。

「仕事以外の(リラックスした)状態では涙が出やすい状態ですので、仕事中に目の状態を試してみてしてください。目薬の点眼で眼球上の涙の量が増えてきますし、改善されれば点眼の回数も減らしていけます。一時しのぎだと思わずに取り組んでほしいです」

2 老眼

老眼は、「老」という言葉がつくので、若年層には関係ない印象を持たれていますが、松本先生はそのことを否定します。

「現代は、至近距離でスマホ画面を見ることで眼の水晶体が硬化していく“スマホ老眼”に悩む若者が増えています。見えづらいと感じるなら、年齢に関係なく一度通院して状態を見てもらいましょう」

老眼は、眼の水晶体の弾力性を失い、硬くなるために生じます。45歳を目安に、水晶体の硬化でピントを調整する眼の筋肉(毛様体筋)に負担が生じ、ピントの調整がしづらくなってきます。

「有効なのは、老眼用の眼鏡をかけると毛様体筋を休めることができて、負担軽減になります。眼鏡によって涙の蒸発も抑えられてドライアイの軽減にもなります。みなさんには、年齢よりも長時間のパソコン作業をしているかどうかで判断してほしいです。当院でも若年層の方が眼鏡を作ったことで、状態が大きく改善するケースが少なくありません」

3 斜視・斜位

斜視・斜位は、ともに眼球の位置がずれている状態です。

斜視は見た目にわかる状態です。斜位は見た目は普通ながら、実際は眼球の位置が左右にズレていて、眼に力を入れて真っ直ぐに見せている状態です。

「パソコン作業では、眼球は内側に寄りがちです。斜位の場合は(見た目は普通に見えていながら)眼球が外側にずれていることが多く、一般的な人に比べると眼球を内側に持ってくる負担が大きくなり、眼の筋肉に支障をきたします。例えば、細かな作業や読書中に二重に見えてしまったり、眼球の内側が痛くなる場合は、斜位の自覚症状かもしれません」

本人が気づきづらい斜位について、手軽に自分で発見するスマートフォンを使った方法を松本院長に教えてもらいました。

「スマホで、自分の顔が画面に見える対面モードにしたら、片方ずつ目を手で隠して顔を映してみましょう。隠していない眼球が動く場合、斜位の可能性があります。そのままでは、はっきり見るために過度な集中力が必要にもなる点でも、疲労が蓄積されやすいです」

眼科で斜位がわかれば、プリズム眼鏡をかけることで改善に向かうことが多いそうです。

目のために、パソコンと仲良く付き合う

最後に、松本院長は「パソコンと仲良く 付き合ってほしい」とおっしゃいます。

「もし目に何かしらの痛みなどを感じた時に眼科に通院すれば、目薬や眼鏡で簡単に治る場合が多いです。目の負担が肩こりや頭痛などの遠因になるので、それらも改められていきます。自覚症状が出てからでも遅くはありません。原因がわからずに鎮痛剤に頼るよりも、お近くの眼科に足を運んでほしいです」

プロフィール

松本 拓也 院長
医療法人 松本眼科
日本眼科学会専門医 日本緑内障学会、日本眼光学会、日本コンタクトレンズ学会
“奈良県大和郡山市” 松本眼科ホームページ.
http://www.eonet.ne.jp/~matsumoto-eye/

ライタープロフィール 遠藤義浩

フリーランスの編集者/ライター。雑誌『Web Designing』(マイナビ出版)の常駐編集者などを経て、主にデジタルクリエイティブやデジタルマーケティング分野の媒体の編集/執筆、オウンドメディアの企画/コンテンツ制作などに携わる。

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