どうしたら憧れのクリエイターになれるのか?その秘密を現役で活躍するアニメーションディレクターの長井勝見さんに直接聞いちゃいます。

クリエイター最終更新日: 20200402

アニメーションディレクター:ストップモーション・アニメーションについて

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どうしたら憧れのクリエイターになれるのか? その秘密を現役で活躍するクリエイターに直接聞いちゃう『クリエイター仕事道』。今回のゲストはアニメーションディレクターの長井勝見さん。NHK Eテレの『プチプチ・アニメ』やテレビCMなどを手がけるクリエイターです。長井さんのストップモーション・アニメーション作品を目にしたことがある人も多いのでは?

長井さんが携わったアニメーション作品

エディ

NHK Eテレ プチプチ・アニメ『エディ』NHK Eテレ プチプチ・アニメ『エディ』

バスケットボールが大好きなカエルの男の子が主人公の物語。子どもはもちろん、大人も楽しめるアニメーション作品です。

あの日まで

NHKメディアテクノロジー『あの日まで』NHKメディアテクノロジー『あの日まで』

8K撮影・編集技術の研究開発の一環として、NHKメディアテクノロジー(現NHKテクノロジーズ)と共同で制作された作品。東京アニメアワードフェスティバルで上映されました。東日本大震災で被災したご家族をモデルに、被災までのごくありふれた日常を人形アニメーションで綴っています。

漫画×音楽=映像作品!

長井さんの子どもの頃の夢は何でしたか?

小学生の頃は漫画家か、ゲームを作る人になりたかったです。自分で物を作るのが好きで、飽きるまで絵を描いたり、粘土で遊んでいました。あと、僕はファミコンの代わりにパソコンを買ってもらって、結局はそれでゲームをやるんですけど(笑)。他の子と違ったのは、ゲームがプログラムで動いていて、それは手の届かないものではない、と早くに気づいてしまったことですね。それがゲーム制作者に憧れた理由だったと思います。

どんな学生時代を送りましたか?

縁があって中高一貫の学校に進学しました。中高生の頃は絵も描いていましたが、同時にのめり込んだのが音楽です。歌ったり、ギターを弾いたり、バンド活動もしていましたね。その頃から、絵と音楽で技法は違っても、内包する表現の共通性を感じていたように思います。やんちゃなタイプでは全然なかったですけど、真面目な学生でもなかったかもしれません(笑)。

そこからどのような学校に進学しましたか?

推薦で大学へ進む同級生が多かったのですが、一般の大学には学びたいことが見つからず、美大を目指すことにしました。最終的には、映像関係が強そうだった東京造形大学に進学しました。

ゲームを作りたかった長井さんが、アニメーションの世界に進んだ理由は?

予備校に通っていた頃、それまで別物だと思っていた絵と音楽が「映像」という技法で融合できることに気がつきました。絵に時間軸を与え、音楽にビジュアルイメージを与える映像表現に、「これはもしかしたらスゴい表現手法なのかもしれない!」と興奮しました。それから映像でどんなことが出来るのかを考えるようになって、SFや特撮が好きだったこともあり、その道も面白いなと思うようになりました。

そこから今のお仕事に進むには、どんなきっかけがあったんですか?

大学生の頃にアルバイトをすることになって、そこが「I.TOON」という会社で、クレイアニメを作っていました。これまで海外のクレイアニメ作品は目にしていましたが「日本ではコマ撮りで飯は食えない」と思っていたので、とても驚きました。I.TOONはテレビCMやNHKの番組などを制作していて、それらは普通のテレビアニメとは異なる「アートアニメーション」と呼ばれるものでした。
その会社に誘われて、新卒で就職することになりました。修行時代を経て、そろそろ独立しようかと考えていた頃に、これまで切磋琢磨してきた仲間たちが一緒にやりたいと言ってくれたので「じゃあ、チームを作ろう!」とスタジオプラセボを立ち上げました。

作品作りは毎回「挑戦する気持ち」で

ターニングポイントとなったお仕事を教えてください。

独立してすぐ、お世話になっていたNHK『みんなのうた』のプロデューサーから相談を受けました。それが作家としてのお仕事だったのですが、修行時代にすっかり自分の作家性なんて忘れてしまっていたので、どうしようか悩んだ記憶があります。それが『ギンガムチェックの小鳥』という作品で、作家という肩書きや立場に対する自分なりの答えを見つけられたターニングポイントだったと思います。

そのターニングポイントから得られたことは?

信頼とか信用とか、そういうものでしょうか……。独立して作った僕らのチームが、世に出して間違いのない作品を生み出せる組織なんだ、と認めてもらえたことだと思います。それまで一緒にお仕事をしてきた方々だけではなく、作品がきっかけで生まれた新たなご縁に対しても、僕たちの価値を証明できたのではないでしょうか。

逆に仕事で失敗をしたことはありますか?

大きな失敗は思いつかないですね。厳しい話ですが、失敗したらそこで終わりだと思っていますし(笑)。でも、小さな失敗ならいっぱいしています。それは外の人が気づかないとか、自分以外は気づかないとか、そんなレベルのものです。でもそれを次の作品で改善していく積み重ねが、自信と経験になっていくんだと思います。

仕事をしていて、一番興奮したり感動したりする瞬間はどんなときですか?

チームで作品を作っているので、少人数ながらも分業をします。僕がコンテに描いた世界を造形班が製作します。その美術が、照明の焚かれた撮影台の上にあるのを見たときは、感動することも多いです。あと、自分の作品を作るときは演技をアニメーターに任せることが多くて、僕が思ってもいなかった演技に仕上がっているときは「なるほど、それもアリだな」と興奮しますね。自分になかった発想に触れられるのは、チームでやっていることに感謝する瞬間です。ダメなときはダメって言いますけど(笑)。

作品を作る上で、もっとも大切にしていることは何ですか?

作品の目的は何か、を常に意識しています。どんなメッセージがあるのか、どんな気持ちになってもらいたいのか。短編作品を作ることが多いですから、テーマに集約するための演出になるよう心がけています。それと、オーダーメイドで作品を作りますので、毎回「挑戦する気持ち」を持つようにしています。

小学生時代から慣れ親しんだ「相棒」

現在使用しているツールを教えてください。

パソコンとペンタブレット(Wacom Intuos Pro)を使っています。パソコンで絵を描くようになったので、紙は小さなメモ帳くらいしか使わなくなりました。その弊害か、普段は画面にポインターしか表示されていない状態で、全体を見渡しながら絵を描くので、紙に描こうとすると、自分の右手が邪魔なんです。これにはビックリしました(笑)。

パソコンを使うときの小技などはありますか?

実際に使うかどうかはさておき、アプリケーションソフトのショートカットを一通り見るのは好きですね。ツール制作者がどんな思いで開発しているのか、どういう風に使ってほしいのか、その一端が見えるような気がします。そこから自分に合った使い方や方法を見つけられると思います。

長井さんにとって「パソコン」とはどんな存在ですか?

ないと困る道具、作業台でしょうか。「相棒」みたいな一面もありますね。重いレンダリングをさせているときには「頑張れ~!」って応援しますし(笑)。

「自己表現」とは何か、考え抜く

長井さんにとって「クリエイティブ仕事道」とはなんですか?

仕事としてのクリエイティブとは、作品の指標やテーマであり、達成目標です。第一に考えられがちな「自己表現」は、仕事である以上、優先順位はかなり低いと思います。

クリエイターを目指す若者たちにメッセージをお願いします!

世の中で「クリエイター」と呼ばれる職種や立場は多岐にわたっていて、すごく曖昧な印象を受ける言葉です。まず、皆さんそれぞれが目標としている「クリエイター」がどんな存在なのか、考えてみてください。それは確かに表現者ではあると思いますが、作家、演出家、デザイナー、プログラマー、プロデューサー、職人、その他にもプランナーやアニメーターなど、さまざまな立場がありますよね。
そして、あなたが目指す「クリエイター」がプロなのかどうかも非常に重要な部分です。簡単に言えば、人のために作品を作るのか、自分のために作品を作るのか。その辺は「自己表現」という意識が高い方は、プロの世界に入ってから思い悩むところだと思います。「自己表現」はとても大切なことですから、色々と考えてみると良いと思います。

長井さん、ありがとうございました!

自分の未来を想像してみよう

仕事をする上で、独りよがりになってはいけない、と語る長井さん。だからこそ、仕事相手からの信頼も厚く、素晴らしい作品が生み出されるのだと思います。自分がどんな「クリエイター」になりたいのか、まずは考えてみましょう!

クリエイタープロフィール

長井勝見さん
アニメーションディレクター
東京造形大学卒業後、アニメーション制作会社I.TOONに入社。2007年株式会社スタジオプラセボ設立。アニメーションを中心としたさまざまな表現手法を提案、制作する実績がある。演出家や作家としても多くの作品制作を手がける。
http://www.studio-placebo.jp/

ライタープロフィール パソコン工房NEXMAG
[ネクスマグ] 編集部

パソコンでできるこんなことやあんなこと、便利な使い方など、様々なパソコン活用方法が「わかる!」「みつかる!」記事を書いています。

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