2020年以降はテレワークが進み、見積書や納品書、請求書など各種書類をPDFファイルでやり取りするシーンも増えています。そこで、必要になることも多い電子印鑑(デジタル印鑑)。Photoshopでの電子印鑑の作成手順を説明します。

チャレンジ&ナレッジ最終更新日: 20210428

Photoshop テレワーク時代に便利な電子印鑑の作り方(デジタル印鑑)

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2020年以降はテレワークが進み、見積書や納品書、請求書など各種書類をPDFファイルでやり取りするシーンも増えています。そこで必要になることも多い電子印鑑(デジタル印鑑)。今回はPhotoshopでの電子印鑑の作成手順を説明します。

※今回紹介する電子印鑑は、電子署名など電子的な証明となるものではなく、あくまで書類上のやり取りの作法として利用するものになります。個々の案件のルールに照らし合わせて、適宜利用してください。

印鑑に関する基礎知識

作り方の前に、印鑑についての基礎知識を整理しておきます。

※ すぐに作り方を知りたい人は、この部分を読み飛ばして、次の見出し以降をご覧ください。

下は印鑑、判子に関する決まりをまとめた、筆者が作った表です。例えば、根楠太郎(ねくすたろう)さんの場合で記した、著者調べの内容です。

実印:15〜18mm
居住地の市区町村長に登録し、必要に応じて印鑑証明を求めることができる。一人一個に限られる。「根楠太郎」の姓名を入れた印。

銀行印:13.5〜15mm
銀行ごとに登録が必要で、銀行ごとに異なる印を作成できる。「根楠太郎」のうち「根楠」の姓を入れた印。

認印:12〜13.5mm
承認した印(しるし)として押す印で、登録の必要はなく、いくつでも作成可能。三文判とも言う。根楠太郎のうち「根楠」の姓を入れた印。

訂正印:6〜10mm
文書の一部を訂正するときに押す印。根楠太郎のうち「根楠」の姓を入れた印。

角印:15〜24mm
法人の認印といった位置づけで、対外的に発行する書類を正式に認めることを証明する時に利用。使用例は、契約書、見積書、領収書、請求書など。根楠太郎の姓名を入れた印。
※角印は、実印や銀行印よりもサイズが大きくなることを推奨されているようです

筆者はフリーランスですので、認印と角印を目的別で使い分けています。

認印:角印対応以外の確認、荷物の受け取りなど

角印:契約書、見積書、領収書、請求書

利用頻度などを勘案して、ここでは名字だけの12mm認印と、姓名すべてを入れる15mm角印の作り方を解説します。解説用に採用する書体は、Windows 10の標準和文フォントを使用。多くのユーザーが共有しやすい環境で電子印鑑が作れるように解説します。

12mm四方の電子認印の作り方

Windows 10にデフォルトでインストールされている和文フォントは以下があります。

MSゴシック・MS明朝(Windows 98以降)
メイリオ(Windows Vista以降)
游ゴシック・游明朝(Windows 8.1以降)
UDデジタル教科書体(Windows 10 2017年10月以降)
BIZ UDゴシック・BIZ UD明朝(Windows 10 2018年10月以降)

自分のマシン環境にインストールされているフォントは、Cドライブ経由の、
C:/Windows/Font
で確認可能です。

今回は実寸だと小さいデータとなるので、大きめに作成し利用の際に縮小する手順とします。まず12mmの電子認印を作る場合、Adobe Photoshop 2020(以下Photoshop)で12mmの2倍、24mm四方で220ppi(Pixels Per Inch)の2倍サイズの新規ファイルを作成します。

解像度について、220ppiを基点にしている理由はOfficeの既定画像の解像度が220ppiだからです。ここでは小さいデータ作成で生じる誤差を軽減する処置として「24mm四方で解像度440ppi(220ppiの2倍)」のサイズで作成。これなら一般的に印刷出力で推奨されている350ppiに対しても、作ったデータの縮小で対応可能です(つまり、印刷用にも心配なく使えます)。

認印の円形に名前を挿入する

サイズ指定した新規ファイル(24mm四方で解像度440ppi)に対して、メニューバーより「表示」→「新規ガイドレイアウトを作成」にて、列・行ともに4分割の設定をします。

これで画面は16分割されます。

全体が24mm、440ppiですので、中央の4マス分が半分の12mm、440ppiというわけです。

あとはガイドに合わせて、ツールパレットより選択ツールの「楕円形選択ツール」で正円の選択範囲を作成します。

続けて、メニューバーより「編集」→「境界線を描く…」にて、「境界線」ウインドウで「幅」6〜8ピクセル程度、「位置」では「内側」を指定して境界線を作成します。

下が幅8ピクセル、位置は「内側」で処理した結果です。

次にフォントを選択します。いわゆる印鑑用のイメージにあたるフォントは実印に使われることが多いので、一般的な認印や角印を作る場合、一般的なフォントからの選択で問題ありません。なるべく癖のないゴシック系フォントがおすすめです。まずはWindows 10にデフォルトでインストールされている和文フォントから3つを選択してみました。

左から「BIZ UDPゴシック」「HGPゴシック」「メイリオ Bold」です。中央のHGPゴシックのようにトメなどが目立つフォントは避けましょう。ここでは、癖がなくて細すぎず、太すぎない「BIZ UDPゴシック」を使います。

まず縦書きで名字を入力します。

文字間隔はできるだけ詰めて、円の中に目いっぱいレイアウトします。このままだと、円から飛び出している部分やくっつきすぎている部分があります。

修正が楽なように、パーツは別々のレイヤーに作成します。

適宜修正しましょう。

レイアウトや修正では、メニューバーより「レイヤー」→「ラスタライズ」→「フォント」にて、ビットマップ化して処理します。

調整を追えたら、すべてのレイヤーを統合させます。

レイヤーを結合後、「背景」は「レイヤー」に変更しておきます。

滲んだような文字イメージを作り出す

次に、意図的に低解像度へリサイズ(目安は15〜20%に縮小)した上で元に戻し、擬似的に劣化させます。これで文字の輪郭に揺れのような変形が生じ、印鑑らしさのイメージに近づきます。

すべてのレイヤーが結合されていることを確認してから処理を行います。メニューバーより「イメージ」→「画像解像度…」で「画像解像度」ウインドウを開き、「再サンプル」にチェックを入れて、設定が「ディティールを保持2.0」とします。

24mm四方440ppiの画像は416ピクセル四方440ppiですので、幅または高さの値をここでは15%縮小します。約15%にあたる63ピクセルへ変更して「OK」で確定します。

再度「画像解像度」ウインドウを開き、幅または高さの値を元の416ピクセルに戻します。

文字に揺れが生じ、実際の印鑑のようなイメージ(=朱肉を付けて、任意の用紙に押印した時の滲みのようなイメージ)となりました。

背景を透過し、枠と文字だけに処理

先ほどのイメージをさらに調整します。メニューバーより「イメージ」→「色調補正」→「レベル補正」へと遷移します。

「レベル補正」ウインドウで、上のように調整して、全体がキリッとした状態にします。実際は採用したフォントや文字列の違いで細かな設定値は異なります。実際のデータに合わせて確認しながら、仕上がりの一部が削れたり、曖昧にならないように調整します。下が調整した状態です。

必要に応じて、部分的にブラシ処理で気になる箇所を微調整します。その場合も、あまり神経質に処理しなくて大丈夫です。

続けて、メニューバーより「選択範囲」→「色域指定」にて背景の白を選択し、「許容量」を最大の200%とします。

レイヤー内の白だけを選択して、Delateキーで削除します(「背景」のままだと削除できないので、「レイヤー」になっているかを要確認)。

これで黒い枠と文字だけが残ります。

凹凸処理をして完成データを保存する

レイヤーの透明部分について、「レイヤー」パネルの「透明ピクセルをロック」アイコンをクリック。

カラービッカーにて朱肉色を設定します。朱肉色はJISが定めたマンセル値では「7.5R 5/14」です。日本色彩研究所によると、この値はRGBでは「R=217、G=66、B=54」、CMYKでは「C=18.8、M=88.6、Y=82.4、K=5.1」となります。

では、朱肉に見立てた色をカラーピッカーのRGB値で設定します。

任意のブラシツールなどを使って、設定した朱肉色で枠と文字を塗りつぶします。「透明ピクセルをロック」の状態ですので、透明の背景は塗りつぶされません。以下が塗りつぶした後の状態です。

この時点では、円の外側の輪郭部分もラフなままです。再びメニューバーより「表示」→「新規ガイドレイアウを作成」にて列・行ともに4分割の設定をします。

分割した表示の状態です。

冒頭で印鑑の円形を作った手順と同様で、ガイドに合わせて、ツールパレットより「楕円形選択ツール」で正円の選択範囲を作成したら、メニューバーより「編集」→「境界線を描く…」にて、「境界線」ウインドウで「幅」3ピクセル、「位置」では「内側」を指定して境界線を作成し、凹み部分を埋めましょう。

以下は、一連の過程を円の輪郭に焦点を当てた画像で、最初が未調整の状態です。

先述通り、一連の操作で凹みを埋めていきます。埋めた箇所を説明用に赤く処理しています。

続けて、メニューバーより「選択範囲」→「選択範囲の反転」を実行し、Deleteキーで余分な凸凹を削除したら、外側の輪郭が綺麗なカーブになります。外側の出っ張りが削除された状態です。

一連の処理の過程です。左から右に処理が進むにつれて、円のカーブが綺麗になっています。

24mm四方、220ppiのデータとして完成の状態です。

あとはPNG-24形式で保存すれば、透明部分を確保した状態で保存できます。メニューバーより「ファイル」→「別名で保存」より、PNG形式で「書き出し」→「Web用に保存」で「PNG-24形式」で保存します。

参考までに、仮に輪郭を甘くせずに印鑑作りを進めても問題ありません。下は、フォントを「HGP教科書体」で、ストレートに配置した結果です。

少しウェイトが細いので、controlキーを併用してレイヤーをクリックし、文字部分を選択してメニューバーより「選択範囲」→「選択範囲を変更」→「拡張」にて1ピクセル程度拡張して塗りつぶせば、太さが調整されます。

先と同様、背景を削除して朱肉色に塗りつぶせば、円形の輪郭がはっきりした状態でも完成度の高い印鑑ができます。

角印は、姓名の文字数に気をつける

角印は15mm角で作成します。考え方は認印同様です。Photoshopで15mmの2倍である30mm四方で、220ppiの2倍サイズの新規ファイルを作成。続けてメニューバーより「表示」→「新規ガイドレイアウトを作成」にて列・行ともに4分割の設定をします。

全体が30mmで440ppiとなるので、中央の4マス分が半分の15mm440ppiというわけです。あとは、ガイドに合わせてツールパレットより選択ツールの「長方形選択ツール」で正方形の選択範囲を作成。メニューバーより「編集」→「境界線を描く…」にて幅8ピクセルで内側の境界線を作成します。

設定後の状態です。

角印は姓名すべてを入れます。縦書きですので、右から左に改行します。姓名の分け方は姓名の文字数によります。例えば、「根楠 太郎」のような4文字の場合が下です。

「根久須 明」のような4文字はそのまま4文字とせず、「根久須 明之印」の6文字で姓名の文字数を合わせます。

「根楠 正太郎」のような5文字の場合です。

「根楠 明」のような3文字もそのまま3文字とせず、「根楠 明印」の4文字で姓名の文字数を合わせます。

×→○

「森 誠」のような2文字の場合もそのまま2文字とせず、「森誠 之印」の4文字で姓名の文字数を合わせます。

×→○

このように角印作りでは、文字数を調整するために「印」「之印」を付け加えます。作る前には姓名の文字数と、適切な文字列をあらかじめ確認した上で臨んでください。

15mm四方の電子角印の作り方

角印のレイアウトが完成したら、あとは作り方の詳細は認印で解説した通りです。すべてのレイヤーを結合し、メニューバーより「イメージ」→「画像解像度」で「画像解像度」ウインドウを開き、30mm四方440ppiの画像は520ピクセル四方440ppiですので、「再サンプル」にチェックを入れて、「ディティールを保持2.0」とします。

幅または高さの値を520ピクセルの15%に相当する80ピクセルへ変更して「OK」で確定。

再度「画像解像度」ウインドウを開き、幅または高さの値を元の520ピクセルに戻します。

文字の揺れが生じた状態へと変化しました。前述の認印解説では枠の外側も綺麗に修正しましたが、枠の揺れはそのままでもOKです。コーナー部分のエッジがシャープになると、かえって不自然だったりするので、調整するかどうかは好みの判断で問題ありません。

完成例です。

利用する際の注意点

最後に、Wordで利用する場合の留意点です。以下は押印前です。

印鑑データ自体が不透明です。実際は文字の上に押印しても、朱肉の下に字がかすれて見えたりしますが、印鑑データを配置すると、押印位置のマークに重なった箇所がそのまま隠れます。

特に気にしないならこのままで問題ありません。

ここからは気になる人の場合です。Wordでは、挿入された印鑑データを選ぶと「レイアウトオプション」ボタンが表示されるので、ボタンをクリック。「レイアウトオプション」パネル内の「文字列の折り返し」経由で文字の下に印鑑データを配置すると、より自然な押印イメージが得られます。

同様の操作は、印鑑データ上で右クリックしたメニュー「文字列の折り返し」からも可能です。
ここまでの作り方を参考に、あとは採用フォントを自由にアレンジして、理想の電子印鑑を用意しましょう。

ライタープロフィール 海津ヨシノリ

グラフィックデザイナー、イラストレーター、大学非常勤講師(跡見学園女子大学、駿河台大学、二松學舍大学)。毎日blogにてソフトウェア手法に加え、日曜大工ネタや撮影などのTipsをアップロードする。2006年から毎月月例セミナーを開催中。

http://www.kaizu.com/

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