2020年度から小学校でのプログラミング教育が必修化されるにあたり、4〜9歳のこれからプログラミングに触れる層に向けて、直感的なプログラミング体験を目的に開発された無償の知育アプリ「あるごん」を取り上げながら、プレプログラミング学習の重要性について紹介します。

ITトレンド最終更新日: 20200114

プログラミング教育必修化対策!知育アプリ「あるごん」を体感

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2020年度から小学校でのプログラミング教育が必修化されます。初めてプログラミングに触れる人にとっては「プログラミング」という言葉だけでもとても難しく感じられるものですが、ある程度の習得者にとっても、初学者を相手に教えるのはなかなか骨が折れます。ましてや子どもを相手に、となれば、知見に基づく一定のノウハウが必要でしょう。
こうした状況に一石を投じるのが知育アプリです。今回は、4〜9歳のこれからプログラミングに触れる層に向けて、直感的なプログラミング体験を目的に開発された無償の知育アプリ「あるごん」を取り上げながら、プレプログラミング学習の重要性について考えます。

プログラミング初心者、子どもが楽しく使えるアプリが生まれた背景

プレプログラミング(準備学習)に着目したアプリ

2017年3月に公開された小学校の新学習指導要領により、2020年4月度以降の小学校では、プログラミング教育が必修化されます。それにあわせて、興味を持っていなかった層にも、プログラミングは大きく関心を寄せる分野となりました。

一方で、何をどう学ぶのか? 想像がつかない人は少なくないでしょう。ましてや親の立場なら、何かしらプログラミングの素養や経験がある人たちでもなければ、どのように向き合うべきかと困惑している方々も少なくなさそうです。教育関係者にとっても、誰もがプログラミング体験者というわけではなく、子どもに対しての最適な対応策については大きな課題でしょう。

プログラミングを身につけていくために、まずは「プログラミングを感覚的に体感すること」が大事なのではないか?という考えから、プレプログラミング学習(プログラミング学習前の準備学習)をコンセプトに開発されたのが、今回ここで取り上げる、4歳〜9歳を主な対象とした知育アプリ「あるごん」です。

ゲーミフィケーションに基づき生まれた中身

「プログラミング」と聞いて、みなさんはどのようなイメージを抱くでしょうか。前向きにこれから学習したいという人でも、「難しそう」「自分にできるのか」と不安に思うのも仕方がありません。こうした不安を払拭できる、はじめの一歩につながるアプローチに着目したのが、開発元であるピラミッドフィルムクアドラ(以下PFQ)です。

PFQは、国内有数のデジタルクリエティブプロダクションで、国内外の数多くの広告賞を受賞するほか、自社開発にも熱心に取り組む会社です。だからこそ、制作者、開発者目線に基づいて、プログラミングを「これから」始める立場の方に向けて、本当に身になる施策を検討し続けてきたそうです。

アプリ開発責任者の一人で、PFQのテクニカルディレクターである計良周一氏に話を聞くと、プログラミング学習のボトルネックが「スタートにある」と考え、プレプログラミング用の知育アプリ開発を進めてきた、と語ります。

「開発に着手した2017年当時は、プログラミング学習への需要はありながら、プログラミングがイコールで言語が書けたり覚えることに力点が置かれがちで、そうした状況に私たち自身が疑問を感じていました。そもそもプログラミング言語の書き方や覚え方を学ぶ前に、プログラミングの感覚をつかむほうが大事なはずです。10歳未満向けのアプリが不足する当時の状況も踏まえて、開発を本格化させました」(PFQ・計良周一氏)

そこで、ゲーミフィケーションの観点、つまりゲームデザインの要素やゲームのルールなどを「プログラミング」という概念理解を浸透させる目的へと応用して、誕生したアプリが「あるごん」なのです。

“あるごん | PYRAMID FILM QUADRA INC”.PYRAMID FILM QUADRA.2019.
https://pfq.jp/works/arugon/

「あるごん」タイトル画面""「あるごん」タイトル画面

直感的にプログラミング体験できるアプリを実行する

実際に「あるごん」をやってみよう!

では、実際にやってみましょう。アプリはAndroid版、iOS版が用意されています。無料でダウンロードできるほか、起動するとわかりますが、無償アプリにありがちなアプリ内の広告表示が一切ありません。また、アイテム課金など費用がかかる仕組みも採用されておらず、親だけでなく教育関係者も含めた大人の立場から、子どもが安心して使えることを意識した設計思想にも好感が持てます。

ダウンロード後に起動すると、4つの「エリア」が選べるようになっています。どのエリアからも始めることが可能です。

エリア選択画面エリア選択画面

最初ですので、「はじめてエリア」へと進み、最初に用意されたコースを選びます。

まずは「はじめてエリア」へまずは「はじめてエリア」へ

一本道が出てきました。道の右端のゴールと思われるマス目には木の実が用意され、画面の下には「あるごん」と呼ばれるオブジェクトも並んでいます。各「あるごん」には、それぞれ1つずつの行動ができるようになっています。すでに筆者環境はやり込んでいるので、数多くの「あるごん」が並んだ状態ですが、ゲーム開始当初は、「はしる」「はねる」と名づけられた2つの「あるごん」が用意されています。これら2つは、その名の通り、走ることができる「あるごん」と跳ねることができる「あるごん」です。

スタート地点にあたる左端のマス目に、「はしる」の「あるごん」を置いてみます。指でドラッグ&ドロップして置いたら、行動してほしい向きを指定しましょう。

「はしる」の「あるごん」を置いて向きを指定「はしる」の「あるごん」を置いて向きを指定

「あるごん」の向きが指定できたら、「とじる」ボタンを押してください。その後に「じっこう」ボタンを押します。

「じっこう」ボタンを押す「じっこう」ボタンを押す

すると、指定した通りに「あるごん」が動き出します。

「あるごん」が動き出す「あるごん」が動き出す

無事にゴール。ゲームクリアとなります。

無事にゴールするとゲームクリア無事にゴールするとゲームクリア

プログラミングの原理や作法をゲーム感覚でつかめる

このゲームの秀逸な点は、プログラミングの原理や作法を、ゲームの世界観を通じて伝えているところです。先ほどの一本道のコースにもそれが現れています。例えば、進めたい方向の指示を指定する点しかり、一通りの作業が完成したら完了したことを意味する「とじる」ボタンを押す動作しかり、プレビューをスタートするのに「じっこう」ボタンを押す点もそうです。

つまり、プログラミングで大切な、最初から最後までの指示を1つずつ“きちんと”指定して初めて、「その通りに“のみ”実行される」という仕組みについて、ゲームのルールに則りながら感覚的に体験できるようになっています。

もう少し、別の角度からやってみましょう。一本道のコースにしても、正解は多様です。「あるごん」は何体でも置くことができます。例えば、すべてのマス目に「あるごん」を置いたり、「はねる」あるごんを置いても前に進みますので、ゴールできます。

「あるごん」は様々な置き方ができる「あるごん」は様々な置き方ができる

実際、筆者の娘(5歳)にやってもらうと、1つだけ「あるごん」を置くと「あるごんが疲れてしまうから」という理由で、上の画面のように飛ばし飛ばしで複数の「あるごん」を置いて、その後のプレビューを楽しむ姿が見られました。

複数の、多様な正解を楽しめる側面がある一方で、この例がとてもわかりやすく示しているのが、ゴールまでの道筋として考えるなら「無駄な動き」です。無駄、あるいは効率的に、という点を学べる装置として「制限時間」も用意されています。

別のエリアでの例を挙げます。

エリア別でどんどんステージを進んでいくと、当然、内容も複雑になっていきます。

ステージを進むと内容も複雑にステージを進むと内容も複雑に

複雑なコースをやると、時間ががかります。「じっこう」してから30秒経過すると、黒のモンスターが出現します。

「じっこう」後30秒経過でモンスターが出現「じっこう」後30秒経過でモンスターが出現

モンスターに捕まるとゲームクリアとなりません。制限時間を守るためには、なるべく効率的で、手間のかからない「あるごん」の置き方が求められるわけです(つまり、無駄に複数を置かない)。こうして、ルールによって、効率的な進め方を感覚的につかんでもらおうとしているわけです。

1日で長時間やらせない工夫、子ども向けアプリとしての配慮

ステージを進めていくと、限られた「あるごん」だけでは、クリアできません。

手持ちの「あるごん」だけではクリアできないステージ手持ちの「あるごん」だけではクリアできないステージ

ケーキを食べてくれる「あるごん」がないと先に進めないケーキを食べてくれる「あるごん」がないと先に進めない

上の例だと、ケーキを食べてくれる「あるごん」がないと、先に進めません。そこで「あるごん」は、ゴール後に獲得した木の実によって仕掛けを作ることができます。ゴールをすると、下の画面が出てきます。

獲得した木の実で仕掛けが作れる獲得した木の実で仕掛けが作れる

罠を仕掛けると、翌日、罠にかかった「あるごん」を手に入れられるようになっています。ちなみに、木の実は色別で用意されて、色ごとに別々の行動が用意されています。

罠を仕掛けて翌日まで待つ罠を仕掛けて翌日まで待つ

ここで、「1日待つ」という設定があることで、一気に先へと進めなくしていて、アプリのやり過ぎを防止できる工夫となっています。「あるごん」の本質は、プログラミングという概念を感覚的につかむこと、言語化が難しい直感的な側面を体験することにあります。一時的にやって終わるのではなく、1回あたりが適度な長さの時間で、習慣的に取り組めるように設計されています。

1日待ちながら、新たな「あるごん」を集めるというコレクションの側面も満たすことができ、子どもたちの継続へのモチベーションにもなります。

実際に1日待ってみると、仕掛けに引っかかった「あるごん」が獲得できます。

次の日になると……次の日になると……

新種の「あるごん」発見!新種の「あるごん」発見!

たべる「あるごん」を獲得たべる「あるごん」を獲得

「ずかん」には、今まで集めてきた「あるごん」が掲載されます。

「ずかん」に集めた「あるごん」が掲載される「ずかん」に集めた「あるごん」が掲載される

ゲームを進めていきステージをクリアすることで、先へ進んでいける攻略欲も満たしてくれます。

マップ上の表示が変わり先に進んでいることがわかるマップ上の表示が変わり先に進んでいることがわかる

子ども目線の開発だから「はじめの一歩」を可能にする

「あるごん」の開発にあたっては、PFQが市場調査や幼稚園関係者などとのヒアリングを実施。4歳から10歳未満の子どもでもきちんと使えるように、小さな子どもの手で使いやすい設計、子どもの指の張力や筋力を踏まえた設計を行い、リアルイベントへの出展なども含めて検証を重ねながら、リリース後も必要に応じてチューニングを施してきたそうです。

プログラミング学習に関する費用の負担は、学習のステージとともに上がっていくと見込まれます。一方で、アプリ以外にもリアルの知育玩具が多数販売されていますが、総じて高価です。その点でも、プログラミングに縁遠かった親の立場であればなおさら、無償、広告非表示、課金なしの「あるごん」は、試しにやってみるにも適したアプリと言えるでしょう。

子どもだけでなく、親の立場、大人の立場でも楽しめ、ついやり進めてしまうライトなやりやすさが「あるごん」の魅力です。特にプログラミングに馴染みのない人に一度試してみていただきたいです。

「仮にプログラミング未経験の大人でも、子どもからの質問に対応できるレベルになっている点も、使いやすさにつながっています。子どもから直接尋ねられても、答えられる程よい難易度で、なんとなくプログラミングは楽しい、という感覚を子どもも大人のみなさんにも持っていただけると幸いです」(PFQ・計良周一氏)

将来、プログラム言語を覚えて書けるようになるまでの段階的なステップを踏めるようになるためにも、最初の一歩目の入り方はとても重要です。その点に十分に配慮された「あるごん」のようなアプリの存在感が、今後ますます高まりそうです。立場を変えて考えるなら、プログラミングへの潜在層を開拓したい開発側にとっても、「あるごん」のゲームを用いたUIやUX、ルール設計など、参考になる点が多いアプリだと言えそうです。

ライタープロフィール 遠藤義浩

フリーランスの編集者/ライター。雑誌『Web Designing』(マイナビ出版)の常駐編集者などを経て、主にデジタルクリエイティブやデジタルマーケティング分野の媒体の編集/執筆、オウンドメディアの企画/コンテンツ制作などに携わる。

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