「4K動画をネイティブ編集できる PC を考える」Impress 連動企画 (後編)

「4K動画をネイティブ編集できる PC を考える」Impress 連動企画 (後編)

2014-11-19

いつもパソコン工房ECサイトへご来店いただき、誠にありがとうございます。親方です。

インプレスさんとの連動企画 「4K動画をネイティブ編集できるPCを考える(前編)」では、最適な構成を中心に考えてまいりました。GoProで撮影した動画編集など、比較的ライトな4K編集パソコンを想定していた私たちに、「プロ用途にも耐えうる4K編集パソコン」という想像を超えたリクエストが届いたのはお伝えした通りです。
今回は、後編として、ライターの小寺さん、インプレスさんとの打ち合わせに基づいた構成を、実験を交えながら、最終的には製品候補のパソコンとして調整し、小寺さんチェックを受けるまでの過程をお届けいたします。

打ち合わせの模様は、インプレスさんの記事を是非ご覧ください!
【連載】メーカーさん、こんなPC作ってください!プロ向けXAVC 4K動画をネイティブ編集できるPCを考える

打ち合わせのおさらいと最終構成

小寺さん、インプレスさんとの議論のポイントをまとめてみると、以下のような感じです。静音というポイントはある程度予想していたものの、Mac PROのイメージで小型となるとWindowsパソコンでは絶望的なサイズですが、そこはパソコン屋として何とか最善を尽くすことにします。

Windows派が、Windowsパソコンに期待すること

Mac PROのイメージ(本体サイズ感)が強烈であり、Windowsパソコンもそれなりに小型であること

光学ドライブが必要か?

東日本大震災以降、HDDでのファイル管理から、メディア書き出しの風潮があるにはあるが、使用機会がほとんどない。大容量高速メディア対応のカードリーダー内蔵 (付属) であることの方が、データの移動などに有用である。

メモリー

8GB では不安がある。16GB は欲しい。32GBあると有難い。

ストレージ

ストレージはSSDがマター。(環境やアプリ、フォーマット形式にも拠るが…)プロ品質の動画 (XAVC-Sで4K60p) を扱うのであれば、600Mbpsを担保できるストレージが必要(規格上は、900Mbpsまで策定されている)。システムドライブは、小容量でよいとのことだが、メモリー容量が大きいことから128GBクラスは避け、ある程度の容量、256GBクラスは確保しておきたい。

ビデオカード

編集チェックは必ず4Kでチェックするので、4K再生できる事はまず必須。HDMI 2.0への対応が過渡期になっているが、コンテンツ分野ではすでに必須となりつつあるので、陳腐化を避けるためにも HDMI 2.0出力対応させたい。コストパフォーマンスの観点でQuadroなど、プロ用ビデオカードの採用は考慮しなくてもよい。

静音性

制作の環境を考慮すれば、静音性のあるマシンであることが望ましい。

打ち合わせでの提案から大きくスペックが変わることなく、最終構成案に至りました。ストレージについては、作業領域用ストレージに対して、構成中最も速いものを割り当て、データ保管用にHDDで2TBを確保しています。

但し、ケースは大型CPUクーラーが搭載でき、なおかつ静音性を期待して、Fractal Design のケースを選択、X99パソコンの方は、さらにM-ATXマザーへ変更して少しでも打ち合わせ内容を反映しました。

【マシンスペック】 デュアルXeon(Haswell-EP)
Core i7(Haswell-E)
デュアルXeon(Haswell-EP) Core i7(Haswell-E)
CPU Xeon E5-2687Wv3 ×2
通常3.1GHz/TB時3.5GHz
Core i7-5960X
通常3.0GHz/TB時3.5GHz
メモリー DDR4-2133 4GB×8 DDR4-2133 8GB×4
OS用ストレージ Intel 530 240GB Intel 530 240GB
作業用ストレージ Intel DC P3600 400GB Plextor M6G M.2 256GB SSD
データ用ストレージ 2TB 2TB
GPU GeForce GTX 970 GeForce GTX 970
マザーボード ASUS Z10PA-D8
(C612チップセット)
ASRock X99M Extreme4
(X99チップセット)
光学ドライブ DVDスーパーマルチドライブ DVDスーパーマルチドライブ
ケース Fractal Design Define R4 Fractal Design Define Mini
電源 850W 80 PLUS Gold 850W 80 PLUS Gold
OS Windows 8.1 Pro 64-bit Windows 8.1 Pro 64-bit

実験開始

最終構成案が決まったところで、実験を開始して行きます。実験機材は最終構成案のものを用意しました。
実際の使用感など、詳細なレビューはライターの小寺さんに行っていただくので、弊社での実験は最終構成案の2タイプでどのような違いが出るのかを中心に見る性能比較実験を行いました。

なお、ライターの小寺さんがメインで使用される動画編集ソフトは、Edius PROとのことですが、今回は残念ながら用意できませんでしたので、Premiere Pro CC (2014)を使用しての実験です。

○Premiere Pro CC (2014)での性能比較方法
インプレスさんからご提供いただいた.MXF形式ファイル(4096×2160・XAVC/60fps・24bitPCM/48KHz×8ch・約15秒/580Mbps/1GB弱) があるのでこれを使用します。

○性能比較は、下記の5種類のエフェクトを使用しました。
①トランジッション ページめくり
②トランジッション フリップ
③文字挿入+流れる文字
④トランジッション スクロール
⑤2種のファイル同時再生(画面半々)

5つのエフェクトをかけたプロジェクトファイルを作成し、これを2タイプ共通で使用します。

メディアキャッシュファイルとメディアキャッシュデータベースのフォルダは、作業用ストレージに作成します。

今回の実験では、作業用ストレージの設定以外はインストールした初期設定のままとし、他の変更は行いませんでした。

動画プレビューウィンドウにコマ落ちインジゲーターを表示し、プレビュー画質を「フル画質」に設定し、再生ボタンを押します。

再生終了後にドロップフレーム数を記録し、これを5回繰り返しその平均値をとります。
また、同時にタスクマネージャを目視し、最大CPU使用率と、メモリー使用率を記録します。

最後に、レンダリングを実行し、「書き出し」ボタンを押してスタート、表示されている進捗ウィンドウが消えるまでの時間をストップウォッチで計測します。
書き出し条件は、形式:「H.264」に、プリセット:「ソースの一致(高速ビットレート)」にそれぞれ設定しました。

Premiere Pro CC


実験結果

CPU 回数 ドロップフレーム数 総フレーム数 ドロップ率 最大CPU使用率 最大メモリー使用率
Core i7
5960X
※SATA
SSD
1 2061 4868 42% 100 89
2 2963 4868 61% 100 90
3 1909 4868 39% 100 90
4 2513 4868 52% 100 92
5 2126 4868 44% 100 91
AVE 2314.4 4868 48% 100 90.4

レンダリング4分58秒

CPU 回数 ドロップフレーム数 総フレーム数 ドロップ率 最大CPU使用率 最大メモリー使用率
Dual
XEON E5
2687W v3
※NVMe
SSD
1 3365 4868 69% 92 92
2 3891 4868 80% 98 92
3 3909 4868 80% 100 90
4 4160 4868 85% 100 84
5 4203 4868 86% 100 92
AVE 3905.6 4868 80% 98 90

レンダリング2分11秒


私たちの期待をよそにCore i7の最高峰、5960Xはおろか、Dual Xeonの環境でも、かなりの割合でドロップしてしまいます。しかも、ドロップ率は Dual Xeon の方が悪い結果です。これについてはE5 2687W v3のTB時の最大クロックがフルコア動作時には3.2GHzに抑えられることから、最大3.5GHz動作となるCore i7と比較し、動作クロックが落ちることとなるのが一因かもしれません。
この実験結果だけでは何とも言い切れませんが、こういった高負荷環境下での実験でこそ見えてくる課題もあり、スペックと価格だけで決めてしまう事はせず、こういった用途を想定した場合、実際に走らせることの大切さをあらためて思い知った次第です。
残念ながら、現時点で取りうる実験を通して出た結果として、「4Kのリアルタイム編集」という命題に対して、実用に耐えうるポテンシャルを有しているかどうか疑問に感じざるを得ない結果となりました。

ただし、レンダリングにかかる時間については、CPUコア数がリニアに効いたためか、Xeonプロセッサのマシンのほうが半分以下の時間で完了しました。
プレビューには目を瞑り、とにかくエフェクトにかかる時間を短縮させると言う目的においてはXeonプロセッサの多コアは有効と言えそうです。

結果について

限られた時間の中で、あれこれと格闘するものの、ドロップについてはどうにも解決できません。出力されたファイルは、問題のないレベルで再生できるので、やはりプレビュー周りに問題がありそうです。

時間切れ、そして小寺さんのもとに

半ばインスタントで習得したPremiere Pro CC (2014)も、もっと詰めて行けば別の結果もあったと思いますが、今回の実験はここでタイムアップ。2台のパソコン達は、小寺さんのもとへ旅立ちレビューしていただきます。

「XAVC」というハイビットレートフォーマットを、しかも無変換のまま「ネイティブ編集」する、という今回のタイトル通り、果たして動いてくれるのだろうか?実験結果からは、決して楽観視できない状況ですが、小寺さんの方はEdiusPROだしと、淡い期待を抱きつつ2台を送り出しました。

その直後、ある筋の方からこんな情報が寄せられました。

■現行バージョンのPremiere Proで、XAVC/XAVCSコーデックによる4K編集を行う場合、30pでのスムーズな再生を確認しておりますが、60pでは現行存在する最高のスペック環境でもコマ落ちが発生しています。

■Premiere Proではリアルタイム性が重要とされるタイムラインの再生においては、18コアなど多コア低クロックのCPUよりも、高周波数のCPUでパフォーマンスが良いケースが多く確認されています。

■エンコードにおいては、コア数が多い場合にエンコードも高速化されますが、エンコードの速度はCPUだけで無く、メモリー、ストレージ、GPUなど要件が複合的になりますので、「4GHz 16コアよりも、2GHz 32コア のほうが高速」と一概には言えません。

何という事でしょう。

プロ用フォーマットでのリアルタイム再生は、現在の最高スペックをもってしても難しいのか?

実験の時間の兼ね合いから今回の考察はここまでとなりますが、また機会を見て、低コストで最適なパフォーマンスを発揮するハードウェア構成について探求していければと思います。

2台のマシンは無事にライターの小寺さんのもとに届き、レビューしていただきました。
果たして結果や如何に?是非ご覧ください。


【連載】メーカーさん、こんなPC作ってください!プロ向けXAVC 4K動画をネイティブ編集できるPCを考える(後編)

執筆:パソコン実験工房 親方