中国、インド、ベトナム……様々な分野で躍進著しいアジア圏の会社や人材と協業を行うためのポイントについて、アジア圏を中心とした海外進出に積極的な(株)クスールの代表取締役社長を務める松村慎さんにお話を伺いました。

クリエイター最終更新日: 20210428

クリエイターがアジア圏の会社や人材と協業する際のポイント

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Webはじめデジタルクリエイティブの制作とともに、教育事業を手がける(株)クスールは、アジア圏を中心とした海外進出に積極的です。「自社のパートナーにアジア圏の会社や人材を求めることは、どれほど現実的かつ魅力的か」ということについて、同社代表取締役社長を務める松村慎さんにインタビュー。松村さんに、アジア圏の実情について語ってもらいました。

海外展開に積極的なクスールの取り組み

クスールの松村慎さんは、留学経験も含めて海外への興味を持ち続けるほか、事業としては2010年代初頭から現在進行形でアジア圏への進出を模索し、具体的にアクションを続けています。

ベトナム・フエ美術大学にてワークショップを行うクスールで代表取締役社長を務める松村慎さん(写真左奥)ベトナム・フエ美術大学にてワークショップを行う
クスールで代表取締役社長を務める松村慎さん(写真左奥)

日頃から「海外で働きたい、海外で活動する機会を模索したい」と考えていた松村さんは、大学卒業後に1年半、中国に語学留学。その後、カナダへ渡り1年間Webクリエイティブの専門学校へと入学。卒業後2年半は、現地カナダのプロダクションでキャリアを重ねてきました。日本へ戻ってから2006年にクスールを創業します。

“Webデザインとプログラミングを基礎から学ぶ学校 – CSHOOL[クスール]”.クスール.
https://cshool.jp/

その後も常に海外展開の機会を探ってきたと言います。

「もともとの海外への興味と、僕たちのような中小企業だと、国内の優秀なエンジニアを雇用したくてもできない現実があります。大手企業が先に採用して、市場に人材が不足している代替策として、海外から人材を募ることは現実的な施策です。これまでもクスールは、国立大学で理系出身のベトナム人を社員雇用。その後、インド人も社員として在籍し、インド人社員とは英語でコミュニケーションをとっています」

他にもクスールでは、ベトナム人社員をハブにしてベトナム国立フエ科学大学の学生をアルバイトで雇用。インドとはオフショアで現地エンジニアとのやりとりを頻繁に行っています(2020年以降は、たびたび現地とテレワーク会議を実施)。

松村慎さん(左から4番目)とベトナム国立フエ科学大学の学生たち1番右にいる男性が、かつてクスールの社員として在籍していたベトナム人のタンさん松村慎さん(左から4番目)とベトナム国立フエ科学大学の学生たち
1番右にいる男性が、かつてクスールの社員として在籍していたベトナム人のタンさん

まずは行動ありき。アジア圏にパートナーを求めるコツ

松村さんは、パートナーを海外に求めるにあたって、「今後の世界のあり方」を想像することが大事だとも話します。

「昨今の日本では、働き方改革が象徴するように働き方が問われながら、さらに人材不足です。海外志向の有無を問わず、海外からの人材との共存が避けて通れないというのが僕の考えです。自社の社員には、少しでも多国籍の相手、多様な環境に慣れてほしくて、ベトナム人採用だけでなくインドとの交流、英語研修の実施などにも力を入れています」

クスール社内で実施している英語研修の様子クスールで講義を担当する海外出身の講師たちとともにクスール社内で実施している英語研修の様子
クスールで講義を担当する海外出身の講師たちとともに

「すぐには事業の発展や利益に反映されずとも、行動を起こしたからこその成果や経験は得られるもの」とも、松村さんは語ります。松村さんは、2010年代初頭に中国、上海への進出に向けて何度も視察を繰り返し、現地でシェアオフィスを借りるなど動きを本格化させてきました。ここ数年ではベトナムやインドとのやり取りを増やし、事業の可能性を拡げています。

「2011年には、上海に拠点を置くクリエイティブプロダクションであるSuper Natureに関心があったので、自らコンタクトを取り、現地へ赴き実際に会うなど交流を持ってきました。その縁は今でも続き、互いに将来的な事業の可能性を計画中です。直接的な事業という形でなくても、人的交流やクリエイティブの発想源につながるアクションを起こせれば、相手にも誠意が伝わり、思わぬ関係性に発展します。少しでも海外に興味がある人は、コロナ禍でもコンタクトが取りやすいメールやチャットツールから始めてほしいです」

上海に拠点を置くSuper Natureのオフィスを訪れ、談笑する松村さん(左)Super Nature創業者のマレーシア人のヨー・ガンホンさん(右)とチーン・リニューさん(中央)2011年6月、松村さんと同行した筆者(遠藤義浩)が撮影した写真より上海に拠点を置くSuper Natureのオフィスを訪れ、談笑する松村さん(左)
Super Nature創業者のマレーシア人のヨー・ガンホンさん(右)とチーン・リニューさん(中央)
2011年6月、松村さんと同行した筆者(遠藤義浩)が撮影した写真より

「中国」は成熟した上海よりも内陸部を探る手もあり

ここからは、新たな人材発掘やコストを抑制した労働力確保、国内に限らずパートナーを探したい NEXMAG ユーザーに向けて、松村さんが実際に関わる中国、ベトナム、インドについて、松村さんには経験に基づく見解や気づきを語っていただきました。

まず中国については、特に2011〜2013年ごろに積極的に動いていたそうです。ただし、子どもが生まれるなど松村さんのライフステージが変わった時期とも重なり、一次的に海外進出自体のトーンを落とす形になった時期でもあります。

松村さんからは、「最近はあまり中国に対して動いていないため、現状をうまくつかめていません」という前提を踏まえながら経験談として以下を話してくれました。

「2010年代前半はすでにGDPで中国が日本を追い抜いていましたが、まだ日本が中国に手頃な労働力を求める空気が残っていました。今だと勢いからすれば逆の構図になりつつあります。特に上海は日本の大都市圏と変わらない存在です。上海は日本と地政学的に近くて互いの文化圏に触れ合う機会が多く、デザインについての共通認識も持ちやすく、クリエイティブを含めた相互のやりとりが成立しやすいです。ただし、コストありきで考えるなら国内パートナーと変わらないかもしれません」

新型コロナウイルス対策が求められる昨今、難しくなってきた前提はありつつ、松村さんは上海や深圳(深セン)といったITに強くすでに成熟化した大都市圏以外のエリアへの可能性に言及します。

「今後の成長性を秘めていますし、成熟しきった都市ではない魅力を求めるなら、内陸部が一案です」

中国で気をつけたい点を松村さんにうかがうと、「共産主義国家である点」を挙げました。

「何がいつ起きるかわからず、急に関係性が途絶えてしまうかもしれません。上海だと人件費はもはや日本と変わらず、安価な労働力を求める発想は控えた方が無難です」

真面目な国民性と親日的。「ベトナム」との組みやすさ

松村さんがベトナムに関心を強めたのは、「海外に拠点を置き、現地の人たちと一緒に仕事ができること」「家族も安心して住めること」などを考えたとき、コストや物価の水準が日本に比べて抑えられる点も含めて浮上したエリアだと言います。主なメリットは、急成長中であることと、真面目で優秀という国民性を挙げます。

「ベトナム人の多くが親日的で日本への憧れを持つ人たちが多いですね。アジア圏の中でも成長著しく、日系企業が多数進出していることも心強い状況です。ベトナム人は、人との接し方が東アジア圏に近く上下関係が厳しいので、その点も日本人は接しやすいと思います」

クスールは、2008年から続けるクリエイティブカンファレンス「dotFes」を開催。国内有数のクリエイターやプロダクションも参画するdotFesを、2018年にはベトナムのダナンでも開催します。着実に人脈を築き、ベトナム人社員も採用。「ベトナム国立ダナン工科大学出身で、とても優秀ですし、技術レベルも日本人より高く感じます」と交流の手応えを確実につかんでいます。

2018年、ベトナム・ダナンのダナン工科大学で開催されたクスールが主催するクリエイティブカンファレンス「dotFes」の様子より2018年、ベトナム・ダナンのダナン工科大学で開催された
クスールが主催するクリエイティブカンファレンス「dotFes」の様子より

クスールが実際、一緒に仕事を進めたことで気づいたのは、「言われたことならやる」側面が強いことだそうです。

「社員やアルバイトなどで、複数のベトナム人と接すると、もっと主体的に物事を進め意見をぶつけてほしいのに、そうはならないもどかしさも感じます。従業員という付き合いになりがちで、決まった時間が来ると割り切って休憩や帰社する傾向が強いです。言われたことをやったら、後は自分や家族の時間を大切にする傾向を感じます」

もう1点、松村さんから挙がった指摘が「クリエイティブの感覚が日本人と異なること」です。

「ベトナムに限らず東南アジア圏の特徴として、日本人の感覚なら派手で演出過多と思える表現が、ベトナムだとスタンダードという点です。クリエイティブを任せると、無駄に表現がにぎやかな仕上がりになったり、hover(マウスオーバーした際のコンテンツ状態)が過剰に実装されたり、感覚のズレを揃える必要があります」

コスト面についても聞くと、「発展が著しいだけに、ベトナム国内の給与水準も年々上がっている」そうです。「ベトナムに関心のある方は、コロナ禍も続いていますし、数年後には効率性やコストを巡る実情がさらに変わる可能性も踏まえて、検討するといいでしょう」。

「インド」に求める、高い技術力と未開への魅力

インドとの交流をうかがうと、技術系の案件についてオフショア(自社業務を海外企業に委託/移管)を利用しながら交流を持っているとのこと。週に一度のWeb会議をはじめ、タスクをBacklogで管理し、細かなコミュニケーションにSlackを利用しながらインド人と仕事を進めているそうです。

「技術力の高さを期待してインドに目を向けています。インド人と接していると、成果を強く意識する傾向を感じます。あまり細かく仕様を決めて依頼せず、大まかな考えや意向を伝えたら任せるという進め方が向いています。自分の考えを持って主体的に動く人が多いですね」

もう1つ、松村さんは「インドでは日本のことがあまり知られていないこと」を着目点に挙げます。

「インドでは、まだまだ日本のことが知られていない状態です。今までは日本がインドに進出となると、主に商社や自動車メーカーでしたが、特にエンジニアリングの分野で開拓という観点に興味が強いなら、インドは面白いかもしれません。企業参入が本格化する前の今の状態は、強いやりがいが感じられるエリアだと思います」

オフショアで松村さんが交流しているインド人技術者たちオフショアで松村さんが交流しているインド人技術者たち

また、インド人は「よく働く」イメージが強いとも補足します。

「ベトナムとの違いとして、インドだと午前中はルーズですが、その分夜まで働きます。納期が近ければ土日関係なく働くなど、今の日本でも少なくなってきた状況をインドに感じます」

クリエイティブについて松村さんに聞くと、ベトナムと同様で「感覚の差異があまりに大きいです」と補足します。

「インドは情報量が膨大であることがスタンダードです。インドのWebサイトを見てもらうと、文字量の多さに驚きます(笑)。フロントエンドを任せるのは難しそうで、仕組みやロジックといった技術系での協力が現実的です」

インド視察時の一場面より。プネー(pune)という街にある大学を見学時急遽松村さんが大学側に講演を頼まれ、登壇する際の写真インド視察時の一場面より。プネー(pune)という街にある大学を見学時
急遽松村さんが大学側に講演を頼まれ、登壇する際の写真

はじめの一歩は、恥ずかしがらずに「英語」を話すこと

欧米圏に比べてアジアは距離的にも、文化の側面でも近しいとはいえ、やはり異国、異文化圏です。日本国内との決定的な違いは、コミュニケーションのハードルが出てきます。松村さんからはアジア圏進出には「恥ずかしがらずに英語を話すこと」が突破口だと強調します。

「現地語を話せるに越したことはありませんが、まずは英語で相手と意思疎通ができることです。恥ずかしいという気持ちは抜けないかもしれませんが、この点は日本人こそ意識を変えるべきです。幸い、相手も英語は母国語ではありません。相手が決して上手な英語でなかったりしますし、自分がうまくない英語でも相手は一所懸命に聞いてくれるものです」

最後に松村さんからは、自らに「日本語を話さない」「相手に日本語を話させない」と課して、相手と英語でコミュニケーションすることを心がけてほしい、という話で締めていただきました。

「下手でいいので英語ができると、明らかに行動範囲が変わり、一気に広がります。僕も決して上手な英語を話していると思っていませんが、英語で相手と交渉できる前提で行動できるので、気になる相手に会いやすいです。メールでも対面でも、それに向けて躊躇なく動けるその一歩が、自らを変えるきっかけになるでしょう」

ライタープロフィール 遠藤義浩

フリーランスの編集者/ライター。雑誌『Web Designing』(マイナビ出版)の常駐編集者などを経て、主にデジタルクリエイティブやデジタルマーケティング分野の媒体の編集/執筆、オウンドメディアの企画/コンテンツ制作などに携わる。

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