子どもがパソコンでプログラミングを学ぶ際のポイントについて、子ども向けのプログラミング講座を手がける(株)クスールの同社代表取締役で自ら講師を務める松村慎さんに、5歳以上の子ども向け講座を開いている経験から、子ども向けのプログラミング教育のあり方について話をうかがいました。

チャレンジ&ナレッジ最終更新日: 20210714

子どもがパソコンでプログラミングを学ぶ際のポイント

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ここでは、子どもがパソコンでプログラミングを学ぶ際のポイントについてまとめています。子ども向けのプログラミング講座を手がける(株)クスールの同社代表取締役で自ら講師を務める松村慎さんに、5歳以上の子ども向け講座を開いている経験から、子ども向けのプログラミング教育のあり方について話をうかがいました。

子どもにとって最適なプログラミング教育のあり方を考える

Webをはじめデジタルクリエイティブの制作とともに教育事業を手掛けるクスールでは、2016年から不定期で子ども向けのプログラミング講座を設けて、子どもにプログラミングを教えています。
2020年度からは小学校でのプログラミング教育が必修化となり、早期のプログラミング学習に関心を寄せる親は少なくありません。クスールでは2020年4月より、新型コロナウイルス対策による小学校の休校措置で在宅状況が続く子どもたちの選択肢になればと、小学生向けのScratch(スクラッチ)のオンライン講座を開講するようになりました。

今回取材した同社代表の松村さんは、小学2年生の娘を持つ父親でもあります。

クスールが主宰する子ども向けプログラミング講座の様子より。画面の前に立っているのが松村さん。子どもたちが楽しんで参加できるlittleBits(リトルビッツ)を用いた電子工作の授業風景ですクスールが主宰する子ども向けプログラミング講座の様子より。画面の前に立っているのが松村さん。子どもたちが楽しんで参加できるlittleBits(リトルビッツ)を用いた電子工作の授業風景です

「本当に早くから教えるほうがいいのか?」
「子どもにとって、最適な環境とは何か?」
「子どもが取り組む上で、どういう点に気をつけるべきか?」
「親の立場から、押し付けとならず、望ましい接し方とは何か?」

こうした早期プログラミングに対する疑問について、数々の子ども向け講座を実施してきた立場から見えてきたことを松村さんには語ってもらいました。松村さんの話も1つの参考にしながら、もしプログラミングに明るくないという親の立場でも、子どもたちと一緒にできることを考えましょう。

プログラミング学習を慌てすぎる必要はない

早期プログラミングの取り組みについて、松村さんは「子どもが楽しんで取り組めることを重要視すべき」と語ります。「自分が専門的に携わるプログラミングに、自分の娘が早くから興味を持ってくれるなら素直に嬉しいことです」と親心も覗かせながら、「だからといって、焦らせすぎないことが大事」とも付け加えます。

「クスールでは子ども向けの講座をやっていますが、私の実感では、塾のような感覚で慌てて子どもにやらせる必要はないと考えています。昨今の風潮は、やや煽り気味に早期のプログラミング学習を求めているところもあります。中学生くらいからでも、十分余裕を持ったスタートが切れると思っています」

というのも、いずれ本格的にプログラミングを習得するとなると、同じ作業を繰り返したり、地味な作業を続けたりしながら身につける必要も出てくるから、と言います。

「プログラミングの入口の段階では、プログラミングの雰囲気をつかむことを優先したいです。子どもには感覚的に“プログラミングは楽しい”となることが重要です。僕が親の立場で今一番娘にやってほしいことを問われれば、読書であったり、ロジカルな思考を問う算数の問題だったりですし(笑)。プログラミングの前にもっとやってほしいことが他にあるものです。低年齢の頃からとなると、明らかに好きな子どもを除けば、無理にやらせないこと。子どもが楽しく接しているかどうかを常に気にかけてほしいです」

過去にクスールが開いたlittleBitsの講座風景より。講座を通じて子どもたちは作品づくりに励み、何を作ったのかを発表します過去にクスールが開いたlittleBitsの講座風景より。講座を通じて子どもたちは作品づくりに励み、何を作ったのかを発表します

きちんとしたパソコンを揃える

「子どもにプログラミングを」と考えるなら、始める時期だけでなく気にかけたいのが「環境」です。新たにパソコンを用意することはそれなりの出費にはなりますが、松村さんの実感として「可能であるなら、一定以上のスペックを備えたパソコンを揃えてほしい」と言います。

「タブレットやスマートフォンの充実で、パソコンのない家庭も珍しくありません。パソコンがあってもWindows 7を搭載した世代の遅れたマシンや、低スペックのマシンという場合もあるでしょう。クスールでも、過去に講座を開くと、中には何年も使っていないようなパソコンやなかなか起動せず結局使えなかったというパソコンを持参してきた、というケースがそれなりにありました。

プログラミングの学びが進んでいけば、徐々に複雑な内容にも挑むことになります。画像データやサウンド素材を扱い、加工するようなことが出てきても、低スペックのマシンだと作業に限界が出てきます。ストレスなく作業に集中するためには、ある程度のネットワーク環境が確保された状態で、Windowsなら最低でもWindows 10を搭載した、発売から数年以内のマシンで臨んでほしいです。わざわざ買い替えてまで、と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、一度手に入れてしまえば数年単位で使えますし、環境が揃えば作業は快適で便利です。使いづらい、作業が止まるといった子どもへのストレスも軽減できます」

上達の近道はキーボード操作

パソコンを揃えることができると、当然ながら、子どもにキーボード操作ができる機会が提供できます。松村さんは「この状態になることが望ましい」と話します。松村さんのオススメは、なるべくタブレットよりパソコンの環境を用意することです。

「プログラミング業務で何かしら開発したり、モノを作ったりする場合、ほとんどがパソコンで作業を行います。そして、プログラミングにもっとも必要なことがタイピング。タイピングに慣れることがプログラミングの習得に密接に関わるのです」

もちろん、キーボード操作はプログラミング以外にも求められる、普遍的な行為です。

「社会に出れば、任意の事務作業をパソコンを使って進めます。当たり前のようにキーボード操作が求められるわけです。タイピングは社会人としての基礎体力でもあるので、タイピングできるための環境の確保は、前向きに検討してもいいと思います。早めにアルファベットに触れる機会にもなりますし、必ず子どものその後に還元されていきます」

プログラミング自体の習得に集中しよう

クスールでは、5歳の年長から小学3年くらいまでを対象にした、littleBits(リトルビッツ)を用いた電子工作による講座、小学1年生でも理解できる小学生全般向けのScratch(スクラッチ)を用いた講座、小学3年生以上を対象にしたProcessing(プロセッシング)の講座を用意し、取り組んでいます。

2020年4月から開講したという、Scratchのオンライン講座の風景より2020年4月から開講したという、Scratchのオンライン講座の風景より

子どもに限らず、大人向けの講座を持つ立場から松村さんが「あくまで個人の見解です」という前提で伝えてくれたのが、「プログラミングは難しいから、まずはプログラミング的思考を身につけようと考えるのではなくて、素直にプログラミング自体の習得に取り組んだ方がいいでしょう」という実感です。

「プログラミングと向き合えば、自然とプログラミング的思考に乗っかって学ぶことになります。“難しい”といった先入観を持たず、素直にプログラミングを学んでほしいですね。

私は美術系の大学でも長年教壇に立ってきましたが、一定の割合で“プログラミングへの苦手意識”が濃い学生たちに遭遇してきました。そうした学生たちは、なかなかプログラミングをやりたがろうとせず、コンポーネントなどを利用して都合よくやりすごし、結局は自分が実現したい作品を作れずにいました。本当にやりたいことを実現したい場合、コンポーネントの組み合わせだけでは限界があります。地道にプログラミングを習得することが求められます。

冒頭で“慌てる必要はない”と伝えましたが、後回しにばかりして苦手意識が出てくるのは考えものです。早い時期からやるメリットは、不要な苦手意識が植えつけられない点です。苦手意識の強い学生を見てきた立場としては、プログラミングで生じた壁のせいで先へと進めない(実現したい作品を作れない)のはとてももったいなく感じています。早い時期からプログラミングに取り組むことで苦手意識にとらわれることなく、プログラミングを通じてやりたいことを実現してほしいです」

親子が集まって行われた、過去のScratch講座での一コマ親子が集まって行われた、過去のScratch講座での一コマ

親子で一緒に。繰り返し復習できるとベター

松村さんが教える立場から気になるのが、親のあるべき態度だそうです。「できれば、一緒に学べるのが理想」と語ります。

「子どもは、親が側にいると安心です。不安のない状態で学べると、やはり習熟は早いです。例えば、Scratchだったらプログラミング経験がない親にも理解しやすいビジュアルプログラミングです。子どもと一緒に理解を深められると、子どもたちとのコミュニケーションツールにもなります」

クスールでは、子ども向けに限らず、すべての講座で徹底しているのが、基礎→繰り返し(復習)→作品づくりという工程です。講座内では復習にもきちんと時間を費すそうで、「特に復習はとても大切です」と、松村さんは「何度も類題などを繰り返すこと」を勧めます。

「プログラミング教室に通ったら自然と習得できるものではない、と知ってほしいです。身につけていくには、計算や漢字はじめ他教科の勉強と同じです。繰り返し復習してようやく身につくものです。

講座内に必ず作品制作の時間を設けるのは、まずは楽しく取り組んでほしいからです。もう1つが、基礎と復習で身につけたことを、作品制作の過程で定着させたいから。すると一連の取り組みを通じて、実行方法が1つでなく複数あるという発見に気づけたり、さまざまなアプローチの存在を知ったりできます」

小学生ならScratchに挑戦!

最後に小学生にフォーカスすると、松村さんはScratchでの学習を推奨しています。

「低学年の小学生だと、本格的なタイピングは難しいですが、Scratchであれば、視覚的にプログラミングを学べます。ブロックをドラッグ&ドロップで動かす仕組みですので、迷わず子どもが操作できる利点があります。無料で使える点も魅力です」

“Scratchスタジオ – プログラミングのきそ1”.“Scratch – Imagine, Program, Share”.2020.
https://scratch.mit.edu/studios/26550091/

松村さんが自作したScratchの練習問題を公開しています松村さんが自作したScratchの練習問題を公開しています

プログラミングに明るくないという親の立場ほど、向き合い方は難しく、迷う人たちも少なくないかもしれません。そうしたみなさんには、クスールが直面する、現場ならではの意見や気づきが参考になるはずです。

ライタープロフィール 遠藤義浩

フリーランスの編集者/ライター。雑誌『Web Designing』(マイナビ出版)の常駐編集者などを経て、主にデジタルクリエイティブやデジタルマーケティング分野の媒体の編集/執筆、オウンドメディアの企画/コンテンツ制作などに携わる。

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