活躍中のクリエイターにお話を聞く『クリエイター仕事道』。今回のゲストは造形作家でアニメーション作家のしばたたかひろさん。作品を“バズらせる”秘訣とは?

クリエイター最終更新日: 20210107

造形作家/アニメーション作家:それぞれの目的で意識を棲み分ける

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

どうしたら憧れのクリエイターになれるのか? その秘密を現役で活躍するクリエイターに直接聞いちゃう『クリエイター仕事道』。今回のゲストは造形作家でアニメーション作家のしばたたかひろさんです。溶けきる寸前の入浴剤をモチーフにした造形作品が一躍話題になったしばたさんですが、実はアニメーション作家が本業。それぞれの“顔”についてお話を聞きました!

しばたさんが携わった作品

しばたさんのエポックメイキングとなった作品『もうじき溶けきる入浴剤』。この作品をtwitterに投稿したところ10万以上の“いいね”がつき、書籍化されるなど話題に。

東京藝術大学院の修了制作で作られたアニメーション『何度でも忘れよう』。「何故、受け入れられようとするのか。受け入れてもらえないのなら、何を受け入れてもらいたかったのかすら忘れてしまおう」というメッセージが込められている。この作品で国内外の数々の賞を受賞。

(C)JVCKENWOOD Victor Entertainment Corp.(C)JVCKENWOOD Victor Entertainment Corp.

歌手・eddaさんとのコラボ作品『雨の街』。しばたさんが他人と協働する“仕事”を意識するきっかけになった作品。

漠然とした夢が友人の一言で開花した!

しばたさんは子供の頃、どんな仕事をしたいと思っていましたか?

子供ながらに「自分にはアートしか取り柄がないかもしれない」と薄々感じていて、それ故にアート関係の仕事につくことにしか視野になかったような記憶があります。当時から粘土を使って立体作品を作ることが大好きで、漠然と「粘土でものを作って生活できたらいいなぁ」と思ったりしていましたね。でも、具体的に作家になりたいのか、デザイナーになりたいのか、そこまで考えるには至りませんでしたね。

そこからどんな学校へ進んだのですか?

高校卒業後、当時開校して間もない横浜美術大学という大学へ進学しました。大学3年生からは本格的にアニメーション制作を始め、大学4年の卒業制作に取り組む中で、より専門的にアニメーションを学びたい気持ちが強まりました。大学卒業後はその夢を叶えるべく、東京藝術大学大学院映像研究科アニ メーション専攻へ進学し、さらにアニメーションについて研究を進めました。

学生時代はどんな生活を送っていましたか?

“大学入学”というひとつの目標を達成したとき、ふと「自分は卒業後、ちゃんとアートの世界で働いていけるのだろうか?」という不安に襲われたのを覚えています。自分に与えられた“大学での4年間”という時間を無駄にしてはならないと強く感じ、ひとりで黙々と自主制作を行い、イベントなどへ積極的に参加することで知名度を上げようと必死でした。大学院へ進学後もその思いは変わらず、SNSなどのツールを駆使し、作品の発信を続けています。

努力家ですね。今の仕事を目指すようになったきっかけは何ですか?

幼少期から大学院修了までの間に、立体造形・油画・デザイン・実写映像・アニメーションと興味の対象 がコロコロと移り変わりましたが、最終的に私は立体造形の仕事をしています。もちろん並行してアニ メーションの仕事もしていますが、メインは立体になりつつあります。しかし、自ら立体の仕事をメインに活動しようと決めたというよりは、「流れに身を任せていたらいつの間にか立体が仕事になっていた」という感じです。一通り興味のあることに手を出してみて、何となく手応えがあって、そばにいて何となく気持ちがいいのが立体だったのだと思います。

なるほど! では実際に作家として仕事を始めたきっかけは何でしたか?

大学院一年生の冬、仲のいい友人から「誰が見てるかわからなくても、とにかく毎日何か作ってSNSで発表してみたら? 考えるだけじゃなくて、ちゃんとアウトプットしなきゃ!」とアドバイスをもらいました。その翌日から、小麦粘土という粘土を使って“日常のささやかなモチーフ”を立体作品としてアウトプットするようになったんです。アウトプットするだけではなく、Twitterを通して「#毎日こむぎねんど」というハッシュタグとともに、ちゃんと公開するようにしました。この活動には、イメージをアウトプットする習慣付けと、立体造形の技術を磨く意味合いも含んでいました。それを2ヶ月ほど続けていた頃でしょうか。いわゆる“バズる”という現象が起きたんです!

『もうじき溶け切る入浴剤』という作品が一気に拡散され、最終的に10万7000(2020年7月現在)の「いいね」がつきました。この瞬間からきっと、私の立体作家としての道が開かれていったのだと思います。「やっぱり僕には立体しかないんだ!」と強く思ったのを覚えています。しかしその翌年、大学院の修了制作として作った『何度でも忘れよう』というアニメーションが、世界最大級の映画祭・アヌシー国際アニメーション映画祭にノミネートされるという、とても名誉な出来事がありました。私の中で「立体の道を極めてみよう!」と決意しかけていた最中の出来事です…。色々と迷うこともありましたが、「立体も好きだし、アニメーションも同じくらい好きだし、それならどっちも仕事にしよう!」と、現在の二足の草鞋的なワークスタイルに辿り着きました。

立体造形とアニメーション、それぞれの役割とは?

しばたさんの代表作を教えてください

立体作品では、小麦粘土で制作した『もうじき溶け切る入浴剤』です。この作品をきっかけに、写真集を出版させて頂いたり、度々テレビでも取り上げられるようになりました。アニメーション作品では、修了制作の『何度でも忘れよう』というアニメーションです。嬉しいことに、国内外問わず様々な映画祭で上映して頂きました。この作品をきっかけにたくさんの方々と出会うことができ、私の中で本当に大切な作品です。

現在のように活躍するターニングポイントはありましたか?

歌手・eddaさんとコラボレーションした仕事です。『雨の街』という楽曲から私なりに解釈し、90秒のアニメーションにそのイメージを落とし込みました。それまでは自分の好きなことを、好きなように表現してきましたが、この仕事で初めて「他者の思想や意図を想像する」、という作業を経験しました。私だけの作品を作るのではなく、私とeddaさんの“ふたりの作品”を作る。強い責任感も芽生えましたし、何より一緒にひとつの作品を完成させた時の感動はとても強烈なものでした!

素敵な経験でしたね。仕事で一番興奮する瞬間、感動する瞬間はいつですか?

作り上げたものに対して意見を頂く時です。これは、立体の仕事もアニメーションの仕事も、どちらにも当てはまることです。共感の声や、お褒めの言葉はもちろん、批判的なご意見も私にとってはとても大切なものです。

仕事をするうえで、大切なことですね。逆に、忘れられない失敗を経験したことはありますか?

『デザインフェスタ』というイベントに毎年出ているのですが、そこで作品の展示・販売を行う予定が、制作が間に合わないまま当日を迎えたことですね。イベントの数ヶ月前からSNSなどで告知をしており、多くの方々から反響を頂いていたので、作品が間に合わないとわかった時は「作家人生が終わった…」と自宅で泣きました。

それは辛い…。しばたさんが仕事をする際、最も大切にしていることは何ですか?

立体の仕事とアニメーションの仕事、それぞれ完全に棲み分けをすることです。立体の仕事では楽しくて、ちょっと馬鹿馬鹿しいような、くだらない物作りをするようにしています。いろんな方の笑顔を見ていると私も幸せになれるからです。一方アニメーションの仕事では、ややディープな事柄にも触れるようにしています。毎日を楽しく過ごしたい一方で、絶対に見過ごすことのできない深刻な問題が山ほどあります。そういった事柄に触れながら、問題提起する場としての役割も果たしています。

旧スペックだからこそ生まれる(?)アート

ふだんはどんなPCや周辺機器を愛用していますか?

5K液晶ディスプレイ一体型のデスクトップパソコンを使っています。

CPU intel Core i5 3.5GHz
グラフィックカード Radeon Pro 575
メモリ 24GB DDR4 SDRAM
ストレージ 1TB SSD

上記のパソコンにWACOMの液晶タブレット、EPSONのスキャナの組み合わせが私の仕事の基本形です。

しばたさんならではの裏技などはありますか?

「ハイスペックにこだわらない」という、裏技というか個人的なこだわりがあります。古いパソコンではどうしても動作が重くなったり、様々な問題が生じがちです。そんな中、どう工夫すればイメージ通りのものをアウトプットできるか。たくさん試行錯誤することで、予想外のとんでもなく面白いものが生まれちゃったりします。私はそういう不便から生まれた副産物的なものに期待して、あえて古いスペックの機材を使い続けたりしています。

自分の“おもしろい!”を発信しよう

しばたさんにとって“クリエイター仕事道”とはなんですか?

私が生きていく上で、唯一“開かれた道”ですね。学生時代、赤点ばっかりで美術以外は本当にダメダメでした(苦笑)。そんな中、美術だけはパーフェクトだったんです。自分でも「クリエイターとしてやっていくしかないんだ!」と分かっていたので、あとはがむしゃらに突き進むのみです!!

クリエイターを目指す若者たちにメッセージをお願いします!

能動的に作品を発信することが、クリエイターになる上でひとつ鍵になると思います。「いつか誰かが私 の作品の良さに気づいてくれる」という考え方でもいいかもしれませんが、自らどんどん発信した方が桁違いに多くの人の目に触れます。闇雲になんでも発信すれば良い。という話ではないですが、せっかく自分にとって大切だったり面白いものが完成したのに、それをしまっておくなんてもったい無いです。発信する場は決してギャラリーだけではありません。イベントに参加したり、自分のサイトを作って公開したり、サササッとTwitterにアップしたり、やり方はたくさんあります!ぜひがんばって発信し続けてみてください。

しばたさん、ありがとうございました!

現代に生まれたからこそ、アウトプットを大切に

自分の好きなことを確信したら、あとは突き進むのみ!ただし、突き進むだけではなくアウトプットの大切さをしばたさんは教えてくれました。SNSが当たり前になった現代、アウトプットの場は格段に広がりました。場所にとらわれずに、自分の作品をアウトプットしていきましょう!

クリエイタープロフィール

しばたたかひろさん
造形作家、アニメーション作家
1992年愛知県岡崎市出身。横浜美術大学卒業。東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻修了。アニメーション制作のかたわら、「#毎日こむぎねんど」をはじめたとしたミニチュア作品も制作。『もうじき溶け切る入浴剤』はTwitterでも10万7000いいねが付くなど話題になっている。また、日用品をモチーフにしたユニークなアクセサリーも制作、販売。今注目されている造形作家のひとり。
HP : https://shibatatakahiro.fensi.plus/
Twitter : https://twitter.com/iine_piroshiki
SHOP : https://ptop.buyshop.jp/

ライタープロフィール パソコン工房NEXMAG
[ネクスマグ] 編集部

パソコンでできるこんなことやあんなこと、便利な使い方など、様々なパソコン活用方法が「わかる!」「みつかる!」記事を書いています。

記事を
シェア