Adobe Photoshop 2020(以下Photoshop)を使って、マウス操作だけで油彩のような仕上がりをデジタルで実現しましょう。対象をあたかもキャンバスに油彩で描いたように表現していく手順や方法を解説します。

クリエイター最終更新日: 20210217

Photoshopのマウス操作で油彩を再現する

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Adobe Photoshop 2020(以下Photoshop)を使って、マウス操作だけで油彩のような仕上がりをデジタルで実現しましょう。対象をあたかもキャンバスに油彩で描いたように表現していく手順や方法を解説します。

油彩画のための下準備をする

油彩画をデジタルで制作する

今回は、対象となるデータを油彩画のための下準備をした後、Photoshopの2つのフィルター(「油彩」「パスぼかし」)を使い、キャンバスに描かれたような仕上がりを目指します。下の画像が今回の完成イメージです。

そもそも油彩画には、ルネッサンス期の宗教画のように暗い背景に人物が描かれた物や、空間と光の表現を重んじた印象派や、ゴッホのようにうねるような独自のタッチを使った表現など、多くの表現があります。支持体(描画する素材)も、布や紙、木や金属板、皮革とさまざまです。絵の具も、油で顔料を溶いてあること以外は統一された技法がありません。

デジタルで油彩(のような表現)を考えた時、絵の具を盛り上げることができないので、一般的なキャンバスの素材感を出しながら再現へと近づけます。

今回の油彩のテーマは、2020年を契機に世界が変わろうとしている状況を踏まえて、元気が出てくる前向きな作風を目指します。フリー素材の中で、真っ赤な帽子をかぶり、空を仰ぐような仕草をする老齢の女性の写真を見つけました。

“Woman Wearing Red Hat and Sunglasses · Free Stock Photo”. Pexels.2018年
https://www.pexels.com/photo/woman-wearing-red-hat-and-sunglasses-1729931/

このフリー素材自体はピントが甘く、写真単体では決して良い画質ではありませんが、愛らしい表情にも引き寄せられて選びました。絵画表現の素材として使うため、みなさんも素材選びの際は多少の画質の粗さは気にしなくて大丈夫です。それよりも空気感や自分に訴えかけてくるイメージを優先して選びましょう。

「スマートシャープ」でエッジをシャープにする

今回、特に油彩感を出すのに大きな役割を果たすのが2点のフィルター(「油彩」と「パスぼかし」)です。ただし、「パスぼかし」はPCのパフォーマンスをかなり消費するフィルターですので、対象素材のファイルサイズはやや小さくするなど、扱いには気をつけましょう。

対象データを開いたら、まずは対象データのレイヤーを複製します。

その複製レイヤー(ここでは「レイヤー1」)に対して「スマートシャープ」をかけます。エッジ部分をシャープにしつつ、皮膚やシャツなどのエッジの内側部分をなめらかにするためです。メニューバーより「フィルター」→「シャープ」→「スマートシャープ…」を選択します。

「スマートシャープ」パネルを開いたら、プレビューを300%に拡大表示して、画質を見ながら調整します。ここでは「量」を46%、「半径」を1.8px、「ノイズを軽減」を100%、「除去」を「ぼかし(ガウス)」と設定しました。

「スマートシャープ」パネルの上部のバーをダブルクリックすると、大きな画面での確認も可能です。

さらに人物のエッジを強調する

スマートシャープを使ったレイヤー名(レイヤー1)は「スマートシャープ」へと名称変更。エッジをさらに強調するために、「スマートシャープ」レイヤーを複製して、あらかじめ「ハイパス」というレイヤー名に変えておきます。

メニューバーより「フィルター」→「その他」→「ハイパス」を選択し、輪郭を強調したい際に使う「ハイパス」フィルターを実行します。

「ハイパス」は、「レベル補正」を使うとさらに強調できます。「イメージ」→「色調補正」→「レベル補正…」を選択。

「レベル補正」パネルで「入力レベル」の幅(3つの三角形のゲージ)を狭めて、コントラストを付けます。

この状態からレイヤーパネルの描画モードを「オーバーレイ」にすると、エッジが強調されます。

後はレイヤーの不透明度を下げながら、仕上がりを調整します。下の画像は、描画モードを「オーバーレイ」にして、不透明度が100%の状態です。

ここでは不透明度を「24%」として、彩度を落ちつかせています。

エッジ以外は滑らかに処理する

絵の具の表現は、実際に見える情報より色数を減らした方が「よりリアルに」なります。そこで、顔などの細かなディテールをもう少し滑らかにして、白い絵の具を使って明るさを調整したような絵にしていきます。

「スマートシャープ」レイヤーを複製して、複製後のレイヤーにもう一度「スマートシャープ」を使って調整します。メニューバーより「フィルター」→「シャープ」→「スマートシャープ」を選択し、ここでは「量」を167%、「半径」を0.1px、「ノイズを軽減」を100%、「除去」を「ぼかし(ガウス)」としました。

「フィルターギャラリー」で輝度調整

筆者はスマートフィルターを使うことが多いのですが、今回はレイヤーに直接フィルターをかけていきます。「フィルターギャラリー」にある「光彩拡散」を選択すると、ハレーションを起こしたようなイメージを作れるので、少し抑え気味にして適用します。

メニューバーより「フィルター」→「フィルターギャラリー…」を選択。

各種フィルターのうち、「変形」フィルターの中の「光彩拡散」をクリックします。「光彩拡散」の「きめの度合い」を2、「光彩度」を3、「透明度」を15に設定します。

髪のあたりが強めに輝いて見えるようになりました。

調整を終えたら、レイヤーの描画モードは「カラー比較(明)」へと変更し、不透明度を調整します(ここでは「67%」)。ここまでが油彩描画の下準備となります。

下が、下準備を終えた対象データの状態です。

下準備後に本格的な油彩表現を行う

下準備後のデータに「油彩」フィルター

下準備を終えたら、「スマートシャープ」レイヤーを選択し、「油彩」フィルターをかけていきます。メニューバーより「フィルター」→「表現手法」→「油彩」を選択すると、「油彩」パネルが開きます。

「油彩」は、画像サイズや画像の質によって、適用後の状態にかなり差が出ます。「油彩」パネル内の各パラメータを何度もやり直しながら調整しましょう。調整後、「ハイパス」レイヤーの不透明度をさらに調整した状態が下の画像です。

背景を作る

背景には、前景に描いた人物の絵の具を外側に拡散したような表現を取り入れて、画面全体に動きを感じさせます。

レイヤーパネルで最上部のレイヤーを選択したら、Windowsだと「Ctrl」キー+「Shift」キー+「Alt」キー+「E」で、最上部にすべてを統合したデータが追加されます。次に、この最上部に新たにできたレイヤーを背景のすぐ上に移動し(下から2番目のレイヤーにして)、名前を「パスぼかし」に変更しておきます。

メニューバーより「フィルター」→「ぼかしギャラリー」→「パスぼかし…」を使用します。

「パスぼかし」パネルを開くと、はじめにパスが1つ乗っていますので、それはそのまま消去(delete)します。

新しいパスを描画しましょう。パス作りはクリックだけで大丈夫で、ハンドルなどを調整する必要はありません。今回は胸元を中心に、外に広がるようにパスを描きます。1本のパスを描き、終了させるのは最後のポイントをクリックすると、次のパスを描けるようになります。

「パスぼかし」は、ぼかしの程度をスライダーで変化できます。

ここでは、元の絵がわからないくらいに最大(100%)にぼかします。結果を見てパスを追加してもいいでしょう。気に入ったぼかしができたら確定です

ぼかしを入れた後に、「油彩」フィルターを適用します。

適用後の状態です。

人物と背景をマスクで調整する

「パスぼかし」レイヤーより上にある複数のレイヤーは、すべて1つのレイヤーグループにまとめ(ここでは「絵画表現」と名づけています)、このレイヤーグループに対して、新規マスクを追加します。

ブラシの黒を使って、人物のエッジを意識しながらマスクをかけていきましょう。人物の外側に絵の具が広がっていくようにします。

画面に対して右側にマスクをかけた状態です。

色彩調整でイメージを整える

最終的な色調整は、Photoshopの「カラールックアップ」を使います。カラールックアップによって、中間階調のカラー表現やグレースケールの正確性が向上します。

ここまで作り込んだ統合データを最上部のレイヤーに置きます。レイヤーパネルで最上部のレイヤーを選択して、Windowsだと「Ctrl」キー+「Shift」キー+「Alt」キー+「E」を押して、最上部にすべてを統合したデータを追加します。次に、メニューバーより「イメージ」→「色調補正」→「カラールックアップ」を選択します。

「カラールックアップ」パネル内の「3D LUT ファイル」から、ここでは「Candlelight.CUBE」を選択します。Candlelight.CUBEは、少し色味の違う画像を合成した場合でも彩度を抑えながら全体の調子を整えてくれる色調補正です。

カラールックアップを適用した最上部レイヤーの不透明度を調整します。

不透明度を調整した後の状態です。

仕上げにキャンバス面を作る

最後に、キャンバスの繊維が部分的に見えるようにします。最上部に新規レイヤーを作り、メニューバーより「編集」→「塗りつぶし」を選んだら、「塗りつぶし」パネルの「内容」を「パターン」に変更します。

「オプション」内には、参考までに筆者環境だと、さまざまなパターンを「カスタムパターン」に登録しています。

みなさんの環境にあわせて、デフォルトの「パターン」から選んだり、フリー素材を用意しておくなどして、任意の「パターン」を選び調整しましょう。あわせて「レイヤーの描画モード」も任意に選んで調整します。ここでは「ソフトライト」を選びました。そのまま適用すると、全面で均一にテクスチャが付くので、マスクを作りブラシを使って、キャンバスの必要箇所に表示するように調整します。

下の画像がここまで進めてきた状態です。マスクをかけた人物部分には、描画モードと不透明度を調整して控えめにキャンバス面も見えるようになっています。人物周辺だともっとキャンバス面が伝わる仕上がりです。

この状態にあわせて任意のテキストを入れてもいいでしょう。例えば、テキストをラスタライズして、「フィルター」の「ぼかし(放射状)」で加工し、該当レイヤーをダブルクリックして「レイヤースタイル」パネル内の「ベベルとエンボス」を使って、文字に立体感を演出していきます。

最後は、切り抜きツールを1:1(正方形)に設定して、インスタグラム用にトリミングして完成とします。

以下がトリミング後の完成状態です。

ライタープロフィール Artist HAL_

デジタルハリウッド大学客員教授、KOTOPLANNINGアートディレクター。コンピューターおよびアクリル絵の具を使った自然な表現手法によるポートレート作品を制作発表、アプリ解説書、絵本など数十冊出版

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