Twin Frozr Vの実力を試す

ハイエンドGPUをしっかり冷やす

2014-9-22

ビデオカードの冷却機構に関しては、GPUメーカーが定める標準的な冷却機構の他、グラフィックカードベンダーが独自の技術開発にて、搭載GPUに必要十分な冷却機能を有する機構を設計するといった2つのパターンがあります。特に前者は「リファレンス」「リファレンスデザイン」などと呼ばれています。
新しいGPUが発売されると、同じGPUで複数の製品が1つのメーカーからリリースされることが多くなっていますが、冷却機構の違いにより製品ラインナップを用意する、というのもひとつの側面となっています。
メーカーが独自で冷却機構を設計した場合、総じてリファレンスデザインよりも冷却性能が高いことからメーカーが独自でGPUの動作クロックをオーバークロックしたものを製品化する、といったことにも繋がっています。

マザーボードやノートPCなどの製品をリリースしているMSIもグラフィックカード分野にて「Twin Frozr」と呼ばれる独自設計の冷却機構を搭載したビデオカードを製品化しています。
今回発売開始となりましたGeforce GTX900シリーズより5世代目となる「Twin Frozr V」が搭載された製品がリリースされました。 今回はこのオリジナルクーラーの実力を探っていきます。

「Twin Frozr V」はこんな形

MSI Twin Frozr Vの実力を試す

ボードからはみ出したヒートパイプとカバーが目立ちます。2本のヒートパイプが円を描くようにヒートシンクの間を巡っています。ヒートパイプの径は実測で約8mmでした。
ボードいっぱいに広がったヒートシンクを9.5cm経の冷却ファン2基で冷やす仕組みです。
ヒートパイプやカバーがボードの上部側にかなりはみ出ています。 実測でおよそ3cmはみ出ていますので、組込予定のPCケースの拡張ボード付近のレイアウトには注意が必要です。

冷却性能を確認

冷却性能を確認するにあたり、下記2つのグラフィックカードを用意しました。
■Geforce GTX970リファレンスデザインボード(ベースクロック1,050MHz、メモリクロック7,010MHz相当)
■MSI GTX970 GAMING 4G(「Twin Frozr V」搭載グラフィックカード、ベースクロック1,140MHz、メモリクロック7,010MHz相当)

「GTX970 GAMING 4G」は独自クーラーの高冷却性を武器にベースクロックを9%近くオーバークロックしたものを製品化しています。
今回の主役は冷却機構であることから、実際に動作させた際のGPU温度、冷却ファンの挙動を中心に見ていきます。
※検証構成は職人3号のレビューにある【Z97】環境となります。GPU温度は「GPU-Z 0.7.9」にて確認しています。

グラフ

FINAL FANTASY XIV実行時の最大温度を比較しました。
GPUコアのクロックが高い「GTX970 GAMING 4G」のほうが11℃ほど低い結果となりました。 「Twin Frozr V」の大型ヒートシンクやヒートパイプが効いて、効率よく冷却がされている結果と言えます。 ケース内部のエアフローに注意しながら使用することで、リファレンスデザインよりも発熱を抑えた運用が可能となります。

冷却ファンの回転について

今回実際に動作を確認している中で、「Twin Frozr V」では冷却ファンが無回転であることがかなりありました。
職人3号のレビューにもあるように、GeforceGTX980/970では消費電力が30%近く引き下げられたことから、電力効率の向上=発熱の軽減が予想されたのですが、Windowsの起動直後の状況では冷却ファンがピクリとも動いていませんでした(この時のGPU温度は約37℃でした)。
そこで、「Twin Frozr V」にて冷却ファンが回転する条件的なものを探ってみました。

結果は以下の通りとなりました。
■冷却ファンが回り出すタイミング:GPU温度が62℃に達した時
■冷却ファンの回転が落ちるタイミング:GPU温度が54℃まで下がった時
■冷却ファンの回転が停止するタイミング:GPU温度が50℃まで下がった時

このことから、「Twin Frozr V」ではGPU温度が50℃以下に収まっている時には実質ファンレスグラフィックボードになることがわかりました。 それならば、この範囲で動作するのは実際にはどのような操作をしている時なのか・・・試してみました。

シチュエーション 挙動
Web
ブラウズ
IEでの文字系サイトのブラウジング
(リンククリック・サーチエンジンの検索など)
GPU温度が約40℃前後で安定。
ファン回転発生せず(GPU負荷概ね5%以下)
フラッシュゲームのプレイ
(艦隊これくしょん)
GPU温度が約45℃で安定。
ファン回転発生せず(GPU負荷は概ね約3%)
動画の
再生
Youtubeでの動画再生 GPU温度が約42~48℃で上下。
ファン回転発生せず(GPU負荷は約3%~20%を上下)
フルHD動画をMediaPlayerで再生 GPU温度が約47℃で安定。
ファン回転発生せず(GPU負荷は概ね約5%)
3D負荷 新生FFXIVベンチワールド編
※標準設定(1280×720)を実行
GPU温度が平均で約58℃。
ベンチ開始後10分程度でファンが回りだすものの、
低回転(約780rpm)のまま推移、かつ時折回転停止する
(GPU負荷は平均20%)
WATCH DOGS
※標準設定(1920×1080)でオープニングから最初のステージ終了まで
GPU温度が平均で65℃。
ゲーム開始直後にファンが回転しだし、ほぼ中回転(約1100rpm)のまま推移
(GPU負荷はほぼ99%)

このことから、GPUに対して高負荷となる3Dゲームのプレイ時などにはファンの回転はしますが、WEBブラウズや動画鑑賞などの用途では冷却ファンは回転しない=極静音になります。 DVD鑑賞など回りの音が気になるような場合にはピッタリかもしれませんね。

まとめ

当初この実験を企画した際にはGeforceGTX980/970の電力効率向上の側面から、わざわざ冷却性能を高める必要があるのか?といった疑問もあったのですが、「Twin Frozr V」の冷却性能並びに冷却ファンの挙動は、電力効率向上を味方につけて「ハイエンドのGPUでもファンレスで動作する」をあっさりと実現しています。 このあたりはグラフィックボードメーカーが独自の冷却機構を開発し、他のメーカーとの差別化を図る1つのポイントになってくるのかな、と言えます。
ぜひ、一段上の高性能な冷却機構を体験していただければと思います。

※今回の実験は現時点で用意できるメーカーサンプルのグラフィックボード、グラフィックドライバーで実施していますので、製品版や今後のドライバ更新によっては同様の挙動とならない可能性があります。予めご了承をお願いします。

執筆:パソコン実験工房 職人2号